立つ前に必ず行わなければならない寝返り・起き上がりは「全活動の始まりの動作」とも言えます。
非常に大事な動作なのですが、動作分析を行う上で、正常動作がわからないし、何を観察して良いのやらわからない…という方もいらっしゃると思います。
そんな方に少しでも役に立つように、今回は寝返り&起き上がりの動作分析について筋活動や相分けを含めてまとめましたので、よろしければ参考にして下さい!
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目次 [表示]
寝返りの動作分析
寝返り動作(roll over)は、赤ちゃんが最初に獲得する動作ですよね。
リハビリテーションの現場では、脳卒中後遺症の片麻痺や、神経難病の方など、寝返り動作が困難な方を多く見かけます。
寝返り動作ができなければ
- 褥瘡になるリスクが高くなる
- オムツ交換の介助量が多くなる
- 離床に繋げられない
- 不動により身体が痛くなる
というデメリットがあります。
「たかが寝返り」ですが「されど寝返り」
当事者からすると寝返りが出来るのと出来ないとでは天と地の差があるのです。
寝返り動作の代表的なパターン
寝返り動作の動作パターンは多種多様で、最大19パターンを認めたという報告があります。
参考文献:角博行.健常成人の寝返り動作における検討.理学療法学.第22巻.学会特別号(第30回東京)1995年
寝返りのどのパターンにも共通となっている動作は、脊柱が軸となった肩甲帯と骨盤間の「体軸内回旋」です。
この体軸内回旋の運動方向で、寝返りの動作方法は、大きく分けて下記の2種類にわけられます。
- 屈曲・回旋パターン
- 伸展・回旋パターン
ほとんどの方が体幹を屈曲させての屈曲・回旋パターンで行っています。
屈曲・回旋パターンの特徴は、頸部の屈曲・回旋が始まり、上部体幹から下部体幹へ回旋運動が伝わることです。
動画で見るとこんな感じです。(大体30秒ぐらいから動作を開始します。)
体幹を屈曲・回旋させて寝返ってますね。
続いて、伸展、回旋パターンの特徴は、頸部、体幹を伸展しながら、骨盤帯の回旋から始まり、上部体幹から頸部へ回旋運動が伝わります。
わかりやすい動画を拝借しますと、こんな感じです。
見事に体幹を伸展させて動作を行っています。
これが伸展パターンです。
伸展パターンよりも、屈曲パターンの方が起き上がり動作に繋ぎやすいため、ほとんどは最初に紹介した屈曲・回旋パターンが行われます。
寝返り動作の相分け
寝返りは一瞬のできごとです。
相ごとに捉えるのは訓練が必要ですが、伝えやすくしたり、問題点を把握しやすいように相別に観察できるようにしましょう。
2相(背臥位〜腹臥位)にわける場合
- 1相:背臥位の状態から体幹が側臥位になるまで
- 2相:側臥位の状態から腹臥位になるまで
3相(背臥位〜側臥位/屈曲・回旋パターン)に分ける場合
- 1相:頸部の動きと肩甲帯の前方突出とリーチが起きるまで
- 2相:上部体幹が回旋を始め、上側になる肩が下側になる肩の上に配列されるまで
- 3相:下部体幹が回旋を始め、側臥位まで
寝返りの動作分析(相別に筋活動を含めて解説)
突然ですが、あなたはA・Bどちらかを回転させないといけないとしたらどちらを選びますか?
もちろんBを選びますよね。
理由は、BはAよりも支持基底面が狭く、重心は高い位置にあるので不安定だからです。
Aが背臥位の状態としたら、Bのように不安定な姿勢となって、回転力を得られれば、寝返り易くなると思いませんか?
