めひろぎおひろぎ

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>久しぶりに栄西2をダウンロードしたら立ち絵が変わっていました 驚きました

前の立ち絵は栄西1の立ち絵なんだよね(それを栄西2でもそのまま使っていた)
あれは高遠さんの女主人公(私のリア友/腐れ/最栄派)が描いたものなんだけど、
だから栄西だけ異様にかっこいいんだよ 栄西と最澄が好きなんだな……ってすごいわかるのw
一遍のことどうでもいいから一遍の塗りと栄西の塗りが違いすぎるっていうw 一遍ゲーなのにww
「自分のリア友(私な)が一遍好きだから嫌々一遍描いたけど一遍に興味なさすぎて
塗りにそれが出た」っていう 最澄がちょっと攻めっぽくて栄西がすごい受けっぽい顔だったろ?
なんでかっていうと腐女子が描いたからです そしてぺんに興味ないからぺんだけ攻めにも
受けにも見えない顔で描かれてるっていうww
私そういうの大好きで栄西2でも彼女の絵のままにしておきたかったんだ
自分の好きなキャラを異常にひいきするのがごしそにの面白さだったから
私は一遍に興味ない人が描いた一遍が好きなんだ 嫌ってるのは困るけど腐れ女子って
どの人も「一遍に興味ない」って言うでしょ すごいニュートラルでいいんだよねえ
一遍を適当に描いて最澄栄西に気合いを入れるくらいでいいんだ ごしそには
なぜかというと私が一遍に気合いを入れて最澄栄西がどうでもいいからです!!!!
半分嘘です(最近私最澄好きなので) なんだろうな、超個人的になんだけど私は
腐女子が描く一遍が好きなんだよな だからいずみさん版も好きです 腐れに乙女ゲ描かせるの好き
腐女子の見る世界にいる一遍が好きなんだ なんかすっごいちょうどいいのよね
耽美過ぎず、夢ほど殺人鬼が好きではなく、すんげーーーーありのままーーーーーー
夢(男も含む)が描くとちょっと嘘っぽいんだよな 色気出過ぎてしまう 特にロンゲは
夢ってめっちゃ殺人鬼好きじゃん!! その分ちょっと盛っちゃうのよ! 夢×ロンゲはクドい
すごいキラキラさらさ艶々(つやつや)しちゃうでしょ 腐れのロンゲは湿度が低い
さいちょは乙女ゲ世界の人が見るさいちょが好き(※完全に個人の好みね)
その方がズルいからね

夢が見ている最澄:弱いところもあってそれがズルい ひきょう 自分×最澄で最澄が受け身
         『強気な態度をしてても最終的には最澄は弱い、誰かに負ける』と思ってる
腐れが見ている最澄:強いところが見えてそこがズルい 卑劣 最澄×誰かで最澄が攻め
          『弱点もあるけど最終的に最澄は強い、誰にも負けない』と思っている


ごし1第八話の日蓮戦の感想とか真っ二つに割れたから

腐れ:最澄は日蓮に勝った 最澄は最終的に日蓮を化かし合いで下した
   チームも勝ったしそれは最澄のおかげだった
夢:最澄は日蓮に負けた やはり凡才では天才に一歩及ばなかった
  チームは勝ったしそれに一番貢献したけど最澄本人だけを言うなら負けである


ってなったから まじで真逆の感想になったから

さいちょのどこが好きかがまるで違うから 
もう夢さいちょーって『ひらがな』で「ひきょう」って感じでしょ 儚いんだよね~
放っておけないズルい男 私を不幸にする男 私を悲しくさせる男 ずるい~
「なんでそんな顔するの」の意味が真逆なんだ 夢と腐れは!!!! だから良い!
どっちか一方ではいけない!! どっちもいなけりゃごしそにではない!

>フィナンシェは夢だよね

相手が男なだけでフィナンシェは夢カテゴリだよね 夢が考えたBLってかんじ
フィナで腐れ向けにするなら別の男と組ませるよなーって感じ わかっていて「あえて」じゃん!
ナシェは腐が描くとシャープになりすぎるんだよな かっこよくなりすぎるんや
夢が描くとちょーどよくムカつく感じになる 腐の描くフィナンシェ大体ツリ目で顎尖ってる
夢の描くフィナンシェ大体垂れ目でフローラル どっちのフィナもあってフィナンシェ
ごしそにの世界には腐れと夢がどっちもいて、両側から見るから面白いのや
片側ではいけない 腐れの中の辰フィナと夢の中の辰フィナは別物

夢の考えるフィナンシェ:フィナンシェは強がっているけど本当は弱い
腐れの考えるフィナンシェ:フィナンシェは弱いふりをしているけど実際強い


どっちが正解ってことはないんだ それが後白河ソニックムーブ 二面性の遊びだ

>確かに夢絵師の一遍はべちゃっとしそう

文章は一遍は夢の人の方がいいと思うよ 男とか大体夢だから男に書かせるとめっちゃいい
男のエゴまるだし~ってカンジがすごく合う 
「……(四天王の)ナンバー1になったら、何がもらえるの?」とか腐れには出てこない台詞
ねっちゃねちゃしてて最高 あと男のちょっと嫌なところがスパイスになってて最強

「……ナンバー1になったら、何がもらえるの?」の意味
→私はナンバー4だけど1になれないとは言ってないよ?(男の嫌な感じのリアルさ)
→どうせ誰も私の本当に欲しいものなんて用意できないでしょ?
 それなのに、皆真剣になって戦ってバカみたいだよね。それって本気でやってるの?
 それを私にも求めているってこと?ウケるね……(夢特有のねちょっとした感じ)
→「……」を最初につけることで目が笑ってない感じを出してくる(乙女ゲっぽい殺人鬼の表現)
→途中の「、」が入ることで不快な感じをわざと小出しに出してる印象が増える
 (私個人が喜ぶ一遍の感じ) 実際に嫌な男なんだよ~こいつ粘着質な恋愛しそ~感


この4つが一文になることで乙女ゲに出て来る男の腐ったやつみたいになってゾクゾクするねん
これを私が書くと

「ナンバー1になったって、……どうせ何も手に入らないじゃない」

になっちゃって4つのうち2つ目3つ目の2つしか満たせないんだよ そして3つ目も弱い
腐れが書くと、一遍のことが本当にどうでもいいので

「私だって、いつかナンバー1になったりするよ!? あははっ」

くらいになってしまう たぶん腐れが書くとぺんは笑うんだよな 軽いねん
夢だとねっちょりするから笑わない みたいな なんだろ 粘り気が こう 欲しい
腐れの闇って霧で、夢の闇ってヘドロなんや 夢はヘドロにぬくもりを、愛を感じる……
ちなみに夢じゃない男が同じ台詞を書くと、やっぱり笑わせるかな
「四天王争奪戦なんて、バカみたいなことやめたら~? 笑えるんだけど~。あはははっ」
くらいになるかな うーん やっぱ夢は粘り気と殺人鬼が大好きやねんな 男女問わず
ねと~~~~~~っとしていい 夢の書く文章のぺんはねちゃ~~~~~っとしててイイ!!

腐れが文を書くとすごいあっさりしちゃって、ぺんがとてもとても脇役に落ち着いてしまうんだ!!
でも絵は腐れに描かせるのがベストぴろりんだと思いますよ 顔のパーツがくどいでしょ
垂れ目で泣きぼくろでいやらしい感じの顔って、興味ある人が描くとめっちゃクドくなりそうだろ
「こういう男まじでどうでもいいな」と思ってる人が描くといい感じなんだ これはまじで

原作でやたら出て来る「STM」って単語なんですがこれ、坂上田村麻呂という意味です
SakanouenoTamuraMaro

さかのうえのたむらまろってキーボードで打つとすごい指が絡まるんですよ
口で言ってもなんか難しいし、文字で書いてもわりと長い。
あと、なんか当時みんな坂上田村麻呂のことSTMって呼んでた 主に日本史学科が
読み方は「えすてぃーえむ」。えすてぃーえむで坂上田村麻呂って意味です!!

後醍醐天皇「はろぉ☆ あんたがSTM?」

訳→こんにちは。あなたが坂上田村麻呂ですか? 首をください!

最澄「俺の手の上で踊り狂え! STM!」

訳→俺の手の上で踊り狂ってください、坂上田村麻呂さん

【予告】

第三回まで終わった! 次は第四回! 栄西登場です!
ヤッターーーーー延暦寺キターーーー!!

