音声公開への「反論書」で一層明白になった、横浜市長選山中竹春候補の「パワハラ体質」

8月22日に投開票が行われる横浜市長選挙の立憲民主党推薦で立候補している山中竹春氏(元横浜市立大学学長補佐・大学院研究科長)のパワハラ疑惑を指摘した週刊誌フラッシュの記事について、同党神奈川県連や同党所属の国会議員などが「フェイク」だと喧伝するのに使っていたのが「しらべえ」というネットサイトの記事【菅首相が負けられないため加熱する横浜市長選 山中竹春元教授がフェイクニュース被害】だった。

その「しらべえ」に、前のブログ記事【立憲民主党は、「パワハラ音声」を聞いても、山中氏推薦を維持するのか ~問われる候補者「品質保証責任」】で公開した山中氏の「パワハラ音声」に対する山中陣営の反論書が掲載されている。(【過熱する横浜市長選で山中竹春元教授の音声データが公開 陣営に直撃した】

これは、山中陣営で山中氏から聞き取った内容をまとめたものとのことである。

《「しらべえ」に掲載された「山中氏の反論」》

今般、インターネットの動画投稿サイトにおいて、『山中竹春パワハラ音声』といった音声録音が字幕入りで流されていた。これは、約 2年前の会話が無断で録音されたものであり、この時期にインターネット上で流布されていることについて、大きな問題を感じる。

この会話は、切り取って掲載した人物の意図と全く違う状況でかわされたものである。2019年頃、外部団体から多額の研究費の拠出も受けた研究を横浜市立大学で行なっており、内外の研究機関10箇所程度と共同して行う医学研究の非常に重要なプロジェクトだった。

この音声は、当該研究の担当者が期日までに海外の研究機関等に必要な連絡や書面作成を行わなかったことが明らかになり、また、突如としてプロジェクトから離脱する意思を示したことから、プロジェクトの継続が危ぶまれることとなった状況下で当該人物と山中竹春とで行なった会話の一部である。

この人物による職務不履行はこれまでにもあり、納期のある研究等において支障をきたす状況が続いていた。

動画では、『ほんと、潰れるよ』と発言したことがクローズアップされているが、これは『このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる』という趣旨で発言をされたものである。

また、音声の最後において、『終わりだ』と繰り返し述べているのは、非常に重要なプロジェクトが頓挫し、違約金まで発生してしまうことへの焦燥感から出た発言である。

この前提で、音声データを聞いて頂ければ、相手に対してではなく、研究が潰れる、研究が終わりになるという趣旨で発言していることがわかっていただけると思う。

その後、関係各位のご尽力により、このプロジェクトは契約不履行とはならず、違約金の支払いが発生することなく完了することができた。

公開されている動画は、恣意的に編集がなされているほか、音声がないまま山中竹春の言動として文書で記載されている内容は、全くの事実無根であり、投稿者に強く抗議する。

 上記の反論の中には、「2019年頃、外部団体から多額の研究費の拠出も受けた研究」、「内外の研究機関10箇所程度と共同して行う医学研究」など、山中陣営では山中氏本人しか知り得ない話が多数含まれており、山中氏の現時点での供述と考えられる。

 山中氏は、公開された音声が自分の声だと認めた上で、公開された音声は、2019年頃、外部団体から多額の研究費の拠出も受けた研究で、担当者が、期日までに海外の研究機関等に必要な連絡や書面作成を行わず、突如としてプロジェクトから離脱する意思を示した、というような「職務不履行」があったために、プロジェクトの継続が危ぶまれることとなった状況下での、山中氏と担当者との会話だというのである。

 そして、『ほんと、潰れるよ』と発言したのは、「このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる」という趣旨の発言であり、音声の最後で、『終わりだ』と繰り返し述べているのは、「非常に重要なプロジェクトが頓挫し、違約金まで発生してしまう」という趣旨だそうだ。

山中氏の反論に出てくる「担当者」はフラッシュ記事の「Cさん」

 大学関係者によれば、この山中氏の反論で出てくる「内外の研究機関10箇所程度と共同して行う医学研究の非常に重要なプロジェクト」というのは、「SUNRISE-DI試験」というプロジェクトである。

上記の反論書で出てくる同プロジェクトの「担当者」というのは、上記フラッシュ記事で、山中氏のパワハラ被害者として出てくる「Cさん」に間違いない。

 被害者のCさんは、山中氏のパワハラによって、精神的に追い詰められ、「適応障害」を発症したもので、横浜市大での山中氏のパワハラの中でも特に悪質なものと認識されていた。

私の手元には複数の大学関係者から聞いた話をまとめたメモがあり、そのメモによれば、経過は以下のようなものだった。

 

2018年、山中氏は、ある臨床研究の統計解析責任者としてCさんを指名していたが、2019年1月頃に、Cさんは山中氏から

「この件は私が引き取るのでCさんはやらなくてよい」

「君はもういい」

と言われ、Cさんは、同研究の統計解析の仕事から外れたと認識していた。

ところが、当該臨床研究の共同研究者が海外から2019年3月初旬に来日することとなり、2月下旬に、山中氏はC氏に、

「やはり私は多忙でできないので解析を行うように」

と指示した。

統計解析は、通常、臨床データが固定されてから1か月程度かかることが多く、急ぎの案件でも2週間程度は必要となる。それを、およそ1週間で急遽まとめてほしいということだった。

しかし、作業の進め方に関する具体的な指示はなく、山中氏に確認してから中間結果を報告する日までは、3日間しかなかった。

その中間結果報告では、図表などは後で作成することを前提に、結果の数字をまとめて報告したが、山中氏は、

「これでは全然ダメ」

と一蹴した。

その後、山中氏からほぼ毎日、電話などでの進捗確認があり、頻繁に叱責を受けるようになった。

この頃から山中氏は、感情を荒だてることも多くなり、Cさんに、電話で

「いい加減にしろ」

「さぼるな」

などと怒号したり、

「君のためにプロジェクトが潰れる」

「君がそんなようなら私にも考えがある」

などと叱責したりされたことなどから、Cさんは精神的に追い詰められ、2019年3月、心療内科で適応障害の診断を受けた。

 適応障害の診断を受け、2週間程度休暇をとった後も、Cさんは統計解析を続け、論文投稿まで、統計解析責任者として関わっていた。

ところが、連日必死に解析をおこなったCさんは、論文の共著者から外されてしまった。しかも、論文投稿前に解析に加わった者も、同時に共著者から外されていた。フラッシュ記事で問題とされたのは、この点だった。

しかし、学内関係者の間では、Cさんが適応障害になった直接の原因は、中間報告後の電話などでの頻回の進捗確認やその際の叱責・怒号であり、そのような山中氏の言動が、重大なパワハラ問題として認識されていた。

 フラッシュ記事でその点が取り上げられていないのは、Cさん自身がフラッシュの取材に協力していなかったことと、録音等の直接の証拠がなかったことが理由だったのであろう。

山中「反論書」によって明らかになった事実

 今回、パワハラ音声の公開に対する「反論」として、山中氏は、音声が、自分自身のCさんに対する発言であることを認め、「このままでは非常に重要なプロジェクトが潰れる」という趣旨で「潰れるよ」と言ったと説明している。

実際の音声データの中では、

「僕は最後の行動に出るからね。君が、君がわからない知らないような。ほんとにそれでもいいんだったらー、ほんと潰れるよ」

というような恫喝的発言をしているが、そのような発言をした相手がCさんだったと認めているのである。

 上記のとおり、Cさんが、2019年3月頃、山中氏から電話で叱責された際に言われたという

「君のためにプロジェクトが潰れる」

「君がそんなようなら私にも考えがある」

などの発言をしたことを認めたものと言える。

 この点について、Cさんに話を聞こうとも考えたが、Cさんは、今回のフラッシュの記事が出たことで、報復を恐れ、山中氏の件には関わらないようにしているとのことであった。(フラッシュ記事でも「私はもう大学を離れていますし、この件には関わりたくありません」と述べている。)

 しかし、今回、山中氏が、Cさんに対して、上記のような発言をしたことを認めているのであるから、今後、山中氏からのパワハラ被害について、横浜市や市大で調査が行われる可能性があり、その場合は、調査に応じる意向を示しているとのことだ(大学関係者の話による)。

公開したパワハラ発言の相手は、「Cさん」ではない

 以上のとおり、パワハラ音声の公開によって、山中氏は、Cさんに対するパワハラ的発言を行ったことを自ら認めたのであるが、ここで、重要なことを明らかにしておかなければならない。

それは、公開したパワハラ音声を提供したA氏は、上記のCさんではなく、全然別の立場の人だということだ。

 音声の公開の時点では、情報源が特定されないよう、事案の内容は抽象化し、A氏の声などは音声データから削除した。しかし、公開された発言だけでも、上記のような露骨な脅しをかけた相手が誰であるかは覚えているはずなので、山中氏にはA氏が誰であるかはわかることも覚悟していた。

しかし、山中氏は、音声を聞き、A氏ではなく、発言の相手がCさんであるとした上、山中氏の発言は、Cさんの側の「職務不履行」が原因だったとして、パワハラ的発言を正当化しようとしている。「職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、他者に対して、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与える」というパワハラ体質を象徴するものと言える。

音声で公表したようなA氏に対して行った発言は、実は、A氏だけでなく、他の人にも、日常的に行っていたことになる。

A氏は、公開された音声について、山中氏がCさんが発言の相手方であったかのように反論していることを知り、それを否定するのに必要な情報の最低限の情報開示に同意してくれた。

A氏が山中氏から受けた「不当要求」、パワハラ発言

前のブログ【立憲民主党は、「パワハラ音声」を聞いても、山中氏推薦を維持するのか ~問われる候補者「品質保証責任」】で指摘したように、山中氏については、「外形的なパワハラ」の一つとして、「大学関係者がいる前で、教室の出入り業者や製薬企業の営業を大声で怒鳴り叱責する。」という行為があった。

音声データの提供者であるA氏は、横浜市立大学と契約を締結しようとしていた比較的小規模の企業の役員であった。学長補佐・大学院研究科長として、横浜市立大学の契約締結に大きな影響力を有していた山中氏は、同企業は同大学との契約を失うと会社が存続できないとの認識の下に、優越的地位に基づいて、「会社の役員を変更しろ」という不当な要求をしていたのである。

取引先の役員構成に口出しをするなどということは、民間企業同士の取引でも、認められるものではない。公立大学の学長補佐が、契約を締結しようとしている企業の役員選任に介入するなどということはなどということは絶対にあり得ないことである。

山中氏に対して、「そのような要求には応じられない」と拒絶し続けていたA氏は、公開した音声データに出てくる露骨な恫喝を受けることとなった。

先般、A氏から提供を受けた山中氏の音声データを一部YouTubeで公開したが、その前の部分で、以下のとおり、取引先業者であるA氏に対する露骨な「脅し」の発言をしている。

山中:だけどね僕らーと、僕とねー、こんなことになったらー、君、大学の日本の大学病院に多く入れられなくなるよ、色んな病院に。

(A:はい。)

山中:マジで商売できなくなるからね。

(A:はい。)

山中:本気だよ、俺。こんだけ俺に、ここまで恥かかせてといてー、俺もうこれで県庁のコネとかー、大学での信用とかパアだから。…

上記部分を含む音声を【山中竹春氏パワハラ発言 音声&起こし(第2弾)】と題して、YouTubeで公開する。

「ほんと潰れるよ」という言葉は、山中氏が反論書で言っているような「プロジェクトが潰れる」という意味ではなく、「会社が潰れる」という意味である。

それは、「言うことを聞かなければ、最後の行動に出て、会社を潰してやる」という脅しなのである。

大学の取引先の企業の経営者を「会社を潰す」と言って脅迫し、不当な要求をしているのであり、刑法上「強要未遂」(刑法223条3項)に該当する犯罪である。

優越的地位に基づくパワハラ言動の構図の共通性

山中氏のパワハラは、横浜市大内部でも多数の被害者を生じている。しかし、彼らは、学長補佐・研究科長として学内で絶大な権力を持っていた山中氏のパワハラを告発することなどできなかったし、市長選挙で当選し、横浜市長に就任する可能性が高まっている山中氏に対して、名前を明らかにしてパワハラ被害を公にすることなどできない。

