日刊メルマ瞬報/越前屋俵太『能あるブタのツメはチョキ!』全文を特別公開
※『水道橋博士のメルマ旬報』Vol.108より
2017年 もうすでにあけていまして、おめでとうございます。
ひょんな事から、ご縁を頂いて、水道橋博士さんの「メルマ旬報」に寄稿させて頂いておりますが、昨年に引き続き、本年もよろしくお願いします。まあ、今年は酉年という事なので、こんな写真から2017年は始めたいと思います。私のブログ「人間万事塞翁が俵太」にも書いた文章なのですが、大幅に加筆してメルマ旬報新春スペシャルバージョンでお届けしたいと思います。
皆さん、ご存知かどうかはわかりませんが、今から約20年ほど前、人気番組「探偵ナイトスクープ」に、一人だけ探偵さんの中で完全に浮いてしまっている男がたまに登場しておりました。そうです、何を隠そう、その浮いた男とは、北野誠さんでも桂小枝さんでもなく、当然私の事なんですが、なに故に浮いていたかと申しますと、ご覧の通りその格好が幼稚というかなんというか、頭に鶏をのせ、体は牛のパジャマ姿という、まるで子供が学芸会にでも出るような馬鹿な出立ちをしていたからでした。
それは、もう単なる「かぶりもの」というより、コスプレに近い状態でした。コスプレ自体は当時は、まだ珍しかったのではないでしょうか?今はハロウィンともなると街中コスプレの若者達が平気で闊歩する世の中になりましたが、当時は一般の方は、まだ全身コスプレで人前に出るのは、恥ずかしかったんでしょうね。ディズニーランドでも、オープン当時は子供は別として、大人はまだミッキーの帽子でさえ、気恥ずかしく被れなかった時代だと思います。まあ、一部のマニアの人達は、密室でこっそり、コスプレごっこを楽しんでたみたいですけど!(笑)
そんな時代に、いくらテレビだからといって、そんなことは絶対しないはずの越前屋俵太がよりによってコスプレをしてたんですから驚きです。彼もこっそりマニアだったんでしょうか(笑)。
当時のこのコスプレに関する世間の反応はと言うと、面白がって見ていた人も中にはいたかもしれませんが、ほとんどの方々が、何故そんな格好をしているのかまったく理解出来ず、ちょっと戸惑いながら見ていた感じだったと思います。少なくとも番組の共演者の皆さんは上岡局長を始めとして、全員「なんやそれ?」と言う感じでした。
大体、芸人さんが何故「かぶりもの」を被るのか?と言う話ですが、これは人によって、考え方はもちろん違うと思うのですが、僕は二つあると思っています。まず、ひとつには、被る事で、単純にバカだと思わせて、人を笑わせようとするパターン、もうひとつは、自分で自分を笑う!すなわち自分にあきれたい為にわざわざ被るパターンがあると思います。
簡単に言うと人を笑わせる為に被るか、自分を笑わせる為に被るかです。どちらにしても見てる人からは、変な格好をしているわけですから、同じように笑われますが、被る側としては、どちらかによって全然意味が違ってきます。
僕にとっての「面白い」は、一般の人が生活している中で求める「面白い」ことではなく、面白いことを考えて、それを実行する事を職業にしてしまったんで、少し普通の人とは「面白い」に関しての思い入れが違いました。デビュー当時は本当に、それこそ若者らしく、楽しく毎日を過ごしていたのですが、5年ほど経ってくると、仕事だけに、そのうち毎日毎日、面白い事ってなんだろうと考えるようになって、それが何年も続くと、やはり何が面白くて何が面白くないのかわからなくなって、かといって仕事なので、投げ出す訳にもいかず、落ち込むこともあったりして、本当に苦しい日々が続いていました。そんなある日、ふと鏡を見たら、あれだけ間抜けなくらい明るい顔だったはずの自分の顔が、いつの間にやら眉間にシワがよって、難しそうな怖い顔になっていました。おおよそ人を楽しませるような人の顔つきじゃなくなってたんですね。鏡見て、さすがにこりゃあダメだ!って思いました。