//朝廷 玉座の間

後白河上皇「……そう……」

自分の他には誰もいない、寒々しい玉座の間。

そこで後白河上皇は、ライターをカチカチと鳴らし
手にした一枚の写真に火を近づけた。

後白河上皇「後醍醐ちゃんでも止められないのね。
      あの男、まさに外道……」

写真に映っている少年は、紺の法衣を着た見覚えのある少年。

……御幸が「最澄」と呼んでいる、茶色の髪の少年だ。

少年は、バンダナをしていない。
少年は、派手なアロハも着ていない。

地味で埃くさい僧衣を着て、……カメラに向かってピースしている。

カメラの向こうの少女に。
まばゆいばかりの笑顔で応えている。

後白河上皇「…………」

チリチリと、写真の隅から燃え広がって
次第に炭に変わっていく光沢紙。

煙草を探し、それから後白河上皇は半ば自棄(やけ)気味に笑う。

後白河上皇「こんな場所で吸うなんて、国の恥かしら……私……」
??『上皇さま……上皇さま……』

ジジッ、ジジ……

玉座の間に備え付けられた、古いスピーカーから音がする。

母礼『上皇さま。こちら母礼です』
後白河上皇「モレちゃん。どうしたの?」
母礼『後醍醐天皇様が征圧(やら)れました。回収(リムーブ)OKですか?』
後白河上皇「ええ。迅速(ラピッド)に頼むわ……」

//仙台松島 海岸線

空海「最澄」
空海「最澄大師、……頬をこちらに」
最澄「……?」

空海の声に、疑いもなく振り返った最澄は
彼がひゅっ、と白い手をあげたのを見た。

……パァンッ!!

手加減無しの平手打ちに、虚を突かれたのだろう。

最澄は赤く腫れてくる頬を、自分の顔を手でなぞった。

最澄「空海……?」
空海「あなたは。あなたは立派ですね」
空海「兄ちゃんは、立派な延暦寺の法師だよ……」
最澄「……俺は、」
空海「なんちゃって~☆ えへへへっ、痛かったぁ?
   ごめんねぇ。力加減間違っちゃった!」
空海「いいんだよぉ。僕達はずーっと!
   ……あやしい二人の琵琶法師だもん……」

//海岸 別の場所

母礼「…………」

牛車。そのすぐそばで、後醍醐天皇と坂上田村麻呂の戦いを
見ていた少年は……そっと自分の首に手を当てた。

朝廷の天皇、後白河上皇より賜ったボロボロの服。

それを一応汚さないように、後醍醐天皇の回収は他の者に任せた。

母礼「あんだけ大層な見栄きっといて、負けてやんの……馬鹿じゃん」
母礼「なにが後醍醐天皇サマだって? ……ぷぷ、ウケんだけど……w」

朝廷の人間なんて、バカばっかりだ。

バカか、クソか、……『ゴミ』。

後醍醐天皇『せいぜい文字通り、馬車馬のよーに働きな! ゴミ』
母礼「ゴミはお前だろw」

するすると撫でた首元に、傷跡がある。

後醍醐天皇が太いと感じたその傷が、少しずつ、少しずつ開いていく。

母礼「まあ……いっちばんゴミなのは」
母礼「母礼と阿弖流為を見殺しにしたあいつ。将軍、STM……」
母礼「あいつだけは許さない。『俺達』を騙して、謀って、都に誘って……。
   天皇に斬首させたあいつだけは、絶対……!!」

ずるり。

傷跡が完全に開くと同時に、少年の首は胴体と切り離され
別の生命体のように空に浮いた。

母礼「首がイタい。イタイ、田村麻呂のせいで斬られた首が……」

宙を移動する首は、斬首され晒し首にされた首。

生まれてから死ぬその日まで、身体にくっついていたはずの頭部。

母礼「…………」

後醍醐天皇の下の血の海、そして少し離れた場所にたむろしている4人の男達。

ギャル男、そしてやたらに身長の高い男、それからバンダナアロハ、オレンジのパーカー。

……彼らの上を、ウミネコにまぎれてぐりぐりと旋回しながら
母礼の首は歯を食いしばる。

母礼「俺、許さないから……。麻呂のことも」
母礼「俺を一人にしたアテルイのことも……」

千切れた首の断面から、血の尾を引き母礼の頭は舞う。

赤い軌跡が翼のようにひるがえり、その雫がぽたぽたと正宗の頭の上に降ってきた。

正宗「んっ……?」

生温かい、ケダモノの血だ。

それは平安。共に斬首された仲間の血。

母礼「……もう、誰も信じない……」

//御幸視点

御幸「ん? どした。雨降ってきた?」
正宗「いえ……何か、髪に当たって……」
御幸「天気雨ってやつかぁ? それか、狐の嫁入り?
   もしくは……あれだ。鳥のフン」
正宗「さすがにそれには気づくと思います……」

琵琶の音と、最澄の歌との影響が抜けた後、
……俺に残ってんのはなんか……。

自分が超かっこよく敵を倒して、
怯える正宗を守ったみたいな記憶だけだった。

正宗『御幸様……御幸様!』

顔面蒼白になった正宗が、敵を怖がってなのか
俺にすっごいしがみついてきてた……ような……?

御幸(ゆーて、アレじゃガチタックルでしかねーんだよな。
   今も、脇腹がヘンな筋肉痛になってっぞ……)

そんなハンデ(正宗のことな)を抱えながらも、
俺は最澄の協力で敵をやっつけた……っぽかった。

御幸(正宗に聞いても、詳細全然教えてくんねーけど……。
   なんもかんもがうまく行った的手ごたえはあんだよなー……)
御幸(正宗とか空海が言ってた副作用みたいなんも無かったし、
   悲しい記憶? とか思い出さないし)

いきなり、宇宙からミラクルな力がみなぎってきて、
戦える、やれるって万能感に満たされて。

御幸(喧嘩がつえーやつのキモチを疑似体験できたってゆーか。
   ちょっぴヒーロー気分だった気がする)

正宗がそん時の俺の話をしてくんないのは、やきもちだろう。

俺も戦えたんですよー! なのに敵を御幸様が全部倒しちゃって
俺の見せ場がありませんでした! ぷん! みたいな。

男のプライドってやつ。いわゆるね、一つの。

それを傷つけられて、不機嫌ってことならば
これ以上掘り返さないのがクールだと思う。

御幸(……とりま、最初の敵は倒せて良かった)

いつか、俺自身の力で今日みたいに敵を倒しまくるにしても。

……一人の犠牲も出さなかった、俺が倒したってーのは
ちょっと……どころじゃなく気分いい。

御幸(最澄にも、倒した敵とか見せてやろーっと)
御幸「で? 倒した敵ってのはどうしたらいいワケ?
   あのまま捨てて旅出るわけいかねっしょ。どーすんの?」
正宗「病院……ですかね。救急車はさっき呼びましたので
   怪我をした彼女を……」

そこまで言って、正宗ははた、と止まった。

正宗「御幸様……大変です」
御幸「ん?」
正宗「敵の姿が消えました」
御幸「どえええええ!? 逃げられてんじゃねーか!!
   せっかく俺が倒したのにさあああああああ!!」

//夜空

……それから、一日後。

//青空

空海「ま~ろ~さま~。麻呂様~!」

ウキウキとスキップを刻みながらやってきた空海に、
俺と正宗はそりゃもうビックリした。

御幸「おおッ!? お前ら、もうとっくに空飛んで京都に
   行ってんのかと思った! まーだトロトロしてんのか!?」
空海「えへへへ~」
最澄「……差し入れ。いらねぇ?」

ひょっこり顔を出した最澄は、
近所のスーパーの袋をこちらに差し出す。

最澄「鶏のセールだったからトリな。
   あと、てきとーに握り飯。スポドリに……お茶。緑茶」
最澄「京都までは約三日。食料ないとフツーに詰むし。
   空から俺らもゴイッショしたいな~?」
御幸「…………」
空海「それにしたってすごいですね。
   仙台松島にはびこる海のヌシ」
空海「王マグロを見事倒したんでしょう?」
正宗「………………」

ビチッ、ビチビチビチッ、ピチピチ。

説明するのを忘れてたけども、
実は、俺達は……3メートルくらいの王マグロ。

まだ新鮮で、うねうねしている本トロのマグロを
海岸線にて素手でとりおさえている状況で大変忙しかった。

後醍醐天皇の襲来を退けてから、
そりゃもうハンパねーことばかりが起こった。

そのへん省略してしまうけど、……現状だけ言うと。

一日がかりで王マグロを捕まえた俺達は
なんつーか……もう、魚の汁まみれだった。

王マグロ「マグマグ~ッ!!」
御幸「おあっ、あ、暴れんなっ、暴れんな!!」

俺は全身でべったりとマグロにのしかかり、
マグロ臭の中で目を閉じる。

御幸「しっかし? 俺の信じてた現実って一体
   なんだったんだろーな……」
御幸「はァ~……空飛んだり、マグロとか……」
最澄「?」
空海「?」

いつの間にやら、勝手に棒アイスを食っている最澄と空海。
そして……俺の分のアイスの袋を開けている正宗。

正宗「つまらないですか?」

その質問に、頭をブンブン横に振って答える。

御幸「いや、ちげーケドさ! おもしれーケド!」
御幸「でも、なんかもう泣きそー……みたいな?」
最澄「泣けば?」


→第四回に続く!

