ドナルドダックじゃない方

映画 えんとつ町のプペルのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

映画 えんとつ町のプペル(2020年製作の映画)
2.5
俺の観に行った回では上映後に熱烈な西野ファンと思われる客がたった一人万感の思いを込めてブラボー的な大拍手を送っていたので西野ファンならきっと大満足まちがいなしだろう。映画が始まるとSTUDIO4℃のロゴが出たのでこれもあのSTUDIO4℃の映画なのかーと思って観た俺の場合は上映後に感情の方が4℃ぐらいまで落ち込んだ。
だいたいこれはアニメになってないよな。映像面で特徴的なのは絵本を意識したであろう3DCGのモデルを水彩風に塗った絵の質感だが、絵本風はそれだけではなくティルトアップ・ティルトダウンをやたら多用するカメラワークも絵本的というか、物語の中心的なモチーフになっている紙芝居のように見えた。
動的な構図を作らないで背景絵を見せたいだけならそれはもう原作絵本を見てもらえばいいのでは…と思うわけで、あまりに安直というか、まぁでもこの映画に喜んで金を落してたとえ一人でも拍手喝采みたいなコア層は映画じゃなくて西野の絵を観て言葉が聞ければ満足なわけだからこれで商品としては正しいのでしょうが…。でもねぇ。

とにかく延々とキャラクターが喋り続ける。間というものが徹底して無い。それは芝居の間であったり演出の間であったり絵の間であったりするのですが、すべてにおいて間がない。時間経過を表現するモンタージュには必ず挿入歌が入る。やっと台詞がなくなったと思ったのに。
この過剰な饒舌さがたぶんキングコング西野なのだろうと思えばその饒舌さに引き寄せられる人が出てくるのもわかるし、逆に西野を蛇蝎の如く嫌う人が出てくるのもわかる。誰も信じないけどあの煙の向こうには星があるんだ! とは言うけれど、本当はそんな「風景」をこの人は信じてなんかいないのですよ。だって風景を信じていたら絵を打ち負かす勢いで言葉を尽くす必要はないじゃないですか。
でも西野は風景を信じる自分は信じてると思うんすよね。だから言葉でそれを証明しようとする。で、風景を信じるというような観照的態度はある程度狂ったもので、えんとつ町の人々がそうであるようにちゃんとした普通の人は持ち合わせていないんです。そんな人は西野の言葉に救われるんじゃないですかね。私にも信じることができる! なんて思って。いくら観照から遠い人でもなにかを信じる自分を信じることはできるわけですから。
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