魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第二十二話 無理な解

2095年10月25日

 

「えーー!あいつもう倒しちゃったの!?」

 

 昼食をとる食堂で、そんなエリカの嘆きが響く。周りは一瞥しただけで日常に戻っていく。もう周りも達也一団の起こす騒動には慣れ始めてしまったのかもしれない。

 

 エリカが「あいつ」と呼ぶのは呂剛虎のことである。昨日の放課後のことを訊かれた達也は呂を捕縛したことを今ここに集まる達也一団に話した。それで、呂を打倒すべく特訓していたエリカは自分の徒労に気付き、何故だかレオも項垂れている。

 

「俺の二日間はいったい……」

 

「ん?二日間って?」

 

「レオもエリカの特訓に付き合ってたんだよ」

 

「付き合ってたんじゃなくて、私が指導したのよ」

 

 幹比古の補足にエリカが不必要な訂正をする。聞けば二日学校を休んでまで二人は特訓していたらしい。俺としては単位とかが心配になるのだが、怪我で同じ日数休んだ俺からは何も言えない。

 

「そう言えばよ。千葉道場に十六夜が使ってた得物と似たのが有ったんだが、あれって千葉家秘伝のはずだよな?」

 

「アンタは……。秘伝なんだからそう軽々しく口にするんじゃないっての」

 

 エリカに睨まれたレオは、さすがに今回は自分に非があると思ったようでばつの悪い表情をしている。

 

「シルバーブレイドのことだよな?カーボンナノチューブ製の極薄布を、硬化魔法で剣に整えるCADだが。そんなに似てるのか?」

 

 原作知識によるパクリなのだが、俺はそこをはぐらかす。

 

「似てるどころかほぼ一緒ね。どこから漏れたんだろう……」

 

「四葉が情報を盗んだと思うのは止めてくれ……。あれは本当に俺の思い付きなんだけどな」

 

 エリカの中では情報漏洩と結論されたのか、あらぬ疑いが四葉にかかってしまう。俺もこうなることを恐れてあまりエリカの前では使いたくなかったのだが、そんな甘えを許してくれる状況ではなかった。そもそもパクらなければ良かった話なのだが、剣の魔法師と名高い千葉家が秘伝にするあたりかなり実用的なのだ。それと並ぶ物を俺が思いつけるはずもない。

 

「それにしても。お兄様も十六夜も怪我がないようで良かったわ」

 

「十六夜だけでなく渡辺先輩に七草先輩も居たからどうにかなったな」

 

「まるで第一高のドリームチームみたいですね」

 

「十文字先輩が居ればさらに良さそうです」

 

「深雪も入れれば完璧」

 

 深雪が改めて兄の無事を喜べば、第一高校のドリームチームなるモノが美月によって結成され、ほのかと雫によって補填される。確かに十文字・七草・四葉×3・百家支流(渡辺)ならドリームチームだろう。相手にとってはまさに悪夢である。達也が居る時点で悪夢な気がするが。

 

 和気藹々とした会話で昼休みの時間が過ぎていく。そろそろ昼休みの終わりが近づいてきたところでそれぞれ食器を片して解散となったが、雫だけは食堂の出口に立っていた。

 

「十六夜さん」

 

「どうかしたかい?」

 

「怪我、大丈夫?」

 

 どうやら雫は治りきっていない俺の怪我を気にしてくれたようだ。はたから訊けば治りきってない時にまた戦闘したのだから心配にもなるのだろう。他の達也一団は訊いてこなかったが。信頼しているか、もしくは感覚が麻痺していると思いたい。ちなみに達也からは自己暗示で身体のリミッターを外したことで心配された。

 

「大丈夫さ。俺がしたことなんて剣を一振りしただけだからな」

 

「……無理しないでね」

 

 雫の不安そうな表情から、どうにも俺の言葉を信じていない、嘘を見透かされているような感じがした。

 

「……ああ」

 

 彼女との距離を今後どうすべきか分からなかった俺は、そんな曖昧な返事をするだけだった。

 

◇◇◇

 

 放課後となった校舎。俺は達也の警護という仕事があるから留まっているが、今達也も仕事に集中しているので邪魔をすまいと校内の見回りをしていた。正直、達也に火の粉が降りかかれば達也自身が火元から鎮火するだろうから彼を警護する意味が無い気がしている。だが、任されてしまったものはしっかり果たすべく、火の粉が達也に降りかからないように近辺を警護しているわけだ。