ぶちゅッ、と嫌な音が聞こえた瞬間、コギャルの両眼から
粘り気のある液体が噴き出した。

後醍醐天皇「ぎゃあッッ……! め、目潰しっ……!?」

コギャルがビクンと小さく痙攣し、のけぞったその時に
聞こえてきた音は……真下からの ドッ 。

坂上御幸……ギャル男が石の大剣めがけて足を振り下ろし、
それを天高く舞い上がらせた音だった。

後醍醐天皇「ま、前ッ、見えな……」

ズドン!

後醍醐天皇「……ぁ……、は、……あッ!?」

衝撃は遅れて来る。

胴を真横一文字に凪がれた少女は、察するまでに二秒を要した。

後醍醐天皇「え? 意味わかんな……! ちょ、タンマ、」

とてつもない重い何かが、自分の身体を一閃していた。

皮膚だけじゃない。その中の内臓も、鍛えた筋肉も、
まるごと一刀両断する何かが。

最澄「『最澄必殺☆ ムーブメントステップ』!」
後醍醐天皇(痛い……痛い、痛い……いだいいいいいい!!)

ぐらつく。まともに立っていられない。
琵琶弾きの少年の声がひしゃげる。これは何だ?

後醍醐天皇(あたしは今何をされた!?)

視力が戻って最初に見えたのは、青空だ。

後醍醐天皇(あたしはアテルイを見てたのに、)

ひっくり返されて天を仰いでいる。

御幸「『この剣は斬るものではないよ、アテルイ』」
御幸「『叩き潰すものだ』」

白い。……コギャルは二文字の単語しか思い浮かべられない。
白い、でかい、何か。石の剣、大剣、……エミシュンクル!

ゴッ……!!

後醍醐天皇「ギャアアアアアアッ!? ぎゃあああああっ!! ああああ!!」

10kgでは足りない程度の巨大な大剣が、
少女の顔面を真上から叩き潰す。

御幸「『ははは。蝦夷の頭領ともあろう者が。
    武器というものに、疎いのはいかんぞ?』」
御幸「(愛おしそうに)『本当に、お前は拳と牙ばかり使うから』」
正宗「……っ……」

ビチビチと土に飛び散る鮮血を、何の感情もなく見下ろしたまま
ギャル男は剣を振りかぶる。

手首を傾け、石の大剣の柄を握ったまま。
それを何度も何度も振り下ろす。

後醍醐天皇「……は!? ありえないんだけど、な……、ああああああっ!?」

ゴキャッ、ドギャッ、という鈍い音が……少女の顔面からの出血にまみれ
どちゃっ、ぶちゃっ、と汚い水音に変わっていく。

……誰も。そこにいる誰一人として、反応することができなかった。
声を発することも。その惨状を止めることも。

後醍醐天皇「ひぎゃッ!? お゛っア゛っ、あっ、ああああ゛っ……!?」
正宗(圧倒的な力の差)

なんとか顔をかばおうとして、手をかざせばその腕ごと。

立ち上がろうと転がりかければ、その腹を蹴り飛ばし、
戒めといわんばかりに逃げる背を。

美しい石の大剣は潰す。執拗に、何度も、何度も、骨が砕けても。

後醍醐天皇「タン、マ……タンマ!! 待って! 待って待って!!」
正宗(俺の中で見ているアテルイが、何度も何度も叫ぶ)
正宗(やめてくれ。もう、やめてくれ……)
後醍醐天皇「……は……?」

自らの額から噴き出す鮮血を、細い指で拭い取り……見つめる。

コギャルは目を見開き、……それから反撃を試みた。

後醍醐天皇「くそ野郎……」
後醍醐天皇「クソ野郎っ……クソっ! クソ、クソ、クソ!
      男ごときが……男の分際で! クソぉおおおおお!!」
御幸「『はっはは』……」

素早い蹴りを剣で止めた彼は。
『坂上御幸』は、目を細め……甘く微笑む。

御幸「『そうだそうだ、忘れていた』」
御幸「『エミシュンクルは、二本あるのだったな?
    使こうてみよう。……それで、死ぬかも知れんしな』」
後醍醐天皇「……!」
正宗(初めて見た。STM……まるで無邪気な子ども)
正宗「これが……? これがアテルイが信じた男なのか……?」

//最澄歌唱

最澄「秘められしルーツ 踏みしめろブーツ♪
   手にする刀はそれ2つ♪」

正宗「歌を止めろ、最澄……!!」
御幸「……ま、さむね……」

小さな、小さな声が聞こえた。

それが前方。後醍醐天皇をボコりまくる坂上御幸から。

麻呂「正宗!!」

後方。アテルイの記憶の坂上田村麻呂から。

御幸「まさ、むね。止めてくれ、これ……これ、止めて、くれ」
御幸「俺……俺、女の子、女の子の顔、カラダっ……はは、あはは、はは」
御幸「壊してる……。なあ? こんなん、もうお嫁にいけなくなっちゃうだろ……?
   なあ……っ、こんな、顔からすっげ血が出てんだ、さっき骨何本か折った……」
麻呂「正宗! 制御できていない! 御幸が壊れる!!」
麻呂「琵琶法師に操られている! 俺ではない俺の物語で……!!
   改変された坂上田村麻呂を……あいつに都合のいい坂上田村麻呂を詠われている!
   手が出せない!!」

歌。

最澄の歌に操られるその感覚を、シュムンクル・サンクス・正宗は
一日だって忘れたことはない。

正宗(転生極地。非力なギャル男の器では、受け止めきれない!!)
正宗「御幸様っ、俺が今……!」

後方彼氏面で、離れた場所から。

……安全地帯から人を操り、嬲るあの男。
最澄を止めてみせます。そう言おうとした。

御幸「…………」
御幸「『直、楽になる。慌てるでない』」
正宗「ああっ……!!」
アテルイ「正宗! あの人にもう人を殺させないでくれ!」
正宗「御幸様! 御幸様!」

コギャルにとどめを刺すことを決めた御幸の、
その身体に正宗がタックルを食らわす。

……なのに、たった160cm。
160cmちょっとの身体が、192cmで動かせない!!

正宗(かた……い!)

御幸の服がよれ、正宗の手でいくら引かれても
その威風堂々とし立ち姿はみじろぎもしない。

正宗など見えていないかのように、目の前の少女に
冷たい声で問うだけだ。

御幸「『さて……どこに慈悲が欲しいのか、言うてみよ』」
後醍醐天皇「ひっ……ひぃっ……」
御幸「『どうやって楽にしてほしい』」
後醍醐天皇「く……び、首に……」
後醍醐天皇「(笑い)首、に……お願いしま……す」
正宗「駄目ですってぇ!!」

御幸本人が動かせないなら、もうエミシュンクルを破壊するしかない。

正宗が石の大剣を鷲掴みにすると、ギャル男は不思議そうにきょとんとした。

御幸「なぜ止める?」
正宗「なぜ!? なぜじゃないでしょうっ、あなた、
   あなた……最澄に操られてます!!」
御幸「『こやつらは朝廷。お前と俺を嘲笑い、貶めた敵ぞ?』」
御幸「『アテルイ。俺は思うんだよ。あの時天皇なんて、
   朝廷なんて、』」
御幸「『皆殺しにしてお前達を守れば良かった』……」
御幸「『ごめん……ごめん、ごめんなあ……。ごめん、
    ごめん、ごめん、……ごめん、ごめん……』」
正宗「御幸様ぁ!!」