そのような学内のパワハラと形式は異なるが、実質的には同じ構図の事象が、A氏に対する不当要求と、それに際して発せられた山中氏の恫喝的発言なのである。

そして、山中氏は、その音声を聞いて、学内者である「Cさん」に対する発言だと思ったのである。それは、山中氏のパワハラ言動が、教職員・学生等の学内者に対しても、契約関係にある学外の業者に対しても、同じように行われていたということと、それらは優越的地位に基づく恫喝的言動・強要という点で全く同じ構図であることを、端的に示している。

山中氏のパワハラの事実は、今回の「反論書」からも一層明白となった。

このようなパワハラ体質そのものの人物が横浜市長の強大な権限を握った時、どのようなことが起きるのか、想像に難くない。

8月22日の横浜市長選挙では、山中氏の優勢が伝えられているが、仮に、当選したとしても、新市長に就任する前に、「パワハラ問題」、「横浜市大学内文書発出強要問題」、「NIHリサーチフェロー経歴詐称問題」など、様々な問題がマスコミ報道で噴出し、市議会での追及の対象となることは避けられない。

「市長候補」の品質保証責任を厳しく問われることになる立憲民主党にとって、衆院選に向けての最大のリスクになりかねない。

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立憲民主党は、「パワハラ音声」を聞いても、山中氏推薦を維持するのか ~問われる候補者「品質保証責任」

横浜市長選挙の投開票日(8月22日)まで一週間を切り、マスコミ各社の情勢調査の結果が報じられているが、立憲民主党山中竹春氏が自民党系の小此木八郎氏をリードしているとする報道が相次いでいる。

先週末、市民インタビューを受けた際に聞いた話でも、街頭で、市長選の投票先を質問すると、山中氏との答が小此木氏を大きく上っており、新型コロナ感染爆発の中で、菅義偉政権のコロナ対策に対する怒りが、自民党系候補、特に、菅首相の全面支援を受ける小此木氏に対する強烈な逆風につながっているようだ。

このままの情勢が続くと、山中氏の当選という事態も現実のものとなりかねない。

しかし、山中氏については、パワハラ問題、経歴詐称問題、コロナの専門家ではないのに専門家であるように偽っている、などの多くの問題があり、市長としての適格性について重大な疑問があり、私は、立憲民主党側にもこの点についての説明責任を求めてきた(【横浜市長選、山中候補の説明責任「無視」の立憲民主党に、安倍・菅政権を批判する資格があるのか】)。しかし、これまでのところ、同党側には、説明責任を果たそうとする姿勢は全く見えない。

そこで、本稿では、山中氏のパワハラ問題について、決定的な証拠を提示し、このままでは、仮に、山中氏が、市長選挙で当選しても、重大な「品質保証責任」が問われざるを得ないことを指摘する。

山中氏のパワハラに関する情報入手

山中氏のパワハラ問題を、最初に指摘したのは、8月3日発売の週刊誌フラッシュのネット記事【横浜市長選「野党統一候補」がパワハラメール…学内から告発「この数年で15人以上辞めている」】であった。

私が、記者会見等で山中氏の「市長としての適格性」を疑問視し、ブログ(【横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を】【私が横浜市長選にこだわり続ける3つの理由、「民意」「支配」「適格性」】)でも指摘するようになった7月下旬頃から、私の事務所には、多数の関係者から、山中氏に関する様々な情報が寄せられていた。

上記のフラッシュ記事は、そのような情報提供で私が把握していた内容に概ね沿うものだった。

しかし、一方で、山中氏が、フラッシュの報道に対して出したホームページでの反論の中で、フラッシュからの質問状を公開したことで、関係者の個人名が一時ネットにさらされ、関係者が様々な不利益を受ける事態になった。

山中氏は個人情報を黒塗りにしていたが、そのやり方が容易に関係者の個人名が判明するようなものだった。「データサイエンティスト」を標榜する山中氏が、そのことを予想しなかったとは考えにくく、被害者に対する報復の意図で個人名を晒した疑いも否定できない。意図的なものだとすると、目的のためには他者の立場を無視するパワハラ体質の表れだと言える。

このようなフラッシュ記事に対する山中氏の対応が、パワハラ被害者を、さらに心理的に追い込むことになった。パワハラ被害者は、もともとパワハラ被害を大学当局に申告することができなかった人達だ。フラッシュの取材に協力したかのように疑われたことで、山中氏から報復を受けることへの懸念は一層高まった。しかも、その山中氏が市長選挙で当選し、横浜市長になる可能性が現実のものとなっているのである。山中氏のパワハラ問題について情報提供し協力してくれた人達について、協力の事実が山中氏の側に絶対にわからないよう配慮することが必要となった。山中氏のパワハラの事実には確信をもっていたが、それを具体的に指摘することは容易ではない状況だった。

山中氏の横浜市大におけるパワハラの概要

私が把握した横浜市大での山中氏のパワハラは、概ね次のようなものであった。

  1. 外形的なパワハラ
    ・「お前なんか辞めちまえ!やめろ!」と大声で怒号。
    ・怒って話しながら机をバンバン叩く。
    ・電話の受話器(子機)やボールペンを机に向かって投げつける。
    ・教授室の冷蔵庫から製氷皿を取り出して怒りながらシンクの脇にバンバン叩きつける。
    ・大学関係者がいる前で、教室の出入り業者や製薬企業の営業を大声で怒鳴り叱責する。
     
  2. 権限を使った陰湿なパワハラ(被害者は部下の教員、秘書、事務職、大学院生等)
    ・ちょっとしたきっかけで、直接会うことをひたすら避ける。電話には出ないか、出ても聞かずに切られる。メールへの返信もない。意思疎通が殆どない状況で、疎ましく思われていると感じさせる。
    ・山中氏から解析業務を指示され実施したが、解析結果のズレなどがあると怒号。納期が近づくにつれ、電話やメールによる催促が頻繁となり、2週間程度土日や深夜構わず作業を行ったことで心身に不調をきたし、退職に追い込まれる。
    ・山中氏がデータセンターの責任者であった研究でデータ入力ミスが発覚し、山中氏から怒号を受け、その後仕事が与えられなくなり、最終的には退職となる。
    ・このような山中氏の陰湿なパワハラのために精神的に追い込まれ、適応障害等の精神症状に陥った被害者もいた。

「落選運動」の開始とA氏のパワハラ被害についての音声データ入手

8月5日に、私は、記者会見で、市長選への出馬意志を撤回し小此木・山中両候補の落選運動に転じることを明らかにした。その2日後の8月7日、郷原総合コンプライアンス法律事務所宛てに、「山中氏が横浜市長になることはコンプライアンス・ガバナンス上大変な問題を有しています」とするメールが届いた。メールを送ってくれたA氏から詳しく話を聞いたところ、A氏は山中氏のパワハラに遭い、その際のやり取りを録音した音声データも保存していることがわかった。A氏は、山中氏が市長になることは何としても阻止したい、自分の名前等が特定されない範囲で、私の「山中候補落選運動」に協力したいと言ってくれた。

A氏から聞いた山中氏との関わりの概要は以下のようなものだった(パワハラ被害者が特定されないよう、事案の内容を抽象化している)。

【概要】

山中氏は、一緒に仕事をしていたA氏に業務に関係のない不当な要求を繰り返していた。山中氏の要求はとても応じられるようなものではなく、A氏は、上司から、山中氏からの電話にでないよう指示されたので、しばらくの間、山中氏からの電話に出なかった。ところが、あまりにしつこく電話がかかってくるので、仕方なく電話に出たところ、山中氏は、「電話に出ろ!殺すぞ!」と言った後、さすがに拙いと思ったのか「殺すって言っても、社会的にな!」などと付け加えた。

その言葉を聞いて怖くなったA氏は、それ以降、山中氏からの電話を録音することした。その後も、山中氏からの不当な要求は続いた。山中氏との電話を録音した記録の一部が、以下の音声データである(被害者が特定されないよう、A氏の音声は消去し、山中氏の発言のうち、特定につながる可能性のある部分は消去している)。

[起こし] ()は消去部分

山中:だからそうやってねー、ごちゃごちゃごちゃごちゃ言ってねー、結局ねーかわすじゃないか君は。

(A:なんですか?)

山中:君はそうやってかわすじゃないか。

(A:いやいや…)

山中:こちらの要望を。それでさー、書けって言ったのにさー、書きもしないしさー。いやもう僕は最後の行動に出るからね。君が、君がわからない知らないような。ほんとにそれでもいいんだったらー、ほんと潰れるよ。

(A:先生、ですので、私は、)

山中:だから俺が言ってんのはー、いい?

(A:はい。)

山中:俺が言ってんのはー、(***)をお前に決めろなんて一言も言ってないじゃん。

(A:はい。)

山中:(***)しなければならない理由をディテールドに君が理解してるんだったらー、それを英語の文章にしてー、出せって言ってるだけじゃん。それを君ははいって言ったけどー、やらないじゃん。昨日のー、昨日中にそんな文面を送ってくる予定だったのにー、こんなん出しましたみたいなほんとかどうかわかんないようなメール出してさ。であげくの果てには(***)には言ってるとかさ。そんなやつのことなんて一言も知らないよ。

(A:前回のメールにも書きましたが、)

山中:もう終わり終わり終わり、終わりだ。もう終わり終わり終わり終わりだ。終わり終わり終わり終わりにしよ。終わりだ、もう。

 

【解説】

この山中氏とA氏のやり取りについて、A氏が特定されない範囲で、若干の解説を加えておこう。

ここで、山中氏がA氏に要求していることは、それを受け入れることはあり得ない、法的にも認められる余地のないことだ。要求自体が山中氏の明らかな権限逸脱行為だ。A氏がそれに応じないのに対して、山中氏は、「君はかわす」と言って非難している。

その要求に関して、山中氏はA氏に書面を書くことを要求していた。「書けといったのに」と言っているのは、その書面のことである。

それを拒否したA氏に対して、「もう僕は最後の行動に出るからね。君が、君がわからない知らないような」「ほんと潰れるよ」と言っているのは、山中氏が、A氏が、その先、仕事ができなくなるような手段に出る、それも、A氏がわからないところで、実行してやる、という露骨な脅迫だ。

「昨日中にそんな文面を送ってくる予定だった」というのは、山中氏側に一方的に言っているだけで、A氏が約束したことではない。それなのに、その書面を書かずに、メールで婉曲的に断ったことについて、「ほんとかどうかわかんないようなメール出して」と厳しく責めている。

そして、最後に、山中氏は、「もう終わり」と言い、「終わり」という言葉を13回も繰り返している。それは、山中氏のA氏に対する絶縁を意味する。

A氏は、結局、その要求に応じなかった。それは、もし、山中氏が、その先仕事ができなくなるような手段に出ても、A氏の側も法的な対抗手段など取りうる手段はあり、その手段に出ようと考えていたからだ。

A氏の場合は、そういう対応ができたから、山中氏に「潰される」ことはなかった。しかし、山中氏から、同じようなやり方で不当な要求を受け、対抗する方法がなければ、拒むことができず、応じてしまう人間が大部分ではないだろうか。

山中氏というのは、こういうやり方で、不当な要求を押し通していく人間なのだ。

山中氏のパワハラの事実を否定する余地は全くない

山中氏は、フラッシュの記事で報じられたパワハラの事実を全面否定しているが、上記の音声データが「山中氏のパワハラ」の何よりの証拠である。

私は、A氏の話を聞き、音声を聞き、背筋が寒くなる思いだった。不当な要求をここまで執拗に繰り返し、電話で恫喝する。少なくとも、下位、劣位の相手にそのような行為を繰り返したら、相手は、精神的に追い込まれ、メンタルを病むことにもなりかねない。その山中氏は、横浜市大の大学院研究科長、学長補佐という立場にあり、強大な権限を持っていた。そのような人物からパワハラ被害に遭った場合、報復をおそれ、大学やハラスメント委員会に申告などできないのは当然だ。たいていの被害者は、更なるパワハラから逃げるため、黙って職場を去っていくことになるのである。