取り敢えず、このままじゃダメだと思って、その辺にある鍋とかを思わず頭に被って、なんとかなるかな思って、鏡を見たのですが、それでも顔は難しいままでした。でも、しばらく、そのまま鏡を見ていたら、なんでそんな難しい顔をしている男が真夜中に鍋を被ってんだろうと思った瞬間、急に馬鹿バカしくなって、おもわず大笑いしてしまいました。
その時に、思いついたと言うか、そうか!取り敢えず何か被ってればいいんだ!そしたら仮にマジな顔をしてたとしても、そのギャップがおかしいかもしれない!そう思うことにして、それから僕は被りだしました。だから、大事な事は、自分が被ってるって事を意識してはいけないって事です。むしろ、被ってること自体を忘れてないといけない。素人さんの場合は、被ることが嬉しいもんだから、如何にも、ほら被ってるでしょ!って感じで、被ってることを意識してアピールしちゃうのでダメです。それでは被っていることで人を笑わそうとしていると思われてしまう。やはり被ってることで、見ている人じゃなくて、自分自身を笑かさないといけない。ただ、見ている人はそこまでわからないから、単純に被ってるってことを笑おうとするんですよね。この辺りが難しいんですよね、「かぶりもの」ってのは。たかが「かぶりもの」、されど「かぶりもの」ってやつですか。
たけしさんが、「世界まる見え!テレビ特捜部」とかで、よく「かぶりもの」をされてたのは、直接聞いたわけではないので、本当のところはわからないんですが、僕はやっぱりわざと情けない格好をして自分自身を笑ってたんじゃあないかと思います。たけしさんクラスになると、わざと笑われたいというか。あえてくだらない事をしたり、自分をよりくだらなくさせるというか、ちょっとうまく言えないんですが、まわりは、バカな格好をしているだけにしか見えてないから、まずわからないと思うのですが、きっと本当は深い意味があるんだと思います。
何故そう思うのかというと、昔「OH!たけし」の中で、たけしさんが、あまりにもくだらないコントをしたり、しらじらしいギャグをされるので、その度、スタジオで僕が大笑いしてたら、ある時、収録の合間にこっそり僕に向かって
「どうだ!くだらなさすぎて、笑っちゃうだろう!芸人はよ、売れれば売れるほど、くだらない事しなきゃいけないんだ!みんな売れちゃうと、急に偉くなったんじゃねぇかって勘違いしちゃって、つい格好つけたりとか、本当はバカじゃあないぞ!と思われたい一心で、ついつい真面目な事を言い出したりとかするんだ!だから、芸人というのは、売れて人気者になればなるほど、敢えて、どんどんくだらないことしなきゃだめなんだ!わかるか越前屋!」って言ってくださいました。
なるほど、そういう事かと思った僕はすぐその事を鵜呑みにして、それからというものは、もう必死になって、くだらないことばかり考えて、本気で実行してたんですが、それがそもそもの間違いだったようです。だって、その当時のたけしさんは、みんなが認めるくらい、もの凄く売れてたから、どんなにくだらない事しても、仰るとおりのくだらない効果で、どんどん人気者になっていかれたんですが、僕は売れてもいないくせに、くだらないことばかりしてたんで、本当にただのくだらない奴だと思われてました(笑)。
まあ、そういう意味で本当にバカでくだらない越前屋俵太でしたが、「探偵ナイトスクープ」のあの格好には、それなりの意味がありました。今年がたまたま酉年ということもあって、今更ながら、昔のことで申し訳ありませんが、20年ぶりにその理由を告白させて下さい。