後醍醐天皇を突き飛ばし、坂上御幸から距離を取らせる。

そうして、そのまま正宗は……御幸がこれ以上剣を振るえないよう、
余計な動きを封じるために、がしっと両腕で抱きしめた。

正宗「もう大丈夫です、もう大丈夫です! 俺達の勝ちです!
   もう戦わなくてもいいんです……!」
正宗「もう戦わなくていいんですよ、御幸様!
   あなたは坂上田村麻呂なんかじゃありません!」
正宗「御幸様です、御幸様なんです……!」
御幸「…………」

つう……、と御幸の頬を一筋の涙が流れた。

けれど、御幸の身体の硬直は長く。
解ける日なんて二度来ないと思えるほどに強く。

御幸「俺、誰も殺したくないよ……正宗……」

二本の足でその場に立ったまま、その目はまだ遠くばかりを眺めている……。

//別の場所

結界が崩れ、後醍醐天皇が地面に倒れてぴくりとも動かなくなった。

……その、あまりに悲惨な初戦の勝利を見届けた後で
やっと。

ようやくと言える時を経て、
最澄を名乗る少年は琵琶の弦をつまびくことをやめた。

最澄「……正義のための戦いだ。そうだろ? 麻呂様」
最澄「奪われたものは全部、取り返しにいこうぜ?」

//御幸正宗

御幸(琵琶の音が、ずっと止まない)

満月の下、アテルイの前で……こうして同じように立ち尽くした日のことを思い出した。

部下『将軍。蝦夷の討伐に成功しました!』

大きな、大きな川に浮かぶ死体、死体、死体、死体、死体。

獣の毛皮をまとった「鬼」達の。
蝦夷の死体がどこまでもどこまでも広がっている。

……京(みやこ)に戻ってからも、いつも、この風景を。
光景を何度も夢に見る。

麻呂『どうして殺した?』
部下『……え?』
麻呂『俺が阿弖流為(アテルイ)、母礼(モレ)と戦っている間。
   どうして他の蝦夷を殺した?』
アテルイ『麻呂。仕方のねぇことだ。俺もたくさんの朝廷軍を殺した』
アテルイ『こんなもんじゃねえよ、もっと殺した。
     もっともっともっと殺した』
麻呂『……』
アテルイ『戦争なんだ。仕方なかった』
麻呂『仕方のない死などないよ……』
麻呂『仕方のない死などない……!』

戦いは、まだ始まったばかりだったんだ。

後醍醐天皇が正宗にやったのはこれ フランケンシュタイナー
ギャル・デ・ギャルソン



0:25秒あたりから これを文字で説明するのがきつい
普通のシュタイナーではなく、首に足を絡ませる→敵ごとジャンプ→落下シュタイナー
当時必殺技名をリアルタイムでものすごい適当に決めていたので
冷静になって後で困ることがよくある 

//結界内 仙台松島海岸線

……ゴッ!!

後醍醐天皇「チッ……!」

千切れ飛んだ空気の欠片を縫い、後醍醐天皇の蹴りを受け止めたのは
……シュムンクル・サンクス・正宗の右手だった。

御幸(目にも止まんないスピードで、正宗が駆け込んできて……)

力任せにコギャルの足首を握りつぶし、
そのままぶんっと女体を遠方に放り投げる。

正宗「……させません。貴女の相手は、俺が致します」
後醍醐天皇「いたっ! イタタタ……!」

コンクリートの道路に投げ出され、尻もちをついたコギャルは
腰をさすりよろよろと起き上がる。

その途中、何かを不意に思いついたのだろう。
大きく片足を振り上げて……ブンッ。

振り子の要領で、全身ごと跳ね上がる。

後醍醐天皇「いーち、にー、さーん……。よっ!
      はいっ……とーーーーちゃく~~~」

ずざっ……、と地面に半円を書いて着地した少女は
好戦的な笑みを浮かべ……正宗を値踏みするみたいに見定める。

後醍醐天皇「別になんでも受けてたつけど~……」
後醍醐天皇「めっさ後悔すんゾ☆」

ぐぁっ……!

左脚。太ももから膝、そして腿に足の甲。

コギャルが自らの左の脚に付随する全てのパーツを一度に持ち上げると
……そこに湯気みたいな、オーラみたいな『気』が揺れ始める。

正宗(脚を使った武術の達人……!)

貧弱ともいえる上半身の、肉付きの悪さとは好対照に
少女の下半身。それも両脚の筋肉量は尋常のものではない。

そして卓越した足技を補強するかのように装備されたロングブーツ。
おそらくは、とてつもない重量の……鉄だ。

数キロの鉄をアクセにして、少女は自由に地を泳ぐ……!