 

「あれは……」

 

 魔法(というかサイオン)が飛び交っているグラウンド。無許可でも無秩序でもない、ただの九校共同会場警備隊、一高メンバーの訓練だ。その中には総隊長となった克人や一高隊隊長に指名されたのでそっちを優先している沢木、そして幹比古が居る。

 

 俺はつい見回りの足を止めて幹比古の立ち回りを見ていた。主に使っているのは古式魔法であるために出が遅く、防戦一方に見える。だが、それは秀逸な罠であることを示すように魔法の効果範囲へと誘い込み、痛打を与えているのが分かる。少し前までその古式魔法すら発動不安定になっていた者とは思えない。俺はそんな幹比古の姿が、失敗を帳消しにできた晴れやかなモノに見えて、非常に羨ましく感じた。

 

「随分と腕を上げたよな、彼。いや、腕を戻したという方が正しいのか?」

 

「摩利さん」

 

 声をかけられてようやく摩利が居ることに気付いた。どうやら大分見入っていたようだ。

 

「見ていたのは吉田幹比古だろう?全く、達也くんの周りには面白い奴ばかり揃う。彼は現代魔法も見る限り、何故二科生なのか疑いたくなるほどだ」

 

 摩利は幹比古が現代魔法を使っている瞬間も目ざとく見ているようだ。摩利の言う通り、現代魔法も一科生レベル。それも、同学年なら間違いなく上位に食い込むだろう。

 

「ええ、スランプからは完全に脱したようで。何とも……羨ましい」

 

「羨ましい?」

 

 つい口を突いて出てきた言葉を、摩利に拾い上げられてしまった。

 

「いえ、まぁ何と言いますか。憑き物が落ちたような顔を見ていると、その境遇に羨望を抱いてしまいまして」

 

「……悩みがあるなら聞こうか?」

 

 純粋にこちらを気遣ってくれる摩利。少し打ち明けて楽になりたい思いがくすぐられる。しかし、前世の話なんて信じてくれないだろうし、信じてもらえたとしても罵られるのが目に見えていた。

 

「お言葉だけ、有難く頂いておきます。幹比古さんと同じように、時間が解決してくれるでしょうから」

 

 曖昧に笑って返す。これについては本心である。いつか、この身を四葉のために、真夜のために磨り潰した時が来れば、俺の贖罪は果たされる。俺はそう信じている。

 

「そうか……」

 

 後輩思いの先輩は腑に落ちないと言った面持ちだったが、詮索はして来なかった。

 

◇◇◇

 

2095年10月26日

 

 論文コンペも四日後に迫った日。風紀委員が警護に勤しんでいる中、俺は放課後となってすぐに帰宅した。千代田と摩利、達也には家の事情だと説明して許しを得ている。

 

 その家の事情で、今俺は複数人とグループ通話をしていた。

 

〈君はまだ危険性があると考えているんだな?〉

 

「はい。敵は、大亜細亜連合は全国高校生魔法学論文コンペティション時に襲撃を仕掛けると愚考します」

 

 俺はヴィジホン経由の七草弘一の視線を真っすぐに受け止め、真夜と十文字家現当主・十文字和樹(かずき)にも聞こえるようはっきり答えた。

 

〈東京湾近海で不審な船舶と、横浜港では深夜にも関わらずダイビングスーツのような物を着込んだ集団が確認されていますわ。それだけで十分に大亜連が襲撃を企てている証拠でしょう〉

 

 真夜が俺の考えに具体的な証拠を出して後押しする。本宅ではなく何処かエスケープハウスからの通信のようで、その悠然とした表情が映し出されていた。

 

〈密入国を許すほど警戒は緩めていなかったと存じますが〉

 

「内通者、少なくとも現地に永く潜伏した工作員の手引きが考えられます」

 

〈密入国した者の足取りも、警察では掴めていない様で。地理に詳しい人員が居ることは確かですわ〉

 

〈ふむ……〉

 

 和樹は少し考え込む。情報収集となると四葉や七草と比べて一歩遅れる十文字家では情報が精査できないと踏んだのか、弘一の様子を窺って判断しようとしているようだ。

 

