2021.02.20 18:30

常田大希が語る「祈り」の真意

常田大希(Photo by Masato Moriyama)

J-POPの枠を押し広げ続けているKing Gnuの首謀者でありソングライターである、常田大希によるプロジェクト・millennium paradeの1stアルバムがリリースされた。タイトルは「これがmillennium paradeだ!」と堂々と主張するかのような、『THE MILLENNIUM PARADE』。

本作は、常田にとって大切なものが何層にも重なっているアルバムだと言っていい。常田が目指し続けている、すでにある音楽やアートを壊して再構築し、まだ誰も聴いたことのない音、誰も見たことのないサウンドスケープを生み出すことを、今作でさらにやり抜いている。その上で、自身に起きた身近な人の死を偲び、弔い、葬り、自分と周囲の人生を肯定するかのようなストーリーがアルバムを通して描かれており、常田自身の人生観をひとつの芸術として昇華させているのだ。ただし彼の人生観やエゴをそのまま生々しく吐き出しているのではなく、芸術という尊い世界の中に溶け込ませて、自身にも受け取る人にも希望を見せようとしているのだから、実に美しくて、そしてオリジナリティに満ち溢れている。膨大な音楽の知識量と圧倒的な創造力を蓄えてクリエイトし続けている常田は世間から「鬼才」と呼ばれているが、彼の芸術の根底にあるものは、生命に対する誠実さと、聴いた人に対しても「生き抜け」と愛を持って語りかける姿勢であることを、改めて感じさせられる。

常田大希が2~3年前に友人を立て続けに亡くしたこと。それが彼の人間性においても芸術の創作源においてもとても重要な出来事になっているのではないか。彼が友人の死を告白した「白日」のリリースタイミング以降、彼の歌詞やライブでの姿に触れるたびにずっとそう感じていたが、決して取材で簡単に聞き出せる話ではないだろう。話したくないかもしれないし、音楽を純粋に受け取る上では知らないほうがいいのかもしれない。今回の取材で質問を投げてみても、もしかしたら話を逸らされるかもしれない。でも、『THE MILLENNIUM PARADE』について取材をする役目を担った身としては、このテーマを避けるわけにもいかない。そんなふうに思いながら、取材現場へ向かった。

少し遅れて取材場所に到着した常田は、普段よりリラックスしているように見えるラフな格好で現れ、ときに姿勢を崩しながらソファに腰掛けて、数は少なくてもその一言一言に密度が凝縮されているかのような言葉選びで、ゆっくりと話してくれた。

これまでの6回のインタビューでは触れてこなかった部分にいざ踏み込むために、あえていつもとはちょっと角度を変えて、その場で目についた彼の私物アイテムのことから話に入ってみた。

音楽を作って伝えることで「友達」を増やしてきた

―いつも吸ってるタバコは、LUCKY STRIKE?

常田:LUCKY STRIKEかハイライトですね。

―制作や活動の中だと、どういうときに吸いたくなるんですか?

常田:「行くぞ!」っていうときも吸ってますし、「終わったー!」ってときも吸ってますね。切り替えるときに吸いがちですね。いい区切りになるというか。昔から火が好きっていうのもある気がします。だから落ち着くんだと思うんですよね、タバコの燃えてる様子が。俺ら、火が好きなやつが集まってると思う、MVとかで車も爆破したがるし(笑)。



―『THE MILLENNIUM PARADE』のジャケットも火ですし(笑)。

常田:ペリメト(PERIMETRON。常田が主宰するクリエイティブ集団。millennium paradeやKing Gnuのアートワーク全般を制作)、全員タバコ吸いますからね。今時、俺らくらい吸う人たちも珍しいんじゃないですかね。



―millennium parade(以下、ミレパ)のチームや仲間の強度は、アルバムからもハッキリと感じました。ミレパのローンチパーティー(2018年5月)を終えた直後にインタビューさせてもらったときは「俺が素直に繋がれる仲間が欲しい、というか、友達が欲しい」「自分と違うな、わかり合えないな、って感じることが昔より増えた」「音楽を伝えるということは、自分と似た人を探す、友達を作るということと似ている」という心の内を話してくれましたけど、今回のアルバムを聴くと、友達はちゃんと見つかった手応えというか。