//後醍醐天皇カットイン
//筆文字 『朝廷大幹部 後醍醐天皇(吉ヶ野美晴)』

後醍醐天皇「止められるもんなら止めてみなよ。……ほら」

トンッ、と大地を蹴ったかと思えば、コギャルの脚の両方が
するっ、するりと音もなく正宗の肩から首を絡め取る。

御幸「ご! 5メートルは離れてたのに……瞬発!?」

消えたとしか思えなかった。

消えて、また現れたと思ったら……正宗の上にいた。
それは神業としか言えない超スピード移動。

正宗「俺がっ……スピードで負ける!?」
後醍醐天皇「『ギャル・デ・ギャルソン』!」

190cm以上の背丈を持った正宗の、更にその一段上。

2m近い上空でギュルンッと身体をひねり……。
腰を回して跳ね上がる。

正宗「……!! っぐっ……うあっ!」
御幸「嘘だろっ!?」

少女は宙に舞った。
俺が想像した王マグロの襲撃みたいに。

その身をよじりきり、正宗ごと空に舞い……。
空中で大きく真下に落下する。

……ドンッという深く重い衝突音と共にキマったのは
あまりに上質なフランケンシュタイナーだ。

正宗「! プロレスっ……ルチャ使い!?」

激突の瞬間、正宗が受け身を取ったおかげで
さしたるダメージは見当たらない。だけど。

大男を、コンビニ襲撃の時には樋熊(ヒグマ)にすら見えた正宗を。
両脚2本でこの地に叩きつける少女の存在は、恐怖だった。

後醍醐天皇「はろぉ♪ あんたがSTM?」
御幸「ひっ……! あ……、あ、そ、そのっ」
正宗「……御幸様!」

俺に細い指を向けたコギャルの後ろ。

そこから正宗は大きな声で叫んだ。

正宗「エミシュンクル! 借りますよ!!」

かぶっていた革の帽子が脱げ、正宗の瞳からまた鮮血が流れ出す。

完全に戦闘モードに入った正宗は、俺がずるずる引きずってここまで
持ってきていたエミシュンクルを……二本の石の大剣を奪い取る。

そして、それをぶんっ! ぶんっ、と別々に片腕ずつで構えた。

正宗「『熊を取る鮭の動き』」
後醍醐天皇「ぷっ……♪ まーだわかんない? アテルイ」
後醍醐天皇「あたしとアンタじゃ……スピードが違うのよ」
正宗「……!!」

エミシュンクルともども、コギャルめがけて直進した正宗が
斬り飛ばしたのは……ただの空虚だった。

そんでもって。あれ……あれ? なんで?
俺っ、俺……俺の真後ろで。耳元で囁く声が聞こえる。

後醍醐天皇「はーいはい、武器離して……?」
御幸「ぎゃあっ!!」

するんっ、と正宗の首に足をかけた時と同じく
……少女は両腕で俺の首を絞め上げる。

御幸「ぐううううう!?」
後醍醐天皇「このまま、首折って引き抜くぞクソ蝦夷!」

女の子に真後ろから抱きつかれるなんて、初めてだった。
けど、これは……これはなんか違う。サバ折りですらない。

手加減無しで、首の骨を砕こうとしてくる本気のホールド……!
ミシミシミシ、と頭蓋骨までもが割れそうな音を発する。

後醍醐天皇「武器を。離して。聞こえなかった?」
御幸「イデデデデデデ死ぬっ、死ぬ、首飛ぶっ、首飛ぶうううう゛!!」
正宗「なるほど」

ぱっと正宗がエミシュンクルを手放すと……数秒遅れてガランガランと音がした。

さりげなく、俺の足元に近付けて放ってくれたらしい俺の武器。

けど……けど、俺は、自分の足に触れそうな距離のそれを
拾う事なんて到底不可能だった。

御幸「血、が……あっ。血が……せきとめられ、て……」

目の前がかすむ。真っ白に塗りつぶされていく。

いい匂いがする。これって香水?
女の子の、甘い香り……。

御幸「女の子が、こんな……怪力で……。あっ……あっ、
   ああああああああ……!!」

なんとか、腕力で首に巻きついた腕を外そうとしても
……ひっかからない。

すべすべの腕、毛穴1つないキレーなコギャルの腕には
爪を立てても……それを取り除く方法は見えなかった。

正宗(どうする……? 人質を取られた……。
   このまま御幸様を連れては逃げられない……!)
正宗「初戦から中ボスクラスですか……」

頑張ったり、アイテム使えば無事逃亡出来るクラスではない敵。

……正宗曰く中ボスってのは、そーゆーレベルの相手なのは間違いない。

後醍醐天皇「どーかな? このまま最後に目にする敵になるかも……♪」
正宗「…………」

まさに初めての絶体絶命。

その時だ。

最澄「『転生極地』! 対象、坂上御幸!
   インストール、坂上田村麻呂!!」

その時、辺り一面に最澄の琵琶の音がした。

後醍醐天皇「何? この音……!」

//最澄歌唱

最澄「今立たず 役立たず 一生汚名着てくのか?
   わかってるフリ 寝てる不利♪」
最澄「そんな自分振り切れ Yeah 全部ぶっ壊せ♪」
正宗「……最澄大師……」
御幸「…………」
御幸「………………………………ぁっ……?」

眠気とも少し違う。
”身体から、抜けちゃいけねえ力が根こそぎ抜ける”この感覚。

ガクン、と頭が垂れて俺の口元から大量に涎と泡が湧いて出た。

御幸「お゛……、ぉ、お……っ、お゛……ぁっ……」
空海「やめてっ、やめて最澄……!」
最澄「さァ、俺の手で踊り狂え! STM(坂上田村麻呂)!」
御幸「おあ゛……ぁ、あ゛……えろ゛ッ……」

手足から。胴から、脳から全てから力抜けて気を失う。

おびただしい量の吐瀉物をこぼした俺が気絶したことを
その腕で感じ取ったコギャルは、ホッと安堵の息を吐いた。

後醍醐天皇「な、なんだぁ。何が起こるかと思ったら自滅じゃん☆」
御幸「…………」
後醍醐天皇「キャハハハハ! おねーーーさまに逆らうやつはぁーーーーー!!」

ヒュパッ、という小さな切断音だった。

後醍醐天皇「あっ?」

御幸(待てよ。ここまで正宗が強く言うんなら
   ……何か意味があるのかもしんない!)

例えば……例えばこうだ。

松島の海には、王マグロと呼ばれるマグロの王がいる。
……いわゆるヌシ、海の主ってやつだな。

そいつがもうすんげ―強くて、でかくて、この海岸とか
近くの町とか漁師の舟とかを襲ってるとする。
昔話によくあるパターン。あるある。

哀しみに沈む松島の人々を救う為に、
俺は王マグロと戦う。

鋭い牙を剥き出しにして俺に襲いかかる王マグロ。
数百キロはゆうにある、ヌメった巨体が宙を舞う……!!

脳内の御幸『……来い! 松島は俺が守る!!』

そして華麗にマグロを御した俺は、最澄よりも強くなり
仙台松島の英雄となるわけだ。

王って呼ばれてるくらいなんだから、王マグロなんか
一撃で倒しちゃったら……アレでしょ。レベル……。

レベルアップとか、すごいするでしょ。経験値がすごいとかで……。
最澄が仮に30レベルとすると、50はいくでしょレベルが……。

御幸「俺を……強くするために……?」
正宗「違います」
御幸「違うの!?」
正宗「なぜならば……。昔貴方に殺されたことを!
   俺とアテルイの二人が恨んでいるからです!」
御幸「嫌がらせか!! 金はあんのか!!」
正宗「てゆーか、千年前に言われたんですよ。
   アテルイが。坂上田村麻呂に」
正宗「『蝦夷(えみし)の頭(かしら)は何に乗るんだ?』
   『ああ、そうか。きっと魚だな』、マグロだろうか……って」
御幸「さ、坂上田村麻呂!!」
正宗「なので、これでチャラにしますよ」
御幸「え?」
正宗「……これはアテルイからの、千年後のあなたへの嫌がらせです」

正宗は腕を組み、遠い目をして平安時代の思い出を語っている。

正宗「あははっ! 因果応報ですよ!」
御幸「し、しっかたねーな……。身に覚えねーケド!」

……あんま、正宗が嬉しそうだったから俺も笑ったけど。

もしかしたら、この旅。簡単に引き受けたの、失敗だったかなって思った。

御幸(暇だったんだ)

暇だったんだ、本当に俺……。
何にもなくて、からっぽで。

御幸(お前らアヤシイって、何度も何度も思ってたのに)

嬉しくて。初めて誰かに、マジに必要とされてうれしくて……。

正宗『あなたが必要なんです! 御幸様……!』

……つるんでバカやってる陽キャ。
イチャイチャしながら仙台駅でキスしてる恋人たち。

手を繋いで歩く中高生、忙しそうに働くリーマン。

俺にはそういうの、なんもなくて。1個もなくて。

//フェリー場別の場所

空海「……うん。これでいいね。最澄、バンダナ外して」
最澄「…………」

風が強くてよく聞き取れねえけど、
ちょっと離れたところで空海と最澄が何かを話している。

なんか、兄弟みたいに仲睦まじいつーか、
たぶん……あいつらにもあいつらなりの絆みたいなもんが
あるんだろう。

空海「…………栄西………連絡」
最澄「寺の………………親鸞様…………玄関……」
最澄「申し訳ありません………………空海様、手をわずらわ…………」
御幸(お!?)

//最澄立ち絵(バンダナなし)

背伸びして最澄の頭のバンダナの結び目を、
空海が甲斐甲斐しくほどいてやっている。

御幸(最澄ってバンダナ外すと、なんか……かっけーな。
   なにげ、真剣にイケメンつーか……)

理由は全然思いつかねーけど……。
無理に全力で……ふざけにふざけてチャラけまくって。

イケメンなのを隠そうとしてる感じが、しなくもない。

御幸(あれか。女関係でモメてるとかかな?)

それか、顔が良いのがバレるとまずい知り合いが松島とかにいるとか……?

空海「……?」

俺が見ているのに気づいたのか、空海がぱっと手を上げて
ひらひらこっちに指を振ってくれる。

空海「麻呂様~! 話はまとまりましたかー?」

最澄から剥ぎ取ったバンダナを、ぱぁん! と空海が
音をたてて広げてみせる。

空海「こっちは準備万端ですよ! ほらっ、見てくださいバンダナでーーす!」
御幸「っぱバンダナで飛ぶんだ!? やめとけば!?」
空海「えへへへ! いいんですよっ、僕らはこれが楽なんです~!」
御幸「へー、おっかねー……」
正宗「さて。俺達もそろそろ準備をはじめましょう」
正宗「王マグロの出現場所は、時間と日によってまちまちなようです。
   ですが、地元の方々に聞けば大体どこに出るかはわかるとのことで」
正宗「俺が、何人か松島の方に声をかけてみます。
   ですので、御幸様はゆっくりここで待っていてください」
御幸「や、俺も行く。いちお自分の地元だからね?
   ……なんつか、その……マグロとかの話は初耳だけど……」
御幸「マグロ以外のことだったら、お前に教えてやれると思うし……」
正宗「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げた後、正宗は気分を良くしたのだろう。

……俺達のすぐそばを歩いていた、小麦色の肌をしたコギャルに声をかけた。

正宗「あ! あのっ、すみません! このあたりに、巨大なマグロが……」
御幸「おいおい~。その人は俺らの地元の人じゃ……」
コギャル「……はーい~☆ 京都行きの、王マグロですよねェ~?」

声をかけた正宗じゃなくて、俺をコギャルが見据えた。

御幸「……?」

傷んだ茶髪に、真っ赤なでかいハイビスカスをつけたコギャル。
マスカラを何度も塗り重ねた、もーバッサバサに分厚い睫毛。

コギャルは、この暑い中……妙にゴツくてイカチいロングブーツを履いていて……。

コギャル「それには~、かなーり詳しかったり……しますゥ~~~」
正宗「御幸様!!」

びゅううううっ……!

風という風が荒れ狂い、正宗の声より早く
コギャルの片足が俺の頭部めがけて放たれる!!

