むしろA面を利用していこう
清田:拙著『さよなら、俺たち』は男性性や男性特権の問題に男性当事者としてどう向き合うかについて考えた本なんだけど、そこでは感情の言語化や他愛ないおしゃべり、人権感覚やセルフケアを大事にしていきましょうってことを書いたんです。
つまり、どちらかと言うとA面をネガティブなもの、B面をポジティブなものとして扱っているんだけど、田房さんの新刊ではA面/B面の良し悪しが複雑に絡み合っていて、葛藤しながら考え続けていくしかない問題だなと改めて思いました。
田房:そうなんですよね。A面というのは個人や社会を縛るものである一方、それらを守ってくれるものでもあるんだよね。B面を尊重するためには、A面的な組織とかシステムが絶対に必要だから。
私はこれまで自分の体験とか感じたことを元に漫画や文章を書いていてB面丸出しだからか、バッシング的なものもすごくあったんです。おととしとかは本当につらくなっちゃって、ノンフィクションはもう描きたくない、って思ってもがいていた時期があった。そんななか『大黒柱妻の日常』っていうフィクションを描いたら、そこから抜けられたんです。私にとって架空の人物を描くことは、A面的ツールを使う、っていうことみたい。
清田:すごくわかる気がする。俺も駆け出しライターの頃は「お前の意見なんてどうでもいい」「情報性の高い記事を書け」とさんざん言われ、自分の気持ちを吐き出したい欲が渋滞を起こしていたけど、『さよなら、俺たち』でひたすら自分のことを書いてみたら、今度はちょっとした意見にも心が過敏に反応してしまい、それはそれで大変だなという実感もあった。
B面やbeingを土台にしつつ、それをdoing的な手法でアウトプットして社会のA面にアジャストしていくというのが目指すところかもなって。って、AとかBとかdoingとかbeingとか、読む人が混乱してないか不安になってきたけど(笑)。
田房:確かに(笑)。
※続く#3「『男社会』に過剰適応した男性がはらむ『危うさ』」では、男性の生きづらさにフォーカスする。
漫画家・エッセイスト。1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『キレる私をやめたい〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜』(竹書房)など。新刊は、ワンオペ妻から大黒柱になったとたん“昭和のお父さん”の言動をしてしまう女性を描いた『大黒柱妻の日常』(エムディエヌコーポレーション)。娘(2012年生まれ)と息子(2017年生まれ)の二児の母。
清田隆之(きよた たかゆき)プロフィール
文筆業・桃山商事。1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオで発信している。「QJWeb」「日経doors」「共同通信」「すばる」「現代思想」「yomyom」など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(ともにイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)などがある。