常田:うんうん。

―幸福感はすごくあるんじゃないかなという気がしたんですけど、いかがですか。

常田:年々、開いてきてる感覚はあります。社会とのコミュニケーション能力が上がってきた実感はありますね。それは、音楽力の成長でもあり、引き出しの多さでもあるとは思うんですけど。『THE MILLENNIUM PARADE』も、すごくポップな仕上がりを意識しました。

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2020.06.16 18:00

「ミュージシャンは政治を語るな」に物申す AAAMYYY × ermhoi対談

左からAAAMYYY、ermhoi

世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう中、音楽家はどのように生活をし、なにを考え、行動を起こしているのか。これまで佐野元春SKY-HI野田洋次郎toe・山㟢廣和らに話を聞いてきた本企画にて、平成生まれの意見、かつ女性の意見を聞き出し発信すべく、AAAMYYY(Tempalay)とermhoi(Black Boboi / millennium parade)に取材を敢行した。

両者は、バンド・ソロ・サポートといった形態で音楽活動を活発的にやりながら、社会問題から目を背けることなく、自ら勉強を止めることもなく、SNSなどでも提言や発信を積極的に行っている。「ミュージシャンが政治を語るのはタブー」といった議論も起きる中、なぜ二人はそういった行動をあえて取るのか? ここで語ってくれたその理由は、至ってシンプルだ。

コロナ禍で露わになったあらゆる社会の歪みが、多感で勤勉な二人のアーティストの目にはどう映っているのか。そして、よりよい未来を作るために、どのような価値観を持って我々は生きていけばいいのか。二人に語ってもらった。


ーお二人が対談するのは初めてですよね。思想の部分で、互いに親近感を感じることはありますか?

AAAMYYY:あります。

ermhoi:うんうん。

AAAMYYY:政治とかの話を直接することはなかったですけど、SNSで発信しているものを見て、かなり近い考えなのかなとは思っていました。

ermhoi:そうそう。私は昔からTwitterという宇宙にポーンと一人で投げているつもりで書いてたんですけど、AAAMYYYが強い言葉で想いを語っている姿を見るようになって、「あ、同士ができたかも」っていう(笑)。勝手に励まされたりしてました。


AAAMYYY
長野出身のシンガーソングライター/トラックメイカー。キャビンアテンダントをめざしてカナダへ留学、帰国後の22歳より音楽を制作しはじめ、2017年よりAAAMYYYとして活動を開始。2018年6月からTempalayに正式加入。2019年2月、ソロとしての1stアルバム『BODY』をリリース。他にもRyohuのゲストボーカルやTENDREのサポートシンセ、楽曲提供やCMソングの歌唱、モデル、ラジオMCなど多方面に携わる。



ermhoi
日本とアイルランド双方にルーツを持ち、独自のセンスで様々な世界を表現する、トラックメーカー、シンガー。2015年1stアルバム『Junior Refugee』をSalvaged Tapes Recordsよりリリース。以降イラストレーターやファッションブランド、演劇、映像作品やTVCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、ジャンルやスタイルに縛られない、幅広い活動を続けている。2018年に小林うてなとJulia Shortreedと共にBlack Boboi結成。2019年よりmillennium paradeに参加。

―このコロナ禍で、社会におけるミュージシャンの立ち位置や世の中での音楽・芸術の扱われ方に対して、どういう考えを巡らせましたか?

ermhoi:まず、「後回しにされるんだなあ」ということを思いましたね。芸術関係者への補償が予算案に盛り込まれるというニュースがやっと出たのが5月末で。元々私は、音楽が世界で一番重要だって思っちゃってる人間で、すごく偏っているんですけど、その事実を改めて思い知らされたというか。音楽は、一部の人にとっては大事だけど、医療従事者の方とかと比較するとなにもできないっていう、無力感も感じました。

AAAMYYY:たしかに。

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