ドナルドダックじゃない方

最後にして最初の人類のドナルドダックじゃない方のレビュー・感想・評価

最後にして最初の人類(2020年製作の映画)
3.7
五十嵐太郎はブルータリズム建築好きにはたまらない映画とTwitterで紹介していましたが、冒頭に出てくる製作プロダクション的な会社のロゴマークがタモリ倶楽部のロゴにそっくりでちょっと笑える感じだったという笑えるとしたらそこだけで後は一箇所も笑える感じのないハードでアートなSF映画だった。

なんでも旧ユーゴスラビアの各所にはスポメニックという共産主義の理念に基づいた独自の建築様式の記念碑がたくさんあって、これはその遺構を廃墟映像集的にモノクロ、フィルム撮影のゆったりカメラで捉えつつ、そこにヨハンヨハンソンなどの荘厳な劇伴が乗って、モノローグが流れる…だけ。あとオシロスコープの映像っていうか緑点がたまに入ってきます。でもそれだけ。つわものどもが夢の跡って感じですね。

感想。なんか怖かったよ。これは良くないわー精神衛生上よくないわー精神状態によっては。俺めちゃくちゃカフェイン過敏なんでコーヒーとか一杯飲むだけで腹緩くなるし心臓バクバク鳴るし同時にものすごい落ち込むっていうか絶望的な気分になることがあるんですよね、体調悪いと。
でこの映画観たときなんですけど、うん、飲んじゃってたねコーヒー。困ったねカフェイン過敏なのに俺コーヒー好きだからね。まぁ体調が良いときは平気だし今日はそんな体調がいいわけでもないけどなんとなくいけるだろと思ったのが甘かったね。いやー…沈んだわー。共産主義の夢と共に精神陥落。

これは進化しまくってついに種の最期の時を迎えた人類が未来から現生人類に語りかけるっていうストーリーなわけですよ。我々はこんな感じで最後を迎えましたみたいな。それをティルダ・スウィントンが淡々と語ってる。で画面に映るのは異形の遺構だけで、人なんか一人も出てこなくて。動くものといったら遠くの鳥とか飛行機雲だけ。監督のヨハンソンはもう亡くなってるし、呪いのビデオかよと思ったよね。そう考えたらオシロスコープ(これはスウィントンの声の振幅を示すものであったが)も心電図に見えてきたね。
ある意味『2001年最後の旅』の行き着く果て。人類の進化の終着点という意味でも、人間なんかどうでもよくて建築物だけを撮るという意味でも。キューブリックだって人間をフィギュアとしか見てなかったでしょうから。ここにはフィギュアとしての人間さえいないわけですが。

基本的にはのっぺりと共産遺構を捉えていく映画なので一種のダークツーリズム映画として(本来は)のんびりと観られるはずの映画なわけですが、一箇所だけラヴクラフトよろしく異様な迫力を持ったコズミックホラー的光景があって、どこの何の遺構だかは全然わからないんですが霧に包まれた並木道があるんです。道の向こうは霧に覆われて何も見えない。でもカメラが定点観測的にジーッとそこを撮っていると、少しずつ霧が晴れてくる。すると霧の向こうにそんな形状のものがこの地球上に存在するとはにわかには信じられないような巨大にして異様な建物が薄らと…そこで、画面は唐突にオシロスコープに切り替わって、未来からの声は最終人類の絶滅が確定したことをわれわれに告げるのです。それはシラフで観ても恐怖以外のなにものでもなかったと思う
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