フラッシュの記事が報じたパワハラの事実については関係者の話からもほぼ間違いないと確信していたが、A氏の話と音声データによって「山中氏のパワハラ」が客観的に裏付けられた以上、疑う余地は全くない。

山中氏が、横浜市大教授在職中に突然、市長選への出馬が報じられたことに関して、理事長・学長名で出された学内文書に因縁をつけ、大学当局に、山中氏の評価を含む文書を発出するよう強要し、『素晴らしい研究業績』などという山中氏を称賛する文言を含む文書を発出させた事実についても、市議会議員の関係者から情報提供を受け、文書も入手していた(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)。常識をわきまえた人間であればあり得ない行為、山中氏のA氏への不当要求と構図は共通していると言えよう。

「パワハラ市長」就任は、コンプライアンス崩壊を招く

15人もの大学関係者が大学を去っていくことにつながった山中氏の市大内部でのパワハラも、学内文書発出の強要も、横浜市大が被害者の保護を確約した上で内部調査を行えば、容易に判明する事実だ。

自民党や菅政権への「大逆風」を追い風にして、仮に、山中氏が市長選に当選したとしても、選挙後、ただちに上記の各点が調査の対象とされるべきは当然だ。

調査の結果、上記の事実が判明した場合、山中氏を、そのまま横浜市長に就任させ、市長の絶大な権限を握る立場に立たせてもよいのだろうか。

地方自治体のコンプライアンスにとって最も重要なことは、外部からの不当な要求に屈し、市の利益、市民の利益を損なってはならないという「不当要求の拒絶」、そして、内部的には、自治体の組織内でのパワハラによって、職員のメンタルの問題、自殺等が発生することを防止する「パワハラ防止」である。毎年度、市役所内の様々なレベルで、コンプライアンス研修を積み重ねてきた重要な目的がそこにある。

「パワハラ市長」が誕生した場合、私がコンプライアンス顧問等として長年関わってきた「横浜市のコンプライアンス」が、たちどころに崩壊することは間違いない。

A氏は、私に、こう語っていた。

「私の場合は、山中先生の要求に屈しなかったので、結果的に大きな実害を受けることはありませんでした。しかし、普通、それでは済まないと思います。私は、山中先生には何の恨みもありません。パワフルに結果を出していくという面では、大変有能な人だと思います。しかし、山中先生が、「コロナの専門家」などという耳障りのいい言葉を刷り込む選挙活動のために、市長選挙で当選し、もし市長の権力を握ってしまったら、どれだけの人がパワハラの被害に遭い、辛い思いをし、不幸になっていくか想像もつきません。横浜市立大学において山中竹春という人物と関わり、仕事をした自分は、私のもつ情報(ある側面の情報)を提供して、312万人の有権者に投票の判断を頂きたいという一存で、郷原先生の事務所の公開アドレスに連絡をしたのです。」

立憲民主党の市長選候補者についての「品質保証責任」

山中氏のパワハラ疑惑を報じるフラッシュの記事に対して、立憲民主党の国会議員や県議・市議は【菅首相が負けられないため加熱する横浜市長選 山中竹春元教授がフェイクニュース被害】と題する記事を、反論のために引用してきた。

同記事では、

「山中元教授が務めた横浜市立大学もハラスメント委員会を設けている。公立大学だから、私立に比べて、ハラスメント対策はより厳しい。」

「大学側も『ハラスメント対策は厳正に行っている』と答えている」

「ハラスメント委員会に山中元教授を告発したケースは1件もない」

などを、山中氏のハラスメントを否定する根拠であるように述べている。

上記のA氏とのやり取りの音声を聞けば、山中氏のパワハラ疑惑を「フェイク」などと言い続けることができないことは明らかだ。

山中氏が、仮に、市長選挙で当選したとしても、上記の「パワハラ問題」により、同氏の市長としての適格性に対する重大な疑問に直面することになる。同氏と推薦した立憲民主党には「品質保証責任」を問われることになる。

それが、直前に迫っている衆議院総選挙で立憲民主党に大打撃を与えることになる。

そのような事態に至らないようにするためには、「パワハラ問題」について、早急に山中氏から聴取し、山中氏を「横浜市長となるに相応しい人物」として、市長選での市民の判断に委ねることができるのか、市長選挙に向けての対応を再検討することしかない。

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横浜市長選、山中候補の説明責任「無視」の立憲民主党に、安倍・菅政権を批判する資格があるのか

新型コロナ感染爆発の下での東京五輪開催、コロナ対策の失敗等で、内閣支持率も菅内閣発足後最低を記録しており、政権崩壊すらあり得るという状況になっている。本来ならば、野党第一党の立憲民主党にとっては、政権奪取の絶好のチャンスだ。しかし、野党第一党の立憲民主党の支持率も一向に伸びない。

こうした中、8月8日、横浜市長選挙が告示された(22日投開票)。菅義偉首相のお膝元、日本最大の政令市の横浜市で行われる首長選挙は、史上最多の合計8人が立候補しており、今秋に行われる衆議院議員選挙の前哨戦とも言われて、注目を集めている。

立憲民主党は、横浜市立大学元教授の山中竹春氏の推薦を決定し、告示前から組織を挙げて支援運動を展開してきたが、この山中氏については、データサイエンティスト、コロナ対策の専門家などの触れ込みへの疑義や、学歴・経歴への疑問、横浜市大でのパワハラ疑惑など様々な問題が指摘されてきた。それらの問題について全く説明責任を果たさないまま山中氏擁立を強行した立憲民主党は、目前に迫る衆院選に向けて重大なリスクを抱え込むことになった。

横浜市、立憲民主党それぞれと私との関係

私は、2007年からコンプライアンス外部委員として、2017年からはコンプライアンス顧問として、各部局・区で生起する様々な不祥事・コンプライアンス問題について、対応を助言したり、各区局の幹部へコンプライアンス研修を行ったりして、横浜市の行政に深く関わってきた。私の持論である「組織が社会の要請に応えることとしてのコンプライアンス」を横浜市で実現すること、つまり、「横浜市の組織が、市民や地域社会の要請に応えていくこと」に向けて、私なりに全力で取り組んできた。

一方で、2009年に発足した民主党政権下では、総務省顧問・コンプライアンス室長を務めたほか、その後発足した自民党安倍政権が長期化する中で、2012年の安倍政権発足後、安倍政権及びそれを継承する菅政権と対立する野党の民主党、民進党、そして、現在の立憲民主党に、刑事実務・コンプライアンスの専門家として協力してきた。

安倍首相の側近の甘利明氏の斡旋収賄事件、森友・加計学園問題、桜を見る会問題、河井夫妻多額現金買収事件などの不祥事、事件が発生する度、安倍首相や政権側に対して厳しい批判を行い、野党側の国会での公述人・参考人陳述や、野党ヒアリングなどに応じてきた。

私としては、「安倍一強」と言われていた政治状況の下で、政権に対抗する政治勢力を少しでも高めることができればと思い、可能な限りの協力を惜しまなかった。

今回の横浜市長選挙は、市民と地域社会の要請に応える横浜市政を実現できる新市長を選ぶための極めて重要な選挙であり、私も大きな関心を持ってきたが、その市長選においても、これまで協力関係を継続してきた立憲民主党が重要な役割を果たしてくれるものと期待していた。

しかし、江田憲司氏を中心に行われた候補者選定で、6月に入って出てきた名前は、DNAベイスターズの初代社長の池田純氏、そして、山中竹春氏だった。

6月20日頃、「立憲民主党が横浜市立大学教授の山中竹春氏を、市長選挙に擁立へ」と報じられた。私は、この時以降、山中氏について多くの人から話を聞き、情報・資料を入手してきたが、山中氏は、市長に相応しい人物ではないどころか、絶対に市長にしてはならない人物であると思わざるを得ななかった。

同じ頃、自民党側では、「小此木八郎氏が現職閣僚を辞任して横浜市長選挙に出馬する意向」と報じられた。菅首相と昵懇の間柄の小此木氏が当選し、市長となることは、かねてから横浜市の幹部人事や横浜市政に大きな影響を持ってきた菅首相の関与を一層高めることになる。まさに、「菅支配の完成・盤石化」を意味する。それは、横浜市民のための市政に一層逆行することになるものと思えた。

自民党側の小此木氏に対抗する立憲民主党側が山中氏を擁立することになれば、横浜市民にとって、最悪の市長選挙となりかねない。何とか阻止しなければならないと思った。

山中氏が「市長にしてはならない人物」と確信する根拠

山中氏について、私がそこまで断言するのは、相応の根拠に基づくものだ。私の情報源は、横浜市大の内部者、医療情報の分野の専門家、医療ジャーナリスト、神奈川県内の医師、など、多岐にわたっている。

特に、横浜市大は、私が横浜市のコンプライアンス顧問在任中に発生した不祥事への対応で深く関わったことがあり、大学関係者の多くと面識があった。

その不祥事というのは、2019年8月に、横浜市大医学部で発生した「臨床研究におけるメール誤送信による患者情報の漏えい」の問題だった。

問題を把握した時点から、当時の理事長から頻繁に連絡を受け、不祥事対応の助言を行い、第三者委員会の設置に際しても、当時の市大病院長(現学長)とともに独立行政法人国立病院機構理事長を訪ねて、委員長就任をお願いした。その後、私の事務所スタッフに第三者委員会の調査を担当させ、翌年、委員会の調査報告書が公表された。

今回、山中氏の人柄、能力・資質、同氏の市長選への出馬に関して横浜市大の内部で起きていることについて、情報を入手し、様々な話を聞くことができたのは、私自身や私の事務所スタッフが横浜市大内部に豊富な人脈があったことも背景となっている。

これらの情報に基づき、私は、立憲民主党が市長選候補者として擁立しようとしている山中氏が「市長に相応しくない人物」であることに確信を持ち、立憲民主党の県連会長や党本部選対幹部など各レベルに伝え、再検討するよう求めた。しかし、「候補者選定は江田憲司氏に一任されている」とのことで、誰も口を出せないとの話だった。

その際、県連関係者が口にしていたのが、「他にいい候補がいない」という話だった。6月10日頃、江田憲司氏と電話で話したこともあったが、その際、江田氏は、「素晴らしい候補者が複数手を挙げていて調整に困っている状況だ」と言っていた。しかし、実際には、候補者の人選を江田氏がすべて自分で抱え込み、その結果、江田氏が独断で候補者を山中氏に絞り込んだものだった。

自らが市長選に出馬の意志を表明する決断

立憲民主党が山中氏を推薦し、野党統一候補にしていこうとしているのであれば、何とかして阻止しなければならない。そのためには、自分自身が出馬の意志があることを伝え、山中氏を候補として擁立しない選択肢を示すしかないと考えた。

私は、県連会長や、党本部の選対幹部などに、改めて山中氏は横浜市長にしてはならない人物であることを説明するとともに、「7月6日の横浜市のコンプライアンス委員会までは顧問職を全うしたいと考えているので、市長選挙について自ら表明することはできないが、横浜市長選出馬に向けて覚悟を固めている」ということも伝えた。

しかし、立憲民主党側では、山中氏擁立の方針を変える気配は全くなかった。

私は、7月6日のコンプライアンス委員会の終了をもって、顧問を退任し、翌日に開いた記者会見で、「解除条件付き出馬意志表明」を行った。そして、山中氏のデータサイエンスの専門性、コロナの専門性等について質問を行い、その質問状への回答によって山中氏の市長としての適格性と政策の共通性が確認できれば私は立候補の意志を撤回すると述べた。それは、逆に、山中氏の市長としての適格性が確認できないようであれば、擁立を再検討すべきとの趣旨を含んでいた。立憲民主党側が私の質問状を受け止めて、真摯に対応しようとすれば、山中氏は市長に不適格な人物だと判断されるものと確信していた。

会見の前には、事前に立憲民主党福山哲郎幹事長とも面談し、質問状も渡して、趣旨も説明していた。質問状を受け取った阿部知子県連会長からも、「必ず書面で回答させます」という丁寧なメールが届いていた。

