1章 金利・株価・景気
レイ・ダリオのような成功した投資家であっても金利のピークや株式市場の大底,そしてゴールド相場の天井の「タイミング」を読み誤ります。(「Principles」より)そして,そのわずか半年〜1年程度の読みのズレが,レイ・ダリオ率いる今や世界最大級のヘッジファンド・ブリッジウォーター・アソシエイツを倒産寸前まで追い込みました。相場というのは一旦崩れると動きが早く,判断の迷いや間違いが命取りとなるゲームです。
まず,金利と株価,そして景気の循環をおさらいしましょう。
金利・株価・景気
青:株価
赤:金利
黒:景気(業績)
1990年,2000-2001年,2008-2009年などの過去の景気後退局面を観察すると,多くのケースでFFレートの上昇に伴う短期金利の急騰が,その後の株価崩壊と景気後退の引き金を引いていることがわかります。中央銀行はDual Mandate(二つの目標:物価と雇用の安定)を目標としていますが,景気拡大期の終盤になってくるとコントロールが効かず,必ず資産バブル(IT株だったり住宅だったり債券だったり)を誘発します。そして遅すぎる引き締めが,大きくなりすぎたバブルを崩壊させるのです。これは米国のみならず日本でも欧州でも繰り返されてきました。
崩壊のサイクル
上げ相場は長く緩やかで下げ相場は短いが急だと言われます。
大相場の末期になってくると,一般的に短期金利が急騰してピークアウトします。なぜピークアウトして下がり始めるかというと,短期金利急騰は住宅市場をはじめとして多くの市況を急速に悪化させ,市場の反応を見て中央銀行が利下げを示唆し始めるからです。しかし,この利下げは株式市場から見れば手遅れのことが多く,なんとか天井付近で踏ん張っていた株価が崩落し始めます。このとき,企業業績の数字自体はまだ最高値付近であり投資家は強気のスタンスを崩していません。まだ,強気相場から気持ちを切り替えられない投資家は急落した株価を見て押し目買いを続けます。特に,相場に遅れて乗ってきた人々がこの押し目をバーゲンセールだと勘違いして飛びつきます。なぜなら,業績は最高潮に達し景気のピークだからです。
しかし,企業業績(売り上げ・利益)が最高潮となっている一方で,世間の空気を尻目に株価はズルズルと下げていきます。
なぜ景気のピークなのに株価が先行して崩落するのか?
それは,市場参加者(特にファンドや年金基金や銀行などのプロフェッショナル)は企業のガイダンスや住宅着工指数,景況感などの先行指標を常にウォッチしており,企業の決算が悪化する3ヶ月前〜半年前には悪材料を織り込み始めるためです。株価が常に景気の先行指標ということになります。
こうして下落する株価,悪化する先行指標が次々とニュースのヘッドラインを飾るようになってくると,人々の景況感が冷え込みはじめ,財布の紐が締まるようになり,企業は設備投資を控え始め,本格的な景気後退に突き進むというのがこれまでのパターンです。
タイミングのズレ
金利・株価・景気のタイミングのズレは悪いことばかりではありません。プロ(ヘッジファンドや銀行など)はこの千載一遇のチャンスをずっと待ち続けているのです。彼らにとって相場のボラティリティーは飯の種であり,短期間で大きく値動きが発生するほどレバレッジをかけて儲けるチャンスだからです。
相場を常に張っている銀行やファンドなどは最後まで大相場にしがみつくということはありません。銀行やファンドなどは自己資金で保有しているポジションのサイズが極めて大きく,ピークアウトすると見込んだ場合,数ヶ月〜数年前にはポジションを手仕舞い始めるためです。そして,ロングのポジションを解消するだけに留まらず,きたる暴落を最大限生かすためにショートに回ります。
放物線状の上昇が錯覚させる
一方で,過去の相場を見ていると,最後に加速して放物線状に上昇した後に暴落するケースがあります。この放物線状の上昇カーブは”Stocks are headed to the moon”(株価急騰で月にも届きそう)と呼ばれます。つまり,ずっと上がり続ければいずれは月まで行けそうだが,実際には決してたどり着くことはできない放物線ということを意味しています。
この最後の放物線状の急騰はなぜ起きるのか?
急騰の理由は,上昇相場の最後になって”Mom-And-Pop“(親父とおふくろ)と呼ばれる米国素人投資家が雪崩を打って参入してくるからです。”Mom-And-Pop”とは統計的には米国の共働き白人家系が大半です。しかも,大卒などの教養の高く,比較的金融資産を多く持っている人々です。一般的に給与生活者は景気拡大期の最終局面(労働市場がタイト)になって給与が増えてきます。景気拡大期末期で増えたなけなしのボーナスを,上がり続ける株に「遅れて」突っ込むわけです。手元に金が入ったから突っ込むというやり方は,相場のサイクルやタイミングを見て参入するのと正反対で,自己都合(たまたま金があるタイミング)で投資しているようなもので,証券会社や銀行やファンドからすればカモです。
ファンドはこうした素人の小金持ちを買い煽りながら,相場の末期で「自分たちは売り抜けよう」とします。ファンド勢やアナリスト,そして証券会社の営業マンがどれだけ相場の最終局面で買い煽ったとしても口車に乗ってはいけません。相場で大事なのは「何を言ったか」ではなく「どう行動したか(ポジションをどう移行しているか)?」です。相場の最終局面ではファンド勢や銀行勢はショートに張り始めています。売り持ちで相場が崩落する局面を待っているわけです。
そのタイミングで高値を更新したとしても崖に向けて全力でアクセルを踏んでいるチキンレースと言わざるを得ません。私が相場に取り組む上での大切にしているPrincipleに「バブルには絶対に乗らない」というものがあります。日本古来の言い方では,頭と尻尾はくれてやれ,という金言がありますが,意識的に頂点・バブルを避けることができれば絶対に大きな損をしません。長期投資で勝ち得たリターンをベースに,”ピーク後”に備えるタイミングです。
もしあなたがシニアであればこうした景気の波をなんどもくぐり抜けているはずですので,チキンレースに飛び込むことも止めはしません。しかし,もし若い方であれば,あえてバブルの頂点でリスクを冒さずとも,長期的なリターンを最大化する方法はいくらでもあると言っておきましょう。