第二十八話 来る人の前に送る人
2095年11月6日
真夜に帰って来いと言われていた日。微細な拒否権すら断ち切るように迎えのリムジンが俺の一軒家に寄越され、俺は一切の文句も言わずに四葉家本宅へ向かった。真夜は俺の頭を双丘に埋めるような抱擁で出迎え、十数秒そうした後にようやく離れた。どうもそれが十六夜分なるモノの補給だったらしい。本人談ではまだ充分ではないそうだが、来客の用事が二件もあるので忙しいようだ。後で呼ぶからと自室での待機を促され、俺はそれに従った。
そうしてしばらくした後に真夜から同行を願われて付いて行けば―――
「お待たせ致しました」
何故か司波兄妹と風間玄信の居る応接室に連れていかれた。と言っても、俺はどうやら真夜の付き人という扱いのようで、真夜の隣に執事の葉山と共に佇んで話には加わらなかった。入室時には風間に警戒の視線で見られたが、彼から俺に話を振ることもなかった。
最初こそこの場に連れられたことに疑問を抱いたが、その理由はおそらくそれほど深いモノではなく、ただ一纏めに情報を共有したかったのだろう。その思惑通りに俺は横浜事変の後の顛末、主に『十三使徒』の動向や国際情勢を耳に入れた。
(そういえば、
会話に混ざれるわけもない俺は、話題に上がった
「ご理解いただけて嬉しく思います。それでは念の為に、しばらく達也さんとの接触は控えていただきたいのですが」
そんな考え事に没頭していれば、真夜たちの話は終点に向かったようで、口約束であるが風間は達也をしばらく従軍させないことで承諾した。
話し合いが済んだ風間はすぐに退室し、深雪と葉山も退室するよう真夜に指示され、俺・真夜・達也の三人が部屋に残った。
「貴方とこうして向かい合うのは三年振りね」
「こうしてお声を掛けていただくのは初めてです、叔母上」
達也が腰を下ろしてから始まった真夜と達也の会話が始まった。最初こそは親し気な叔母と少し余所余所しい甥のそれだが、話題が横浜事変のことに変わった瞬間に雰囲気が重くなる。
「今はまだ、スターズが独自に調査を開始した段階よ。でも彼らは既に、あの爆発が質量をエネルギーに変換する魔法によって引き起こされたモノということまで掴んでいるわ。術者の正体についても、かなりのところまで絞り込んでいます。具体的には、貴方と深雪さん、十六夜を容疑者の一人として特定するまで」
真夜のその言葉に俺は少し安堵した。多少なりとも情報の撹乱に役立ったようだ。
その後も続く達也と真夜の互いが暗に警戒し合う会話。俺は立ったまま、達也に対して警戒や真夜に対して意見もせず黙っていた。俺の言葉がどちらかの敵意を煽ってしまう可能性を恐れ、口を開けなかったのだ。
目の前で行われる冷たい言い争い。片や、深雪の
(目の前で『
光が100%通るラインを作る真夜の魔法は、その前段階である夜のうちに達也によって分解される。殺傷性の高い魔法はお互いが互いを試すためだけに使用された。そうなることは分かっていたが、それでも俺は冷や汗を禁じ得なかった。
「さて、私の切り札も破られてしまって、もう達也さんに強制する術はないのだけど。どうすべきだと思う?十六夜」
まさかのここで俺に話が振られる。にこやかな真夜を見る限り、俺に訊くまでもなく既に決まっているのだろう。だというのに何故か俺の意見が判決を左右するかの如く求められ、達也からは鋭い視線を刺される。
「USNA軍が動いていて実力行使に出る可能性があるなら、深雪が狙われる可能性もある。スターズから深雪を守れるのは達也だけだ。達也は深雪の傍に居させるべきだと思うな」
達也に睨まれれば達也に対して否が言えないのもあるが、それ以上に原作通り話を進めるために俺はそう平静に述べた。それで達也の視線は真夜の方へ向き直った。まだその目は鋭い。
「そうね。十六夜もこう言っていることですし、私の魔法を破ったご褒美として貴方の願いを叶えましょう」