不誠実極まりない立憲民主党側の対応

7月14日、江田氏と、青柳陽一郎県連幹事長、藤崎浩太郎横浜市議の3人が、私の六本木の法律事務所を訪れ、山中氏に代わって、回答の内容を伝えてきた。私の質問状に対して、いずれも、合理的な説明は困難とのことだった。山中氏が標榜している「データサイエンスの専門家」「コロナの専門家」には、具体的な根拠や内容はなく、単に、選挙向けに使っているに過ぎないという話だった。

その結果、私が出馬意志の「解除条件」とした、「山中氏の市長としての適格性」が確認される可能性がなくなったため、7月16日の会見で、私は、横浜市長選挙への出馬の意志を、改めて明確に示した。

7月7日、7月16日のいずれの会見も、その動画をインターネットで公開した。会見の趣旨に賛同する反応が相次いて寄せられ、山中氏の市長候補者としての適格性には重大な問題があるとする多くの人からの情報提供があった。

それらの情報から、私は、山中という人物は、絶対に市長にしてはならない、万が一にもこのような人物が市長になることは、横浜市民にとっても、横浜市の職員にとっても「災害」に近い事態になると確信した。

出馬意志表明後も、私は、山中氏が「市長に相応しい人物」ではないことについて、多くの根拠を示して、ブログ等で指摘してきた。(【横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を】【私が横浜市長選にこだわり続ける3つの理由、「民意」「支配」「適格性」】)。私は、立憲民主党側が山中氏擁立を再考することを、諦めていなかった。

しかし、立憲民主党本部も、江田憲司代表代行に支配された神奈川県連も、私の指摘に全く耳を貸さなかった。そして、党所属国会議員・県議・市議らが、コロナ禍にもかかわらず、街頭で幟を立てたり横断幕をかざしたりして人を集め、「8月22日横浜市長選挙立候補予定者山中竹春」の名前を広める「事前運動まがいの活動」に邁進したのである。

山中氏のパワハラ疑惑

8月3日発売の週刊誌フラッシュのネット記事【横浜市長選「野党統一候補」がパワハラメール…学内から告発「この数年で15人以上辞めている」】で山中氏のパワハラ疑惑が報じられた。

私の法律事務所は、事務所名からも明らかなようにコンプライアンス専門事務所だ。

多くの企業からコンプライアンス体制の構築の依頼を受け、全従業員のアンケート調査等によるコンプライアンスの実態調査も行っている。もちろん、パワハラの問題は、最近ではあらゆる組織にとって重要なコンプライアンス問題であり、通報があった事案の調査も多数行っており、パワハラの実態については精通している。

この山中氏のパワハラ問題については、当事務所にも、情報提供・協力の申出があり、私自身が、その被害者の一人から直接聴取して事実を確認している。また、それまでに多数の学内関係者から得ていた情報からすると、同記事で書かれた内容は、多くの大学関係者の認識に沿う、疑う余地はない事実であることは明らかと判断できた。

さらに、横浜市大教授在職中に突然、市長選への出馬が報じられたことに関して、理事長・学長名で出された学内文書に因縁をつけて、山中氏の評価を含む文書を発出するよう強く求め、書き直しをさせて、『素晴らしい研究業績』などの文言を含む文書の発出を強要し、大学の自治に対する、政治的権力による侵害行為を行った事実があった。これについても、市議会議員の関係者から情報提供を受け、文書も入手した(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)。これも、山中氏のパワハラ体質を端的に示すものだった。

このような状況の下で何をなすべきか。

熟慮を重ねた末、私自身の立候補の意志は撤回し、「元横浜市コンプライアンス顧問」として、コンプライアンス問題について外部有識者として意見を述べる立場になることとし、一方で、市長選挙については、小此木氏・山中両氏の当選を阻止するための運動、つまり「落選運動」に方針を転換することを決意し、8月5日の記者会見で、その旨明らかにした。

こうして、私は、横浜市長選挙において、立憲民主党推薦候補に対しても「落選運動」を行うことを宣言し、初めて、民主党の流れを引く野党と正面から対立することになった。

山中氏のパワハラ疑惑への立憲民主党の対応

上記のフラッシュ記事で報じられた山中氏のパワハラ疑惑に対する立憲民主党側の対応は、信じ難いものだった。

同党神奈川県連だけでなく、同党所属の国会議員までもが、「しらべえ」というインターネットサイトの【菅首相が負けられないため加熱する横浜市長選 山中竹春元教授がフェイクニュース被害】という記事を引用して、山中氏のパワハラ疑惑がフェイクだと喧伝しているが、この記事は、パワハラの実態について基本的な知識すら欠いている。

この記事では、「山中元教授が務めた横浜市立大学もハラスメント委員会を設けている。公立大学だから、私立に比べて、ハラスメント対策はより厳しい。」「大学側も『ハラスメント対策は厳正に行っている』と答えている」「ハラスメント委員会に山中元教授を告発したケースは1件もない」などが、山中氏のハラスメントを否定する決定的な根拠であるように言っている。

そもそも、「対策を厳正に行っている組織ではハラスメントは発生しない」「ハラスメントを受けた被害者は必ず告発を行う」との前提が、全く的はずれだ。一般的には、深刻かつ重大なパワハラであればあるほど、報復を恐れて通報や告発に至らないことが多く、それが、組織のパワハラ対策の困難性の要因となっている。

パワハラには、様々な態様がある。他人の目の前で叱責するというような単純なパワハラであれば、周囲からの告発などが行われることもあり、比較的把握しやすい。しかし、フラッシュの記事で山中氏が行ったとされるパワハラは、組織内の上司がその権限を不当に行使して被害者にダメージを与える陰湿な方法によるパワハラであり、組織内で告発をしても握りつぶされたり、報復を受けたりする懸念から、告発自体が極めて行われにくいタイプのパワハラだ。ハラスメントの被害者が退職した場合も、そのまま泣き寝入りする場合が多い。

つまり、「告発がゼロ」というのは、山中氏のパワハラ疑惑を否定する根拠には全くならないのである。

実際に、山中氏の人格・性格について、大学関係者の話では、「粘着質で執念深い」という点で一致している。報復を恐れてパワハラの告発を行うことはとてもできない典型例であるし、実際に被害を伝えてきた人たちも、報復されることを非常に恐れている。

この「しらべえ」の記事の著者には、昨年、東京都知事選をめぐって、「立憲民主党の枝野幸男氏と国民民主党の玉木雄一郎氏が神津連合会長に呼び出された」と事実無根のツイートをして、すぐに全く事実ではないことが判明し、ツイートを削除したという騒ぎがあった。党の代表に関わる虚偽ツイートで迷惑をかけた前歴のある人間の、内容的にも全く噴飯物の記事を、立憲民主党の議員がこぞって山中氏のパワハラ否定のために引用するというのは、公党の対応として異常というほかない。

山中氏のパワハラ疑惑の指摘について、まず行うべきことは、パワハラ当事者の山中氏からヒアリングを行い、パワハラの具体的事実として指摘されている「干す」という言葉を使ったメールを発信した事実があるのかどうかを確認すること、それが事実なら「干す」がどういう意味で用いられたのかを山中氏自身に問い質すことだ。それが、最も容易にできるのは、山中氏推薦を決定している、立憲民主党のはずだ。

山中氏の経歴詐称疑惑

それに加え、かねてから、山中氏の学歴・経歴・データサイエンティストとしての専門性に関して、米国留学時の経歴「NIH リサーチフェロー」の詐称問題がSNS上等で指摘されていた。

これについて、私が告示日の前日に指摘したのは、山中氏が米国留学時の身分について「NIH リサーチフェロー」としていた研究経歴紹介サイト「リサーチマップ」を、出馬表明直後に削除したこと、大学院修士課程しか修了していないのに博士課程修了のように見せかけていた疑いがあること、「NIH リサーチフェロー」は博士号取得後3年経過後に得られる政府職員の有給のポストであり、山中氏が「NIH リサーチフェロー」だったとは考えにくいことだ。山中氏はこれらの疑問に答えるべきだと述べた。(【横浜市長選、山中竹春氏は「NIH リサーチフェロー」の経歴への疑問にどう答えるのか】

しかし、山中氏本人も、同氏を推薦する立憲民主党も、これらの疑問に対して何一つ正面から向き合おうとせず、経歴詐称問題について全く何の説明もしないまま立候補届出に至った。

上記のフラッシュの記事に対しては、「しらべえ」記事を引用してフェイクだと騒ぎ立てたり、フラッシュを出版社の光文社を「告訴する」などとマスコミに吹聴したりすること(実際には、告訴は凡そ受理されないと思われる)に終始し、連日、党組織を挙げての山中氏のための街宣活動を繰り広げている。

一方、「NIH リサーチフェロー」についても全く説明責任を果たさず、選挙公報には、なぜか「NIHリサーチフェロー」とは書かず、「NIH 研究員」と記載している。

立憲民主党に安倍・菅政権を批判する資格があるのか

横浜市長選挙は、4年に1度、たった一人の市長を選ぶ選挙である。その選挙において、市長に相応しい人物を、責任を持って選定し、市長としての適格性に疑念が生じたら、十分に説明責任を果たすのは、公党として当然の責務のはずである。

しかし、今回の市長選での候補者選定の経過は、凡そ上記のような責務を果たすものとは言い難い。江田憲司氏の「独断専行」を許した結果、候補者の適格性に重大な疑義が生じているにもかかわらず、説明責任を無視している状況にある。

立憲民主党も、その前身の、民主党・民進党も、森友・加計学園問題、桜を見る会問題等で、自らの権力の維持を最優先し問題に対して最低限の説明責任すら果たして来なかった安倍・菅政権を追及する中で、「説明責任を果たしていない」ということを常に批判の理由としてきた。

今回、横浜市長選挙において立憲民主党が行っていることからすると、果たして、説明責任について安倍・菅政権を批判する資格があるのかと疑問を持たざるを得ない。

党本部が、江田氏の「独断専行」を容認せざるを得ないのは、「野党第一党」の地位を守ることを最優先しているからではないのか。そのような立憲民主党執行部に、本気で菅政権を打倒し、国民の期待する政権を作ろうとする気があるのか。長年、横浜市政は、有力政治家菅義偉氏の大きな影響を受け、「菅支配」の下にあった。それを一層強固なものとする小此木氏の当選は、何が何でも阻止しなければならない。しかし、今の立憲民主党には、それを期待することは全くできない。

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横浜市長選、山中竹春氏は「NIH リサーチフェロー」の経歴への疑問にどう答えるのか

昨日(8月5日)のブログ記事【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】で、横浜市長選挙への出馬を見送り、小此木八郎、山中竹春両氏の「落選運動」に転換することを表明し、同日午後4時から記者会見を行った。

 立憲民主党の山中氏擁立を殆ど独断で決定し、山中氏の候補者としての適格性について問題が指摘されても耳を貸さず、野党統一候補としての擁立に向けて「独断専行」してきた江田憲司氏(【横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を】)が、昨夜22:19にフェイスブックを更新し、以下のようなことを書いている。

市大というのは、文字どおり、横浜市の一組織だから、市からの天下り官僚も多く、自民党や林現職サイドが何か調べよう、圧力をかけようと思えば簡単にできることなのだろう。  

江田氏が述べていることは、山中陣営へのブーメランそのものである。

私は、昨日の記事で、

「出馬表明後に、山中氏が市議会議員とともに横浜市大当局に対してとった行動」は、まさに、大学の自治を侵害し、公選法違反の疑いが生じるだけでなく、山中氏のパワハラ的な本性を露わにしたと言える

と指摘し、この市議会議員が、山中陣営の中心人物である花上喜代志氏であることも明らかにしている。

江田氏は「横浜市大当局に、何か調べよう、圧力をかけようと思えば簡単にできる」としているが、今回、横浜市大に実際に圧力をかけたのは、「自民党や林現職サイド」ではなく、立憲民主党サイドなのである。

