魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第二十九話 大晦日の実家帰省は強制イベント

2095年12月30日

 

 大晦日。一年最後の日であり、日本では元日と共に最も祝われる日であろう。アメリカがクリスマスを家族で祝うように、日本はそれを家族で祝う。その習わしに従うため、一人暮らしをしている人間も両親から呼び出される。生計を自力で立てていない人間にとってその帰還要請は抗いがたい。何が言いたいかと言うと―――

 

「十六夜、迎えに来たわよ」

 

「……」

 

 俺も抗えないということだ。

 

「何も、母さん自ら迎えに来なくても良かったんじゃないかな」

 

「寂しいことを言わないで、十六夜。一時間でも早く会いたいと思うのが母親というモノよ」

 

 迎えのリムジンに乗り込んで幾ばくか。俺は真夜と対面しながら少なくない呆れを口に出す。真夜はわざとらしく涙を拭った。

 

「そういうことじゃなくて。俺は非公式戦略魔法師の容疑者として狙われてるんだから、四葉家当主がそんな危険な場所に出てくる必要はないと思ったんだけど」

 

 現在、俺はUSNAに半ば狙われているような状態だ。実際に外出した時にこちらを観察するような視線を何度も感じた。さすがに自宅近辺は彼らも恐れたのか、そういう目はなかったが。

 

「USNAは『アンタッチャブル』の意味を知らないほど愚かではありません。それに、危険だと言うのなら尚更貴方の守りがいるでしょう?だから、いっそのこと守護対象をまとめてしまった方が守りも集中できるわ。次期当主と現当主が一か所に居れば、それだけ注目も集まって分家も集まりやすいでしょう」

 

 一見正しい反論が真夜から返され、俺は押し黙る。隙が無い言論というわけではないが、ここで言い返しても真夜が意固地になる可能性があるし、もう過ぎてしまったことで後の祭りだ。

 

「……深雪たちは今回来れるのかい?」

 

「いえ、さすがにあちらは監視が厳しいわ。貴方と同タイミングでUSNAが捕捉できなくなるというのも、あちらに勘繰る材料を与えてしまうでしょうしね」

 

 話題を変える意味も込めて達也たちの状況を聞いてみれば、真夜は平然と答える。どうやらこちらに目が向いていると言っても、要注意人物から目を離すほどではないらしい。おまけに俺が足を引っ張ってしまったようだ。四葉ならUSNAの目から逃れられるだろうが、俺と達也が同じ四葉の方法で身を眩ますのは関係者と晒すようなものだ。

 

「深雪さんと達也さんには用があったのに、困ったものね」

 

「……」

 

 俺はあえて真夜の諦め交じりの溜息を追求しなかった。おそらくは次期当主指名のことだろうし、それを自然に勘づくには無理がある気がした。息子だからと現当主の思惑を聞きすぎるのもさすがに怖い。

 

 リムジンは時折ビルの駐車場を経由しながら追跡をまきつつ、四葉本宅へと向かって走っていた。

 

◇◇◇

 

2095年12月30日

 

 続々と四葉分家が帰郷してくる四葉の里。各家当主が真夜へ挨拶に伺っているのはもちろんのこと、幾人かは俺の方にまで挨拶をしに来る。津久葉家と新発田家は当主の代わりに夕歌と勝成が来たが、とにかく親戚の子供に向けるような親密さで世間話をしてくるのだから不思議な気分だ。彼らが本当に『アンタッチャブル』と恐れられている一族なのか疑いたくなる。他に忌避されているから故の一族の結束なのかもしれないが。

 

 そんな落ち着かない気分を払うべく行った使用人たちとの組み手の帰り。自室に戻ろうとその扉のドアノブに手を掛けたところ、耳が拾った足音の方へ不意に目を向ければ、その歩いてきた人と偶然にも目が合ってしまった。

 

「……」

 

「……」

 

 目が合ってしまった気まずさに俺は苦い顔をし、目が合った相手の貢は眉間に深いしわを作り、互いにその状態で制止する。

 

「ど、どうも。貢さん」

 

「……丁度一年ぶりか」

 

