ドナルドダックじゃない方

ムーンライトのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.5
特定の属性についての話じゃないと思ったな。理由はなんでもいいと。なんでもいいけどマイノリティの烙印を押されていじめられる人はいるし、そういう扱いを受けている人が段々とそういう風に自分を形成していっちゃうこともあるよなっていう。
俺がこのメロドラマを好きなのは、黒人であること、ゲイであること、貧困であることの自認がほとんど問題にされないから。不幸とも幸福とも言えない一人の人間がただただ状況に流されて変化していくその過程だけが淡々と映し出される映画だったから。
今話題のNIKEのCMとかもそうですが、なんでもかんでもアイデンティティの次元に落とし込めばいいってもんじゃないだろって普段思うことが多いので。自分は何者かという問いかけがともすれば身に帯びた属性の方向と強度を一緒くたにして自らを一つのモデルに押し込めてしまう抑圧に転ずることだってあるんじゃないの。貧乏人から成りあがった人ほど貧乏人に厳しい、みたいな感じで。
そういう外的でも内的でもある抑圧に対して、諦めきった沈黙の無名性で抵抗する。何者でもない自己をラディカルに肯定しようとする。『ムーンライト』はそういう映画だと思ったな。

それとあと過剰な女好きアピールをする同級生とシャロンくんの会話のぎこちなさ、あれめっちゃグッとくるところ。
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