〈七草でもその情報は掴んでいましたが、毎年の如く情報を盗む程度で終わると考えていました〉

 

〈あら、存じているのに対処していないのですか?〉

 

〈一から十まで叩いていては苦労が絶えません〉

 

 弘一は対処の是非を曖昧に答える。何か弘一と真夜の間で火花が散り出した気がする。

 

「今回はその虚を突く作戦なのかもしれません」

 

〈何事もないことを祈るだけで何もしないのでは愚行極まるな。当日は十文字家の手勢を警備に当たらせましょう〉

 

 先に重い腰を上げてくれたのは和樹の方だった。真摯にこちらのお願いを聞き入れてくれるあたり、克人の父親である。

 

〈感謝しますわ。こちらも配下の者を現地に向かわせます〉

 

〈両家が動くのでしたら、私もご助力します。元より関東の守護は七草と十文字の領分ですからね〉

 

 形勢不利とみてか、弘一も二人に賛同した。その様子からは別に焦りを感じず、淡々としている。

 

「お忙しいところ、この若輩者の嘆願を聞いていただきありがとうございます」

 

 俺は深くお辞儀をする。これで原作以上に被害は抑えられるはずだ。

 

◇◇◇

 

2095年10月27日

 

 論文コンペで忙しなく過ぎる時間。俺の時間も授業・見回り・警護と忙しなく過ぎているはずなのだが、どうにも特筆すべき出来事が多い気がする。

 

 現在は昼休み。本来だったら達也一団との他愛もない談笑で過ぎるので、これといったイベントはないはずなのだが。何故だか今日は真由美からカフェテリアに来るよう朝に言われた。何か良くないことをしただろうかと、俺はカフェテリアに向かい真由美の姿を探す。席は朝に指定されていたのですぐに見つかる。彼女と目が合えば、彼女は微笑んで手招きする。いつもだったら声や身振り手振りで呼びそうなものだが、どうにも目立ちたくないように見える。

 

「お待たせしました、真由美さん」

 

「大丈夫、私も今来たばかりよ」

 

 カフェテリアの隅、真由美の対面に腰を下ろした。長話になるかは分からないが、居座るのだからと店への礼儀で適当な飲み物を注文しておく。

 

「それで、何かありましたか?」

 

 女性との、しかも先輩との会話なのだから少し談笑するのが甲斐性なのかもしれないが、俺にそんなコミュニケーションスキルはない。俺は即座に本題を促した。

 

「え~と、その……」

 

 真由美らしからず逡巡して目線が右往左往している。

 

「……何か、悩みとかあるかしら」

 

 自身でも「この切り出しはない」と思っているのか、真由美は優れない表情でそう口に出した。

 

「……摩利さんからですか?」

 

「……ええ」

 

 隠す気があったのかは分からないが、真由美は白状してため息を漏らす。このタイミングで「悩みはあるか?」と問われれば、さすがの俺でも一昨日の摩利を連想する。その連想は正しく、真由美は摩利から俺の悩みを聞いてやるよう頼まれたようだ。

 

「悩み、と言いましても。あるにはありますが、そう簡単に打ち明けられるモノは意外に少ないモノですから」

 

 意外と少ないどころかほとんど打ち明けられないモノだが。そう考えると俺は苦笑いを禁じ得ない。

 

「まぁ、そうよね」

 

 真由美は同調するように苦笑する。彼女は同じ十師族だからこそ自身と同じ苦悩を俺が抱えていると思ったのだろう。

 

「話題を変えましょうか。そうね、学校生活はどうかしら。中学まで通信制だったと聞いているけど、全日制に変わっただけでも感覚の違いがあるでしょう?」

 

「そうですね、感覚の違いと言いますか。最初に一つ、感動したことがありました」

 

「感動?友達ができたこととか?」

 

「家から出られたことです」

 

 予想外の回答だったようで、真由美は口をポカンと開けて驚いていた。

 

「15年も籠っていましたから。俺はこのまま家から出られないかもしれない、なんて不安があったんです。その不安が解消された時は、四葉の家から出た時はとても感動しました」

 

 魔法を学ぶことと俺の情報を隠すことが必要だったとして3年近く四葉本宅に留められ続けた。正直に言えば、本当に人体実験コースも覚悟していたのだ。今こうして自由に出歩けることを、俺は誇張抜きで奇跡だと思っている。