御幸「うっ、ぁっ、あああああっ!?」

柔らかく、バネのある肢体から放たれる一撃。

ゴォッと耳元で凄まじい風の音が爆発し……。
コギャルが地面に片手をついて、体勢を変えるのが見える。

御幸(全力での、全体重をかけたハイキック……!!)

じゃらじゃらと重りをつけたロングブーツがうなり、
風を切って俺の首筋めがけて降り注いでくる……!

//最澄空海視点

ドンッ!!

……空気が炸裂したような音が響き、最澄と空海は同時に御幸の方を向いた。

最澄「来たか……! 後醍醐……!」
空海「に、兄ちゃん……朝廷、朝廷だ!
   牛車があるよっ、囲まれてる……!!」
モレ「…………」

陰気な少年が、チリーン……チリーンと手にした鈴を鳴らしはじめる。

そして海岸線に集う、一台の最新型牛車に……それを守護する数十匹の馬たち……。

それらがびっしりと御幸、そして正宗の周囲に円を描いて線となり
……外からの乱入を許さぬ絶対領域を展開している。

空海「それにあの光……結界……。内側から閉じられちゃったぁ!!」
空海「ど、どうしようっ、どうしよう兄ちゃん!
   僕達が離れた場所に移動なんてしたから……っ」
最澄「どうしよう!? 決まってんだろ……!」

すぅっ……。
最澄は静かに息を吸い込み、自身の背より琵琶を引き抜く。

空海「最澄!?」
最澄「近づけねぇ!? それがなんだよ、逆に好都合だっつぅのっ……!
   本人に直でかけらんねーのはもったいねえが!」
最澄「(半笑い)……『転生極地(てんせいがきょくち)』!!」

ブゥンッ……!

最澄の足元に金色の魔法陣が浮かび上がり、
その腕で、手首で数珠が鳴る。

最澄「対象……坂上御幸、フリーター!
   転生極地……坂上田村麻呂!」
空海「やめてっ……やめて最澄!」

//最澄歌唱

最澄「坂上田村麻呂が転生極地♪ 坂上御幸に下りたまふ♪
   悲しみの橋越えたもう……♪」

じゃらっ、と音を出しながら最澄の手の周辺で数珠が踊る。

どこまでも、どこまでも……その歪(いびつ)な琵琶の音は
仙台松島の海岸線に鳴り響く……!


→第三話に続く

//朝廷 玉座の間

後醍醐天皇「ONE……TWO……」
後醍醐天皇「スリーで登場ですわ☆ おねーさま!」

どこまでも、どこまでも続く広い大広間。

畳張りの玉座の間。

朝廷最奥部に突如現れた魔法陣の中から
後醍醐天皇が風と共に出現する。

後醍醐天皇「それで……今度のおシゴトはなんです?
      少しは楽しいシゴトだといーなぁ♪」

後醍醐天皇の足元に、吹きすさぶ風。

それを踏みにじるように、コギャルの靴が鳴る。
     
……ギュ、ギュ、と軋むその靴はいつもの厚底ヒールではなく
膝下までをぎっちりと覆いつくす『ロングブーツ』に他ならない。

ゴツくて野蛮なソレはまるで、異形の武器に見える。

薄いキャミソール、デニムのショーパンにゴールドのブレスレッドという
渋谷に繰り出す用の軽装には不似合いなほどに。

二本の脚だけが……武装している。
「下半身で戦う」と宣言するみたいに。

「上半身には誰も触れさせない」と言うように。

後醍醐天皇「……きっと、誰かを殺せるシゴトですよね。
      姉さまは血に飢えていらっしゃるようですから」
後白河上皇「ふふふ……♪」

玉座の間、その玉座に浅く腰かけているのは、
やはり名古屋嬢……後白河上皇だ。

後白河上皇「いきなり悪いけど~? 超重要任務よ」
後白河上皇「……殺してきて? 田村麻呂」
後醍醐天皇「ま!? いいんですか!? あたしが殺っちゃって!
      めっちゃ大物じゃないですか! 極上の一級品ですよ!」
後白河上皇「もちろんよ。だぁーってあなたは、私が一番信頼する部下だもの。
      あなたの他にこんなコト、お願い出来る人はいないわ?」
後醍醐天皇「~~~~!」
後白河上皇「あ、首は持ってきてね。飾るし……♪
      最近、ちょーーっどこの玉座の間の入り口に
      イケてる飾りが欲しかったの」
後白河上皇「金の髪をしたギャル男の首なんて、ゴージャスじゃない。
      そういう彩りって……お姫様のお部屋に必須でしょ?」
後白河上皇「プリンセスって……可愛いモノが好きだもの!
      ふふ……うふふ、ふふふふ、ふふふふっ……♪」

観葉植物をねだるように、男の首を欲する主に
後醍醐天皇はぶるぶるぶる、と歓喜の震えに襲われた。

後醍醐天皇「……あたしが、田村麻呂を……」
後白河上皇「そ。坂上田村麻呂を」
後醍醐天皇「は、はいっ! はい! はいっ……!
      ちょーおラジャリングです! マジメにガンバりんぐ~ッ!」

びしっ、と敬礼のポーズを取って後醍醐天皇は声を上擦らせる。

後醍醐天皇「あっ! あ、そーだ! アネキ! アレ貸して!
      最新型の牛車(ぎっしゃ)……っ」
後醍醐天皇「いっつもあたしが乗ってる古いのじゃなくて、
      都でいっちばん早いやつ! あるっしょ、買ったっしょ!
      あーしアレが……アレがいいっ! アレ欲しい~っ!」
後白河上皇「うーん……そうねぇ。いいわよ。運転手もつけちゃおっかな」
後白河上皇「母礼(モレ)。今すぐ、牛車と御者を呼んで。
      朝廷の天皇を運ぶのよ……絶対に粗相のないように」
モレ「……はい」

母礼(モレ)と呼ばれた瞬間、後醍醐天皇は自分のすぐそばに
華奢な少年が控えていることに気が付いた。

後醍醐天皇「…………」

後白河には悟られない程度に、露骨に顔をしかめた後醍醐天皇を
モレと呼ばれた少年は無感情に見つめ返す。

モレ「……時速500キロの牛車。時速700キロの牛車。
   どちらにしますか……? 二つありますが……」
後醍醐天皇「700キロの~~~~!」
後醍醐天皇「やった! やった、やった! キャ~~~~♪
      乗りたかったんだぁ~~~あれ!」
モレ「…………」

はしゃぐフリをした後醍醐天皇の脳内に様々な歴史書が巡る。

超スピードで展開される幾万冊のその本の中の一節……
母礼(モレ)という名には、覚えがあった。

後醍醐天皇(平安時代の朝敵、蝦夷の副官「母礼」の名前をつけてるの? ペットに?)
後醍醐天皇(……さすがにおねーさまでも擁護出来ないよ、そのセンス!
      悪っ趣味……。朝廷が斬首した罪人の名をつけるなんて……)

頭(こうべ)を垂れて後白河にうやうやしく仕えているソレは
薄気味悪い、痩せた少年だ。

年齢は……身長を見るに、12、13というところだろうか。

後醍醐天皇(しかも、男)
後醍醐天皇「(小声)朝廷の中に男を入れるなんて……どゆこと……」
モレ「…………」
後醍醐天皇「(急に賢そうな声で)朝廷に、男は必要ない……」

みっともないくらい、やつれて弱そうな少年の身体には
何本も傷跡がはしっている。

その中には、古い傷が多いように見えた。
しかし、……その首に刻まれた太い傷の真新しさといったら……!

後醍醐天皇「(頭の悪い声に戻す)あ、なーる……それ用の……ふーん……」
後醍醐天皇「ま、いいや。せっかくおねーさまがこのあたしに!
      あたしだけに任務をくださったんだから……。ね?」

ガッ!