江田氏が、このような「妄言」をネットで発信している間に、私が昨日のブログや会見でも指摘した山中氏の経歴に関する疑問は、ますます大きくなっている。

「リサーチマップ」という、研究者が業績を管理・発信できるようにすることを目的としたデータベース型研究者総覧があり、多くの研究者が活用しているが、山中氏は、そのリサーチマップに公開していた内容を、市長選出馬の話が表面化した段階で削除している。このことは、SNS上で、「何かやましいことがあるのではないか」と指摘されていた。

山中氏が削除したリサーチマップの経歴が、グーグルのキャッシュで確認できた。それによると、

「2002年 – 2004年米国国立衛生研究所 (NIH) リサーチフェロー」

との記載がある。

ブログでも述べたように、山中氏は、学歴について

「1995年 早稲田大学政治経済学部 卒業」

「2000年 早稲田大学大学院理工学研究科 修了」

としており、それだけ見ると、政治経済学部を卒業後、大学院に5年間在籍し、修士課程・博士課程を修了したかのように見える。しかし、一方で、山中氏が2008年に出版された数学の専門書の共著書(「一般化線形モデル入門 原著第2版:2008年」)では、

「1998年 早稲田理工学部数学科卒」

とされている。実際には、大学院在学は2年であり、修士課程しか出ていないことになる。

「NIHリサーチフェロー」というのは、「博士号を取得し、期間限定で更新可能な任命を受けているNIHの有給の職員」という意味である。早稲田大学理工学研究科の修士課程しか修了しておらず、博士課程は出ていない山中氏が「NIHの職員」リサーチフェローの経歴があったとは考えにくい。(山中氏の博士号は、「大学院博士課程で取得したものではなく「論文博士」であり、2003年5月に審査を受け、同年10月に審査結果が出たものだ。)

「NIH リサーチフェロー」の職にあったとすれば、研究歴にとって極めて重要な意味を持つものであり、2014年に、横浜市大医学部教授に採用された際も、履歴書に「NIH リサーチフェロー」と記載していた可能性が高い。医学部には山中氏のような生物統計の専門家はほとんどいなかったので、採用に当たって、山中氏の経歴の中の「NIH リサーチフェロー」は決定的な意味を持ったと考えられる。

もし、山中氏が、「NIH リサーチフェロー」を詐称していたとすると、横浜市大医学部教授の採用自体にも疑義が生じることになる。

1995年の学部卒から5年間、大学院に在籍したように見せかけているのも、博士課程を出ていない「リサーチフェロー」はあり得ない、ということと関係している可能性がある。

市長選挙出馬の話が表面化した時点で、山中氏はリサーチマップを削除したのであるが、研究者の経歴を持つ人間として、その実績をアピールして市長選挙に立候補するのだから、削除することは通常あり得ない。

8月8日告示の横浜市長選挙に立候補するのであれば、山中氏は、これらの疑問について自ら説明責任を果たすべきであろう。

また、「NIH リサーチフェロー」の経歴について、山中氏自身が、即座に十分な説明を行い、疑いを晴らすのであれば別だが、そうでなければ、横浜市大及び横浜市は、【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】で指摘した「山中氏が花上市議会議員らとともに横浜市大当局に対して行った大学の自治を侵害する不当要求」の問題と併せて、山中氏の経歴について、教授採用の際に提出された履歴書等についても調査すべきである。

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「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!

*迫る横浜市長選、危機的局面に*

8月8日告示、同月22日投票の市長選挙を目前に控え、横浜市は極めて危機的な状況を迎えている。

一つは、横浜市を、事実上支配してきた有力政治家菅義偉首相との関係だ。

「横浜市の幹部人事(局長・区長)の人事案は、確定前に菅事務所に送付されて了承を得る」という、地方自治体の人事ではあり得ないやり方が、20年以上にわたって続いてきた。(実際に、稀ではあるが、人事案が菅事務所側に覆されたケースもある。)それによって、横浜市の幹部職員は、菅氏の意向に従い、或いは忖度せざるを得ず、実際に、IRの山下ふ頭への誘致が民意を無視して進められ、瀬谷の米軍通信基地跡地での花博の開催、テーマパークの建設などの事業計画が進められ、開発重視の施策がとられてきた。その一方で、子育て支援、高齢者福祉、困窮者対策などがなおざりにされ、「市民の暮らし」には十分に目が向けられてこなかった。

今回の市長選では、自民党系候補が、林文子現市長と、現職閣僚を辞任して市長選挙に立候補表明した小此木八郎氏に分裂した状況を受け、菅首相は、かねてから昵懇の関係にある小此木氏の「全面支援」を打ち出し、自ら自民党関係者に「小此木支持」を徹底して呼び掛けるなど、一自治体の首長選挙への現首相の対応としては異常とも思える対応を行っている。この選挙で小此木氏が当選することは、横浜市での「菅支配の完成・盤石化」を意味する。

一方、野党統一候補としての立候補を予定している横浜市立大学の元教授の山中竹春氏には、喧伝されている「データサイエンティスト」「コロナの専門家」などの属性自体に疑問が指摘されているほか、「パワハラ」疑惑が報じられている。そして、後述する通り「出馬表明後に、山中氏が市議会議員とともに横浜市大当局に対してとった行動」は、まさに、大学の自治を侵害し、公選法違反の疑いが生じるだけでなく、山中氏のパワハラ的な本性を露わにしたと言えるものだ。このような人物が万が一にも横浜市長に就任することは、横浜市民にとっても市職員にとっても、絶対にあってはならない事態である。

*市長選に向けての私のこれまでの対応*

私は、これまで14年間にわたって、コンプライアンス顧問等として横浜市の行政に関わってきたが、今回の市長選は、今後の横浜市政の方向性を決定づけるものであり、重大な関心を持ってきた。

私は7月7日の記者会見で、横浜市長選挙への立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明(以下、「出馬意志表明」)した。そしてそれとともに、「立憲民主党が推薦候補として擁立している横浜市立大学元教授の山中竹春氏が、野党統一候補として横浜市長となるのに相応しい人物であることが確認でき、私が掲げた重点政策に基本的に賛同するのであれば、立候補の意思は撤回し、山中氏を全面的に応援する」と述べ、立憲民主党神奈川県連会長宛ての質問状も公開した。ところが、その後の立憲民主党側の対応によって、出馬意志の「解除条件」とした「山中氏が市長に相応しい人物であること」が充足される余地は全くないと判断せざるを得なかったので、7月16日の記者会見で、その経緯を明らかにし、改めて、明確に市長選への出馬意志を表明した。(【横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を】

政党・団体の推薦も支援も全くない私が、全くの私費で選挙資金を賄ってまで立候補しようとしているのは、自分自身が市長になり、その権限を得たいのではない。想定される市長選の結果が、横浜市民にとって、横浜市の自治体組織にとって、最悪の結果となることを看過できないと考えたからである。このことは、7月26日の「横顔会見」の場等でも説明してきた(【7月26日横顔会見(前半)】)。

*今後の方向性についての検討*

山中氏については、かつて23年間検察官として刑事事件で様々な人間を見てきた私の経験からも、絶対に横浜市長にしてはならない人物と確信し、出馬意志表明後も、山中氏の適格性についてネット上等で指摘してきた。しかし、野党側の推薦、支持、支援は山中氏に一本化され、山中氏の立候補が強行されようとしている。

市長選をめぐる情勢は、多数の自民党市議に加えて、菅首相自身も全面支援を打ち出した小此木八郎氏、現職市長の林文子氏と立憲民主党推薦の山中氏が、「主要3候補」とされ、マスコミの報道も、次第に、3候補(或いは、それに元知事2名を加えた5候補)に集中していくものと考えられ、私が立候補しても、私の訴えが有権者の耳に届くことは期待できないと考えざるを得ない状況になっている。

一方で、後に詳述する山中氏の出馬表明に関して横浜市大で発生した事象は、同市大のみならず横浜市にとってもコンプライアンス上重大な問題である可能性があるが、私は、市長選への出馬意志を表明するに際して、横浜市コンプライアンス顧問を退任し、市長選の候補予定者となったことに伴い、横浜市に関する問題について、コンプライアンスの専門家として客観的な立場から論評する立場ではなくなっている。

そこで、このような横浜市にとっての重大局面において、私自身が何をなすべきか熟慮を重ねた末、私自身の立候補の意志は撤回し、「元横浜市コンプライアンス顧問」として、コンプライアンス問題について外部有識者として意見を述べる立場になることとした。一方で、市長選挙については、小此木氏・山中両氏の当選を阻止するための運動、つまり「落選運動」に方針を転換することを決意した。(IR推進を掲げる現職市長の林氏の当選も阻止すべきと考えているが、林文子氏の支持基盤であった自民党の支持状況から、当選に必要な有効投票の25%を獲得する可能性は極めて低いと考えている。その前提が変われば、落選運動の対象に加えることもあり得る。)

公職選挙法は、当選を得若しくは得しめる目的で行われる「選挙運動」と並んで、「当選を得しめない目的」で行われる「落選運動」を想定しているが(221条)、この「落選運動」については、時期・方法についての制限は規定されていない。それは、「選挙運動」が、公職に就任することによる利益が想定されるのに対して、「落選運動」は、それを行う個人に何ら利益をもたらすものではないからであろう。そのような自分の利益にならないことに労力・費用をかけようとする人間はほとんどいないのが通常だ。しかし、私は、もともと、自分自身が市長の職に就くことが目的ではなく、長く横浜市のコンプライアンスに携わってきた立場から、今回の市長選が、横浜市民や地域社会の要請に反する結果になることを阻止しようと考えて、市長選に自ら関わってきた。私にとって、可能な範囲で、私費を投じ、自分自身の時間を活用して、市長になるべきではない候補の当選阻止をめざす活動を行っていくことは、これまでの活動の延長上にあるものであり、自らの社会的責務だと考えている。

今後、もともと予定していた、ブログ、YouTubeでの発信、インターネット広告、新聞広告など、様々な手段を用いて、小此木・山中両氏の当選を阻止する活動を行っていくこととしたい。

そこで、まず、山中氏に対する「落選運動」の第一弾として、本日の会見で問題を指摘し、私の下に提供された様々な情報に基づき、山中氏の市長としての「適格性」を問題にする理由について、具体的に述べることとしたい。

なお、「菅支配」という観点からの小此木氏の当選阻止の必要性については、その概要を、昨日アップしたYouTube「郷原信郎の『横浜から日本の権力を斬る』」の【横浜市長選、小此木氏当選阻止で「菅支配」からの脱却を!】で、既に明らかにしている。

*山中氏のデータサイエンスの専門性や学歴についての疑問*

山中氏については、ネット上で、学歴、研究歴、データサイエンスについての専門性がないこと、コロナの専門家ではないこと、大阪府吉村知事の「イソジン会見」で、データ解析者として名前が出ていたこと、公立大学教授であるのに製薬会社から多額の謝礼を受領していたことなどが指摘されている。

公表されている山中氏の経歴にも、以下のような疑問があった。

「1995年 早稲田大学政治経済学部 卒業」「2000年 早稲田大学大学院理工学研究科 修了」とされており、それだけ見ると、政治経済学部を卒業後、大学院に5年間在籍し、修士課程、博士課程を修了したかのように見える。しかし、一方で、2008年に出版された数学の専門書の共著書(「一般化線形モデル入門 原著第2版:2008年」)では、「1998年 早稲田理工学部数学科卒」とされている。

立憲民主党の衆院議員中谷一馬との対談(ビジネスジャーナル)では、

「いったんは政治経済学部というところに行ったのですが、最初は実はアルバイトばっかりやっていたのです。」

「アルバイトをやりすぎて結構大学の単位を落としちゃったんですね。」

「留年したらまずいなと思いまして、そこから勉強し始めたんです。それで、勉強し始めたら、経済学というよりも経済、政治、社会の現場から生まれるデータを分析して、それに基づいて意思決定をするという方法論が面白くて。そうしたら、今度は、分析手法の理解を深めたいなと思い、数学科に潜り込んで数学や統計学の授業聞いてたんですね。」

