ハンターになったらモテると思っていた   作:皇我リキ

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ハンターになんてなれる訳がないと思っていた

 女の子が泣いている。

 

 

「何泣いてんだよ、カエデ」

「ツバキ! ねー、ツバキ! 私の団子、またフクズクに取られたのー!」

 その女の子は良く自分のおやつを鳥に食べられる可哀想な女の子だった。

 

「ったく、またかよ。しょうがないな」

 俺はそんな女の子の世話をよくしていたっけ。

 

 

 物心付いた時からそんな生活をしていたからだろうか。

 

 

「やーいやーい! チビー!」

「おいゴラァ! 俺の友達を虐めてんじゃねぇ!!」

「……あ、ありがとう。助けてくれて。ツー君」

 何故か良く近所の悪ガキに揶揄われていたジニアを助けてやる事も多くなって───

 

「びゃぁぁ! フクズクに食べられるぅ!」

「お前が食べられてどうすんだよ! こら、あっち行け! ほら!」

「びぇぇぇ、転んじゃったよツー君」

「アホ! 家まで背負ってやるから泣くな! 男だろ!」

「───ツバキ!」

「───ツー君!」

 ───いつしか俺は、二人のヒーローになっていたのである。

 

 

「俺はハンターになるぜ。そして、お前達も村の皆も、俺が全員守ってやる」

「ツバキ格好良い!」

「約束するぜ。この村に危機が迫った時、この村の誰かが助けを求めた時、お前達が助けを求めた時。俺が必ず助けてやるってな!」

「うん。ツバキ、約束だよ」

 だけど───

 

 

「でも、ツバキ約束したじゃない。ハンターになって皆を助けるって! 私達を助けてくれるって!」

「そんなのは子供の頃の約束だろ!!」

 ───だけど俺はその約束を破った。

 

 

 

「お前に見栄を張ってたんだ。お前が帰って来た時、俺はハンターなんかになってなかった。俺はただの農家だった。だけど、お前がちゃんとハンターになったって聞いて、嘘を付いた。里長にやじっちゃん達に、俺が本当にハンターになるまでこの嘘を里の皆にバレないようにしてくれって……頼んだんだ。……俺は!! 本当はハンターなんかじゃないんだよ!! お前が思ってるような、凄いハンターでもなんでも!! ないんだよ!! 俺は……俺は、何も出来ないんだよ!! 俺達でジニアを助けるなんて事も無理なんだよ!!」

 そして俺は嘘を告白して───

 

 

 

「───え、カエデが帰って来てない?」

 ───何もかもを失う事になる。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ウツシ教官が大怪我をして里に帰って来た日の夜。

 

 

 里から出る事は禁止され、里は事実上の閉鎖状態になっていた。

 大社跡に現れたモンスター、マガイマガドはその辺のハンターでは手が付けられない大型モンスターである。

 

 里から出る事が許されないのも当たり前だ。

 もし里をこっそり抜け出して大社跡に向かったとすれば、それは自殺と大差ない行為である。

 

 

 

 そんな中で、夜になってもカエデが帰って来ないと───彼女の両親が我が家を訪ねて来た。

 

「ツバキ、何か知らないのか?」

「……アイツまさか。いや、でも……そんな」

 口籠る俺に、俺の両親はカエデの両親をとりあえず家に帰らせてくれる。

 

「カエデちゃんはジニア君を助けに行ってしまったんだな?」

 そして帰ってきた父さんは、俺と視線を合わせてそう言った。

 

 

 俺は首を縦に振る。

 

 

「きっとお前は止めたんだよな」

「……止めた。無理だって」

 カエデが里を出て行ったあの時みたいに、俺は無理だって決め付けて、彼女はまた行ってしまった。

 

「……だって、俺はハンターじゃない。だから……だから、俺は無理だって」

「その事をカエデちゃんに伝えたのか?」

「……言った。俺は、ハンターじゃないって。……そしたらやっぱ、アイツ怒ってたな。……俺が、カエデも行かせたのか。……俺が二人を殺したのかよ。兄さんもカエデも。いや、ジニアだって、俺は助けられない。俺は、俺は俺は俺は───」

「ツバキ」

 どうしようもなくて床を叩く俺を、父さんと母さんが抱き締めてくれる。

 

 

 こんなどうしようもない奴を大切にしてくれるんだな、親ってのは。

 

 

 子供ってのはそれだけ大切なものなんだ。

 

 

 

 

 兄さんにもジニアにも、カエデにも親がいる。

 なのに俺は───なんで俺だけが、こうして今ここに居るんだ。

 

