ドナルドダックじゃない方

ノマドランドのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
この映画、出てくるのは白人ばかりだとしても資本主義社会の周縁で生きる人たちのお話なので物語的にも異邦人がテーマになっていた。役得、ということもないだろうがこれはおそらくアメリカ生まれアメリカ育ちの生粋アメリカンだとなかなか撮れなかっただろうなぁと思わされるのがこのノマドの人たち、そこまで不幸じゃないんだよね。まぁ何を幸福や不幸とするかっていうのは誰にも決められませんけど、社会的弱者という時にイメージされるような単純な弱者ではないっていう感じがした。

こういう逞しい貧困層のイメージって生粋アメリカ人監督ならそのまま称揚することは基本的にない。まあこれだって称揚というとちょっと違うんですが、少なくとも否定からは入ってないんですよね。でも純アメリカ人監督ならやっぱリスペクトはあっても否定から入ってしまうっていうか、たとえば可哀想な貧乏ノマド/恵まれた金持ち都会人っていう構図が先にあって、最初から貧乏ノマドには負の徴が刻まれている。あるいは、もっと単純な社会派映画ならノマドを生みだした社会を告発する方向に行く。ノマドはこんな苦しい思いしてるじゃねぇかっていうのをリアリスティックに描こうとするわけですが、この場合でも、この社会、アメリカ、資本主義というものは基本的に間違っていない(だからこそ告発して過ちを正さなければならない)ということを証すため、その正しいはずのものからあぶれた可哀想な人々としてノマドを捉えるわけです。これだとアメリカ社会の副産物のノマドっていうイメージから先には進めないんですよね、あくまで俺の主観ですが。

翻って『ノマドランド』はどうかというと、そこにはノマド生活の苦痛もあれば快楽もあって、自由もあれば不自由もあって、悲しみもあれば喜びもまたあって、出会いもあれば別れも…という風な感じで、かなりニュートラルに、心情を表現する台詞の極端に少ないドキュメンタリーに近いタッチで撮っている。だから物語の中で否定的な存在とも肯定的な存在ともならなくて観ている側はノマド生活を送る主人公のフランシス・マクドーマンドのアメリカ辺境旅をただ色眼鏡なしで見守るしかない。
これがアメリカなんだなぁってそれ観ながら思いましたよ。良い悪いはともかくやろうと思えばこういう生き方もアメリカ別にできるんですよね。もう単純に、国土広いし。あとコミュニケーション技術が洗練されてるんで仲間同士の互酬的な繋がりが自然に形成されるっていう。そこでサバイバルに必要な物資とか知識を分かち合うから主流から外れた生き方をしても孤立しにくいし、そこで案外幸せになれたりもするんですよ、たぶん。

この映画は異邦人の目から見たあこがれのアメリカなわけです。この美しさはアメリカの空気にケツから頭まで冒されたアメリカ人には逆に発見できないのだろうな。深夜のダイナー、蛾の舞うトイレ、真冬の荒れ野で座り小便。どこが美しいんだという気もするが美しいんだよねそれが。自由の美しさってものがそこにはあるんです。自由の代償もまた。
いいね、すばらしい。
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