などと述べている。

数学科の授業に「もぐりこんで」とあるので、いかにも数学科は卒業していないような印象を受ける。「学部(政経学科)のときに数学科に潜り込んだ」というのが、「理工学部数学科に入り直した」というのあれば、そう言えばいいはずだ。山中氏は、なぜか、現在の経歴の中で「数学科卒」を隠していることになる。なぜ、「数学科卒」を敢えて隠すのか、実際には大学院には2年間の修士課程に在籍しただけなのに、5年間在籍し、修士課程、博士課程を修了したかのように見せかけることが目的なのか。

中谷議員との対談からすると、山中氏は、早稲田の政経学部在学中に、「データサイエンス」に興味を持ち、そこから独自にデータサイエンティストとしての専門性を深めていったように見える。しかし、そうではなく、実際には、早稲田大学の学部や大学院在学中に、データサイエンスに関連する教育を受けてはいないのではないかとの疑問が生じた。

*横浜市大関係者からの文書*

そうしたところ、7月中旬に、私の事務所の公開メールアドレスに、山中氏のことをよく知る人達からと思える匿名の文書を添付したメールが送られてきた。

そこには、以下のようなことが書かれていた(これらについては、公表資料に基づく具体的かつ詳細な説明も記載されている)。

(1)山中氏は、データサイエンス分野で、統計学や情報学の学術貢献が含まれる研究論文はほとんどなく、データサイエンティストと言える専門性に乏しい。

(2)共著者(他の研究者が主導した研究における共同研究者の一人)の論文を含めると200本以上の論文があるが、これらの研究論文は主として他人の研究成果であり、筆頭著者(主導した研究)は10本未満であり、この中には統計学、データサイエンスに関するものはほぼないこと。

(3)感染症・免疫学の専門家ではなく、西浦博氏や尾身茂氏のように、感染症の実務研究をしてきた人と違い、感染症対策の実務も研究業績もない。研究者間で認められていない中和抗体の測定方法を用い、中和抗体に関する研究をマスコミで喧伝したが、そもそも中和抗体の測定自体も別の研究者や業者が行ったものである。

(4)山中氏は部下や事務職員に対してパワハラやアカハラと捉える事案が頻発していた。中には適応障害の診断を受けて、辞めた教員もいた。

(5)学長補佐やデータサイエンス研究科長の要職にあったが、2021年より週3回国立がんセンターと兼業になり、横浜市立大学には週2回の勤務。学長補佐、大学院研究科長、医学部教授という立場にありながら実質職務放棄の状態が続いていた。

文書の内容からすると、山中氏の実像を世の中に明らかにしたいという純粋な思いから私宛に送付してきたものと思えた。

この文書のとおりだとすると、山中氏は、データサイエンティスト、コロナの専門家を売りにして市長選に立候補することを表明しているが、それらはすべて「虚飾」で、実際には、専門性も業績もないのに、あるように見せかけて自分のポストを得てきた人物だということになる。私は、同分野の専門家を含む知人や関係者に話を聞き、情報を収集するなどして、上記匿名文書の信憑性を確認した。結果、指摘されていることは信憑性が高いと考えられた。

*山中氏のパワハラ・アカハラ*

 そうしたところ、8月3日発売の週刊誌フラッシュと、ネット記事【横浜市長選「野党統一候補」がパワハラメール…学内から告発「この数年で15人以上辞めている」】で、上記(4)のパワハラ・アカハラに関する事実が報じられた。

 なお、山中氏は、同報道に対して釈明するために、ホームページで反論を出している(https://takeharu-yamanaka.yokohama/news_00.html)。

ところが、この際、個人情報を黒塗りにしていたが、実際には不完全で、個人情報が流出するという事態を招いている。このような個人情報の取扱いの杜撰さも、山中氏のデータサイエンティストとしての専門性の疑わしさ(或いは、目的のためには他者の立場を無視するパワハラ体質)を示すものと言えるだろう。

*山中氏に関する「横浜市大理事長・学長名の学内文書」*

山中氏については、上記のように、データサイエンス、コロナの専門家を標ぼうしていることへの重大な疑義に加え、重大なパワハラ疑惑が報じられているが、それに加え、横浜市立大学教授(学長補佐、研究科長)等に在職中に横浜市長選に出馬を表明したことに関して、横浜市大においても重大なコンプライアンス・ガバナンス問題が発生している。

発端は、今年6月16日、「立憲民主党、横浜市長選に、横浜市立大学の山中竹春教授を擁立へ」と報じられた直後に、理事長・学長名で、大学の全教職員に宛てて発出した以下の文書だ。(以下「6.16文書」)

        今朝(6月16日)の新聞報道について

今朝、新聞各紙(神奈川新聞、読売新聞、毎日新聞)に、横浜市長選に横浜市立大学山中竹春教授が擁立される件が大きく報道されました。

この件につきまして、御本人への連絡がつかない状況が続いていますが、現在も連絡を続けており、意思確認に努めております。

皆様もたいへん驚かれ、また、動揺されている方も多いと思いますので、本学のスタンスをお伝えいたします。

横浜市の設置する公立大学法人として教職員の選挙活動及び政治活動へ関与することはありません。

いずれにせよ、本大学は、コロナ禍の中で教育・研究・診療等に注力している中、冷静な対応をお願いするとともに、引き続き業務に専心ください。

そして、7月26日、以下の文書が、同じく理事長・学長名で全教職員に宛てて発出された(以下「7.26文書」)。

  「今朝(6月16日)の新聞報道について」の記述について(お詫び)

表題の文書につきましては、山中元教授の市長選出馬に関する新聞報道に教職員が動揺しないように、という配慮で送付しましたが、結果的に、設置主体である横浜市の  林市長に対して配慮した内容である、というご指摘を受けました。

また、本人と連絡がつかない、という事実と異なる内容を記載してしまった点について、心よりお詫び申し上げます。

私共の配慮が不足しており、教職員の皆様、ならびに学部生・大学院生の皆様に誤解を生じさせてしまい、たいへん申し訳ございませんでした。

山中先生ご本人に確認も行わぬまま、記事が発出された数時間後に全教職員宛にメールを送信するという行為は、法人の管理者として極めて拙速とも言える行為でした。

山中先生には大事な時期に大変ご迷惑をおかけしてしまいました。ご本人には深い謝罪の意をお伝えしました。

山中先生におかれましては、これまで素晴らしい研究成果や学内のご実績により、横浜市立大学のプレゼンスを高めてくださりました。今後も感謝の意を学内外へ伝えて参る所存です。

これらの文書は、山中氏に同席して、大学側に文書発出を要求した市議会議員の関係者から入手したものだ。

このような2通の文書が、横浜市大の理事長・学長名で全職員に向けて発出されたことには、重大な問題がある。

*公立大学の政治的中立性の問題*

第一に、公立大学の政治的中立性に関する問題である。

「6.16文書」では、「横浜市の設置する公立大学法人として教職員の選挙活動及び政治活動へ関与することはありません。」と述べて、公立大学としての政治的中立の姿勢を明確に述べている。ところが、「7.26文書」では、市長選挙に出馬表明している山中氏に「感謝の意を学内外に伝えること」を大学の方針として示すなど、立候補予定者の山中氏への支援を表明するかのような内容となっている。

「7.26文書」では、「6.16文書」について「結果的に、設置主体である横浜市の林市長に対して配慮した内容である、というご指摘を受けました」と述べている。「林市長」の市長選への立候補を前提とする指摘を受けたということであり、それを敢えて記載することで、「6.16文書」について、政治的意図が問題とされていることを認めた上、末尾で、山中氏の研究業績と大学への貢献を礼賛した上、山中氏への「感謝の意を学内外への伝える」と宣言している。全職員に、山中氏の「素晴らしい研究成果や学内のご実績」を、学内だけでなく、学外にもアピールしていくことを呼び掛けるものであり、「6.16文書」について政治的意図の指摘を受けていることとの関係から、逆の政治的意図、つまり、「山中氏を市長選挙で支援する趣旨」と受け取られかねない内容となっている。

このような文書を、公立大学の理事長・学長名で発出することは、みなし公務員としての地位を利用するものであり、公務員等の地位利用による選挙運動の禁止(公職選挙法 第136条の2第1項)の趣旨に反する疑いがある

 

*大学の自治・ガバナンスへの介入*

 もう一つは、大学の自治、公立大学のガバナンスに関する問題だ。

上記のとおり、「6.16文書」では、「公立大学法人として教職員の選挙活動及び政治活動へ関与することはありません」と述べていたのが、「7.26文書」では、山中氏を礼賛し、「感謝の意を学内外に伝える」などと市長選の立候補予定者の山中氏を支援するような政治的対応を示唆する内容になっている。特に、後の文書では、山中氏を「素晴らしい研究業績や学内での実績」と書かれているが、上記の匿名の文書によれば、学内の専門的見地からの評価はそれとは逆で、研究業績は実質的には評価に値するものではなく、むしろ、パワハラ体質教授と認識されていた。出馬表明後、SNS上でも、データサイエンティストとしての専門性がないことや、学歴、研究歴の疑問が指摘されていた。どうしてこのような文書が理事長・学長名で出されたのか。

山中氏や立憲民主党の市議会議員が、山中氏の専門性、研究業績等に関する上記のような消極的評価を意識して、『素晴らしい研究業績』という評価を含む理事長・学長名の文書を発出するよう強く求め、書き直しをさせて、そのような文言を含む文書を発出させたとすると、まさに大学の自治に対する、政治的権力による侵害行為だと言える。

関係者の話によると、同文書は、山中氏本人と立憲民主党の花上喜代志市議会議員らが、大学当局に「6.16文書」の訂正・謝罪と、山中氏に有利になる記述を加えた文書の発出を強く求め、何回も書き直させた上、最終的に上記の文面になったとのことだ。(「花上氏自身が、それを周囲に吹聴している」との話を複数の関係者から聞いている。)

「7.26文書」で「設置主体である横浜市の林市長に対して配慮した内容である、というご指摘を受けました」と記載されているが、この「指摘」は、山中氏や花上氏らによる大学当局への抗議、訂正・謝罪要求を意味するものと考えられる。しかも、6月16日の時点では、現職の林市長は市長選への出馬は不明であり、むしろ【(6.11朝日)横浜市長選、現職・林市長を支援せず 自民市連が方針】など、出馬に否定的な報道も行われていたのであり、「林市長に対して配慮した内容」という指摘自体が、全くの言いがかりとも思える。

*山中陣営は、なぜ「7.26文書」を出させたのか*

その背景には、山中氏の出馬表明後、SNS上でも、データサイエンティストとしての専門性や、学歴、研究歴についての疑問が指摘されていたことから、そのような疑問や指摘に対する反論のために、大学当局に対して、山中氏に対する積極的評価を含む文書の発出を求めた可能性がある。

大学当局としては、「6.16文書」に記載されたとおり、山中氏の市長選への立候補には関与しない方針だったはずだ。それにもかかわらず、「7.26文書」のような書面を発出したのは、市長選挙の立候補予定者と市議会議員の政治的圧力によって強く要求されたからである。

「7.26文書」の発出は、市大当局にとって「義務のないこと」であり、「生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫」した事実があれば、強要罪に該当することになる。

また、山中氏や市議会議員の花上氏らが、「『素晴らしい研究業績』という研究業績の評価を含む理事長・学長名の文書を発出するよう強く求めた行為」は、強要罪の成否を問わず、まさに大学の自治に対する、政治的権力による侵害行為だと言える。

 

 上記の問題について、大学の自治の問題に詳しい明治学院大学社会学部の石原俊教授に事案の内容をご説明したところ、以下のコメントを頂いた。

           【石原俊教授コメント】

公立大学法人の設置者側(自治体首長・自治体議会議員・自治体幹部職員など)は、公立大学の運営や改革のあり方について、大局的な見地から要望を行うことは、一定の範囲で認められている。しかし、設置者側に属する人物が、公立大学の教育・研究や研究者人事に関わる具体的な事項について、指示や要請を行うことは、戦後日本においては、憲法23条や関連法令が保障する大学の自治の観点から、一切認められていない。教育・研究や研究者人事に関わる具体的事項については、専門家である研究者(教員)による相互審査・相互評価(ピア・レビュー)の結果が尊重されなければ、大学が政治や行政の道具と化してしまうからである。