 

「……どうしたら良いんだよ」

「分からないな」

「……なんだよそれ」

「ツバキ、お前は自分で何も出来ないと思っているんだろう。……なら、分からないさ。もしそうなら、俺達は無事を祈る事しか出来ない。誰かに助けを求める事しか出来ない」

 それはきっと、ジニアやカエデも一緒なのだろう。

 

 

 そもそもジニアが帰ってこないという事は、アイツも今は誰かに助けを求めているのかもしれない。もう───この世にいないかもしれない。

 カエデはそんなジニアを助けようとしているが、それだってどうなるか分からない。

 

 マガイマガド。

 あんな化け物に勝てる訳なんてないんだ。それなのに、あのバカは一人で───

 

 

 

「……なんでそんな事が出来るんだよ」

 頭を抱えて考える。

 

 俺は兄の死から何もかもが怖くなって、ハンターになんてなれる訳がないと思った。

 全部から逃げ出して、その内にカエデは一人でハンターになって。

 

 惨めだろう。

 

 

 カエデは凄いよ。本当に凄い。

 

 

 俺は───

 

 

 

 ──家の畑のお手伝いまでしてるなんて、ツバキは偉いわね。ハンター業だって大変なのに──

 

 ──ゴコクさんからのクエストなんて流石ね。頑張って! ──

 

 ──ツバキは凄いハンターだけど、虫が嫌いで翔蟲の使い方は教えてもらってないんじゃない? ──

 

 

 

 ──約束、守ってくれてたのね。私が居ない間にハンターになってくれてたなんて。見直しちゃった──

 

 

「何が偉いだ、何が流石だ、何が凄いハンターだ。俺は何も出来ないんだよ。約束だって破った。嘘まで吐いた。俺は何も───」

「ツバキ」

 ───俺は何も出来ない。

 

 

「少し、散歩でもして来なさい」

 母はそう言って、俺の頭を撫でてくれた。

 

 

 冷静になれって事だろう。

 冷静になったところでもう遅い。事は起きてしまった後だ。

 

 俺に何が出来る。何も出来ない。それが俺だ。

 

 

 

 

「ツバキさん?」

「イオリ、どうしてここに……」

「どうしてここにって……。僕はいつもここにいるから……。大丈夫ですか?」

「……あ、ここ広場か」

 考え事をしていたら、無意識に里の広場に着ていたらしい。ここ最近、広場で訓練ばかりしていたからだろうか。

 

「ツバキさん……」

「いや、ごめん。邪魔するつもりはなかったんだ」

「そんな……。えーと、あの、二人の事は───」

 広場にいたイオリは、心配そうな表情でそんな言葉を漏らす。

 

「……ごめん」

 俺は謝る事しか出来なかった。

 

 

 もしかしたら謝る事すら許される立場ではないのかもしれない。俺は二人を見殺しにしてるのだから。

 

 

「謝らないでください! 僕も、力になれる事があれば───」

「ならお前が二人を助けてくれるのか?」

「それは……」

 俺の言葉にイオリは俯いて、固まってしまう。

 

 

「ごめん、違うんだ。……イオリに当たるつもりはなくて、ごめん。帰るわ」

「ツバキさん……。いえ、あの───」

 振り向いて帰ろうとする俺の手を掴むイオリ。彼は必死な表情で、こう口を開いた。

 

 

「───僕は……僕は、ツバキさんの力になれるなら僕に出来る事ならなんでもするから! だから、もし何かあったら……直ぐに教えて欲しいです。僕は……いつでもツバキさんの力になりますから!」

 イオリは俺が武器も振れない時からずっと訓練に付き合ってくれていたから、きっとその言葉は本心なのだろう。

 

 

「……ありがとな」

 俺はそう言って、逃げるように広場から出て行った。

 

 

 

「あ、ツバキさん」

 広場を出て茶屋まで歩くと、客が居ない茶屋で寂しそうな表情をしているヨモギが片手を持ち上げる。

 俺はそれを無視する事も出来ず、ゆっくりと茶屋まで歩いた。

 

「……繁盛してないな」

「里の人達、忙しそうだから」

 精一杯の軽口に、ヨモギは俯いてそう返事をする。

 

 ウツシ教官やジニア達の話はもう里中に広がっていて、里は得も言われぬ雰囲気に包まれていた。

 

 

 いつも元気なヨモギだが、そんな彼女も今はしゃがみ込んで団子を突っついている。

 

 

