ドナルドダックじゃない方

ゴールデン・リバーのドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

ゴールデン・リバー(2018年製作の映画)
4.0
金と権力だけが物を言う乾いた世界で苦闘する人々ばかりを抑制されたタッチで描き続けるオーディアール監督には言語に依らない関係を基盤とするユートピアのビジョンがある。それをストレートに体現する人物が本作でリズ・アーメッドの演ずる化学者で、この人は黄金で一攫千金を成し遂げた後、ダラスに階級のないユートピアを建設しようとしていたのであった。
しかし前作の『ディーパンの闘い』がクソ弩級の超硬派難民ドラマだったから落差がものすごい。だってこれコメディですもの。これじゃあまるで『働くおじさん劇場』じゃないですか。

コメディっていうか大らかなんですよね。空気がギスギスしてない。フロンティアの開放感でいっぱい。風景は綺麗でゴールドラッシュの風俗描写も目に楽しい。たしかに現代風に色々捻った部分はあるしオーディアール風の静かなサスペンスとか非情な殺しの描写もある、が、その殺伐した印象よりもゴールドラッシュに湧く西部を旅するくたびれおじさん四人のほのぼの感が勝る。

けれどもこのほのぼの、この明るさには暗い影がつきまとう。ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスが殺し屋兄弟で、雇い主である「提督」の命を受けてジェイク・ギレンホールとリズ・アーメッドを捕縛&拷問しに行く殺伐とした筋だからとかじゃない。やっぱりこれもオーディアール映画であり、望まぬ境遇からの脱出願望が四人のおじさんを突き動かしているからだった。その身に深く突き刺さった痛みが反動としてユートピアの夢やほのぼのユーモアを生んでいたわけですよ。
それは西部の男かくあるべし的な抑圧や「提督」が象徴する父の命令の痛みだ。西部劇ジャンルがその度合いを強めていった男性性を今一度フロンティア・スピリットにすげ替えること、そうすることで西部劇の本来的な豊かさをユートピア的に再生しようとした映画が本作なのだとすれば、やるじゃんオーディアールって感じである。
しあわせ映画だ。これは愛せるしあわせ映画。
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