母礼をブーツの爪先で蹴倒すと、後醍醐天皇は
磨き抜かれた上質な畳に転がる少年を見下ろした。

後醍醐天皇「文字通り、馬車馬のよーに働きなよ。ゴミ」
後醍醐天皇「ここは、あたしとおねーさまの朝廷だ……!」

//夜空

……こうして、俺達の戦いは始まったんだ。

真夜中のコンビニから。

//仙台松島 海岸(フェリー乗り場)

御幸「………………」

ピーヒャー、ピーヒョロロロ~、ヒョロロ~。

空高く舞い上がるウミネコの泣き声が、やたらにうるさい。

御幸「………………」

仙台松島、海岸沿いの古いフェリー乗り場。

沖からビャンビャン、痛いくらいに吹き付けてくる豪風の中
坂上御幸19歳(高専中退コンビニフリーター)はしかめっ面を崩さない。

空海「それでは、麻呂様……御武運をお祈りしております」

さあああああああ……さあああああああ……

波高く、風強く。

『フェリー欠航』と書かれた看板の目の前で、
あやしい琵琶法師……最澄&空海の空海がぺこりとお辞儀する。

空海「それじゃっ、僕達はお先に失礼しますねっ」
御幸「こゆーのツッコむと……無礼? って思って黙ってたんだけど」
空海「はい?」
御幸「で? マジで魚なワケ? ありえないんですけど」
正宗「というより、王マグロですね。本トロになります」
御幸「魚の種別は聞いてねーんだけど!!」
正宗「お嫌いですか、マグロ……。俺は好きです」
御幸「お前の好みも今は聞いてねーっ……!」

確かに、マグロ。マグロ……王マグロって品種は知らんが
マグロ……は松島の海にもいんのかもしれない。海だし。

御幸(マグロ……)
御幸「俺達、今から京都を目指すわけじゃん」
正宗「はい。海路と陸路の案がありましたが、
   陸路は危険だと最澄が……」
御幸「うんうんうん。それはいーの。なんとなくワカる。
   地面歩いてたら敵とかに普通に襲われるよね。
   それはわかる」
正宗「でしたら、何が問題ですか」
御幸「海から近畿攻めようってのはね? いーと思う。
   でも……でもさ? 俺ら4人の中でさ?」
御幸「最澄と空海は優雅にフェリーに乗って航海して、
   俺と正宗は本マグロに乗れってのは……なくね?」

つか、マグロってそもそも乗り物か?

御幸「俺……もしかだけど、最澄か空海に嫌われてる?」
正宗「いいえ。だってフェリーは俺が断りましたから」
御幸「おっ、おま、おま、お前かよ!!」
正宗「それに、そこに書かれているようにフェリーは欠航です。
   あの二人とて、休みの船に乗ることは出来ませんよ」
御幸「じゃ、どーすんだよ」
正宗「正確には、あの二人は空を飛ぶのです」
御幸「そ……空を!?」

アレか。ダサいダサいと思ってたあの、最澄の緑のバンダナ。
あれで空を飛ぶのか。

とんでもないことを真顔で平然と口走って来るなこいつ。

御幸(バンダナで最澄が飛んで……。最澄の脚に空海がつかまって……。
   そやって宮城から京都まで飛ぶ……ってこと?)
御幸(とお……遠くね? 距離長すぎね!?
   てかあのバンダナにそんな特別機能ありえなくね!?)

ウミネコとかトンビや鷹に出来てんだから最澄にも出来る。

断言されたらそーなの? としか言えないけれども、
俺が19年生きて来たカンジだと、たぶん……それは無いと思う。

思う……。

御幸「って、今はあの二人の飛翔方法はどうでもいんだよ!
   あのさ……俺、金あるよ。フェリー二人分……」
御幸「今は欠航でも、午後には変わるかもだし。
   そしたら俺と一緒にさ……」
正宗「いいえ!!」

いきなり、正宗は強い声色で俺の言葉を遮った。

御幸「わっ!? 何なに!?」
正宗「あなたと俺はあえて! 王マグロで荒波を越えるのです!」
御幸「かっ、カッコイイ顔で断言することじゃねええええええ!!」

キッ、と厳しい表情で言い放つ正宗の迫力に押される。

なぜ……なぜこいつはそんなにマグロにこだわるのか……。

原作最澄が使う、術式『転生極地(てんせいがきょくち)』はこの星プロローグで
ダンチが辰真をプリンセスにしようとしていたアレです。

※設定語り+ネタバレOKな人だけGO!


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//CG エミシュンクルと御幸

それが、俺とエミシュンクルの二度目の出会い。

一度目は敵。
シュムンクル・サンクス・正宗の巨大ブーメランとして。

二度目はこの手に。
坂上御幸の2つの石の大剣として……。

//和室

正宗「くすっ……。重たいでしょう?」
正宗「それは蝦夷の至宝、蝦夷達の全て……。
   蝦夷の宝刀です」
御幸「…………」

力を込めて、柄を握っているだけでまた音もなく涙が流れた。

坂上田村麻呂なら、たぶん……こういう時に泣いたりしない。

御幸(日本史で習ったよ。ホントに俺が、アイツなのか……?)

ぐすぐすと鼻を鳴らし、手の甲で抑えながら涙声で訴える。

御幸「あ、あのさ……正宗サン」
正宗「呼び捨てでいいですよ」
御幸「ま? ……じゃ、正宗」
正宗「はい」
御幸「すっげわりーんだけど……俺とコイツを二人きりにしてくんないか」
正宗「もちろんです」

一度も振り向かず、部屋を出ていく正宗を見送る。

そして、俺は……当然のように畳にめりこんでいる石の大剣。
エミシュンクルとかいう名前の剣を持ち上げてみようとした。

御幸「……ふんっ」
エミシュンクル「…………」
御幸「あ、あれっ!? ……そりゃっ! フンッ……!!」
エミシュンクル「…………」
御幸「つかよ~? 宝とかより、持ち上がらん武器って
   イミあんのかな? さりげカッコつけちゃったけど……」
御幸「……ってフェイントかけて、フンッッッ!!」
エミシュンクル「…………」
御幸「えっ!?」

それから数十分、何度も何度も持ち上げようとしてみたものの。
そんな小手先で、石のでっかい剣が言うことを聞くわけがない。

御幸(何キロあんだ、これ? めっちゃ畳にめり込んでんスけど……)

結局、その夜は剣の使い方も、正宗についての情報も、
何一つ手に入らず一日が終わった。

//朝 外(松島)

最澄「よォーっし!! 今日もバンダナ~~~絶! 好! 調----!!」

ぎゅむぎゅいっ、とクソダサいバンダナを頭に巻き直し、
結び目を完成させた最澄が腕を振り上げた。

最澄「京都に向かってェー、いざ! 出陣!!」
空海「出陣ー!」
正宗「…………」
最澄「で、正宗さん。麻呂サマはとーーっぜん、
   この旅に同意同行してくださるんですよねェ?」
正宗「ああ。それはオーケーだ。フリーターだし、親の許可もある。
   全てを明かすと……金で解決した。延暦寺の金で」
最澄「げっ」
正宗「だが……」
最澄「だ・がぁ? 何だよ」
正宗「一つ問題が残っている」
御幸「よぉ~☆ みなのしゅー! まっ・た・せたなー!!」

勢い良く掛け声を飛ばし、待ち合わせ場所に集合する俺。

そんな俺を見て、最澄はガビーン! とばかりに目を見開いた。

最澄「ま……まさかアンタ! 部屋からここまで
   エミシュンクル引きずってここまで来たのか!?」
御幸「まあそうなりますね」
最澄「持てねェの!? 自分の武器!!?」
御幸「はっきり言われると困りますね」
最澄「なんなん!? その口調、めっちゃくちゃ腹立つ!!」
御幸「誠に遺憾でございまするよね」
空海「えっ、えっ。ひ、一晩……あったよね? あっ。そっか。
   いちいち持つと疲れちゃうから? 時短?」
御幸「これっぽっちも! 1ミリも持ち上がりませんでっした!!」
空海「っ……。はは……はは、あはは……はは……」

あまりの事に立ったまま気を失っている空海はさておき、
顔面蒼白になっている最澄の方に言い訳をしたい。

俺は、ぐる~りと顔だけで最澄の方を向くと、
こちらを指さして口をパクパクさせている彼に叫んだ。

御幸「さーせん!!!!!」
最澄「ダッッッッセェェエエ!!」
御幸「冷たいコトゆーなって! てか見てください!?
   昨日俺、あれから必死で眉毛抜いたンですよ!」
御幸「なんか? 皆さんと俺の4人ですごい長い旅に出る的なことを
   親から説明聞きまして? ヤッベー! じゃんって思って!」
御幸「なんで、バイト代ありったけつぎ込んで……服も新調したんす!
   腰履きの高価(たか)いデニムはギャル男の命じゃないスか?」
御幸「これとかパッとわかるっしょ? 全部新品すよ!?
   値段が……えー……レイヤードシャツが5990円」
御幸「ロングテイラードのジャケが1万7千。
   その上デニムのSPが1万3千8百円したよね」
御幸「夜9時まわってても、やってる店知ってて良かったっつーか。
   ギャル男冥利に尽きるよね?」
最澄「知らねーーーーーーーーわ!!」
御幸「さいちょーサンってアレ系? 綺麗目お兄目指してる系っぽい顔なのに
   ……癖あるバンダナアロハで少しズラしてる感じすか?」
最澄「うるっせーーーーーーーーわ!!」