「……ツバキさん、私どうしたら良いんだろう」

「……こっちが聞きたい」

「ツバキさん?」

「いや、なんでもない。悪いな、冷やかして」

 そう言って、俺はまた逃げようとした。そんな俺の手を、ヨモギがイオリと同じように引っ張る。

 

 

「ツバキさん!」

「ヨモギ?」

「ツバキさんらしくないよ! いつものツバキさんなら、もっと、元気に……それなりに不恰好だけど格好良く、なんとかしてくれるのに。ヒノエさんのお団子が盗まれちゃった時だって!」

「……俺は皆が思ってるような奴じゃないんだよ。ブルファンゴにすら、一人じゃどうしようもない奴なんだ」

 畑はブルファンゴが現れた時の事を思い出した。

 

 

 俺はただ泣き叫んで逃げる事しか───いや、逃げる事すら出来なかったのである。

 カエデが助けてくれなかったら、俺はあの時に死んでいたかもしれない。

 

「ツバキさん……」

「……だから、俺には何も出来ない」

「そんな事ないよ! ツバキさん、お団子食べていかない? うさ団子食べて、元気になったら───」

「悪い。一人にしてくれ」

 そう言って、俺はヨモギの手を払った。本当にどうしようもない奴だな、俺は。

 

 

 

 里の雰囲気は最悪である。

 どこに行っても不安な声、心配する声。ジニアは人気者だし、ウツシ教官が怪我をしたとなれば里の人間でなんとか出来る問題ですらない。

 

 里のそんな雰囲気から逃げて、逃げて逃げて、逃げて逃げて逃げて、ようやく誰もいない場所に辿り着いた。

 集会所の裏にある海沿いの道。水の音だけが聞こえる静かな場所をやっと見付けて、俺はその場に座り込む。

 

 

「くそ……」

 俺が本当のハンターなら、俺に力があれば───そんな物なくても、恐怖心さえなければ今直ぐにだって二人を助けに行きたい。

 だけど、どれだけ考えても怖い物は怖いんだ。自分は何も出来ないって事が分かってしまってるから、動きたくても動けない。

 

 今から大社跡に俺が向かった所で死ぬのがオチで、そもそも二人が今も無事なのか分からなくて。

 だけど今こうしている内にも二人がまだ生きているなら、俺がこうしてうじうじしている時間だって本当は許されない。

 

 

 それでも俺は、何も出来ない。

 俺が何をしたって無駄だって、そんな事は分かってる。

 

 

「くそ!! くそくそくそ!! くそぉ!!」

 自分が許せなくて、そんな怒りを自分にぶつける事も出来なくて、俺はただ叫びながら地面を殴った。

 こんな事していても無駄なんて事は分かってる。それでも、俺が何をしても無駄だってのが本当の事なんだ。

 

 

「───ツバキさん」

 唐突に、透き通るようなそんな声が聞こえる。

 

「……ミノト、さん? それに、ヒノエさん」

 振り向くとそこには、双子の竜人族のお姉さん───ミノトさんとヒノエさんが立っていた。

 ここは集会所の直ぐ側である。俺が大声を出したから、注意しに来たのかもしれない。

 

 

「……ご、ごめんなさい。こんな場所で」

「いえ。こちらこそ、お邪魔でしたでしょうか?」

「いや、そんな事は……」

 邪魔なのは俺だ。

 

「泣いていらしたのですか?」

 ミノトさんの隣で、ヒノエさんが珍しく真剣な表情で俺にそう聞いてくる。

 いつも穏やかそうな表情をしている彼女だが、優しさはそのまま───俺をまっすぐ見て包み込むような表情をしていた。

 

 

 

「……泣いてた、のか。ごめんなさい、格好悪い所見せて」

「良いんですよ、泣いたって」

「ヒノエ姉様」

 ゆっくりと俺に近付いたヒノエさんは、その柔らかい腕で俺の身体を支えてくれる。

 

 優しい抱擁。

 心の芯から温まって、落ち着く心地良さがそこにはあった。

 

 

「自分が好きなようにして良いのです。泣きたい時は泣いて、見栄を張りたい時は見栄を張れば良い。逃げたい時は逃げて良い。あなたが必要だと思ったのなら、あなたの為に行動すれば良い。……ツバキさんが泣きたいのなら、泣いて良いのです」

「ヒノエさん……」

 でも、泣いていても何も解決しない。俺がそう言おうとした時、ミノトさんが少し怖い顔で俺を見ながらこう口を開く。

 

