ドナルドダックじゃない方

悪魔祓い、聖なる儀式のドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

悪魔祓い、聖なる儀式(2016年製作の映画)
3.8
凡庸な悪があるなら凡庸な善もあるはずだし凡庸さの中で善も悪も区別はないんじゃないかというわけで凡庸が問題だ。このエクソシスト神父さんは昔はどうだったか知らないが職場に長くいるだけで大したスキルとかないし野心とかも別にないし教会一筋の人だから融通が利かないし話もあんまり通じない。極めて凡庸な窓際サラリーマン風情。
出張悪魔祓いでプチ金満家庭の邸宅を訪れたエクソシスト神父。あぁ悪魔だわ、それ悪魔だ悪魔、全部悪魔。みたいな雑な悪魔診断の後、清めたお水を家中に撒いていくが高級調度品や壁に掛かった油絵にも容赦なくぶっかける。あぁこれは悪魔呼ぶわ、捨てた方がいいよ、悪魔悪魔それ全部悪魔。仕事が雑すぎる。
こういう人はさっさと自主退職して頂きたいがここがたいへん困ったところでやる気はないが妙な責任感のようなものはあると見え、俺がいないと社会回んねぇじゃんと思っているタイプと想像するがつまり(このオヤジ面倒くせぇな…)。こういう人が組織を腐敗させるんだと思われるが、しかし善意だから誰も悪く言えないし実際それで救われた人もいるんだろうし、悪魔祓いよりも悪意なき悪霊と化してしまったエクソシスト神父さんを成仏させることが先なんじゃないかと思ってしまうがもう地域に馴染んじゃって固定客もたくさんいるうえ昨今は悪魔祓い需要がどんどん伸びているとテロップで出ていたのでそれも難しいのかもしれない。

一応ドキュメンタリーと書いてあるが結構演出入っているんじゃないだろうか。
グループセラピー的な悪魔祓いミサでエクソシスト神父が祈祷を始めると憑いた参加者たちが獣になって暴れ出す。椅子とか持ち上げたりするが投げるのかと思ったら教会スタッフと撮影クルーには絶対当たらないように床に叩きつけるだけなので常識をわきまえた悪魔ばかりでよかったとおもう。
それほんとかよぉってなるのはむしろ患者側の取り憑かれ具合、パンクスの役者っぷりだった。カメラの前で悩める悪魔パンクス演じてる感がひしひし滲む。
たぶんこれはヤラセとかヤラセじゃないとかそういう問題でもないんだろうな。癒やす方も癒やされる方も演じる意図の有無とは無関係に演じているし、その嘘くささが逆説的に悪魔祓いの儀のセラピー性を引き立てているのかもしれない。サイコドラマの舞台としての教会。

凡庸悪のアイヒマンが単にお仕事でホロコーストに関与していたようにというとまた失礼に思うが凡庸善のエクソシスト神父もお仕事をやっているだけで想像になるけれどもきっと悪魔祓いとかバカバカしいと思ってるんじゃないかな。
バカバカしいと思いながらも仕事だからの責任感で儀式を続けるエクソシスト神父とバカバカしいと思いながらもそうでもしないと救いの手を差し伸べて貰えないと感じている悩める憑き人が共同で悪魔幻想を作り上げるとか闇がディープ過ぎるが、でも大なり小なり人間社会そういうもんじゃないですか…と思えばまったく他人事ではないからもう笑えない。そういう映画でした。
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