 気まずさに堪えかねた俺が口を開けば、貢は慎重に言葉を選んで返す。俺の事情を知る者として、貢は如何なる葛藤を秘めているものか。俺は貢の胃に穴が開かないことを切に祈る。

 

「はい、ご壮健のようで何よりです」

 

「……」

 

 何が気に障ったのか、貢の眉は微動する。俺の肩も微動する。

 

「そちらは、随分と元気そうだな」

 

「も、申し訳ない」

 

 俺は貢の言葉が暗に責めていると受け取って肩を落とす。5月にブランシュ事件、7月にノー・ヘッド・ドラゴン日本支部壊滅、10月に横浜事変と、それらの事件に率先して首を突っ込んでいればそれは元気に見えることだろう。

 

「いや、私は責めているわけではない。四葉次期当主としての務めによく精を出していると、純粋に感心しただけだ」

 

 感心などと言うが、貢のしわが浅くなる様子はない。

 

「ただ、四葉直系という自覚があるならば、少し落ち着きを持つべきだとは思うがね。毎度自ら動いていては、隠密を心掛けていても注目されてしまう」

 

「俺にはまだ誰かを動かす権限がありませんし、どれもこれも直感を頼りにした確証のないモノでしたので」

 

「ふむ、なるほど。九校戦の際、大したことはないと放って置いた会場への侵入者を、詳細に調べるようにご当主様を促したのも君だった。横浜事変の際、警察や十師族が論文コンペのスパイを警戒している中、呂剛虎を誰よりも先に確認したのも君だった。直感だと言ってのけられてしまえば、警察も十師族も立つ瀬がない。全く、君の直感というやつは恐ろしく冴えているらしい」

 

 表情を崩さずに不審な点を列挙する貢の姿に、俺は背筋が凍る。貢は確実に俺を怪しんでいる。明確に何を疑っているということはないだろうが、俺の行動全体を怪しんで探ろうとしているようだ。

 

「一つ訊きたいのだが、君は今回の交換留学で起こる出来事も直感しているのか?」

 

「……平和に越したことはないですが、おそらくは良くないことが起こるでしょう」

 

「まるで占い師のような言い回しだ」

 

「俺は預言者ではないので」

 

 最後の俺の言葉に貢は一際目を鋭くし、嘘をついていないか俺の一挙手一投足を仔細に観察する。貢の言う通り、占い師が用いるバーナム効果のように曖昧な物言いをしたが、嘘だけはついていない。俺はこの先USNAと一悶着あることを知っているが、それを未来予知ではなく原作知識だ。俺は真実を語り、そして敵意はない。後ろめたくはあるが。

 

「そうか」

 

 貢は視線を俺から外し、俺の横を通る。

 

「君が敵でないことを願うよ」

 

 通り過ぎる瞬間に、貢はそう小さく言い残した。

 

◇◇◇

 

2096年1月1日

 

 慶春会というのは読んで字のごとく、新春を慶事する会であり、ただの祝いの場である。本家から分家までが一堂に会する四葉の慶春会と言えど、イレギュラーな発表がなければそう殺伐としたものではない。むしろ家族の無事を一族同士で知らせ合う和やかな集まりである。

 

 四葉一族というのは娘の仇討に国へ挑みかかるだけあって、身内にはとても暖かい血族であると俺でも感じ取れた。身内以外は受け入れない排他的な者たちとも感じるが。

 

 とにかく、今回の慶春会は何の問題もなく、俺は真夜の隣に座り続けるだけで終わった。

 

「深雪さんたち、やっぱり来れなかったのね」

 

「ええ、どうも監視の目が厳しいようで。しばらく四葉本宅に来れないでしょうね」

 

「とても残念です」

 

「こういう機会でもなければ堂々と会えないというのに。随分と迷惑な連中ですわ」

 

「ふむ。厄介だな、USNAは」

 

 何故か四葉の若者(夕歌・文弥・亜夜子・勝成)が俺の自室に集まり、3:1の割合でそれぞれ残念がったり思考に耽ったりしていた。

 

「派手にやりすぎたのね。戦略級魔法は過剰だったと思うわ」

 

「軍からの命令となると達也も逆らい辛いでしょう」

 