 

「まぁそんな感動には、『四葉』を名乗る許可という驚きが付随したのですが」

 

「『四葉』を名乗る許可?」

 

「許可というのは大仰かもしれませんが。未熟な俺が『四葉』を名乗って良いのかと、母が実の子と認めてくれるのかと。そういう懸念がありまして」

 

 俺はてっきり、良くて黒羽ないし他の分家子息として使われるか、悪くて下っ端として使い潰されるかと考えていた。確かに俺の遺伝子は真夜と親子レベルで近似しているが、『四葉』を冠することは完全に考慮外だった。「貴方は今日から私の子供よ」と言われた時は「何の冗談です?」と返してしまったほどだ。

 

「まぁ、杞憂で終わったわけですが。それで、俺は晴れて『四葉十六夜』として第一高校に通えるようになったという話です。それからは、真由美さんの言う通り、こんな俺にも友達になってくれる人が居たことに感動したり、そんな友達と話し合えることに感動したりですね。……どうかしました?」

 

 語ることに夢中になっていれば、何故か真由美が俯いていた。表情がよく見えないので感情が読めない。

 

「十六夜くん……!」

 

「え?あ、はい?」

 

 唐突にテーブルの上に置いていた俺の手に真由美の手が重なられて体がビクッと反応する。俺がチェリーだからじゃない。周りの視線が痛いからだ、おそらく真由美ファンの嫉妬のそれが。

 

「勉強でみんなと競い合って、委員活動に精をだして、友達と楽しく遊んで。そういう、そういう普通の学生生活を謳歌しましょう……!この第一高校に通っている間は、普通の、()()()()()()()()でいて良いのよ……?」

 

 彼女は潤んだ目で俺に真っすぐ訴えかけてきた。

 

「ただの、十六夜……ですか」

 

 俺は彼女から出たその言葉で、()()()。いや、「()()()」という方が正しいだろう。

 

 変な話をすれば、真由美の言葉は非常に惜しかった。もし「十六夜くん」ではなく、「貴方」だったら。おそらくそんな優しさを向けてくれた彼女の情に絆され、俺は心の一端でも吐露しただろう。彼女の間違いは、『十六夜』が『俺』であるという誤認にある。『十六夜』とは真夜から貰った名前だ。つまり、それ自体が既に俺を『四葉』に縛る枷なのだ。

 

 彼女の誤認は仕方ない。親から名前を貰うのは当たり前で、本来ならその名前こそ自我を確立する識別になるだろう。だが、『俺』という自我は『十六夜』という名前を貰う前より確立されている。そう、前世だ。『俺』の自我は『●●(前世の名前)』で確立されている。故に、『十六夜』という名は真夜の息子を演じるための仮面。前世の罪を償うための()()()に過ぎない。

 

 だからこそ俺は覚めた。同時に何故あれほど熱心に語ってしまったかも理解した。()()()()()()()()()()()()という馬鹿な夢を見たのだ。接する機会が多かった七草真由美なら、冗談でも婚約発言をした彼女なら、もしかしたら『俺』を理解してくれるかもしれないと思ったのだ。だが、彼女の発言のおかげでそんな夢から覚めた。

 

 自分からは何も語らぬ罪人が、理解など得られるはずもない。それより、微塵でも無能で親不孝の罪を語ろうとしていた自分自身が恐くなった。罪を語れば責められる、みんなに嫌われる。そんなことすら意識の外に置いていた。どうにも気が緩んでいたようだ。周りの人たちが意外に親しく接してくれるものだから、俺は慰めを求めてしまったのだろう。

 

「ありがとうございます。お言葉、しかと受け止めさせていただきます」

 

 真由美には心からの感謝を贈る。彼女のおかげで俺は致命的な誤りを未然に防げた。

 

「ええ。辛いことがあったら、先輩である私にいつでも相談してね。なんだったら家に来てもいいわ。泉美も会いたがってるでしょうし」

 

「七草家への訪問はちょっと……」

 

 そういえば泉美の謎の親密度も忘れていた。来年入学してくるのだが、彼女への接し方はどうしたものだろうか。

 

◇◇◇

 

2095年10月29日

 