「今、自分がどうしたいのかを一番に考えるのが正解だと……ヒノエ姉様はそう言っています。あなたがここで泣いていたいのならわたくしは邪魔をしません。……しかし、そうでないのならヒノエ姉様に甘えて逃げるのは許しません」

「そうでないの、なら」

 俺は何がしたいんだ。

 

 

 そんな事は決まってる。今も昔も、俺の答えは一つだけだ。

 だけど、自分にそんな力はないんだと分かってしまったから───俺はこうして動かないでいる。

 

 

 

「本当にツバキさんは何も出来ないのですか?」

「ヒノエさん?」

「わたくし達は知っています。あなたがこの里で一番の強者だという事を。……あなたが立派なハンターだという事を」

「ミノトさん?」

 俺はハンターじゃない。

 

 違うんだ。俺は嘘を付いていただけで、立派なハンターなんかじゃない。

 

 

「……勿論、あなたが嘘を吐いている事も」

「え?」

 どちらが言ったのか。

 そんな言葉に俺は目を丸くする。俺の吐いた嘘は、二人にはバレていたのだろうか。それとも、カエデに言った事が広まっているだけなのだろうか。

 

 

「ですが、あなたの心に嘘はない筈」

「そして、あなたは真に自らに出来る事を知っている」

 二人はそう言って、俺からゆっくりと離れた。

 そして測っていたかのように、二人がそうした瞬間集会所の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

「ツバキ君! やっと見付けた! 家に来て!」

「ビーミ? なんで突然───家に?」

 声の主は幼馴染の一人、ビーミだった。

 

 

「ほら早く!」

 俺の手を強く引くビーミ。俺は訳も分からず、彼女に連れ去られる。

 

 そんな俺を見送るように頭を下げるミノトさんとヒノエさん。どちらが言ったのか、二人が言ってくれたのか「それでは、いってらっしゃいませ」と優しい声が耳に残った。

 

 

 

「───お、おいおい。どうしたんだよ急に」

「ツバキ君さ、覚えてないかもしれないけど。私ね、昔ツバキ君の事が好きだったんだよ」

「は!?」

 何故か引っ張られたまま、俺はビーミにそんな事を言われて頭が真っ白になる。

 

 突然モテ始めたのかと思ったが、彼女は「昔」と言っていた。

 

 

「私だけじゃなくてさ、エーコちゃんもシーナちゃんも、ジニア様もカエデちゃんも、皆ツバキ君が好きだった。……駆けっこも早くて、優しくて、頼りになるツバキ君が好きだった」

「……そんなの、昔の話だろ。今の俺は───」

「そうだよ。昔の話! 今はジニア様の方が格好良いもん」

 なにそれ泣きそう。

 

 

「……でも、本当に皆ツバキ君の事が好きだったんだよ。何か困った事があったら、ツバキ君はいつも助けてにきてくれたから」

 それこそ、昔の話だ。

 

 

 今の俺は何も出来ない。自分がしたい事すら出来ない、どうしようもない奴である。

 

 

「なんで今更、そんな話をするんだ?」

「なんでだろね。……やっぱ、二人を助けて欲しいって思ってるからかな」

「それで俺を連れ出してるのか?」

「ううん。これは違うの。……ウツシ教官がツバキ君を───愛弟子を呼んでくれって言ってたから」

「ウツシ教官が?」

 教官は確か大社跡で大怪我を負って、医者であるビーミの親に診てもらっている筈だ。

 そんなウツシ教官が俺に何の用事なのだろうか。

 

 

 ビーミに言われるがまま、俺は彼女の家に足を運ぶ。

 大きめの建物の中、ベッドの並ぶ部屋の片隅で横になっているウツシ教官を見付けた。

 

 

「やぁ、愛弟子!」

「いやなんでそんな元気そうなの」

 ウツシ教官は俺を見付けるやいなや、身体を起こして声を上げる。しかし、ウツシ教官はその後直ぐに傷が開いたのか蹲って唸り声を漏らした。

 

 バカが居る。

 

 

「……何してんだよ教官」

「あ、あはは。心配かけてしまったね。でも、俺は大丈夫だ」

「頭が大丈夫じゃないでしょ、色んな意味で」

 この人と話してると調子が狂うな。久し振りに会ったというのもあるかもしれないけど。

 

 

「……ジニアとカエデが大社跡に居るんだってね」

「……あぁ」

 しかし、ウツシ教官は突然真剣な表情で俺にそう言った。彼は「俺が居ながら……」と少し暗い表情を見せる。

 