なので、寝返り動作を実行する上で重要なポイントは下記の3つです。
- 支持基底面を縮小させる
- 重心を上方へ移動させる
- 回転力を得る
これらを行うためにヒトによって行う戦略はさまざまです。
- 背臥位から両手、両膝を立てて、横に倒す
- 背臥位から寝返り側へ上肢をリーチして、体幹を回旋
- 寝返る反対側の床を蹴る
- 柵を持って引っ張る
寝返り動作は多様なので、先ほど挙げた3つのポイントを行うためにどういった戦略をとっているのかを観察しましょう。
寝返り動作観察ポイント
- どのように支持基底面を縮小させているかを観察
- どのように重心を上方に持ち上げているかを観察
- 寝返るための回転力はどのようにして生み出しているのかを観察
次に、寝返りの動作分析を解説していきます!(右側へ寝返る場合)
寝返り動作の第1相
寝返り第1相:頸部の動きと肩甲帯の前方突出とリーチが起きるまで
第1相のポイントは2つです。
- わずかに頸部の屈曲、回旋させて、体幹と骨盤を筋連結させる。
- 左肩甲骨の前方突出により支持基底面を狭小させ、回転力を得る。
頸部をわずかに屈曲・回旋させることで、体幹前面の筋が緊張し、体幹と骨盤を連結することによって、その後の動作が容易となります。
このとき、頸部は胸鎖乳突筋・頭長筋・頚長筋などの頸部の屈筋群が働きます。
次に、左上肢で右側へリーチを行い、左肩甲骨を前方突出します。
左上肢のリーチ動作により、肩甲骨を前方突出することで、支持基底面の縮小化と重心が右上側方へ移動するため、寝返り方向に回転しやすくなります。
このとき、前方突出の主動作筋の前鋸筋と肩甲骨を胸郭側へ押さえつける僧帽筋中部線維が協調的に活動します。
よくある異常動作
中枢系疾患の方などで、非対称性緊張性頸反射(ATNR)が出現している場合は、寝返り動作が困難となります。
非対称性緊張性頸反射(ATNR)とは、頸部が回旋すると、回旋した方の上下肢が伸展し、逆側が屈曲する原始反射です。
ATNRが出現することで、寝返り側の上肢が伸展して、肩甲骨の前方突出や肩関節の屈曲・リーチができなくなり、結果寝返り動作が困難となります。
中枢系疾患(片麻痺など)で頸部の回旋で画像のような動作が出現したら、ATNRの出現を疑ってみても良いでしょう。
寝返り動作の第2相
第2相:上部体幹が回旋を始め、上側になる肩が下側になる肩の上に配列されるまで
第2相のポイントは、「上部体幹が回旋させるために、下部体幹が固定部位となる」ことです。
第1相は、頚部の回旋のみでしたが、第2相では、上部体幹が回旋(体軸内回旋)を始めて、左外腹斜筋・右内腹斜筋が活動します。(左側へ寝返る場合は右外腹斜筋と左内腹斜筋)
そして、上部体幹が回旋するためには、下部体幹が床に固定されている必要があります。
このとき下部体幹を固定するために、床を押さえつけるように大腿直筋などの膝関節伸展筋が活動します。
よくある異常動作
寝返りに関わらず、すべての動作に言えることですが、安定した運動には必ず固定部位が必要です。
パーキンソン病などの体幹の柔軟性が欠如している方だと、上部体幹と下部体幹が同時に回旋する、丸太様の寝返りになります。
これでは、体幹の捻じり(体軸内回旋)による回転力を使用できないため、エネルギー効率の悪い動作になってしまいます。
効率良く寝返り動作を行うためにも、体幹の柔軟性を高めるトレーニングを取り入れましょう。
寝返り動作の第3相
第3相:下部体幹が回旋を始め、側臥位まで
第3相のポイントは「下部体幹を回旋させるために、上部体幹が固定部位となる」ことです。
第2相では、上部体幹が回旋するために、下部体幹が固定部位としての役割を果たしていましたが、第3相では逆になります。
下部体幹の回旋を完了させると膝関節を屈曲させ、支持基底面を広く取り、側臥位の安定化を図ります。
寝返り動作分析のポイントまとめ
- 頸部をわずかに屈曲、回旋させ体幹と骨盤を筋連結させる
- 肩甲骨の前方突出より支持基底面を狭小させ、回転力を得る
- 上部体幹が回旋させるために、下部体幹が固定部位となる。
- 下部体幹を回旋させるために、上部体幹が固定部位となる。
もちろん、この動作パターン以外にもたくさんあります。
基本的には支持基底面と重心の変化、回転力をどのように得ているか?を観察することにより、どんなパターンでも応用できるようになると思います。
起き上がりの動作分析
起き上がり(sitting over)は動作自体が目的ではなく、あくまでセルフケアなどを実行するための手段です。
なので、起き上がり動作は、多くのADLの可否に直結する重要な動作であり、自立していなければ「寝たきり」となります。
起き上がり動作も寝返りと同じく、多種多様で一概にパターンは決まっていません。
また、3次元的に複雑な動作であるが故に定量的な評価が難しく、歩行などと比較して研究や報告が少ない動作です。
起き上がり動作のパターン
起き上がり動作パターンは多く存在し、発達学的な分類では大局的に3つに分類わけられます。
- 完全回旋パターン(Full rotation):腹臥位から四つ這いとなり、次の動作に移るパターン
- 部分回旋パターン(partial rotation):体幹を部分的に回旋して起き上がるパターン
- 非回旋パターン(non rotation):体幹を回旋せず起き上がるパターン
発達していくにつれて、完全回旋パターン→部分回旋パターン→非回旋パターンに移行していきます。
逆に高齢になるにつれて動作が退行し、非回旋パターン→部分回旋パターン→完全回旋パターンの順で動作が困難となります。
一方、背臥位から端坐位へ移行する起き上がり動作のパターンに関しては、下記のようなパターンが見られます。
- 背臥位→長座位
- 背臥位→体幹を回旋しながら長座位→端坐位
- 背臥位→体幹を屈曲させながら臀部を軸に回転→端坐位
- 背臥位→側臥位となりベッドから下肢を下垂→端坐位
中でも、顕著に筋力が低下していたり、片麻痺で弛緩性の運動麻痺などが見られる方は、背臥位→側臥位となりベッドから下肢を下垂→端座位となるパターンが多く見られます。
起き上がり動作の相分け
私がその場、その場で文章化にするに伴い使い分けている相分けです。
2相にわける場合
- 1相(屈曲相):背臥位から体幹を回旋して側臥位になり、片肘支持位となるまで
- 2相(伸展相):その状態から、上肢を伸展して起き上がるまで
4相にわける場合~その1~
- 1相:頸部の動きと肩甲帯の前方突出とリーチが起きるまで
- 2相:上部体幹が回旋を始め、上側になる肩が下側になる肩の上に配列されるまで
- 3相:体幹回旋後に、片肘支持位となるまで
- 4相:片肘位から長座位になるまで
4相にわける場合~その2~
- 1相:背臥位から側臥位
- 2相:側臥位から肘支持位まで
- 3相:肘支持位から手掌支持位まで
- 4相:手掌支持位から長座位(端坐位)まで
基本的に相分けは、自分が観察し易ければ良いと思うので、絶対にこれ!というものはありません。
起き上がり動作はパターンが多いので、自分で指標を決めて相分けするのも良いかもしれませんね。
起き上がりの動作分析(相別に筋活動を含めて解説)
今回は「側臥位〜ベッドから下肢を下垂〜端座位」で相分けは「2相」で解説していきます!
