経営企画

今さら聞けない事業ポートフォリオとは?事業の最適化のポイントもあわせて解説

2021年08月19日

事業ポートフォリオ

企業経営においてビジネスの継続・成長を図るためには、限られた経営資源を適切かつ効率的に配分することが必要です。ビジネスの選択と集中の指標として準備しておくべきツールが「事業ポートフォリオ」となります。
今回の記事では、事業ポートフォリオの作成方法やM&Aとの関係性について詳しく解説していきます。また、事業ポートフォリオの最適化のポイントについても触れていきますので、事業の再編や強化に向けた取り組みの参考になれば幸いです。

事業ポートフォリオとは

事業ポートフォリオとは、「自社で利益の発生している事業を一覧として見られるようにしたもの」です。

事業ポートフォリオにより、

  • 収益性
  • 成長性
  • 安定性


といった事業において重要な要素が可視化されます。そして経営資源をどの事業へ集中させればよいかの判断が簡単につくようになるのがメリットです。
適切な経営環境を実現するために事業ポートフォリオは必要不可欠です。

事業ポートフォリオとM&Aの関係性とは

事業ポートフォリオは、「M&A」にもかかわってきます。
企業や事業の合併・買収を行うM&Aは、組織体制を最適化して市場で生き残っていくために必要な決断です。しかしM&Aは組織体制が大きく変化する性質上、準備なしでできるものではありません。
そこでまず事業ポートフォリオで自社の現状を把握して、体制が最適化されるようポートフォリオの内容に応じて適切にM&Aを行うことが必要となっています。

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事業ポートフォリオ作成時の考え方

事業ポートフォリオ作成時は次の点を考えましょう。

  • 事業ドメイン
  • PPM
  • コア・コンピタンス

自社の方向性を決める|事業ドメイン

事業ドメインとは会社がどの領域や事業で勝負するか決めることです。経営多角化に関して方向性を決めることでブレをなくし、効率のよい資源投資を可能にします。
事業ドメインの整理には「CFTフレームワーク分析」を用います。以下の要素を事業ドメインの整理に使用していくのがポイントです。

顧客(Customer)

自社の商品・サービスを提供するターゲットユーザーのことです。

  • 年齢
  • 性別
  • 地域
  • 興味のあるジャンルは何か
  • どういった日常生活を送っているのか


といった項目によって属性分けを行い、分類していくのがポイントになります。自社の商品・サービスを適切なターゲットユーザーに提供できるかのカギを握っています。

機能(Function)

機能軸では顧客に機能面でどのような価値を提供できるのか決めていきます。
商品・サービスを提供する際は値決めも重要ですが、それ以上にお金を出すだけの機能(価値)があるかも重要です。機能軸を基にして商品・サービスに付加価値を追加していくと、ロイヤリティの高い顧客の獲得にもつなげられるのがポイントです。

技術(Technology)

競合との商品・サービスの差別化に影響してくるのが技術軸です。
技術軸では競合にはない技術的な強みを可視化していくことで、自社がどのような戦略を取れば他社とターゲットユーザーをすみ分けできるか、あるいは奪えるかといった点を考えられるようになります。
将来的なプロジェクト立ち上げや事業の多角化にも寄与する軸です。

経営資源を分配する|PPM

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの概念図

PPMとは「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の略です。ビジネスフレームワークの1つであり、事業を下記の4つに分けて分類していきます。

花形

市場占有率、成長率ともに高い状態の事業は花形に分類されます。すでに市場内で一定のシェアを獲得している上に、これからさらにシェアを伸ばして収益を得られる可能性が高いです。
その代わり競争が激しいので、投資を惜しんではいけません。投資を場合によっては増加させながら金の生る木へと状態を安定させるのが目的になります。

金のなる木

市場成長性は低いものの、シェアを高く獲得している状態で安定している事業は金の生る木です。
成長性があまりないので、今獲得している以上の利益を出すのは難しいかもしれません。その代わりシェアを獲得している状態で競合参入といった流動性もないため、確実に利益が見込めるのがポイントです。
積極的に資金を投資しなくてもよいので、この後の問題児や花形といった成長性の高い事業へ投資を回す方が先決になります。

問題児

市場シェアは低いものの、高い成長率を誇る事業は問題児に分類されます。
つまり商品・サービスをまだリリースしたばかりの状態で、成長性の高い市場でシェアを獲得している途中のプロジェクトが問題児に該当します。獲得できる利益は少ないですが、成長の幅が高いため競合からシェアを奪えれば将来的に花形になる可能性もあるのがポイントです。
コスト削減といった施策で得た利益を回せるように準備しておくとよいでしょう。

負け犬

市場シェアと市場成長率が両方低い事業は負け犬です。
名前の通り事業としては負け犬、つまり成長率がない市場で乏しいシェアしか獲得できていない状態です。得られる利益が少なく将来的に増える可能性もないので投資は無駄になります。
様子を見て撤退を行い、余った資金を花形や問題児に回すほうを優先しましょう。

自社の強みを表す|コア・コンピタンス

コア・コンピタンスとは、事業の中核となる特色を表します。競合と競り合いながら事業を成功させるには、自社ならではのコア・コンピタンスを把握した上でその強みを活かせる事業展開を行う必要があります。
コア・コンピタンスは以下の5つの評価軸で考えていくのがポイントです。

