時と永遠
他八篇
宗教的生による時間の克服と永遠性の実現を論じた『時と永遠』は,波多野宗教哲学の到達点となった代表作.講演,随想を併せて収録.
波多野精一(1877―1950)は,日本において宗教哲学を体系的に確立した最初の思想家である.『時と永遠』は,波多野宗教哲学の到達点を示す代表作.無常にして不安定な現世の時間性を克服するためには,「他者」との生の共同による宗教的生によってこそ永遠性への道が開かれることを,透徹した文体により論じる.併せて講演,随想八篇を収録.
■「解説」から
波多野精一の思想は,通常カントから新カント学派に至る批判哲学をその哲学的基礎にしていると言われる.こうした見解に一定の妥当性が認められるとしても,詳細に見ると,波多野において現象学から解釈学へと展開する同時代の思想動向との接点を見出すことは困難ではない.波多野は,自らの独自の哲学大系を構築するというよりも,宗教哲学構想にその思索を集中しており,その哲学の全貌はいわば背後に隠されている.その一端が比較的鮮明に垣間見られるのが『時と永遠』であり,そこに『宗教哲学』からの展開を確認することができる.カント以降の思想状況における宗教哲学はいかなる仕方で可能なのかという問いは,波多野が長年にわたり取り組んだものであるが,哲学的人間学はこの問いに対する波多野の回答の中心に位置している. つまり人間存在より宗教を問う,これが『時と永遠』における波多野の基本的スタンスにほかならない.
凡例
時と永遠
序
第一章 自然的時間性
第二章 文化および文化的時間性
一 文化
二 活動と観相
三 文化的時間性
第三章 客観的時間
第四章 死
第五章 不死性と無終極性
第六章 無時間性
第七章 永遠性と愛
一 エロイーズとアガペー
二 神聖性 創造 恵み
三 象徴性 啓示 信仰
四 永遠と時 有限性と永遠性
五 罪 救い 死
六 死後の生と時の終わりの世
宗教哲学の本質及其根本問題
序
第一章 宗教の学的研究において宗教哲学の占むる位置
第二章 宗教哲学の諸の立場 批判哲学の特質
第三章 宗教の本質
第四章 宗教哲学の諸問題 特に神の観念
第五章 宗教哲学の諸問題 特に救済の観念
講演・小論
カントの宗教哲学について
ソフィストとソクラテス
歴史の意義に関して ギリシア思想とヘブライ思想と
宗教学
プロティノスとカント 宗教哲学の二つの任務
ケーベル先生追懐
三木清君について
注解
解説
略年譜
索引