すでに横浜市立大学の教員職を辞職し、複数の政党が推薦する市長候補者つまり政治家の立場に事実上転じている山中氏や、それを支持する政党に属する市議会議員が、山中氏の専門性や研究業績に関する評価を含む公文書の発出を、大学側に要求したことが事実であるならば、本件は明白な大学の自治の侵害に当たる。

*学内文書発出の強要で露わになった山中氏の「パワハラ体質」*

 山中氏が、前記のフラッシュの記事にいかに反論しようと、抗議しようと、なりふり構わず、相手の立場の心情への配慮を欠く「パワハラ体質」であることは、上記の2つの理事長。学長名の文書の発出の経過、内容の比較から明らかであろう。

 このような人物が万が一横浜市長になったりすれば、横浜市のコンプライアンスの崩壊、と横浜市職員に塗炭の苦しみを与え、横浜市民や地域社会の要請に応える上で著しい支障が生じることは明らかだ。

 私は、「菅支配」の完成・盤石化につながる「小此木市長」を阻止するとともに、「山中市長」を阻止する活動に全力を挙げていこうと思う。

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私が横浜市長選にこだわり続ける3つの理由、「民意」「支配」「適格性」

8月8日告示、22日投票予定の横浜市長選挙は、10人が出馬表明する(一人は撤回)という大混戦になっている。今年7月6日まで、横浜市コンプライアンス顧問を務めていた私も、既に記者会見で、立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明している。

しかし、告示が近づくにつれ、多くの立候補予定者の中から「主要候補」が次第に絞り込まれつつある。マスコミでは、現職の林文子市長、自民党市議の大部分が支持する小此木八郎前国家公安委員長、立憲民主党が推薦し共産党も支援する山中竹春元横浜市立大学医学部教授の3人が主要候補として扱われ、他の立候補予定者の中でも、田中康夫元長野県知事・元衆院議員、松沢成文参議院議員(元神奈川県知事)などとは異なり、公職選挙に初めて挑戦することになる私については、そもそも、政党・団体の推薦も支援も全くないのに、どうやって選挙戦に臨むのか、と思われているようだ。

こうした中、7月26日に、横浜市役所の会見室で、市政クラブによる私の「横顔会見」が行われた。

立候補予定者個人のプロフィールを中心に質問する場とのことだったが、私の場合、「主要候補」と扱われているわけでもないので、むしろ、政党・団体の推薦も支援も全くないのに、私が、なぜ、全くの私費で選挙資金を賄ってまで、立候補しようとしているのか、なぜ、それ程までに、横浜市長選挙にこだわるのか、という点を、最初に話しておいた方がよいと考えた。以下は、その点についての私の冒頭発言と、それに関する記者の質問に答えたものだ。

なぜ横浜市長選に戦いを挑もうとしているのか

私が、なぜ現時点においても横浜市長選に戦いを挑もうとしているのか、理由は、概ね三つに集約されてきたと思いますので、その点についてお話をしたいと思います。

まず、第一に「民意」、第二に「支配」、第三に「適格性」、この三つが、私が自ら挑まなければならないと考えた理由です。

市民に意見を問うこと、「民意」を確認することが不可欠

まず第一の「民意」の点ですが、今回の市長選は横浜へのIR誘致の是非が最大の争点になると言われてきました。この問題について、私はすでに私の考えをYahoo!ニュースなどでも書いていますが、一貫して言ってきたことは、IRを誘致すべきかどうかという議論に関して民意を問うということが決定的に欠落しているということです。

地方自治は基本的には市民から選ばれた「市長」そして「市議会」両方の二元代表制によって市政が営まれていく、これが原則です。しかし、市民の暮らしに、そして市の将来に重大な影響を与えるような事項については、その最大のステークホルダーである市民に意見を問うこと、「民意」を確認することが私は不可欠だと考えています。

IR誘致の問題、カジノ付きの巨大施設を横浜に誘致するかどうかの問題は、まさに「民意」を問うべき問題です。ところが19万筆を超える署名を提出して直接請求が行われたにもかかわらず、住民投票条例は否決され、住民投票はまったく実施されないまま、横浜市ではIR誘致に向かって手続きが進められ、既にその最終段階に近いところに至っているわけです。

私はこの市長選においても、IRの誘致について「民意」を問うことの是非が最大の争点とされるべきだと思っています。市長選でIR賛成か反対か、どちらを掲げた候補が当選するかで一刀両断的に事を決めるべきではないということは、私がずっと言ってきたところです。しかし、殆どの候補が市長選で、IR誘致への賛否を問おうとしている。

市長選後に住民投票条例を市議会に提出して、なんとか可決成立に持ち込んで住民投票を実施すべきだと言っているのは私だけです。この点において、私は、自分自身が市長選後の住民投票を掲げて市長選に立候補することが不可欠だと判断しています。

「菅支配」から横浜市政を市民の手に取り戻す

そして、二番目に「支配」、これは重点政策の中でも掲げた、横浜市に対する政治的支配の問題です。ひとことで言えば「菅支配」です。

横浜における最大の政治権力者である、現在の総理大臣でもある菅義偉氏という政治家に、これまで横浜市の市政行政は非常に大きな影響を受け、事実上「菅支配」とも言える状況が続いてきた。重要な意思決定は基本的に菅氏の意向に従う形で行われてきた。

私はコンプライアンス外部委員、コンプライアンス顧問として14年間横浜市の行政に関わってきました。その中では、直接横浜市の事業などの意思決定に関わったり、それについて相談を受けたりしてきたわけではないので、具体的にどのように菅支配の状況が生じているのかということは、私自身が直接体験したことではありません。

しかし、実際にそういう状況にあるということは、私はこれまでにも様々な人から話を聞いていますし、その点はおそらく間違いないだろうと思います。今回のこのIRの問題もそうです。そして、2027年に瀬谷地区で行われようとしている花博の問題も、私は、「菅支配」が事実上方向を決定づけているという問題だと思っていますし、そのことが、横浜市民を置き去りにして横浜市の市政行政が行われてきた、これまでの実態を象徴していると考えています。

そういう「菅支配」から横浜市政を市民の手に取り戻すためには、市長自身がまさに盾になってそういう政治権力に対抗しなければならない。おそらく、それができるのは今の候補者の顔ぶれの中では、私だけではないかと考えています。

このまま山中丈春氏が野党側の有力候補になることを放置していいのか

三番目に「適格性」の問題です。

これについては、これまでの出馬表明の記者会見のなかでもお話をしてきました。私は野党第一党、最大野党である立憲民主党が推薦をしている山中竹春氏が市長に相応しい人物なのであれば、そして政策面でも一致するのであれば、候補者が重複して自民党側を利することがないように、私自身は身を引くということは申し上げてきました。

しかし、残念ながら立憲民主党側、山中氏側の対応、私の公開質問状に対する回答の内容、対応をみると、凡そ山中氏が市長に相応しい人物だとは思えない。そういうことを理由に、私はやはり立候補の意思を固めざるを得ないということはこの場でも申し上げましたし、他の手段でも発信をしてきました。

そういった私の方に、山中氏はこういう人物だ、ということについて様々な情報が寄せられています。私はかつて23年間検察官として刑事事件で様々な人間を見てきました。詐欺事件も捜査公判に携わってきました。そういった経験に照らして考えたとき、私はこの出馬意思を固めたときよりも、むしろ明確に、山中氏は横浜市長に相応しくない人間であるということを言えると思います。

そのことを立憲民主党サイドには再三申し上げてきたし、ブログでも書きました。多くの人が、そこで書いた立憲民主党の候補者選定の経過に呆れ果てています。しかし、それにも関わらず、野党側の支持支援、推薦は山中氏の方に一本化されつつあり、連日街頭での活動が続けられて気勢を上げているという状態です。

私は本当にこのまま山中氏が有力候補になっていく、野党側の有力候補になっていくということを放置していていいのか、ということを真剣に考えています。

具体的に言いますと、まず、山中氏が立候補にあたって、自分が市長を目指す理由に関して、「データサイエンティスト」だと言っていますが、私はこれは事実上、嘘だと思います。彼にはデータサイエンティストとしての特別の素養、専門性があるとは思えません。それは彼が自分自身の経歴について、非常に曖昧な言い方をしているということにも関係します。彼にデータサイエンティストとしての専門性があるのかどうかということについても、私は直接情報を得ています。

二番目に、山中氏はIRの問題について、「カジノによるギャンブル依存症の増加、そして治安の悪化というのはデータから明らかだ」と明言しましたが、そのデータが、データ上の根拠が何もないということは公開質問状に対する対応、回答から明らかになりました。

IRを誘致すべきでないということに関して、彼が明確な根拠として述べられることは全くないと思います。ですから彼が仮に市長に就任したとしても、なぜIRを誘致してはならないのか、これまで進めてきたIRの誘致をなぜこの最終段階においてひっくり返さなければいけないのかということについて、明確な根拠を市議会で説明することは困難だと思います。

当然のことながら、IRを推進してきた市の執行部には、誘致すべきということの根拠しかありません。山中氏をサポートすることは極めて困難だと思います。

そして三番目、もう一つの山中氏の売りとして、自分はコロナの専門家だと言っています。これも嘘です。彼にはコロナという感染症に関する専門性は何もありません。

中和抗体について、ワクチンを打った人が1年後も中和抗体が持続しているという研究成果を発表した、それが唯一のコロナ対策に関する売りなのですが、この中和抗体に関する研究を行ったのは別の教授です。彼はそれを統計的に纏めて、広報活動をしたに過ぎません。コロナの専門家だというのは事実に反します。

ということで、今山中氏に関しては市民に、有権者に対してアピールしている内容と実体が著しく異なります。

私は今までコンプライアンスの専門家として、そして元々は検察官の経験に基づいて、様々な意見を言ってきました。様々な視点をしてきました。そういう私にとって、このような山中氏という人物が野党の有力候補として、今市民に市長選で選択される可能性がある状況を放っておくことはできないと考えた次第です。

以上述べたように、「民意」、「支配」、「適格性」、この三つが私が市長選に拘り続ける理由です。私の方からは以上です。

記者との質疑応答

(記者からの質問)

選挙戦にあたっては手足のない郷原さんはどうやって戦っていくのか。

(回答)

私としては、私が言っていることの独自性、私しか言っていないことをどれだけメディアのみなさんが取り上げてくれるのか、ということに注目しています。

たとえば、市長選後の住民投票というのは殆どまだマスコミのみなさんあまり重要な争点として取り上げていないのではないですか。

ご存知のように、藤木幸夫さんが会長の未来構想会議の候補者討論会が本来行われるはずだったのが取りやめになりましたね。取りやめになって基調講演二つと斉藤勁さんの提言の説明があって、その中で二番目の基調講演では市長選後の住民投票について、成蹊大学の武田真一郎成蹊大学法科大学院教授が話をされて、斉藤勁さんが五つの提言の前に、未来構想会議としては住民投票条例を市議会に提出するということを提言として市長候補に求めたいと、それについての意見も聞きたい、それだけではなく、もしIRに反対をしているのに住民投票はやらないというならば、どうやってIRを取りやめるのか、中止するのか、そこのやり方についても聞きたいと明言されています。

有力な団体の事務局長がそのように言われている。ところが全然そのことが報道されていないし、取り上げられてもいない。

私が散々ブログなどにも書いているように、IRの誘致の是非ではなく、住民投票をやるかどうか、やらないならばどういう方向でやらないのか、ということの方が最大の争点だと思っています。そうなると私がこれまでに言ってきたことそのものなのです。そういうことが取り上げられれば、当然私も議論の土俵に乗って来ざるを得ないのではないかと思っています。それと、菅支配の実体、これはまだ具体的に明らかにしていません。今後具体的に明らかにしなければいけないなと思っていますが、横浜市民にとってものすごく関心が高い問題ではないですか。自分たちの横浜市で一体どうやって物事が決められているのか、という話ですから。