真夜のその一言で警戒心によって張りつめられた雰囲気は霧散する。
「ありがとうございます」
達也は口だけの感謝を述べ、形だけの礼儀を示して退室する。まだ達也のその様子は何処か怒っているようにも急いているようにも見えた。
「ふぅ、全く恐ろしい子ね」
わざとらしく息を吐く真夜からは一歩間違えば命を失っていたのにも関わらず、微塵も焦りが見えない。達也のあの対応も想定の範疇だったのだろう。
「十六夜、話したいことがあるのだけど。お茶をしながらで良いかしら。喉が渇いてしまったわ」
「ああ、俺は構わないよ」
真夜はそうして俺を対面に座らせ、外で待機していた葉山を呼びつける。葉山にもこれからの話を聞かせるための口実のように思えたが、実際彼女は話しっぱなしで淹れ直された紅茶にすぐ口を付けた辺り判断が難しい。
「単刀直入にいきましょう。十六夜、貴方は達也さんを御すためにどうすれば良いと思う?」
俺も真夜を倣って喉を潤したところで、彼女は俺へと質問をしてきた。彼女の妖しい笑みを見るに、それは多くの問いを集約しているように思える。だが、ない頭で考えるのは下手を打つと思い、俺は純粋な俺の考えを述べることにした。
「深雪を四葉家次期当主に据えること。最も単純で実効性が高いのはそれだと思う」
原作通りに事を運ばせるための意見。この思惑は確か原作の真夜も考えていたことだったはずだ。どう足掻いたって達也を力で抑えることはできない。分解魔法という必殺の矛は、最高の盾であるファランクスもいずれ貫いてしまう。俺のアンキンドルドゥも発動する前に穿たれてしまえば無意味だ。
だからこそ、達也自身を力で縛るのではなく、彼の最愛の妹である深雪を世間体で縛る。相対的に達也の地位も上がることになれば、深雪が四葉に反旗を翻す可能性も下がる。これだけだとまだ縛りが弱く思えるが、この真夜は原作であったあの最後の一押しまで考えているのだろうか。気にはなるが原作知識なので聞けるわけはない。
「そう。一つ訊きたいのだけど、十六夜は次期当主になる意思はないのかしら」
真夜の表情が少し悲し気なモノに変わる。
「俺は人の上に立つ器ではないよ。体の方も、色々と問題だらけだしね」
所以の分らぬ真夜の悲壮に、俺は曖昧な笑顔で返した。言っていることは本心であり、隠し事の多い俺に組織の長は向いていない。その組織にすら隠さねばならぬことが山積みだ。叩けばさぞ埃で煙いだろう。
「いつも無理をさせるようで悪いわね」
「何も無理なんてしてないさ。母さんのためになるなら、何でも喜んでするよ」
「そう。なら、頬に口づけ、してもらえるかしら?」
満面の笑みに変わったかと思えば、拍子が色んな意味で抜けそうな要求が飛んで来る。
「あの、葉山さんがいるんだけど」
「わたくしめのことは、どうかお気になさらず」
即座に平然と返す葉山。そういう返しは欲しくなかったのだが、誰の欲しい返しをするかなど考えるまでもない。
「さぁ、十六夜。さぁ!」
腕を大きく広げて待ち構える姿は本当に真夜のモノであるか非常に疑わしいが、光波振動系魔法など使われていないので目の前で腕を大きく広げて待ち構えているのが正真正銘真夜である。俺はそのキャラ崩壊に軽く引いてしまう。
「……せめて手の甲とか―――」
「葉山さん、ちょっと深雪さんたちを―――」
「今すぐ頬にさせていただきます!!」
◇◇◇
2095年12月4日
「……ぐぁーっ!訳分かんねぇ!」
「五月蠅い!叫ぶな!鬱陶しい!」
「レ、レオくんもエリカちゃんも、落ち着いて……」
雫の屋敷で叫ぶレオとエリカを美月が収めようとしながらアタフタとしていた。しかし、二人の叫びが木霊する中、平然と勉強を進める達也一団を俺は恐ろしく感じつつ、まぁ慣れたのだろうと納得していた。
