ドナルドダックじゃない方

ブルータル・ジャスティスのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

ブルータル・ジャスティス(2018年製作の映画)
4.8
まぁ大変よねって思う映画でした。しょうもないなとも思います。これは要は男の人が俺がお金を稼いで家族を支えないとっていう強迫観念に駆られて暴力を行使したせいであっちこっちで人が死ぬ映画なんです。そんなことしないでもいいのにね。諦めて女の人にも稼いでもらえばいいのね。でもそれができないんですこの映画に出てくる男の人たちは。男たるものっていうのがあるんです。
逆パターンも出てきましたね。自分に甲斐性がないから銀行員の妻の稼ぎを頼りにしてる専業主夫が挿話として出てくるんですが、この人が謎に妻に当たりが強い、自分がお金を稼げないから妻をマネジメントすることで間接的に家計を維持しようとしているわけで、一家の大黒柱は俺なんやアピールの変形なわけです。

映画の冒頭は刑務所からシャバに出てきたばかりの黒人青年が元同級生だった娼婦を抱く場面。そこで黒人青年は俺はお前が好きだったんだぜ、とか言ってロマンティックなムードに持っていこうとする。娼婦の方は冷めたもので、それも当然、売春なんか金を稼ぐためにやってるだけのことで、こいつは私の身体を金で買ってるってこともわかっとらんのかってなもんです。
自分が消費者として、ある意味で搾取する側に立っていることにこの黒人青年は気付かない。それでいて実家で母親が売春してるのを目にすると暴力でもって売りをやめさせる。自分は被害者であるからとその暴力を正当化する。自分には家を支える義務があるからと更なる暴力の行使に突き進む。そんな身勝手があるものですか。ま、至る所にあるんだけどさ。

そういうバカな男たちの物語。あるいはバカな男たちのせいで悲惨な目に遭う女たちの物語。といっても重層的な映画であるからどちらが一方的に悪いという感じでもなく、ある場面ではそのバカな男が被害者であったりするし、ある場面では女の方が(間接的な)加害者であったりする。トータルで見ればいちばん悪いのはお金なんですが。男の人の方がお金に惑わされやすくて女の人の方はもう少しお金をドライに捉える。その差が暴力犯罪に打って出るかある程度諦めて地道に仕事をするかの違いとして表われるわけで、愚かしくて笑えるのは当然、前者なわけです。
登場人物の搾取と被搾取、加害と被害がカチャカチャと入れ替わるメカニカルなシナリオに加えてガサ入れだろうが銃撃戦だろうが揺るがない画面設計により誰が死んでもどうでもいいやと思えてくるあたり、シニカルな映画だ。ヒーローはいないし悪党もいない、ここにあるのは無意味なお金と暴力だけ。色々あって念願のお金を手にした人がどうなったかと言えば、別に大して変わることもなかった。だから映画は、おそらくその人が新たなるお金を求めてまた無意味な暴力に手を染めるだろうと仄めかして終わるのだがー、ま、このへんはネタバレになりますから沈黙しよう。
アメリカ式の資本主義がどう動くか、その中で人間はどんな風に変わっていくか、人種差別やら性差別やら障害者の困難やらあれこれの今日的なトピックをまぶして描いた、体温ゼロのオフビート社会派ノワールとしてたいへんおもしろかった。
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