実はあの格好は、ずばり四文字熟語でおなじみの「鶏口牛後」という言葉そのものを表していました。大きな牛のお尻より小さくてもニワトリのくちばしになれ!という意味で、これは大きな組織に所属して、偉そうにするよりも、たとえ一人であったとしても、自分が頭を張るんだ!という、例えだったと思うのですが、僕にはそれが例え話だとは思えず、本気でそうあるべきだと思い込んでいて、それでおもわず被ってしまった!というのが真相です。
今になって、冷静に考えてみると、そんなに真剣な思いがあったのなら、あの格好の意味ぐらい言っても良かったんじゃないのかと思うのですが、それでも言わなかったというのは、敢えて、何も言わずに笑われてたかったんですかね。それはストイックというか、松田優作的人生というのか、まさしく、どうしようもない当時の越前屋俵太の生き方そのものだったようです。
まあ盗んだバイクで走り出したり、夜に学校の窓ガラスを割ったりとかする事は犯罪だとわかってたんで(笑)絶対しなかったんですけど、本当は深い意味があるのに、わざと誰も理解しないような、変な格好をしてテレビに出るという事が、わかって貰えるとか貰えないとかの次元ではなくて、当時の世の中に対する越前屋俵太なりの精一杯の抵抗だったんだと思います。
それにしても、当時は本当に誰一人として、あの格好の意味に気がついてはくれなくて、ただのモーモーコケコ野郎だと思われてました(笑)。ここがお笑い系の辛いところですね!
単に人を笑かしたいのであれば、そんなややこしいことは言わず、普通にただ面白ければいいわけですし、反対にそんなに世間と闘いたかったのなら、お笑いなんかせずにロックミュージシャンになってストレートに歌で表現するという道もあったと思います。しかし、結局は歌も歌えないし、楽器も出来ないから、まずミュージシャンは無理だろうと勝手に思い込んでました。
そう言えば、ある時、ギタリストのCharさんといろいろ話をしている中で、思い出したように急に僕が「ロックやりたいんですけど、楽器とか弾けないんで、たぶん無理ですよね?」って聞いたらCharさんが「そんなに喋れたら、それだけで十分ロックだ!」って言ってくれて、少し嬉しかった事もありました。もんた&ブラザーズの門田 頼命さんにも、僕が今いちブレイクしないのを門田さんなりに真剣に考えてくれて「俵太は俺らと一緒のノリなんやけどなぁ、なんでやろう!あっそうか!お前は、俺らと違うて、お笑いから出てしもたもんなぁ、ノリは一緒やのに、もったいないなぁ!」って、言われたこともありました。
たぶん、自分のやりたい事と、自分のおかれた状況とか立場との間にギャップがあったんでしょうね。その事も、ある程度わかってたとは思うんですけど、なんていうか、難しいかもしれないけど、誰もやってないやり方というか、表現の仕方ってあるはずだと勝手に思っていて、ずっとそれを探してました。
早い話、出来る事だけををやってればよかったのに、出来ない事ばかりやろうとしてたんですよね。自分で勝手にハードルあげて、飛べない自分を勝手に悔しがってた感じです。
昔、たけしさんと飲んでた時、たまたまロックの話になった事があって、たけしさんが、こんな事を仰ってました。
「みんなロックロックって言うけどよ、ロックなんて簡単だと思わねえぇか?ただ拳を振り上げてストレートに怒りをぶつけて、怒鳴ってりゃあいいんだから。お笑いはよ、そこを無理矢理ひねって表現するんだから、お笑いは意外と高度なんだ!」って。
そうなんですよね。言いたい事があるんなら、ストレートにわかりやすくロックのリズムに合わせて歌えば、それなりには伝わるんでしょうけど、それは当たり前すぎてつまらないから、敢えて、ねじ曲げて表現する。そのねじ曲げ方が色々あって、そこを工夫して、勝負してたわけですから、それはロックに比べたらレベルが高いんですよ!って言えればよかったんですが、それはたけしさんの話であって、早い話がただのひねくれもんだったんですよね、越前屋俵太は!全然、素直じゃなかった(笑)。