 夕歌は戦略級魔法の使用を問題視する。確かにそれが発端ではあるが、避けられなかったのだと俺は補足する。

 

「戦略級魔法師を即時投入するほど、日本軍は浅慮ではなかったと思うんですが」

 

「手続きも行使も容易な戦略級魔法を手に入れて調子に乗ったのでしょう。全く、誰の力だと思っているのでしょうか」

 

 文弥が拙速な日本軍を疑問視すれば、亜夜子は箍が外れたのだろうと非難する。

 

「しかし、聞けば大亜連も戦略級魔法師を出兵しようとしていたらしい。それを考慮すれば妥当であるし、先手を打てたことを喜ぶべきだろう」

 

「でも出兵されたのは劉雲徳でしょう?霹靂塔は広範囲の電子機器を破壊するだけで、他の戦略級魔法に比べて威力が乏しいわ。マテリアル・バーストとは釣り合いが取れないと思うけど。打倒するだけだったら深淵(アビス)で充分よ」

 

「まぁ問題の有無はさておき、四葉に非はないんです。おまけに早急な解決方法もありませんが。一々ここで議論してもどうしようもないでしょう」

 

 勝成と夕歌の考えが対立し出したところを俺が制した。ここに集まっているのは各家の次期当主であろうとも、次期当主でしかないために家を動かす議決権はないのだ。既に終わってしまったことであるから、これ以上話したところであまり意味もない。

 

「それもそうね。私たちへの被害はしばらく顔を合わせられないというだけだもの。達也さんに会いたいというのだったら、直接家に行けば良いのだし」

 

「なっ!それは、私たちの繋がりが露見する可能性があり、得策ではないと思いますわ!」

 

「あら、私は「会いたいなら」って言っただけで、「実際に会いに行く」とは一言も言ってないわよ?」

 

「!!」

 

 夕歌のただの戯言に亜夜子が身を乗り出してまで否定すれば、見事罠に嵌まったと悪戯な笑みを浮かべて夕歌は揚げ足を取って亜夜子をからかう。亜夜子は自らの失態に気付き、朱に染まる顔を伏せながら固く席に着いた。

 

 そんな女性陣を文弥は引きつって、勝成は平静に、俺は曖昧に笑って見ていた。

 

「そ、それにしても達也兄さんの分解魔法は強力ですね。確か、マテリアル・バーストは物質をエネルギーまで分解し、そのエネルギーで攻撃する魔法でしたか」

 

 文弥は亜夜子を庇うように話題を達也の魔法へと逸らした。

 

「マテリアル・バースト以前に、あの分解魔法は無敵の矛だろう。私には有効な対処法が思い浮かばない。彼に銃口を向けられて生き残るのは至難の業だろう」

 

 他人の恋路を茶化す気は勝成にはないようで、むしろ分解魔法の話題に率先して食いついた。

 

「直接の分解魔法であるならば、接触型グラム・デモリッションやファランクスで防げるでしょう。後者なら術者の力量次第ですが、マテリアル・バーストも耐えられるかと」

 

「片や十三束鋼(レンジ・ゼロ)固有で、片や十文字家の秘技じゃない。万人が用いられるような手段じゃないわね」

 

 結局ほぼ敵なしであることに夕歌は肩を竦める。

 

「だがそうなると、十文字家を敵に回すのは危険だな。秘技とはいえ、使用者が複数人いる」

 

「そうですね、もし危険視するならば十文字家になるかもしれません。ただ、克人さんを見る限りは一時の感情で走る人たちではありませんから、家自体に明確な敵対、もしくは日本に反逆でもしなければ大丈夫でしょう」

 

 いずれ分解魔法がファランクスをも貫くのを明かすことなく、俺は素直に勝成の先を見据えた意見に賛同した。そもそもの話、敵は作らないに限る。

 

「こほん。話が物騒になっていますわ。この場はただのお茶会だったと思うのですけど」

 

 亜夜子は剣呑としてきた雰囲気を咳払いと共に払う。亜夜子はあくまでこの場を交流の場にしたいようだ。俺と勝成はその意思を汲み取り、紅茶を含んで一旦口を噤む。

 

