人口約1万人、高齢化率4割の過疎の町に2019年秋から頻繁に通うようになった広告マンがいる。博報堂の畠山洋平氏と堀内悠氏だ。試行錯誤を重ねながら、ライドシェアサービス「ノッカルあさひまち」を立ち上げた。この経験を武器に、地方の公共交通の課題解決を新たなビジネスの種にしようと意気込む。
新潟県との県境に位置する富山県朝日町。富山市から東に約50km離れ、人口は約1万人、高齢化率が40%を超える過疎の町だ。
そこへ19年秋から週1回のペースで通い続けた畠山氏らは、博報堂でMaaSプロジェクトに関わるメンバーだった。町と対話を続け、20年8月から地域住民がドライバーとなって高齢者を送迎する「ノッカルあさひまち」を始めた。
広告会社の伝統的なビジネスは、クライアントの課題を広告などを通じて解決していくことだ。しかし、博報堂は19年、こうした受け身の取り組みだけでなく、自ら社会課題を見つけ出し、ビジネスに広げていくことを決めた。デジタル技術が広がる一方で、消費者の生活スタイルの変革とは必ずしも結びついていない。そのギャップを、広告会社が持つ視点で埋められるのではないかと考えたのだ。
ビジネスデザイン局で部長を務める畠山洋平氏がその話を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのが田舎で一人暮らしをしている母親のことだったという。過疎化が進み、路線バスの本数はどんどん減っている。今はマイカーで移動しているが、高齢で運転できなくなったらどうなるのか。地方にビジネスの種があるのではないかと考え、課題を探る全国行脚を始めた。
朝日町を訪れることになったきっかけは、ひょんなことだった。コンパクトシティーの成功例として知られる富山市を視察した後、ある人の紹介で「ついでに」(畠山氏)立ち寄ったのだ。もちろんそれまで、朝日町など知るよしもなかった。
ところが話を聞いてみると、地方の課題が凝縮されていた。人口減少で路線バスは20年ほど前に撤退し、タクシー会社も1社だけ。住民の足を支えているのはワゴン車3台のコミュニティーバスだけだった。しかし、利用客は増えているものの、そもそも収支が合っておらず、財政負担を考えると台数をこれ以上増やせない。そんな切実な悩みを抱えていた。「朝日町は課題先進エリア。ここで起きていることは、やがて日本全国に広がる」。そう考えた畠山氏は、朝日町を舞台に社会課題の解決に挑戦しようと決めた。
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