ハンターになったらモテると思っていた   作:皇我リキ

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夢だったし勘違いだった

 黄色い声が上がる。

 

 

「キャーーー、ツバキさんよ!」

「カムラの里一番のハンター、ツバキさんだわ!」

「こっちを見てくれたわ! キャーーー、手を振って下さってる!!」

「違うわよ!! ツバキさんは私に手を振ってくれたのよ!!」

「何言ってるのよ!! ツバキさんは私を見ていたわ!!」

 どうやら朝から元気なお嬢さん方が、俺の起床を待っていたらしい。

 

 俺が手を振ると黄色い歓声はさらに大きくなった。

 やれやれ、困った子猫ちゃん達だぜ。

 

 

「皆、俺を取り合って喧嘩するのは辞めてくれ。俺はこの里一のハンター。……それはつまり、この里で一番モテるハンターという事だ。皆が俺を取り合うのは自然の摂理だが、俺は誰の物でもないんだ」

「ツバキ様! そんな事言わないで!」

「私、小さな頃にツバキ様に告白したもん!」

「私もツバキ様に子供の頃に告白したわよ!!」

 俺の言葉に彼女達はさらにヒートアップしてしまう。俺は「やれやれ」と両手を上げながらこう続けた。

 

 

「エーコ、この狩りが終わったら一緒に茶屋でデザートでもどうだ?」

「キャーーー、ツバキ様とデートの約束をしちゃったんだけど!」

「ビーミ、それが終わったら集会所で夕食を共にしよう」

「キャーーー、ツバキ様とデートの約束をしちゃった!」

「シーナ、それが終わったら夜景でも見ながら一緒に夜の散歩なんてどうだ?」

「キャーーー、ツバキ様とデートの約束をしてしまいましたわ!」

「ハッハッハッ、皆順番だぜ。俺は里一のハンター、俺は皆の物なんだからな」

 そう言って俺は指二本を自分の頭の上に乗せてから、キメ顔でその手を里中の女の子に向ける。

 

 

 

 ハンターになった俺は、やはりモテた。

 それはもう、モテてモテてモテまくってしまったのである。里中の女の子が俺に夢中だ。

 

 

「やぁ」

「おう、ジニア。どうした? 里中の女の子を俺に取られて嫉妬しているのか! ハッハッハッ!! 俺の勝ちだ!! バーカバーカ!!」

 女の子達と別れた後、突然現れたジニアに俺は勝ち誇った表情でそう言う。

 しかしジニアは無表情で高い所から俺を見下して、こう口を開いた。

 

「何を勘違いしているのか分からないけど、私の名はジーニアス。神です」

 おっとー。

 

 

「あ、これもしかして?」

「これ、夢ね」

「デスヨネー」

 夢オチです。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 俺は神を殴った。

 

 

「なんで殴るの!?」

「お前の存在そのものが鬱陶しいんだよ」

「酷い」

 俺の夢を返せ。

 

 

「二人共バカやってないで、里長達の話を聞くわよ」

 言いながら、カエデは集会所でアイルー達が作っているうさ団子を手に取る。

 

「あ、フクズク」

「なんでよ!!」

 して、そのうさ団子は突然現れたフクズクに取られた訳だが───それはさておき。

 

 

「───で、里長。俺達になんの用なんだ?」

 俺はうさ団子を取られて愕然としているカエデを横目で見ながら、俺達三人を集会所に呼んだ人物に話しかけた。

 

 

「うむ、三人に折り合って頼みがあってな」

 歳の割にデカい肩を回しながら、里長は俺達を見てそう口を開く。

 

 今朝目を覚ますと、俺達三人の家に里長から文が届いていた。

 内容は昼前に集会所に集まってくれ、という単純なものである。だから、俺達はなぜ集会所に呼ばれたのかを知らない。

 

 

「頼み?」

 だから、頼みと言われて俺は首を傾げた。

 

 ハンターである二人にならいざ知らず、俺を含めた三人に頼みとはなんの話だろう。

 俺はジニアを殴ったが、アレは夢だ。俺はまだハンターじゃない。

 

 

「先日、三人はイズチの群れを減らしてくれたでゲコな?」

 ふと頭上から聞こえるそんな声。

 

 集会所の真ん中で、理解不能な大きさの巨大なカエルの上に立つ老人。

 じっちゃん───こと、この里のギルドマネージャー、ゴコクさんである。

 

 

「はい、丁度五匹。討伐してきました!」

 殆どジニアの手柄だったが、元気に手を上げてそう言うカエデ。

 俺達三人は二日前にイズチ五匹の討伐クエストをなんとか成し遂げてきた。

 

 その帰りだったか、突然現れたウツシ教官が血相を変えて俺達を里に帰らせたのは。

 

