4章 相場の永久サイクル

相場の永久サイクルを理解し,高いリターンの得られる投資対象を選別することが長期投資家の責務です。

永久サイクルに各セクターごとの買いのタイミングを入れると以下の絵のようになるでしょう。

一目見てわかるように,景気後退・金融危機・景気回復のそれぞれの局面ごとに強いセクターは異なります。ザックリ分類すると景気後退期に強いのは「債券・金・銀・金鉱株・銀鉱株」,そして景気拡大期に強いのはそれ以外の株式全般ということになるでしょう。

そして,景気敏感・マネーの流通量に敏感な一般消費財・金融・輸送・不動産といったセクターは,景気後退期のドローダウンが極めて大きく倒産リスクも高い一方で,中央銀行や政府による景気刺激策や金融緩和の後押しを受けて,最も素早くドローダウンから回復します。

一方で,設備投資が必要となるテクノロジー株は,設備投資が少ない順に回復していくと考えるとわかりやすいでしょう。ソフトウェア会社などは固定費がほとんどなくほぼ人件費が大半のコストを占めますので,失業した優れたプログラマーを雇うだけで一気に生産性を高めることができ景気回復局面の序盤に大きく回復し,半導体・素材・自動車・重工などのセクターは景気拡大が浸透してくる後半戦に右肩上がりに業績がよくなります。

そして,景気拡大の最終局面になってくると,今度はジャブついたマネーが商品市場に流れ込み原油・天然ガス・金・銀などの資源や貴金属の価格を押し上げます。これがいわゆるコストプッシュインフレを呼び起こし,中央銀行がインフレハンターとなって急速な利上げを行うきっかけになるというわけです。

こうして相場のサイクルが頂点に到達します。

そして,一旦相場のサイクルが頂点に達する頃には,すでに一部のセクターでは明らかな変調が見られ初めていることでしょう。特に金利に敏感な住宅・不動産・REITなどは真っ先に売り込まれます。住宅ローン市場はいわゆるモーゲージ債利回りという指標でマネーのコストを推し量ることができますが,これは短期金利の上昇に追従する動きを見せます。すなわち,数年間続いた住宅市場の好調で高くなった住宅価格に加えてローン金利も急騰するとなると,突如として右肩上がりの好調な住宅市場が買い手不在の不良債権市場になり下がります。

上記は不動産の例ですが,それ以外にも金利や利払いに敏感なセクターは複数あり,レバレッジや借り入れを前提とした業種は金利上昇局面では先行して売られます。

続いて,それまで強いと見られていた資本財が売られ,ハイテクが売られ,景気に敏感な輸送株が売られることになるでしょう。さらには長期金利は伸び悩んでいるにもかかわらず,短期金利急騰によって利ざやが圧迫された金融も急速に投げ売りされます

こうして単なる景気後退が金融危機へと転落していくことになります。

金融危機になると最初はインフレに強かった原油金・銀などの資源や貴金属でさえも需要減退によって売り込まれ世の中はデフレ一色に染め上げられます。もちろん,工業原料の銅・プラチナ・パラジウムなどは叩き売られ,これらの鉱山会社は言わずもがなです。

こうなると「現金が王様」です。

金融機関に預け入れた資金・ファンドに投資した資金を人々が急遽引き出し,市中の資金が枯渇し始めます。取り付け騒ぎによって短期資金が不足したファンドや金融機関は高利回りのジャンク債を発行して急場をしのごうとしますが誰も買ってくれません。異常な利回りにもかかわらず,リスクを取りたい投資家はほとんどいなくなり,安全資産を探すのに血眼になっている状況です。

この時,もしスタグフレーション環境下であれば現金の価値さえも減価するので債券も投げ売りされスタグフレーションに強い「金・銀」が買われます。このスタグフレーションというシナリオは長期投資家にとっての最大の「金・銀」の買い場です。もし,スタグフレーション下ではなくデフレであれば「現金・債券」が買われます。どちらにせよ株は見向きもされません。

さらに金融危機が悪化すると各国政府と中央銀行がなりふり構わず資金を注入し,金融機関の救済策に奔走するようになります。これは,債券市場・為替市場・株式市場含めた金融市場全体がパニックになるのを抑えるためであり,この時ばかりは中央銀行は規定のルールを破ってでも資金を供給するでしょう。目先の短期資金さえあれば自転車操業的ではありますが連鎖倒産はせずに済むので時間稼ぎができるからです。

こうして連鎖倒産が防がれ,不良債権の全貌が明らかになってくる頃が株式市場への投資の最大のチャンスです。

特に倒産を織り込んだ株価になっている金融機関不動産輸送株一般消費財などは文句なしに買いでしょう。また,叩き売られている銅・プラチナ・パラジウムなどの工業材料の鉱山株も魅力的です。

さらに金融緩和パッケージが追加される頃には,金融危機が遠のき市場に楽観ムードが溢れてきます。ここからが景気回復期前半戦に強いハイテクを買い進むチャンスとなります。

そこからじっくり景気回復が本物かどうかを見極めつつ,もし足腰の強い景気回復が見込めそうであれば,資本財半導体などへの投資のチャンスです。

こうしてセクターごとに最適な投資タイミングを一通り舐めることで,底値拾いの永久投資ポートフォリオが完成します。私の想定ではこのポートフォリオ完成まで丸3年の期間を見込んでいます。

もちろん,これは私が過去に経験した数回の景気循環に基づいたプランですので,次の景気後退・金融危機でどう市場が動くかは定かではありません。しかし,バランスシート上の流動資産比率の高いハイテクが早期に回復し固定資産が大きな割合を占める資本財半導体が後半戦に強いといった仮説は過去の業績やチャートを見てもそれほど大きくは外していないと考えています。

3 thoughts on “4章 相場の永久サイクル

  • 2018年5月19日 at 7:31 PM
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    こんにちは。本サイトで勉強させて頂いています。

    このサイクルについて、今どの段階かの判断が重要と思いますが、指標は金利がわかりやすいのかなと感じています。現在は拡大期の中盤から後半ですかね。インフレ期に向けて、金が下がりきったところで金鉱山株のロングなんか面白いかなと思っています。

    利確の目安として金利上昇がピークに至ったと判断する基準などあればコメント頂けると幸いです。

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    • 2018年5月20日 at 12:46 AM
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      vvixさん>
      こんにちは。
      私は今すでに景気サイクル終盤と見ています。
      労働市況はタイトで企業業績も過去最高というのはファンダメンタルズの一面としては最高の状況ですが,
      一方で新規ローンは頭打ちになっており,あと2Q-3Q程度で住宅・自動車市況の減速が明らかになると見ているためです。
      (気が早いですが,投資家としては判断が遅いよりは早い方がましなので)

      結局のところ,今はタイミングは決め打ちにせず
      ①長期金利上昇による株式市場クラッシュの時期がいつになるか,規模がどれぐらいになるか
      ②クラッシュ後のFRBの対応がどの程度ハト派か
      あたりを観察し,相場の反応を見極めて動くつもりです。

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      • 2018年5月20日 at 9:41 PM
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        こんばんは。返信ありがとうございます。

        終盤とすると、インフレ株ロングよりも金融株とかリートのショートのタイミングを見極めていく段階なのかも知れないですね。

        いろんなセグメントの記事を上げていただいているので、多方面から眺めて相場観を掴んでいってみます。

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