ドナルドダックじゃない方

WAVES/ウェイブスのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
2.0
プレイリスト映画とか宣伝で書かれていたぐらいなので冒頭から音音音音音の洪水、一ヶ所に留まってる瞬間なんかあくまで比喩的な意味で一秒もないぐるぐるぐうぃーんすたたたたッなカメラワークとグザヴィエ・ドラン以後を感じさせるアスペクト比遊び、カラフルキラキラな色彩乱舞に煌びやポップンBGMの相乗効果で金持ちパツキン黒人男子高校生の日常がこれでもかこれでもかと輝かしく描かれる。
気持ちがいい音を聴けば気持ちよくなるに決まっているし気持ちのいい映像を見れば気持ちよくなるに決まっている。音楽はツナギスコアもパーフェクト。なんてえげつない映画だ、というのが第一印象だった。

このパツキン黒人男子高校生はイケイケなのでレスリング部の期待の星。みんなの人気者かどうかは知らないが乱痴気パーティにはたくさん呼ばれる。既恋人。学校に行けばレスリング、放課後彼女と陽光デート、家に帰ればオヤジと一緒にパンプアップ・トレーニング、そして夜はパーティだ。嗚呼若さよ。
でもまぁそんな充実生活送ってたらやっぱ人間おかしくなります。ある日この主人公が病院に行くとどうも肩がやばいらしいと診断受ける。どのような傷病か知らないがスポーツの人が言うところの爆弾を抱えた状態らしい。
さて参った、恵まれた者には恵まれた者の苦悩もあるわけで、素直に爆弾抱えちゃってさぁと言えればいいがそうも言えない。なにせ俺様は学校の中心でありレスリング部の期待の星、黒人差別の逆境を力で乗り越え自前の豪邸を建てるまでになったオヤジの息子。パーフェクト人生以外は許されない。

ここまで書いて言うが俺はぶっちゃけ嫌いである。この映画も面白くは観たが嫌いだった。
こんなことを言ってしまうと身も蓋もないのだがぶっちゃけどうでもよくない?そこらのカップルがなんか惚れただの腫れただの、レスリングの試合に出られなくなったらどうしようとかオヤジのプレッシャーがどうとかそういう…どうでもよくないすか? 「どうでもいい」。意味もなくカギカッコを付けたくなるほどどうでもいい話だった。

『WAVES/ウェイブス』が描くのはそうした社会の圧力がもたらす個人の悲劇と社会の圧力に抗する個人の語りの称揚であった。地位も肩書きも宗教も関係ない。社会なんてどうでもいい。本音をぶちまけ語り合おう。わたしとあなたの関係が世界を作る。そのようにして個人と個人の生殖を祝福することで結局は現存社会の温存に奉仕するセカイ系にも半歩入り込んだこの戦略的退行の行き着くところがガラパゴスジャパンのガラパゴスジャンルであるキラキラ映画というのは面白いところであるし、エヴァみたいな島国アニメが欧米でも人気があったりする(らしい)こととも関係するのかもしれないと思えばなお面白い。
面白いのはそうした映画を取り巻く状況であるとか映画の消費のされ方なので、この映画自体は単なる高級なキラキラ映画としか俺には思えなかった。
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