起き上がり動作の第1相(屈曲相)
まず、背臥位から側臥位となりそのまま股関節を屈曲させ、ベッドから下肢を下垂させます。
このとき、第1のてこ(安定のてこ)が働いて、下肢の重みが力点となって体幹を持ち上がり易くなります。(カウンターウェイトの活性化)
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よくある異常動作
下肢をベッドから下垂させたとき、体幹の柔軟性(主に側屈)が欠如していると、第1のテコがうまく利用できないため、体幹は持ち上がり易くなりません。
よくパーキンソン病の方などは体幹の柔軟性が欠如しており、そういったケースが多く見られます。
そういった場合は、しっかりと体幹のストレッチングや動作練習を行いましょう。
下肢の重みで体幹が持ち上がり易くなったところで、ほぼ同時にon elbowに移ります。(on elbowとは、肘で体重を支持することを言います。)
on elbowを成功させるには、回転運動の軸を肩関節から肘関節へ移行する必要があります。
そのために、肩関節を軽度屈曲・外転・内旋位、肘関節軽度屈曲位で保持した後、肩関節を伸展させ、on elbowへ移行します。
このとき、肩関節伸展作用の三角筋後部線維と腹筋、腹斜筋群が強く活動します。
よくある異常動作
on elbowへ移行する際、よくある動作困難となる要因の一つに「体幹と肘(on elbow)まで距離」があります。
体幹と肘の位置が近すぎると、肩関節外転角度が少なくなるため、うまく回転軸が肩関節から肘関節へと移行できなくなります。(ベッド端ギリギリでon elbowへ移行するとこうなることが多いです。)
健常者を対象とした起き上がり動作時の肩関節の外転角度は20~35°であったとの報告があります。
適切な肩関節外転角度でon elbowへ移行できるように、予めベッド上のポジションを整える必要があるでしょう。
引用文献:金子純一朗,他:起き上がり動作に関する上肢の動作開始位置の検討.理学療法学.27(5).157-161.2000
起き上がり動作の第2相(伸展相)
第2相(伸展相):片肘位(on elbow)状態から、上肢を伸展して起き上がるまで
第2相は、肘関節を伸展させてon elbowからon handへ移行します。
on elbowからon handへの移行は、第2のてこの形になり、比較的少ない力で体幹を起こすことが可能になります。
この時、上腕三頭筋が強く活動します。
on elbowの支持基底面は側方臀部、前腕と範囲が広い状態でしたが
on handへ移行するに従い、支持基底面は臀部と支持している手の範囲内でしかないため、劇的に支持基底面が狭小し、重心も上方に移動します。
そのため、変化していく支持基底面に対して重心がその中に保持する能力が必要となってきます。
体幹機能が不安定な方は、このon elbowからon handへの移行期に特に注目して観察するべきだと思います。
起き上がり動作分析まとめ
- 股関節を屈曲させ、下肢を下垂させる(カウンターウェイトの活性化)
- on elbowへ移行する際は肩関節軽度外転位になるようにポジションを整える
- 体幹機能が低下している場合、on elbowからon handへ移行する際は注目して観察する
起き上がりはパターンが多く、非常に複雑な動作です。
慣れるためにもたくさん動作を見て分析するクセをつけましょう!
まとめ
寝返り起き上がりの動作分析のポイントを解説しました。
寝返りや起き上がりなどは、介護用の電動ベッドを使用すれば楽に可能になるかもしれませんが、身体機能が残存していて、動作が獲得できると予想される以上は、積極的にアプローチしていく必要があると思います。
うまくいけば、その後の患者さんの「天井を見るばかりの生活」を大きく変えられるかもしれません。
そのためには、適切な動作分析を行った上で、問題点を明らかにしてアプローチを行うべきです。
実習や臨床、頑張ってください。