そう言えば、昔、「北の屋」に、内田裕也さんがたけしさんを訪ねて来られた事があって、一時はどうなるんだろうと思った事がありました。だって、たけしさんが言ってたロックの話は、もしかしたら内田裕也さんとかの事なのかなと勝手に思ってたんで、もう僕としてはヒヤヒヤものでした。たぶん、たけしさんが内田裕也さんが主演した映画「コミック雑誌なんかいらない!」に出演された事がきっかけで、直接知り合いになられて、その縁で裕也さんがお店に来られたんだと思うんですが、あの人達クラスになると、出会うまではもちろんお互いの存在は知っていて、お互いに意識もしていて、そして何かの拍子に縁があっていきなり出会う訳ですから、なんか凄い殺気に近い緊張感が漂っていました。
言葉は思いのほか少なく、礼儀正しい会話をしながら、もちろんお互いにシャイな方同士だったんで、そんなに盛り上がる訳でもなく、静かに時が経って、最後の別れ際に、たけしさんが丁寧に「裕也さん、今日はわざわざ来て頂いて、ありがとうございました」って挨拶されて、ついでに「明日の朝、神宮で野球するんで、良かったらそっちにも来て下さいよ!」って話をされて、その日は終わりました。
次の日の朝、まさか裕也さんは来ないよね!って言いながら、みんなで朝から神宮で野球してたら、軍団の誰かが「裕也さん来られました!」っていうんで、みたら、本当に内田裕也さんが、およそ野球とは無縁な真っ黒いコートに黒いサングラスという格好をして、「タケちゃん、約束どおり来たよ!」って、挨拶に来られたんで、みんなもうびっくりしました。たけしさんも、「ホントに来ちゃったの、裕也さん」みたいな感じだったんですが、やっぱり、キチンと出迎えられて、コートのポケットに手を入れて、うつむき加減に突っ立ってる裕也さんに向かって、たけしさんが、「裕也さん、せっかくなんで、ちょっと打っていきませんか?」って声をかけたら、裕也さんが「いや、僕は野球は苦手なんで、これで失礼します」って、かるく会釈して、そのまま帰っていっちゃった。
なんなんだ、この人達は!って思いましたよ!内田裕也さんカッコよかったな!だって、約束したっていう理由だけで、野球なんかしないのに、本当にわざわざ訪ねて来て、挨拶だけして帰っちゃうんですから。
後で、「何をしに来たんだ、あの人は!」って、たけしさんも笑ってたけど、なんかお互いにリスペクトしてる感じがして、二人とも格好良かったです。なんて言うか、お二人が作られていた張りつめた緊張感が心地よかったのを今でも覚えています。
最後に少しご報告があります。今年の1月9日から、朝日放送ラジオ「武田和歌子のぴたっと。」毎週月曜日(15時~17時生放送)のレギュラーになりました。ラジコで聞けるのでよかったら聞いて下さい。
なんと25年ぶりの生放送ラジオのレギュラーです。オールナイトニッポンの2部で適当に喋ってた頃が懐かしいですね。昔はすべて深夜帯だったので、言いたい放題で気が楽だったのですが、今回はお昼の時間帯ですから、大変です。
「ジャパネットたかた」のラジオ通販とか「交通情報センターのヤマモトさ~ん!」とかやってます!それは越前屋俵太的には昔だったら、絶対あり得ないんでしょうけど、今だと、反対に面白くて仕方がありません。
嬉しがって、しまいには調子に乗って「それはいっちゃいけないですよ!俵太さん」みたいな事になるんでしょうかね。
そうならないように敢えて関西大学とかの非常勤講師の肩書きで出演していますが、気が付けば非常識講師になってたりして(笑)あ~やだやだ!というわけで、なるべく早いうちに聞いとかないと、気がついたら嘉門達夫さんがやってるかもしれません(笑)。
もうすでに2回放送したのですが、おかげさまで、まだいます(笑)。
てなわけで、今年は、なんだかんだの一年になるとは思いますが、皆様にとっても良いお年になりますように!
越前屋俵太