真実はなにか的なことを追究する映画というスタンスで臨む人もいると思うんですが、そんなものはしかし全くないのだった。
いやもうこれは汚い。面白すぎるよ佐村河内さん。奥さんが食事作っても全然食べないんですよ佐村河内さん。それでご飯を前にして沈んだ表情で豆乳ばっか飲んでる。あれなんか落ち込んでるのかなって思うじゃないですか。だから森達也は聞くんですよ、なんでご飯食べないんですかって。そしたら佐村河内さん言うわけです。「豆乳大好きなんで」。
奥さんとネコと静かな日々を送ってる佐村河内さんですがテレビの出演依頼はひっきりなし。まぁ散々ネタ扱い詐欺師扱いされたんで佐村河内さん怒ってるわけです。もちろん新垣さんにも怒ってる。だから佐村河内さん、局の人間が出演交渉に来るたびにこみ上げる怒りを抑えながら毎回見せるんです。あなたたち私をこうするつもりじゃないですかって、週刊誌でコスプレして笑顔を浮かべる新垣さんの写真を。
そしてなんと佐村河内さんの評判は海外にも及んでいるらしい。今日は海外のなんちゃらリパブリック誌の人が取材に来た。通訳の人が佐村河内だ新垣だと呼び捨てにして結構失礼な感じだが佐村河内さんは穏やかな人なので意に介さない。だがロジカルかつ厳しい追求にさしもの佐村河内さんも怯んでしまった。
「あなた、自分で作曲すればいいじゃないですか」
「キーボード捨てちゃったので」
「なんで捨てたんですか」
「…家が狭かったので」
と、とりあえず佐村河内さんの一挙一動に爆笑だったとだけ言っておく。
虚実皮膜というかなにが真実だか分からないとこがおもしろかったな。聞こえる聞こえないはどうでもいいがあれ佐村河内さんって自分は天才だと信じちゃってる系のちょっとアレな人なんじゃねむしろ新垣さんを利用してるつもりが逆にその誇大妄想っぷりを体よく利用されてたんじゃねと見えなくもないが、果たしてそれが演じられたものなのかどうかは誰かが知ってるかもしんないし新垣さんも佐村河内さん本人も含めて誰も知らないかもしれないわけです。
だから何よりおもしろいのは色んな仮面のあわいで揺らめく佐村河内さんの日常生活の方であって、つまり要するに夢っすよこれは、夢。そこそこのマンションに住んで優しい奥さんと一緒にケーキ食べてコーヒー飲んで猫と遊んでテレビ観ながらダラダラ過ごす。どこまでが自分の意志でなにが本音なのかは自分でもよくわからないが別にそれで構わない。だって夢の中だもん。だいたいあのラストが夢じゃなかったらなんだっていうんですか。