模倣可能性

模倣可能性では競合に強みが真似されてしまわないかを判断していきます。
たとえば製造に関するAという技術があったとして、それをコア・コンピタンスとして提供したいと考えたとします。しかし競合が似たようなノウハウを持っており技術を真似できる可能性が高い場合はコア・コンピタンスにはできません。
コア・コンピタンスには競合が真似できない個性のある技術が適しています。

移動可能性

移動可能性は、移動というより汎用性や柔軟性に関する可能性といったほうが理解しやすいかもしれません。

たとえばBという技術が

  • 複数の商品・サービス分野で活用が可能
  • 複数の分野で事業展開する際のベース技術となる


といった性質を持っている場合は、汎用性と柔軟性があるので移動可能性も高いです。コア・コンピタンスに適している技術と言えます。

代替可能性

「この商品やサービスにしかない」という特性があるかは、代替可能性で判断します。
もし自社の商品Cが競合の商品で代用できる性質しか持ってなければ、簡単にシェアを奪われてしまうため代替可能性が高くなってしまいます。
代替可能性の低い商品・サービスを複数展開できるようにすることで、新規参入者を減らしながら優位な地位を市場で獲得可能です。

希少性

模倣可能性や代替可能性にも関係してくるのが希少性です。
希少性では指定の技術や商品・サービスなどが画期的であるかどうか(レアであるかどうか)を判断します。希少性が高いと新しい需要を獲得して市場で成長していける可能性が高いです。
模倣可能性や代替可能性が低いと、希少性も自然と高くなっている可能性があります。

耐久性

事業を成功させるには耐久性を確保することも重要です。
ここで言う耐久性とは「しばらくユーザーニーズから必要とされシェアを維持できるか」を指しています。耐久性が低い一過性の事業はシェアを維持できないので、コア・コンピタンスには適していません。
流動性が激しくなっている現代で耐久性を確保するのは難しいですが、ブランド発信をしたりといった工夫で長期間支持され続ける事業を展開していくことが大切です。

事業ポートフォリオの最適化のポイント

事業ポートフォリオの最適化は、経営資源を無駄なく確実に配分するために必要です。業績の向上を最大化して成長性を確保するためにも最適化を忘れないようにしましょう。
事業ポートフォリオを実際に最適化する際は以下のように進めていきます。

①5つの観点で評価・分析を行う

事業ポートフォリオを評価・分析する際は、下記の観点を持つことが重要です。

  • 成長性
  • 収益性
  • リスク
  • シナジー
  • リスク分散


事業を複数用意して投資を行うと、リスク分散になり景気動向が変化しても安定した売上を確保できるようにはなります。ただし企業価値が最大化されるとは限らないので、リスク分散だけを考えるのは危険です。
複数の観点から状況を分析する視点を持てるかがポイントです。

②選択と集中を意識する

会社の収益を最大化するためには、選択と集中を意識することが重要です。
事業の中には収益を挙げられているものと挙げられていないものがあります。収益を挙げられている事業を中心にピックアップを行い経営資源を集中投下できるようにすれば、効率よく事業を成長させてさらなる利益を見込めるようになります。
同時に採算の取れない事業を廃止したり売却したりすると無駄な投資が避けられるので検討しましょう。

③社内の仕組みを整える

事業ポートフォリオを最適化するには、以下の2つの視点から社内の仕組みを整備しておくことも重要です。

ポートフォリオマネジメントシステムの整備

まずはポートフォリオ管理を行えるシステムを構築しておく必要があります。ここでいうシステムとは単にツールだけでなく、総合的なポートフォリオ評価の体系を指しているのがポイントです。
企業の特性や業種によって事業の評価や領域分けは変わってきます。そのため自社内の特性を理解した上で判断基準を決定、投資や撤退に関する判断をどう行うかといった視点も含めて評価の仕組みを構築していきましょう。

コーポレート組織の設置

ポートフォリオマネジメントシステムを構築しただけでは不十分です。システムを動かしながら実際に戦略を実行する組織の設置も必要になります。

組織には

  • 経営資源の最適なバランスを考える
  • 事業戦略を業績評価基準を基に分析する


といった業務が発生します。
最終的には事業部門の業務パフォーマンスを向上させ、より事業が成長しやすい土台を作っていくのが目的になっていくでしょう。

④トップが意思決定しやすい環境を整える

事業ポートフォリオの最適化の際は、ある程度のリスクを覚悟して行動を実行する必要があります。ためらいや利己的な思考で判断が鈍ってしまわないように、下記のような環境を整えましょう。

  • ガバナンス:経営に統制を持たせて監視を行う
  • インセンティブ:業績に応じて報酬や褒賞を与える


ガバナンスを整えることで、経営判断を行うトップに対して適切な行動を取るように促すことができます。加えてトップに適切なインセンティブを設定することで、企業を正しい方向に導く理由を与えます。

まとめ

今回の記事では事業ポートフォリオの作成方法やM&Aとの関係性、そして事業ポートフォリオの最適化のポイントなどを解説してきました。
事業ポートフォリオを作成して最適化を行う手法は、限られている経営資源を効率よく配分して収益を向上させるために必要な作業です。PPMなどの分析手法を使って収益の挙がっている事業とそうでない事業を分けて、投資追加や事業撤退などの判断を迅速に行える環境を整備しましょう。

この記事を書いた人

QEEE編集部

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