達也一団と共に雫の屋敷で何をしているかと言えば、何とも学生らしい集会・勉強会をしていた。俺の前世で学生時にそんなことを行った記憶はないが。俺は雫だけでなくエリカやレオにも参加を懇願されたので混ざることとなった。しかし、ここに集まっているメンバーに以前の試験筆記トップ5・実技トップ3・総合トップ4が含まれているというのはこれまた恐ろしい。それから外れるエリカ・美月・レオの三人も落第生ではないし、割と秀才の集まる集団であることを再認識する。
そうして幾ばくか。達也が全体の教師役をしながら時折俺にも質問が飛んで来る勉強会は一段落し、お茶会へと変貌し始めた時に雫が爆弾を投下した。
「実はアメリカに留学することになった」
突然雫から切り出された話に周りが慌てだす。交換留学という話だが、どこも魔法師の国外排出を嫌がっているのにその魔法師を他国に留学させるというのは余りにもおかしい話だった。
「十六夜」
雫に質問せず黙考していた達也は、まず雫ではなく俺に小声で言葉をかける。
「一番近づきやすいのは同級生ってことなんじゃないかな?」
達也が求めているだろう意見を俺は短く返す。俺は交換留学生がスターズの総隊長であることを知っているが、あくまでそれは原作知識。考えられる可能性という体で疑問形にした。それを聞いて達也はまた少し黙考するが、すぐに顔を上げる。
「期間は?いつ出発するんだ?」
「年が明けてすぐに。期間は三ヵ月」
「三ヵ月なんだ……ビックリさせないでよ」
予想より短期間の留学に安堵するほのかや美月。それでも腑に落ちないような幹比古やエリカ。
「じゃあ送別会をしなきゃな」
達也も腑に落ちない側だろうが、それはおくびにも出さずにまずは目の前の事柄に対処するようだ。送別会を開くことに異論は唱えられなかった。
◇◇◇
「十六夜さん、ちょっと良い?」
達也一団と共に北山邸で夕食をご馳走になり、皆が帰り支度を始めようとしたところ。雫は何故か俺だけに声を掛けた。
「俺は問題ないが。どうしたんだ?」
「ちょっと、私のお父さんが話をしたいって」
唐突な大企業社長との会談に俺は訝しむ。どうやら雫も同じようで、眉根は寄せられ、あまり気乗りしない様子だ。と言っても、雫の父・北山潮が俺と話したい理由は分からなくもない。大事な愛娘の近くに『四葉』が居るのだから心配の一つもするだろう。
「そういえば、達也一団の中で雫の父親に会ってないのは俺だけだったか」
「うん、じゃあ付いて来て」
そのまま広い屋敷の中を令嬢自らの先導で連れていかれた場所は、北山潮の書斎だった。
「ああ。よく来てくれた、四葉君」
応接用のテーブルには既にお茶が供えられ、潮はソファに腰掛けていた。
「こちらこそ、雫さんにはいつもお世話になっております。彼女が学校でできた初めての友達でもありますので」
「それはそれは、家の娘も十師族と友人になれて幸せだろう。是非とも学校での雫の様子を聞かせてほしい」
「父さん……」
「おっと、これは本人の前で聞くことではなかったな。雫?四葉君とはこれから大事な話があるから、部屋を出てもらっても良いかい?」
冷ややかな視線を雫から注がれた潮はそれにたじろぎつつも上手く躱し、雫に退室を促す。雫は自身の学園生活を他人評で聞きたくないのもあってか、仕方ないと部屋を出た。
「そう、君とは大事な話があるんだ」
空気が一変する。潮はまるで注意深く観測するように俺を見つめる。あのたじろぎまで演技だったとしたら見事なものだ。雫はあの雰囲気からこんなピリピリした状況ができあがるとは思わなかったろう。最中である俺は絶賛憂い中だ。
「四葉君、娘からはよく君の話を聞いているよ。仲はとても良好なようだ。これは、君の意図的なモノかい?」
北山潮の娘と友人になったのは四葉の謀略の内なのかと、潮は俺に問いかける。俺は彼の警戒を受けて、素直に腹を割ろうと思った。