 

「やはり、オサイズチですか?」

「長イズチ?」

「イズチの群れのボス……だよね?」

「あー、おさイズチね。知ってる知ってる」

 確か俺が初めてカエデと狩場に行った時に、カエデがその名前を口にしてたっけか。

 え、俺そんなのと戦えないよ。

 

「うむ、ジニアの言う通り。大社跡にオサイズチの姿が確認された。ジニア、カエデ……二人にはオサイズチの討伐を頼みたい」

「二人? ツバキは?」

 里長の言葉に、カエデは首を傾げる。

 

 彼女にとっては俺も立派なハンターだ。だから、俺の名前が上がらないのは不思議なのだろう。

 俺にとっては不思議でもなんでもないし名前が上がっても困る所だが、そうなると俺が呼ばれた理由が分からない。

 

 

「ツバキには、ゴコク殿から話がある。二人は取り急ぎ、オサイズチの狩猟に向かってくれ」

「分かりました。カエデ、準備しよう」

「うん。ツバキ! ゴコクさんからのクエストなんて流石ね。頑張って!」

 二人はそう言って、集会所を出て行った。

 

 カエデの言葉に胸が痛くなるが───さて、じっちゃんの用事とは如何に。

 

 

「じっちゃん、話って?」

 二人が集会所を出たのを確認してから、俺はじっちゃんにそう話し掛ける。

 じっちゃんは長い顎髭を触りながら、こう口を開いた。

 

 

「ツバキ、覗きに興味はあるでゲコか?」

「は?」

 この爺さん、ついにボケたか。

 

「お前は二人の狩りを見学しろ、ツバキ。ウツシと共に大社跡に赴き、二人に見つからない様に狩りを見学するのだ」

「な、なるほど……。そういう感じか」

 俺はイズチのボスとやらに挑める程立派なハンターではない。

 

 しかし、あの二人は違う。

 二人は本物の立派なハンターだ。大型モンスターと呼ばれる、本当に危険なモンスターにも立ち向かう力を持っている。

 

 その狩りをこの目で見届けて、本物の狩人とはどんな存在なのか確かめろ。ゴコクのじっちゃんからの話はこうだった。

 

 

 

「───とは言うが、本当に見つからずに狩りを覗き見出来るのか?」

「よくぞ聞いてくれた! 愛弟子!」

 里を歩きながら俺が独り言を呟くと、聞いていないのに聞いた体でテンションの高い声を横であげるウツシ教官。

 

 ジニアやカエデに見付からずに、二人の狩りを観察する。

 そんなゴコクのじっちゃんからのクエスト()だが、はたして本当に可能なのだろうか。横にこんなやかましい人連れて。

 

 

「カエデ達が狩りの準備をしている間に、愛弟子には覗きの極意を学んでもらおうと思う!」

「覗きの……極意?」

 教官の言葉に俺は喉を鳴らした。

 

 

 覗き。

 それは男のロマン。

 

 女の子の着替え、入浴、その他諸々。

 男にはどうしても見たくても見れない光景があり、その絶景を自らの瞳に映すためにいくつもの挑戦があったという。

 

 

「教官は覗きマスターなのか」

「俺は良く覗きをしているからね」

 変態だ。

 

 

「師匠と呼ばしてください!」

「愛弟子! 俺は元々師匠だ!」

「師匠ーーー!」

「愛弟子ーーー!」

 里の中心で抱き合う野郎二人。側から見たら色々思われそうな光景である。

 

 

「そんな訳で覗きだ!」

「はい! 師匠!」

「愛弟子がいつもよりやる気があって俺は嬉しい! そうだな、まずはあの女の子をつけて覗いてみよう!」

 そう言ってウツシ教官が指差したのは、里を歩く赤い髪の女の子。

 

「あれは……」

 カエデではない。彼女の名前は───

 

 

「エーコか」

 ───彼女の名前はエーコ。カエデと違って長い髪。最近街で流行りのファッションに身を乗せた、所謂ギャルだ。

 昔、俺がガキ大将だった頃は良く一緒に遊んでいた仲である。

 

 

 

「どうやら彼女は茶屋に行く様だね。彼女に気付かれないように覗き見しよう!」

「パンツを?」

「なんの話だい?」

「いやいや、言わずとも分かってますよ師匠!」

「そうか! 愛弟子が何か勘違いしてる気がするが! その意気だ!」

 俺とウツシ教官は建物の裏に隠れて、茶屋の席に座るエーコに視線を送った。

 

 

「あらあら、楽しそうな事をしていますね」

 俺達の隣ではヒノエさんが微笑ましそうな顔でうさ団子を食べている。笑っているが、俺は真剣だ。真剣にエーコのパンツを見ようとしている。

 