 

「……愛弟子よ。もし誰も行かないなら、俺は二人を助けに行くつもりだ」

「待て教官、それはどう考えてもダメだろ。今度は教官が死ぬ」

 元気に見えるが教官の身体は既にボロボロだ。正直どうして口が利けるのか分からない。

 

 

「それでも、二人を見捨てる事は出来ない。なぜなら二人は愛弟子の大切な幼馴染だからね。……止めないでくれ」

「止めるも何も、あんたはそもそも動けないからね」

 動けない事はともかく、今の教官が大社跡に向かっても結果は分かる筈である。

 

 

 何故そんな事を言うのか。

 この人が馬鹿なのは知ってるが、そうじゃない事も俺は知っていた。

 

 そもそも、俺は今この人に呼ばれてここに居るのだから。

 

 

「教官は俺に、二人を助けて来いって言いたいのか?」

「俺は立場上、愛弟子を危険な場所に送る事は出来ない。けれど、愛弟子がどうしたいか……愛弟子に出来る事───俺はそれを知っているつもりだ」

「教官……」

 俺に出来る事ってなんだよ。

 

 

 俺は何も出来ない。だから今、ここにいるのに。

 

 

「難しく考えなくて良いんだ。二人を助ければ良い。それ以外の事なんてしなくて良いんだ。愛弟子はまだ武器をまともに触れないかもしれない。モンスターを倒せないかもしれない。……でも、それは二人を助ける事に必要な事か?」

「二人を助ける事に必要な事……」

「これまでの修行を思い出すんだ。愛弟子───ツバキは、立派にハンターとしての道を歩み始めている。その経験を生かせば、モンスターを倒す事は出来なくても、二人を助ける事は出来る筈だ!」

 教官の言葉に、俺は後頭部を殴られたような感覚を感じる。

 

 

 

 そうだ、俺はまだハンターじゃない。

 けれどハンターじゃないから何も出来ない訳ではない筈だ。俺にだって出来る事はある。そうでなきゃ、何の為にハンターになる為の修行をして来たのか。

 

 俺にも、二人を助けられるかもしれない。

 

 

 

「……教官、俺は二人を助けたい」

 ミノトさんとヒノエさんが言っていた事を思い出した。自分がどうしたいかを考えろ。

 

 俺はハンターじゃない。そんな事は分かってる。

 だけどな、ただの農家でハンターを目指してるだけの俺にだって出来る事はあるんだ。何も出来ない訳じゃない、何かする事から逃げていただけだ。

 

 

 今でもまだ怖い。けれど、きっと何もしなかったら後悔する。俺は今の今まで何も出来なかった事を後悔していたのだから。

 

 

 

「……そうか。本当は、俺は愛弟子を止めないといけない。……こうは言ったけれど、今の大社跡は本当に危険だ」

「そんな事は教官を見れば分かる。大丈夫だ、俺は教官より凄いハンターになる男だぜ? まだハンターじゃないが、頭は教官より足りてる」

「言うようになったね、愛弟子」

「───さて、俺は今から準備して大社跡に向かうつもりだけど。……教官は俺を止めるのか?」

「───止めなければならないけど、俺はこの通りだからね。愛弟子を止める力を俺は今持ち合わせていない」

 そうこなくちゃな。

 

 

「それじゃ、行ってきます教官。ビーミ、エーコとシーナを呼んでくれ」

「え? なんで?」

「良いから」

「わ、分かったよ!」

 走っていくビーミ。俺はそんな彼女を追い掛けるように、教官に背を向けた。

 

 

「愛弟子!」

 彼の声に、俺の足は少しだけ止まる。

 

 

「……必ず、生きて戻ってくれ」

「分かってるよ。任せろ。俺は里一番のハンターになる男だぜ?」

 本当は行かせたくないのかもしれない。彼は自分が助けられるなら、自分でいっている人だ。

 

 それでも態々俺を呼んだのは、そうするしか手がないからだろう。

 そしてそうしなければ、俺は一生後悔して生きていく事になっていた。

 

 

 きっと、どんな結果になるのだとしても、それは一番最悪な結末だと思う。

 俺が大社跡に何も出来ずに向かって死んだとしても、何もせずに二人だけが死ぬよりも遥かにマシだ。

 

 

 

「……さてと、一狩り行きますか。……狩らないけどな」

 だから俺は、絶対に二人を助ける。




モンハンカフェに久しぶりに行ってきました。財布が爆破やられ状態です。

さて、最終話まで。頑張れツバキング。

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