「少し確認したいのだけど。ここにいる全員は達也さんの今の扱いを不当に思ってるのかしら」

 

 切れた会話に新たな話題を夕歌が投じる。声音こそ軽いが、その目には全員を深く窺う気配があった。

 

「はい、僕は達也兄さんの今の扱いは不当だと思っています」

 

「私も同意見ですわ」

 

 文弥は夕歌の言葉を実直に返し、亜夜子共々言い切る。深く窺うまでもなく、二人に虚偽はなく、裏がないことが感じられる。夕歌はその二人に微笑みを向けた。

 

「そちらは?」

 

「俺も、達也の扱いは不当だと思っています。達也の貢献を決して軽く見てはいけないでしょう、技術面も実働面も」

 

 俺も特に何か隠すことなく、率直に思っていることを述べた。夕歌の目は俺を外し、勝成を注視する。

 

「私も、達也君の今の扱いは適していないと思っている」

 

「適していない?」

 

 夕歌は勝成のその言い換えに眉をひそめ、その疑問を追求した。

 

「先ほども言ったが、彼は無敵の矛だ。しかし、彼は意思を持たない兵器ではない。人間だ。強い感情のほとんどが失われているとはいえ、今の扱いは不信感を煽る。だから、「不当」ではなく、「不適当」だと言った」

 

「なるほどね、勝成さんの考えは分かったわ。それで?」

 

 夕歌はまだ勝成が全ての考えを述べていないことに感づき、不敵な笑みでその先を促した。それを受けて勝成は、夕歌ではなく俺の方を見る。

 

「え?俺ですか?」

 

「君の計画なのだから君の口からの方が良いだろう。この中で最も有力な次期当主候補としても、君が妥当だ」

 

 勝成は目を伏せてまでこれ以上の意図を黙秘する。ここで切り出したのは勝成なのだから、彼にそのまま語ってもらいたいものだ。しかし、彼の言う通り発起人として俺が言うのが筋なのかもしれない。既に他三人が注目していることからも、もう逃れられないだろう。俺はため息を吐いてから気勢を整える。

 

「俺は達也の待遇改善のため、深雪を次期当主に推薦しようと思っています」

 

「ま、まさか!十六夜さんは候補を辞退するんですか!?」

 

 亜夜子らが瞠目する中、文弥は代表するかのように驚きを言葉にした。

 

「ああ、俺は次期当主候補を辞退する」

 

「別に、十六夜さんが次期当主となって全体に呼び掛ければ目的を果たせると思うのだけど」

 

 驚きから立ち直った夕歌は別の案があることを提示し、俺が辞退する案に出た動機を怪しむ。

 

「それでは少し遅いでしょう。全体が確実に従ってくれるのは、結局当主になってからです。その間に達也が動かない理由がない」

 

「達也さんが四葉に歯向かっても、貴方なら御せるんじゃないかしら?奥の手、あるでしょう?」

 

 尚も俺の意思を探りたいのか、夕歌は食い下がる。

 

「可不可は分かりませんが、御せたとしても一時です。達也ならすぐに打開策を見つける。それに、俺は達也たちと敵対したくない。達也は俺にとって初めての友達であり、深雪も大切な友達なんです」

 

 感情を読み取られないように俺は顔を伏せる。達也を友達と思っているのは真実だが、それだけではない。原作改変はできるだけ避けたいし、達也に敵対など確実に死ぬ。俺は無駄に死にたくはない。

 

 達也たちの友愛が動機であると述べたからか、黒羽姉弟は友好的な顔をし、夕歌も表情を緩めていた。緊迫していた空気も弛緩する。

 

「勝成さんも辞退するのかしら」

 

「ああ。私は、次期当主となると叶えられない夢があるのでな」

 

「琴鳴さんでしょ?」

 

「……」

 

 とても良い笑顔で言い当てた夕歌に対し、勝成は何も言わず紅茶に口を付ける。

 

「文弥ちゃんはどうするの?」

 

「ちゃん……。いえ、僕も辞退したいと思います。十六夜さんの案には賛同できますし、深雪さんが次期当主となることに不満はありません」

 