 論文コンペの前日である昼休み。論文の主執筆者である市原が午前の所用によりリハーサルが午後に繰り下がったらしく、まだフリーである達也とその一団の昼食にご一緒していた。ここ最近としてはいつも通りと言えるかもしれない。

 

「それで、レオとエリカが機材の見張りに協力したいらしいんだが。どうだ?」

 

「お願い!」

 

「この通りだ!」

 

 二日も休んで行った特訓に意味を見出したいらしく、エリカとレオは俺に頭を下げる。

 

「俺に言われてもなぁ。まぁ、千代田委員長には言ってみるが。あまり良い返事は期待しないでくれ」

 

 残念ながら俺にそんな権限は無いので上司に報告することにしたが、千代田が実力のある者だからと言って一般生徒に仕事を分け与えるとは思えない。彼女は彼女で風紀委員という仕事に誇りと責任を持っている。生徒を危険から遠ざけるのが風紀委員だろうと千代田は考えているようだ。

 

「私たちにも何か手伝えることってないかな」

 

「……」

 

 雫も見つめてくるが、俺は答えに窮してしまう。

 

「……俺個人として、できれば全員横浜に来てほしくないな」

 

「十六夜」

 

 皆が俺の言葉に呆ける中、訳を知っているだろう達也と深雪はこちらを睨む。「明かすつもりなのか?」と。危険があることを明かすのは国への不信に繋がりかねない。だからと言って、俺は魔法科高校の劣等生(この世界)のメインキャラクターである彼らが無警戒のままに飛び込んで来ることを許容できなかった。それでも達也の懸念は尤もであり、俺は彼に反論できないため、彼の目を真っすぐ見ぬまま口を開く。

 

「今回の論文コンペ、少しきな臭いんだ。何か事件が起こるかもしれない」

 

「きな臭いんなら尚更人が多いに越したことはないんじゃないか?」

 

「……既に十師族のいくつかも動いてる。ただの学生じゃ足手まといにしかならない」

 

 幹比古の善意を俺は正論で踏みつぶす。幹比古はそれに対する非難より、十師族が動いていることに驚いているようだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。予想されてる事態って、そんなに危険なんですか?」

 

「……ああ」

 

 美月の問いに頷けば彼女の顔は青ざめる。

 

「そんな状態でも論文コンペってするんですか!?」

 

「少数の危機感で大衆は止まってくれないさ。きな臭いだけで怯えて中止にすれば、「国の威信が」とうるさい者も少なくない」

 

 ほのかの叫びを一蹴すると、皆が黙りこくってしまった。

 

「食事を不味くしてしまったな。俺は席を外すよ」

 

 空気を悪くしてしまった本人としてこの場に居づらかった俺はそうして席を立つ。

 

「待って、十六夜さん!」

 

 雫の大声。珍しい彼女の行動に俺は足を止める。

 

「本当に、手伝えることはないの?」

 

「……俺の忠告を素直に聞いて横浜に来ないこと。それが俺の望む最大の助力だよ」

 

 俺は雫の顔を見ることもなく、そのままその場を後にした。どうして突き放すような物言いを彼女にしてしまったのかと、胸には後悔が募っていた。

 

(俺は、間違ってないはずだ……)

 

 理解を得ようとすることが虚しいのだと分かった。だから無理解のまま彼女との距離を空けたいと思っているのに、その行動に罪悪感を抱く自分が居た。自信のない自己弁護までして、俺は罪の意識を拭おうとしていた。




レオとエリカの二日間:目標が呂剛虎だったために特訓が原作より厳しくなって期間延長。と言って、ラッキースケベイベントは増えてない。多分。その特訓は無駄にならないと思うが、努力とは短絡的には報われないものである。

十文字和樹:今回十六夜とはしっかり話せなかったのでまだ人柄を捉えられてはいないが、克人からの前情報で受けた「真面目な男」という印象はブレず、そこに「『十師族』の使命をしっかり果たそうとする愛国者」というのがプラスされた。だが、それだけでないことを直感的に感じている。その少年らしさの欠如に強い違和感を抱いていた。

『●●』:「思い出したくもないってか。本当にお前は卑怯な奴だよ。でも忘れるな、『●●(罪深い前世)』あっての『十六夜(償いの今世)』なんだよ。いつまで『●●』を隠せるか、見物(みもの)ってやつだな」

閲覧、感謝いたします。

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