おかしいぞ。チャラ男とギャル男はファッションの会話で仲良くなれるはずなのに……。

めちゃめちゃくちゃ怒ってる。
わりとヒくほどガチギレしてらっしゃる。

最澄「あーもう! 仕方ねーな! こうなったらアレやるぞ、空海!
   術式用意しろっ。ちんたらちんたらやってられねーわ!」
御幸「ん?」
最澄「こいつの自主性と初期パラに期待した俺がアホだった。
   サクっと術かけて使い物にしていくぞ!」
御幸「え!? んなこと出来るなら最初からやれよ!」
最澄「よーし、よし。そこに座れ。すぐに終わっから。
   ほんのすこーしチクっとするだけだから静かにしてろよー……?」
正宗「……ま、待ってください」
最澄「あん……?」
正宗「その術は、やめてください。それだけは……」

かがんだ俺と、最澄の間にずいっと割り込む。

正宗の切羽詰まった声に俺は大きなハテナマークを浮かべた。

御幸「止めんなよ、正宗。パワーアップだろ? 強くなる儀式。
   させてくれよ、俺……無理なもんは無理だし」
御幸「この剣持てるまで、一体どんだけ時間かかるかわからん。
   ギャル男ってさ、全員細いじゃん? 非力がわりとアピールポイントで」
御幸「マッスル鍛えてるゴリ系とかは、わりと系統が違うんだ。
   ほら、ほら。俺の腕。お前の腕と何もかも違うじゃん」
御幸「これ……何年も、何年も修行してここまで強くなったんだろ?
   したらば俺も、数年以上かかるってことになる」
御幸「そんなに待ってらんないんだよ。今、持ち上げたいんだ」
正宗「……それでも、やめてください。お願いします」
御幸「うーん……?」
空海「あのね、麻呂様。本当に、パワーアップは出来るよ。
   わりと簡単に。……でも」
空海「甘い話には、必ずリスクがあって……。
   この術の場合、それは『精神面』なの」
御幸「……?」
空海「坂上田村麻呂の子孫であるあなたを、すぐに強くするには
   当然のように坂上田村麻呂の血を、力を使う」
空海「麻呂様の力を借りる術を使うなら、当時の麻呂様の……。
   平安時代の坂上田村麻呂の辛かった記憶も強く蘇ってくる」
空海「昨日、耐えきれずに泣きわめいてしまったアレが。
   何倍にも何十倍にもリアルになって君を襲うかもしれない」
正宗「だから、俺はあなたに自分の力で戦って欲しいんです。
   今、最澄が使おうとした術は『転生極地(てんせいがきょくち)』と言います」
正宗「アレの辛さは、この世のものではありません」
正宗「俺がアレを食らった時……あれは十五の時でしたが、
   二度ほど発狂させられました」
正宗「それで、……」

……真剣な顔で、正宗は自分の首をさすった。

御幸(あ……)

それで、なんか。俺は全部わかってしまって、
さっきまでの浮かれ提灯だった自分にゾッとした。

御幸(狼の首輪。アレをつける呪文……!)
最澄「……ま。リスクを説明しなかった俺が悪いわな。
   アテルイと麻呂じゃ、たぶん麻呂の方がPTSDが強い」
御幸「なんで?」
最澄「わかるだろ。裏切られたヤツよりも、裏切ったヤツの方が
   思い出すとツラい。……よっ、と」

ひょい。

エミシュンクルをミニマリストの財布を拾うみたいに
軽々と持ち上げて……片手でブンブンと振り回す。

平気な顔をしている最澄に、俺は二度目のショックを受けた。

御幸「お、お、俺いらねーーーーーー!!」
最澄「こんなもん、そんなに重いか?
   片方15キロ、両で30もいかねぇだろが」

ひょい、ひょい、ひょい。

お手玉を両手で回すみたいに、二本の大剣をもてあそびながら
最澄は冷めた顔で言う。

最澄「お前、耐えきれねぇよ」
空海「兄ちゃん……」
最澄「坂上田村麻呂だぞ。略してSTM!
   俺達が力借りてる最澄と空海。平安時代の有名な教祖な」
最澄「あいつらもかなり戦争したけどさ。宗派ちげーよとか言って。
   でも、田村麻呂は別格」
最澄「平安時代。今でいう東北地方っつーの?
   京からすりゃあ未開の土地にはびこっていた種族……『蝦夷(えみし)』」
最澄「蝦夷の軍勢数千人を、ほぼほぼ一人で制圧した最強の将軍。
   敵……蝦夷の方が、土地勘もあって、実際それを駆使して
   弓に罠に……ありとあらゆる妨害だって仕掛けてきてた」
最澄「なのに、一発で蝦夷の支配する胆沢城を取り戻し、
   足元ぬかるむ最悪な舞台……川のほとりですら足を止められず」
最澄「悪路王としてちょー名をはせてたあの悪鬼、阿弖流為(アテルイ)を
   サシタイマン、かすり傷だけで下した軍神」
最澄「……お前、今で言う天才軍師プーラース天才武神だぞ。背負いきれねえよ。
   どれだけ敵を。もしかしたら、味方だって謀(はか)ったか知れない」
最澄「弓の大天才だって言われてた母礼(モレ)の弓すらかすりもせず。
   頭領であるアテルイまで単騎でつっこみ大勝利」
最澄「平安最強の名前は伊達じゃないってコト」
御幸「ほええ……」
最澄「麻呂以外の将軍が、何回行っても皆殺しにされてきたんだぜ?
   実際自分の1つ前の征夷大将軍……」
最澄「紀古佐美(きのこさみ)ですら、アテルイの前じゃ子ども同然だった。
   田村麻呂の軍より何倍も多い人数派遣しといて」
最澄「それ丸ごと、全部、自分以外。千人単位で殺されてしまった。
   目の前で、血祭りにあげられて……恐怖でおかしくなるくらいだった」
最澄「日本歴史史上、最も恐ろしい鬼の軍団。
   そのトップオブトップに、将軍1人でブッ込む才能」
最澄「そんで、1日たらずできっちり仕留めてくんだから……。
   桓武天皇も大感激ってヤツよ」
最澄「……ガチで都は、田村麻呂の話でずっともちきりだったくらいだぜ?」
御幸(見て来たみたいに話すんだな……)

もしかしたら、それも、最澄の言う最澄の記憶(ややこしくてスマン)
……天台宗開祖最澄の記憶、ってやつなのかもしれないけど。

御幸(いや、最澄って何時代のヒトだったっけ?
   空海より前だっけ? 後? よっく思い出せねぇ……)

確かに中学で習ったのに、19歳で俺はもうそんな昔のことはうろ覚えだ。

御幸(ん? さいちょーって、自分に最澄の呪文かけたってことか?
   なんか……ごっさ強いこの正宗が何回も発狂するくらいの術を?)

そこまでして、後白河上皇を殺したいってのは……なんか鬼気迫るってカンジがする。

もしも、そうなら。ホントに最澄が最澄の(ややこしすぎてスマン)力を
借りるために、自分に首輪をつけているなら……。

なんか、コイツは俺が思ってるより……。
もしかしたらずっとヤバいヤツなのかもしれない。

御幸(そんな風には……見えねーし見たくねーけど……)
最澄「んん?」

そらっとぼけている最澄の顔を見てると、脈絡なく
泣いた赤鬼の話を思い出した。

あいつ、最後にどうなったんだっけ……?

……キラキラ輝く、鏡みたいな石の大剣。

その表面に自分の顔を映し出しながら、最澄はにかっと笑う。

最澄「ちゅーことで! なんなら、俺がコレ持ってきましょーか?
   エミシュンクル。おとのサマには荷が重いようで!」
御幸「……ふー……」

俺は、一旦エミシュンクルを取り戻し、それからそれを土に刺した。

そんで……昨日買ったばっかの、すっごい高価(たか)い
ロングジャケットを脱ぎ捨てる。

御幸「いや、いーわ。そこまで俺を馬鹿にすんな。
   いっくら弱ぇーからって」
最澄「……お?」
御幸「誰かが代わりに背負うんなら、ハナシは別だろ。
   俺が持ってく」

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