レヴィナスの「顔」は、実体的な顔のことではありません。
他者の他者性を意味する比喩的な概念として捉えます。(哲学用語図鑑 参照)
レヴィナスの「顔」を知ると、私たちがおちいってしまいがちな全体主義の欠点が見えてきます。
レヴィナスの「顔」とは
レヴィナスの「顔」は、他者の他者性を意味する比喩概念です。
このイメージを具体例でみていきます。
例えば、子どもがおやつを欲しがったとします。
まずあげました。
その上で、もっと欲しい! と言われたとします。
この場合に私はこのように語りかけました。
レヴィナスの「顔」とイリヤ
レヴィナスが自分中心の世界をつくりあげた要因にイリヤがあります。
イリヤとは、主語無き存在です。
すべてが自分とは無関係に存在している状態を言います。
フランス語で「~がある」を意味します。
レヴィナスにとってのイリヤー具体例
レヴィナスは第二次世界大戦中、ユダヤ人の息子に生まれました。
ナチスによる迫害があったのです。
レヴィナス自身は強制収容所にいました。
家族、親戚、知人のほとんどが殺されてしまいました。
レヴィナスの「顔」から、私中心の世界を脱出する
私中心の世界を脱出するには、他者の「顔」を見る。
このことを具体例で見ていきます。
冒頭の例では、子どもが姉を意識することで自分の食欲を少し抑えようとしました。
他者の「顔」を意識すると、無条件に他者に責任を負います。
もし子どもが姉のことを無視しておやつを食べてしまったとしても、その罪悪感が残ってしまうと言うことです。
よく募金募集のポスターには他者の存在が写っています。
子どもの写真が多いのですが、その「顔」に無条件で責任を負わせる効果があります。
他者を意識させることで、私中心の世界から脱出させようとします。
イリヤというわからない恐怖が、個別的な「顔」になります。
人はわからないものには対応ができませんが、わかることで関係性を持ちます。
迫害の恐怖から逃れられない個人を助けることも、その迫害を支持する存在に対抗することもできます。
では次に、「顔」を意識することと全体主義との関係を見ていきます。
レヴィナスの「顔」を意識すると他者が見えてくるのですが、全体主義におちいると他者が受け入れられなくなると言われています。
レヴィナスの「顔」と全体主義との関係
全体主義とは
全体主義とは、個人よりも国家、民族、人種などの集団を優先する思想。単独の政党が集団優先の思想を強制します。(哲学用語図鑑)
レヴィナスの「顔」が全体主義の問題を解決する
全体主義は、レヴィナスの「顔」を見ません。
他者を受け入れていないからです。
受け容れないということは、他者を人間として見なくなると言うことでもあります。
他者の存在を見なくなることで、他者について責任を負わなくなっていきます。
その結果として、レヴィナスが「顔」の概念を考え出し、イリヤを乗り越えていこうと言う思考を述べました。
経済状況が悪くなると、法令を順守しなくても異次元の政策を実行できる強いリーダーを求めるようになるという説もあります。(未来への大分岐 2019)
強いリーダーにより統一する全体主義の弊害は他者を考えられなくすることです。
その弊害をなくす思想として、レヴィナスの「顔」があります。
わからないイリヤを見る。
関係した他者の存在に責任を持つ。
という、全体主義の弊害を乗り越える思想でもあるのです。