 

「愛弟子! まずは色彩訓練だ! 彼女の選んだ色を当ててみよう!」

 なるほど、エーコのパンツの色を覗き見て、何色のパンツを穿いてるのか覗くんだな。任せろ。

 

「見よ愛弟子! 彼女がうさ団子を注文したぞ! ヨモギがうさ団子を作る今が絶好のチャンスだ! 刮目するんだ!」

 ウツシ教官の言う通り、エーコは茶屋でヨモギに団子を注文したようだ。

 ヨモギが歌を歌いながら団子を作っていると、エーコもそれに釣られて身体を揺らしている。

 

 なるほど、今こそエーコのパンツを覗くチャンスという訳だな。

 

 

「くそ! 見えねぇ! 見えそうで見えねぇ!!」

 俺は出来るだけローアングルになるように地面に頭を擦り付けて、歌に合わせて身体を揺らすエーコに視線を送った。

 エーコは短いスカートを履いている。だが、ここからでは距離も遠い。しかし、彼女に見付からずにパンツを覗くならこれ以上近付いてはならない。

 

 もどかしさは俺を焦らせ、視線を下げようと強く地面に顔を擦り付けるが───どうしても彼女のスカートの中は見えなかった。

 

 

「くそ!! 見えない!! 見えないよ師匠!! 何色か見えないよぉ!!」

「良く目を凝らすんだ!! 愛弟子!! 三色だぞ!! 愛弟子には何色に見える!!」

 嘘だろ、ウツシ教官にはもうエーコのパンツが見えているのか。しかも三色のパンツだと。あいつどんなパンツ穿いてるんだ。

 

 

「棒が刺さったぞ愛弟子!!」

「棒!? なんで棒が突然刺さったの!? 突然エロい事言わないで!? エーコは何をしてるの!? 教官には何が見えてるの!?」

 教官は俺と違って普通に立っている。

 それなのに、教官はエーコのパンツの色も見えてるし突然棒が刺さった所まで見えているらしい。

 

 これが覗きのプロの力なのか。

 ところで、あいつ飯食ってる時にナニしてるんだ。

 

 

「ウツシ教官は一言足りませんし、ツバキ君は面白いですね」

 隣でヒノエさんが何か言ってるが、俺は気にしない。俺はただ、エーコのパンツの色が気になるのである。

 

 

 

「……師匠、ダメだ俺。見えねぇよ」

「大丈夫! 色が分からなくてもそれは綺麗な物だと分かりきってるからね!」

「し、師匠……!」

「それじゃ、答え合わせをしにいこうか!」

「師匠!?」

 え、何ですか答え合わせって。

 

 そう思っていたらウツシ教官は茶屋に真っ直ぐ歩いていってしまった。まさかエーコ本人に「何色のパンツ穿いてるの?」とか聞くつもりなのか。

 

 

「君、選んだのは何色なんだ!」

 聞いたよ!! この人聞いちゃったよ!! 

 

 

「あ、教官じゃん。ちーす。色? あー、この色?」

 教官に挨拶したエーコは、ヨモギに作ってもらったうさ団子を持ち上げてソレを指差す。

 

 ピンクと白と黄緑のうさ団子。

 まさかその団子と同じ色のパンツを穿いているというのか。

 

 

 

「あ、ツバキじゃーん。久し振りー。ジニア君に聞いたよー、ハンターになったんだって?」

「お、おう。エーコ。久しぶり」

 俺が唖然としていると、隠れていた俺に気が付いたエーコが団子を振りながら俺に話しかけてきた。

 昔はしおらしい性格だった彼女だが、今はこんな感じである。多分俺に告白した事なんて忘れてるな。

 

 

 でも、赤とか黒とか大人っぽいエロいパンツを穿いてる訳ではないらしい。お前もまだまだ子供だな。

 

 

「……人は見かけによらないな」

「何言ってんの? あ、いけね。私用事あるんだった。ジニア君が狩りに行くらしいから見送りの準備しなきゃ! じゃーね、教官! ツバキ!」

 突然エーコはそう言ってうさ団子持ったまま茶屋を去っていった。

 

 

 ジニアめ、狩りの見送りだと。なんなのアイツ。モテモテなの? モテモテなんだよな。

 

 

 

「しかし教官は流石だな」

 俺にはエーコのパンツはまったく見えなかったのに、教官にはくっきりと見えていたようである。

 これが真のハンターの力なのか。

 

「動体視力はハンターの基本だ! 愛弟子、次はあの子を覗いてみよう」

「ん? あれは───」

 この修行はまだまだ続くらしい。次に教官が選んだのは、飴屋に立ち寄っていた一人の女の子だった。

 