「今まで雫さんを危険な事件に巻き込んだこと、大変申し訳ありませんでした」
俺は頭を下げる。雫を巻き込んでしまった事件は、強いて言うなら横浜事変だけで多くはないが、それにしても娘を危険に曝す男を優しく持て成せるかと言えば、そんなわけはない。だからこそ、俺は素直に謝ることにした。
見えてはいないが、彼の視線が緩んだのを知覚する。まぁ、敵かもしれないと思っていた奴が謝り出したら、混乱しても仕様がない。
「彼女の優しさに甘え、危ない目に遭わせたのは俺の不徳の致すところ。これ以上雫さんに近づくなと言うのであれば、俺はそれに従います」
頭を下げたまま、俺は謝り続ける。横浜事変に巻き込まれるのは俺が居なくても起こった出来事だが、それでも呂剛虎との戦闘時に雫が駆け付けてしまったのは間違いなく俺が原因だ。俺自身、雫に近づきすぎたとは思っている。しかし、自身の意思だけでは雫から離れる決心がつかなかった。いっそのこと、雫の親である彼らから突き放されれば、俺も諦めがつくかもしれない。
「……顔を上げてくれ」
何処か疲れたような潮の声に従えば、彼の顔も少し疲れたようだった。
「我が子可愛さに君を責めるようなことを言ってしまった。すまなかった」
「え?いや、そんな。過失とはいえ、俺に非があったのは確かで……」
突然潮から謝り返され、困惑が口から漏れる俺を潮は手で制す。
「神経質になっていた。君が第一高校に入学してからというもの、事件がたて続けに起こる。もしかしたら、あの『四葉』の少年が悪いのかも、いや、そうに違いないと。大人気なかったな……」
潮の顔は自責に塗られ、俺はそれを大人しく静聴する。
「君が悪くないのは分かっている、分かっているのだが……。海外留学なんて話がすぐに私の娘へ回ってきて、私自身も随分迂遠だが、多方面から圧力をかけられた。まるで我が娘を、四葉直系の友人を是が非でもアメリカに誘い込みたいかのように」
大事な娘を自身の目が全く届かない所に送りたくないと、その心労携えた目は語っていた。しかし、避けられそうにないとも。
「……交換留学は、日本へ非公式戦略魔法師の調査のため、多くの諜報員を忍ばせる口実だと思います」
俺は彼への同情で原作知識の一部を有力な情報のように述べる。
「『灼熱のハロウィン』、か」
「ええ。あの魔法の行使者として、日本の魔法科生が容疑者に含まれています。俺も、その一人です」
「そうか。娘に危険はないんだな」
潮は背もたれに深く背を預けた。心労で歪んでいた表情が、少し晴れたように見える。
「万が一のことを考え、母に護衛を強化できないか頼んでみます。すみません、俺にはこれくらいしか……」
「いや、子供にこれ以上求めるのはそれこそ大人気ない。ありがとう、君の気持ちだけでも嬉しいよ」
俺は無力であることに嘆いていれば、潮はそれを咎めることなく、むしろ感謝を言葉にした。原作を遵守した日和見の俺としてはとても歯がゆい。
「ところで。君にとって雫は、
「……大切な友人です」
最初は原作メインキャラとして雫の安否を心配していた。今もそれが大部分を占めているが、何と言えば良いか、純粋に雫を心配に思う部分はある。俺は雫のことを、友人として大切に思っているのかもしれない。
「そうかぁ……」
潮は落胆を思わせる重い息を吐く。組まれた両手で目が隠されているため、その心理を覗くことはできなかった。
「ありがとう、今日は話せて良かったよ」
「こちらこそ。話し合いの機会を設けていただき、ありがとうございました」
警戒の消えた潮の笑みに悪意がないことを俺は確信して安堵する。
「もう日も暮れてしまったことだし、帰りの車を出そう」
「いえ、お構いなく」
「いやいや、誤解への謝罪だ。こういうのを素直に受け入れるのも、人との間に遺恨を生まない世渡り術だよ?」
「そういうものですか?それなら、まぁ」
