※全てフィクションです。
私は日本のどこかで公務員をやっている。住民とダイレクトに接するタイプの所謂窓口業務に従事する者である。
新型コロナウイルス感染症が騒がれてから窓口にはパーテーションが設置され、入り口には消毒用のアルコールが置かれるようになった。
大半の客はマスクをするようになり、感染症関係なく年中マスクをしている私にとっては(語弊があるかもしれないが)かなり快適な環境になった。
一方で、感染症が広がり始めてから新しく唱えられるようになった「ルール」に従わない人間が目立つようになり、強い苛立ちを覚えだした。
先ほど「大半の」と書いたように、ノーマスクでやってくる客ももちろんいる。鼻出しマスクもウレタンマスクも何でもありだ。ノーマスクマンには受付でマスクを支給し装着するよう促しているが、従わない奴は従わない。
公共の場なんだから他の客にも迷惑になるし追い出せよと思うが、上司は何もしてくれない。公共の場だから誰でも利用できなきゃいけないんだって。理屈は分かるが少数の変人のために何故多数の規則を守る人が脅かされなければならないのだろう。パーテーション越しとはいえ我々も危機にさらされるが、同じ待合で待たされる客はもっと辛かろう。
そしてそういう奴は本当に清潔感がない。人生で一度も手洗ったことねえんじゃねえかという風貌の奴が、薄っぺらいアクリル板の向こうで唾を飛ばして喋る。そいつの出した書類を受け取る。机が狭いからその書類を広げたまま私はパソコンを操作して、筆記用具にも触れて、書類を所定の場所に保管する。対応が終わったら手指を消毒する。机も拭く。
もうすっっっっっっごいストレスなわけだ。一人一人呼ぶたびにやっすい消毒液と聞いたことのないメーカーのウェットティッシュを消費して、次の客を呼んで、いつまで待たせるんだと怒鳴られて頭を下げての繰り返し。次はまともな人が来たかと思ったらマスクを外して喋り出す。聞こえないからとパーテーションに額をつける。備品に触れる。イライラする。イライラする。イライラする。
やってくる客が全員保菌者に見える。ウイルスの塊に見える。私は高い感染リスクにさらされている。むざむざと思い知らされる。その度にイライラして、強い怒りと不安に苛まれる。
今年に入ってからずっと怒りが収まらなくて、毎日PMSのような精神状態になっている。冗談抜きで生理中の最初の3日間くらいだけ体調がよくて、後はずっとPMS状態だ。なんかの病気かもしれない。
本当は休みたいけどこの職場で休職した人がどれだけボロクソ言われるかよく知っているので休めない。下手に心療内科にも通えない。診断書を書かれたら終わりだからだ。
でももうどうしようもなくて、最近は死んでしまいたい気持ちが強くなった。ここ数か月趣味も楽しめなくなり、楽しみにしていたライブや舞台も昨今の状況により全て中止となり、私の人生における彩りというものが一切合切なくなってしまった。日常は全て灰色だ。楽しいことなんか一つもない。生きていても死んでいるのと変わらない。それなら、死んだ方が煩わしいことから解放されて幸せなんじゃないか。本気でそう思うようになった。
それでもワクチンは打ちたかった。死にたいとは思っていても、まだまだ未知の感染症に罹患して死ぬことにはやはり恐怖を覚えた。それ故に現状への苛立ちが募り続けた。
私は基礎疾患があるのに何で窓口に立たされてるんだろう。何で誰も彼もこんなに危機感がないんだろう。何で年金暮らしの横柄な態度の老人が先にワクチンを打てて、いつ誰からウイルスをもらうか分からない若年者の私たちがワクチンを打てないんだろう。
イライラして、ずっとイライラして、イライラしながら待っていた。ワクチンが打てれば、このイライラは少しは収まるかもしれないと思った。感染は防げなくても重症化が防げるなら大分気持ちが楽になる。65歳以上のワクチン接種期間中、私はワクチンの接種が始まるのを今か今かと待っていた。65歳以上の次は基礎疾患がある人だとニュースで聞いたから、次は私の番だと思っていた。
だが次に接種の予約が開始されたのは60歳以上の男女だった。
意味が分からなかった。重症化リスクが高いのは高齢者と基礎疾患のある人間ではなかったか。私は重症化リスクが高いんじゃないのか。何で私じゃないんだ。
愕然としたけれども、60歳以上も高齢者なのかな、と思うことで心を落ち着けた。60歳じゃ年金はもらえないけど、まあ大まかに考えて高齢者のグループに入るのかな、と。これが終わったら次こそは私だと信じていた。
次に50代の予約が始まるまでは。
いよいよおかしいと思ってツイッターで情報を漁った。同じ自治体に住む人や市議会議員の発言を隅々まで検索した。
その結果、私の住む自治体は基礎疾患の有無に関わらず年齢順で予約を受け付けていることが分かった。
流石に張り詰めていた糸が切れた。
そんなことってあるかよ。基礎疾患がある人は危ないんじゃないのか。何で先に受けさせてくれないんだよ。他の市町村は優先させてるじゃねえか。
何が一番最悪だったかというと、ワクチン接種が始まる前に他県への異動があったことだ。私はかかりつけ医にろくに通うことが出来ず、電話しても供給未定とのことで相談も出来ず、地元はコロナワクチンナビも対応していないからネットで予約することも出来ず、縁もゆかりもない土地でワクチン争奪戦に参加せざるを得なくなった。
その結果はまあタイトル通りで、私はいまだにワクチンを予約することすら出来ずにいる。
正直数日前から持病の症状が悪化しているのでものすごく不安である。でも同時に、「もうどうなってもいいや」という気持ちもある。
だってもう予約出来ねえんだもん。予約できたとして摂取できるのが10月以降だよ。デルタ株だのなんだのが流行していて近所でも感染者が出てるのに10月までワクチン打てないわけだよ。絶対感染する方が早いでしょ。
感染したくないという不安と現状への苛立ちで精神状態がおかしくなっているのは自覚しているのだが、ともかく今は自暴自棄な気持ちが強い。
どうせ打てないし感染する方が早いからもういいや。好きにしよ。旅行して買い物して美味しいもの食べて満足して死のう。
というわけでワクチンの予約が取れないので消極的自殺をしようと思います。
もちろんマスクはするし消毒も定期的にするし罪のない人に万が一がないように出来る限りの感染対策はするけど、もう知らない。若年者をないがしろにするならもう誰の言うことも聞かない。緊急事態宣言なんか知るか。最後に行きたいところに行ってやりたいことやって死んでやる。
感染したら救急車も呼ばず入院もせず、自宅でひっそりと死ぬので安心してほしい。事故物件になったら不動産会社だけはかわいそうだけど、まあ仕方ないね。
以上、フィクション終わり。
他県への移動がある=国家公務員なのに 住民とダイレクトに接する窓口業務ってどんなんなんだろうか 1年以上病院に行かなくても構わない基礎疾患ってのも… まあフィクションだしど...
正直公務員も医療従事者と同じくらい大切な職種なんだからはよワクチン受けさせてくれや、と思うわ。窓口もそうだし、ワクチン接種会場案内業務とかするのに接種は後回しだしほん...