 夕歌の小さなからかいに引っ掛かりかけたが、話が逸れると考えたのか、文弥はまず俺への同意を快く示した。

 

「私は候補ですらないので意見を述べるのはお門違いでしょうが。文弥の思いを大いに尊重します」

 

「そう。では、満場一致ね」

 

 亜夜子の反対意見もないところで、夕歌は満足げに頷く。

 

「満場一致と言いますと」

 

「私も辞退するわ。元より、次期当主なんて乗り気ではなかったの。私では力量も技量も分不相応だからね」

 

 俺の確認に自嘲気味に返す夕歌。この中ですら自分は弱いと自己完結し、それに納得して適所に収まろうとしているように感じ取れた。

 

「それで、私たちはいつ辞退を公言すれば良いのかしら」

 

「来年の慶春会の辺りが良いんじゃないでしょうか。あまり早く辞退をほのめかすのは家から反発されるかもしれません」

 

「一族一同が会する間で辞退の宣言は、少し勇気がいると思うのですが」

 

「確かにそうだな。分かった、母上に次期当主候補たちとの話し合いの時間を作ってもらうよ」

 

「ありがとうございます」

 

 弱気な文弥に応えれば、感謝が述べられて俺は少し歯がゆくなる。俺が言わずともその時間は設けられる。俺は文弥に無駄な謝意を抱かせてしまった。

 

「候補を辞めるとなれば、私たちの恋愛は自由ね。勝成さん、はともかくとして。文弥ちゃんや亜夜子ちゃん、十六夜さんは気になってる子とかいないの?」

 

 夕歌から突然振られた恋愛話に、ともかく置かれた勝成とちゃん付けされた文弥は眉根を一瞬歪め、亜夜子は仄かに赤面する。俺は苦い顔だ。

 

「ぼ、僕はまだ中学生ですから。そういうのは……」

 

「俺は候補から外れるとはいえ、直系ですからね。自由恋愛ができるかは分かりませんよ」

 

 文弥が濁し、俺が暈す。俺と同様、文弥もまだ恋には懐疑的なようだ。

 

「まぁ文弥君はこれからだろうけど、十六夜さんは愛人くらい許容されるんじゃない?政略結婚なら誰も表立っては責めないでしょう」

 

「暗に、裏で責められるって言ってませんか?」

 

 引っ掛かってくれそうにない文弥の呼び方を直しつつ、夕歌は弄りの矛先を俺に向ける。俺は裏で責められることにも、彼女の弄りにもげんなりした。

 

「優良な魔法師なら多妻も暗黙の了解よ?それに、そういうやっかみに耐えつつ、複数の女性を養うのも男の甲斐性じゃないかしら」

 

「あまり女性を相手にするのは、得意ではないもので……」

 

 正妻と愛人に挟まれた状況を想像し、俺は前世の女性経験が想起されて苦手意識が呼び起される。非常に嫌な思い出しかないことに鬱を発症しそうだ。

 

「……何かあったのか」

 

 黙秘を通してきた勝成が俺に優しく声を掛ける。

 

「いえ、その。あったと言うか、なかったと言うか……」

 

「すまない、詮索は不躾だったな。何も語る必要はない。……女性とは、怖いモノだ」

 

 勝成は俺を気遣うように肩へ手を置く。彼の瞳は俺への同情と何か遠い過去の憂いを映し出しているようだった。

 

「……二人とも。とやかく言うのは野暮だけど、同性愛は非生産的よ」

 

「違います」「違う」

 

「あれ?この場合、勝成さんはバイセ―――」

 

「違うと言っている」




怪しむ貢:十六夜の奇怪な行動を怪しみ、警戒している。だが、今のところは四葉に不都合な行動をしていないので弾劾することができないため、尚更粗を探そうと注視する。他の四葉の者は事情を知らず、真夜は事情を知った上で十六夜を疑わない現状に頭を(もしかしたら胃も)痛めている。

女性苦手に同調する勝成:もしかしたら傷心の勝成に琴鳴が優しく接したのが恋の始まりだったかもしれない。

十六夜の同性愛疑惑:性欲が枯れているだけでノーマルである。

閲覧、感謝します。

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