大企業の社長まで至った人の語る世渡り術となれば、コミュニケーション能力が低い俺に反論はない。俺は彼の教えに従う。帰りの車はリムジンで、何故か雫も乗っていた。
◇◇◇
2095年12月24日
「飲み物は行き渡ったか?いささか送別会の趣旨とは異なるが、折角ケーキも用意してもらったことだし、乾杯はこのフレーズで行こうか……メリー・クリスマス」
『メリー・クリスマス!』
貸切られたいつもの喫茶店、アイネ・ブリーゼにて、達也一団がクリスマスケーキを囲んでグラスを掲げる。皆の都合が良い日として選ばれたのは二学期最後の日である今日であり、ついでにとクリスマスを祝うこととなったのだ。ちなみに、今回のパーティー代は全額俺持ちである。金は(無駄に)あるので問題ない。
「今更だけど、雫はよく交換留学を応じたね」
「うん。海外に行くのなんて今のご時世、滅多にできることじゃないから、良い経験になるかと思って。それに……」
「それに?」
「ううん。なんでもない」
俺の対面に座る雫とほのかが交換留学についての話題を事細かに聞いている。一瞬だけ雫が俺の方を見たが、すぐに視線を戻したために意図は図りかねた。
「十六夜、ちょっと良いかい?」
「ん?どうかしたかな?」
幹比古はわざわざ席を立ってまで俺へと小さく声を掛ける。エリカまでセットだ。
「この交換留学って、少しきな臭いと思うんだけど……」
「何か裏があるんじゃないのって話よ」
幹比古はどうにも気に掛かるようだ。エリカも同じくと言った感じである。二人はひそひそと話し出す。
「ただの学生に危険はないさ。もちろん、雫さんの方もな」
「つまり、十六夜みたいな十師族や達也みたいな軍人には危険があるってこと?」
幹比古は耳聡く言葉の真意を追求する。勘の良い人物はこれだから侮れないと俺は感嘆する。
「どうなの」
「はぁ……。とりあえず、全体に身の危険はないさ。非公式戦略魔法師だけはその限りではないけど」
エリカの睨みに俺は耐えかねて白状する。なんだか最近、体の良い情報源に使われている気がしてきた。いや、俺が勝手に口を開いているだけなのだが。
「『灼熱のハロウィン』の魔法師、まさか第一高の生徒なのか?」
「少なくとも、あっちはそう思っているようだな」
「もしかして、その魔法師って―――」
「ノーコメントだ。エリカさん、好奇心で藪を突くのは止めた方が良い。君のためにならない」
俺はエリカの言葉を遮って釘を刺す。エリカの考えは頭の中に留めるならまだしも、口に出すのは大変不味い。いつの話か忘れたが、原作においてエリカは達也が四葉の縁者であることを、よりにもよって達也の前で言い当ててしまう。エリカの猫のような性格をこの釘で改められれば良いんだが、まぁ無理だろう。
「……」
「……」
「さぁ、パーティーを楽しもう。今回は俺の奢りなんだから、楽しまないと損だよ?」
「そ、そうだね。ああ、楽しませてもらうよ」
「じゃ、じゃあフライドチキンのお替りでも頼もうかしら」
深刻に黙り込んでいた二人に対し、俺はパーティーを楽しむように勧める。幹比古もエリカも無理矢理今を楽しもうとしていた。
全体的に和やかなパーティーが過ぎていく。
十六夜の意思を問う真夜:実力なら間違いなく一番である十六夜を次期当主に指名できないことを悲しみ、それを十六夜に受け入れさせている自身に負い目を感じている。せめて、子供として精一杯愛そうと改めて思った。
北方潮:娘を危険に巻き込む十六夜を疫病神と考えていたが、彼からの謝罪に頭が冷えた。目の前に居る少年も危険に曝された不幸な者であると改め、彼への態度を軟化させる。それはそれとして、明らかに雫が好いているので十六夜がどう思っているのかを聞いてみたが、前途多難であることに察して落胆する。
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