 

 セミショートの青い髪。

 エーコとは違ってまだ子供っぽい顔付きのその少女の名前はビーミ。

 彼女も俺がガキ大将だった頃、よく遊んでいた友達である。昔告白された。

 

 

「愛弟子、次はもっと距離を取ろう!」

「もっと?」

 教官に言われて、俺は飴屋から離れる様に歩く。集会所の入り口も超えたその先からは、飴屋はかなり距離があった。

 

 目を細めてビーミに視線を送る。

 

 

 

「愛弟子にはあのリンゴが何個見える?」

「リンゴ、ですか?」

 俺は一瞬、教官が何を言っているのか分からなかった。しかし、ついさっきの教官を思い出して俺はハッとする。

 

 

 教官はどんな状態でも覗きが出来る凄い人だ。

 彼には既にビーミの穿いているパンツが見えているのだろう。

 

 つまり、ビーミはリンゴ柄のパンツを穿いているのか。子供かよ。

 

 

 ───それはともかく、これは彼女のパンツに描かれているリンゴの個数を数えるという修行だ。そもそも俺には彼女のパンツが見えていない。

 

 

「教官、どうしたら(パンツを)見る事が出来ますか? 俺にはどう目を凝らしても見えないんですけど」

「気合いだ!」

「根性論で(パンツが)見えたら世の男はもっと頑張ってるわ!!」

 だがしかし、ウツシ教官には彼女のパンツが見えているのも事実である。さっきエーコのパンツの柄当ててたしな。

 

 

「愛弟子、ハンターにとって遠くから相手の数や種類を確認するのはとても大切な事だ。今は無理でも、いずれ出来るようになる! 愛弟子なら大丈夫だ!」

「出来るようになるのか!? 俺もいつかはこの距離から(人のパンツの柄を)確認出来るようになるのか!? 俺頑張るよ!!」

「その意気だ! 愛弟子!」

 そんな訳で、そろそろカエデ達がクエストに出掛ける時間になってしまった。次の修行が今回の修行の最後になる。

 

 

「あ、教官。それにツバキ君も。なんか二人が並んでるの久し振りに見たかも。ツバキ君はハンターになったんだっけ?」

「おう、ビーミ。俺、お前が変わってなくて安心したよ」

「何言ってるのか分からないけど……二人は何してるの?」

 飴屋まで戻った俺は、久し振りにビーミと会話をしていた。流石にお前のパンツ覗こうとしてたなんて言えないけどね。

 

 

 

「愛弟子、最後にあの子を覗いてみよう」

「あいつは……」

「シーナちゃん?」

 ウツシ教官が最後に選んだのは、これまた遠くにある傘屋に寄っている一人の少女である。

 金色の長い髪が特徴的な彼女の名前はシーナ。エーコやビーミの幼馴染みで、俺がガキ大将だった頃(以下略)。

 

 

「愛弟子、彼女が選んだ柄を当てるんだ!」

「教官、隣に女の子が居るのにパンツ覗いて柄を当てる話をするのはどうかと思うよ!?」

「え、二人共パンツ覗いてたの!? 変態だ!!」

 ほらみろ。

 

 

「パンツ? 愛弟子は何を言っているんだ?」

 唐突に首を横に傾けるウツシ教官。おい、この人逃げたぞ。自分の罪から逃げたぞ。

 

 

「ちょっとシーナちゃん! シーナちゃん! ツバキ君がパンツ覗く話ししてたんだけど!」

「何ですって! 信じられないです!」

「あんた、もしかして私のパンツも覗いてた訳?」

 さらにエーコまで来て、俺は三人に囲まれた。なるほど、これがモテ期か。違うな。危機だわ。

 

 

「師匠!!」

「俺達は彼女の選んだうさ団子の色を当てる動体視力の修行、そして彼女が買ったリンゴ飴の個数や傘の柄を遠くからも確認する修行をしていただけだよ。愛弟子はそんな不真面目な人間じゃない!」

「教官んんんん!! そう言う事ならそういう事だってとっとと言えや!!! 俺てっきりパンツを覗く修行かと───あ」

 そこまで言って、俺は自分が何を言っているのか気が付く。気が付いた時には遅かった訳だが。

 

 

 ──どうやら彼女は茶屋に行く様だね。彼女に気付かれないように覗き見しよう! ──

 ──パンツを? ──

 ──なんの話だい? ──

 ──いやいや、言わずとも分かってますよ師匠! ──

 ──そうか! 愛弟子が何か勘違いしてる気がするが! その意気だ──

 そもそもこの時点で俺の勘違いだった訳で。

 

 

「「「変態!!」」」

 その日、里には俺の悲鳴が木霊した。


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