そういうことについても当然発信を続けていきたいと思っていますし、それをメディアのみなさんがどういうふうに取り上げるのかという問題です。

それから三番目の「適格性」の問題も、みなさん取材されればすぐわかるはずです。

是非この場に山中さんが来られた時には、今日私が指摘した三つの問題を是非訊いてもらいたいと思います。彼はどう答えるのか、彼を知る人が私に言ってきているのは、是非公開の場で討論してくださいと。直ちにわかりますと。彼の人間性と彼が言っていることが本当なのかどうかということが、直ちに分かりますと言っています。

彼は、今まで横浜市立大学でも、そういう公開の場での討論をずっと避け続けてきたらしいですね。今回もなぜ未来構想会議の討論会が中止になったのか分かりませんが、ひょっとするとそれが関係しているかもしれない。だとすると、今後も一切討論の場に出て来ない可能性がある。そうするとみなさんが質問するしかないではありませんか。

そういう当然メディアでも問題になるべきだということが問題になっていけば、私が言っていることが他の候補とは全然違うことを言っているのだということもわかってもらえるのではないか、なぜ私が横浜市長選挙にこだわるのかということも、わかって頂けるのではないかと思っています。

※会見の様子を動画でもご覧いただけます。

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横浜未来構想会議の提言で示された「横浜市長選後の住民投票」は“大きな流れ”となるか

今年8月8日告示、8月22日投票予定の横浜市長選挙に、現時点で10人が出馬を表明している。最大の争点と言われている横浜市へのIR誘致への賛否については、8人が反対、賛成は、現職の林文子主張と、福田峰之氏の2人のみである。反対の8人のうち、小此木八郎氏、山中竹春氏、田中康夫氏の3人は、当選後、ただちに中止・撤回することを打ち出している。

私は、自分自身としてはIRに反対とした上、選挙後に、住民投票条例を市議会に提出し、住民投票で市民の意見を確認した上で、IR誘致の是非を最終決定すること、すなわち「住民投票による決着」を掲げている(【横浜IR、住民投票による決着が不可欠な理由】)。

IR誘致と住民投票をめぐる議論は、新たなステージへ

7月20日に、10人目となる出馬表明を行った松沢成文参議院議員は、カジノ反対を明言した上、「カジノ禁止条例」を公約に掲げた。松沢氏も、IR誘致に反対を掲げて市長選挙で当選するだけではなく、条例案の市議会への提出と、可決成立というプロセスが必要だとする点では私と同様だが、提出する条例案が、松沢氏は「カジノ禁止条例」、私は「住民投票条例」であるところに違いがある。

このように、横浜IR誘致をめぐっては、市長選の出馬表明者の中で様々な意見がある中、横浜港湾協会前会長の藤木幸夫氏が会長を務める「横浜未来構想会議」が、昨日(7月22日)、オンラインでシンポジウムを開催した。そこでは、武田真一郎成蹊大学法科大学院教授が、「新市長はIR(カジノ)住民投票の実現を」と題して講演し、

「カジノ反対そのものを選挙公約にすることも考えられるが、横浜の住民自治の発展のためには住民投票を契機として市民がこの問題を熟慮することが望ましいと思われる。住民投票実施を公約とする候補者が市長に当選すれば、もちろん市議会は市長選で示された民意を尊重して住民投票条例を可決する政治的な義務を負うことになる。」

との見解を示した。

それを受け、シンポジウムの最後では、斎藤勁事務局長が、同会議の提言「横浜再生の基軸」に、「市長選後の、住民投票条例の市議会への提出」を追加することを同会議の役員会で決定したと説明した。

横浜市長選が、半月後に迫る中、IR誘致と住民投票をめぐる議論は、新たなステージに入ったと言うべきであろう。

反対派候補者間の意見の違いと、IR誘致を中止に追い込むことの「確実性」という観点から、議論を整理する

昨年12月、横浜の市民団体がIR誘致に反対して住民投票を求め、19万筆を超える署名を集めて議会に提出した。それを受けた今年1月の議会では、住民投票条例案は否決されたが、世論調査の結果等から、横浜市民の民意は「IRに反対」との見方が一般的だ。

しかし、林市長が2019年にIR誘致の方針を明らかにして以来、市議会での議論を経て、関連する予算が成立し、事業者の公募が開始され、資格認定も行われて、今年の夏か秋に事業者を選定して、区域実施計画を国に提出する、という段階に至っている。

IR誘致に反対する立場からは、横浜市民の民意に反するIR誘致をストップさせ、中止に追い込むことが市長選における最大の目標であることは明らかだ。

それを前提に、反対派候補者間の意見の違いと、IR誘致を中止に追い込むことの「確実性」という観点から、議論を整理しておくこととしたい。

前提として重要なことは、日本の地方自治体では、首長と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶという「二元代表制」がとられており、市長と議員の双方が民主的な基盤を持っているということだ。

市長選挙は、その一方である市長を選ぶ選挙だが、もう一方の市議会議員も、それぞれの区ごとに選挙という民主的手続きによって選ばれる。市長選の結果がどうであれ、IR誘致に対する市議会の賛否は、基本的に変わらないという状況を想定しておく必要がある。市議会の自民・公明両党が、これまで、IR誘致に反対する署名や世論調査の結果にもかかわらずIR誘致を推進してきたこと、IRを推進してきた内閣の一員だったにもかかわらず閣僚を辞任し、IR反対を掲げて出馬表明した小此木八郎氏の推薦を、市議会自民が見送り、自主投票としたことなどからも、市長選後においても、市議会が「IR誘致賛成」が多数を占める状況に、基本的に変わりはないことを想定すべきであろう。

そこでまず問題となるのが、反対派の出馬表明者8人のうち3人が掲げる、「反対派候補の当選によって、ただちにIR誘致撤回・中止を宣言し、現市長が予定していた事業者選定、区域実施計画の国への提出を行わない」という「市長選での決着」をめざすことで、IR誘致を中止に追い込む「確実性」があるのかという点だ。

IR誘致反対を掲げる候補者が乱立する状況においては、市長選挙の結果を受けての横浜市の対応が、IR誘致についての民意を反映したものにならない可能性が相当程度ある。

まず、賛成派の林文子市長が僅差で当選した場合、予定どおりIR誘致が進められることは言うまでもない。一応「IR取り止め」を掲げている小此木氏が当選した場合も、その理由は「IR誘致の環境が整っていない」ということなので、「その後、コロナ感染収束によって環境が整ってきた」などとの理由で、IR誘致を実施する方向に転じる可能性も十分にある。

「市長選での決着」を図ろうとすれば、市長選後の横浜市が、「IR誘致反対多数」の民意に反して、実施の方向に向かうリスクが相当大きなものとなることは避けられない。

また、IR反対派の候補が当選し、実際にIR誘致撤回・中止を打ち出した場合も、話は単純ではない。前述したように、これまでIR誘致を推進してきた市議会自民・公明両党の意見が変わらないとすると、市長選後の市議会では、それまで市長と市議会との間で重ねられてきたIR誘致実施の方向の議論を覆して不実施の方針に転じることの理由の説明が求められることになる。

その際、新市長は、IR誘致を実施すべきではないとする理由について、どのように述べるのであろうか。山中氏が「IR即時撤回」の理由としているのは、「ギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだ」ということであり、当選して市長に就任しても即時撤回の理由を同様に説明するのであろうが、それが根拠に基づかないものであることは、私の公開質問状への立憲民主党側の対応で明らかになっている(【横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を】)。

田中康夫氏の現時点でのIR反対の理由も、「カジノIRは設けないということでコンセンサスがとれている」という程度であり、しかも、そのコンセンサスというのは「各種世論調査」に基づくものに過ぎない。このような説明で、IR誘致推進の自民・公明両党が納得して、IR誘致撤回に同意するとは考えにくい。

通常、市議会での市長を支えるのは市の執行部の役割であり、市長の答弁案も執行部が作成する。しかし、これまで市の行政は、IR誘致推進の方向で、議論と根拠を積み上げてきた。市長選の結果を受け、新市長がIR誘致撤回の方針を打ち出したからと言って、市執行部が一転してIR誘致に反対する十分な根拠を示せるとは考えにくい。結局、市議会で新市長は孤立することになりかねない。山中氏の場合は、SNS上で、支持者の人達がアップしている講演や街頭演説を見る限り、市議会での答弁能力が十分にあるとは思えないし、その点については卓越した能力を有する田中氏については、過去の長野県知事時代の前例からすると、不退転の姿勢が、市長と市議会との対立、市政の混乱につながる可能性もある。

IR誘致反対の方向に市長・市議会が一致して向かうとすれば、どのような方法を採りうるか

そこで、市長選挙の結果を受けて、IR誘致反対の方向に市長・市議会が一致して向かうとすれば、どのような方法を採りうるかである。

その一つが、松沢氏が公約に掲げる「カジノ禁止条例」であろう。

横浜市におけるカジノ設置を禁止する条例を制定することができれば、カジノ付きIR誘致が中止になるのは当然だ。

しかし、果たして、市議会自民党・公明党が、そのような条例案に賛成するだろうか。カジノ禁止条例を定めるというのであれば、条例制定上の根拠・理由が必要となる。それが、一般的にIR反対派が理由とする「ギャンブル依存症の増加」「治安悪化」などであるなら、実質的に容認されているパチンコ・スロット等との関係が問題となる。そのような条例制定が可能だとは思えない。

条例案を市議会に提出したとしても否決される可能性が高い。そうなると、打つ手がないということになるのではないか。

これまでの横浜市の執行部と市議会で重ねられてきたIR誘致をめぐる議論は、形式上は何ら問題はなく、それによって、IR誘致に向けての手続は最終段階に近づいているのである。それを覆す理由があるとすれば、適切な手続によって確認された「民意」以外にあり得ない。だからこそ、市長選後における住民投票という手続が重要となるのである。

「住民投票条例」による住民投票の実施を

そこで、私が掲げるのが「住民投票条例」による住民投票の実施なのである。

私が、市長選挙に当選した場合には、市議会にIR誘致の賛否を問う住民投票条例案を提出する。

それを、市議会が否決する可能性は低いと考えられる。

上記のように、今年1月に19万筆を超える署名提出による住民投票条例案を、市議会は否決した。しかし、その際は、林市長が、条例案について実質的に反対に近い意見を付している。また、市議会での条例案の審議における反対意見は、「まだ事業計画が固まっておらず、住民投票で民意を問うべき段階ではない」というのが、主たる理由だった。

今回、市長選挙後に新市長が提出する住民投票条例案は、まさに、市長選挙の結果を受け、「住民投票を実施すべき」という市長の意見を付し、IR誘致の事業計画の中身も具体的に明示した上で住民投票を行うことを定めるものだ。前回の住民投票条例案とは、前提が全く異なる。

しかも、6月の神奈川新聞の世論調査では、住民投票に賛成する意見は76%と、IR反対意見の71%より多い。市議会自民党にとっても、新市長が市長選後の住民投票を公約に掲げて当選した以上、住民投票条例案に反対することは困難だと考えられる。

それでも、自民党・公明党等の反対で住民投票条例が否決された場合には、新市長として「IR誘致不実施」の決定をすることになる。

市長選でIRに反対の意見を掲げた候補が当選した場合、それまでIRを推進してきた市議会とは対立状況となる。その対立について、住民投票で民意を確認した上で慎重に決定するために住民投票条例案が提出されたのに、市議会がそれを否決するというのは、執行権限を持つ市長に決定を委ねる趣旨と解することになる。新市長は、自らの意見にしたがってIR誘致不実施を決定すればよいということになる。

IRについての区域整備計画の提出は、市長の権限で行うものだ。市長が、それを行わない以上、市執行部は何も行いようがない。市議会では、住民投票条例案を否決し、民意を問うことを否定した以上、市長の決定に異を唱えることはできないであろう。

それによって、横浜IR誘致の問題は完全に決着するのである。

以上述べたとおり、IR誘致をめぐる問題を決着させるためには、市長選後に、事業の内容を具体的に示し、その目的、それが横浜市の将来にもたらすメリット・デメリット等を示し、市民に判断材料を提供した上で、住民投票を行うことが不可欠である。

未来構想会議の提言を受けて、市長選挙でIR反対を掲げる候補は、市長選挙後の住民投票への賛否の意見を明らかにすることが求められることになるだろう。

IR反対を掲げる候補のうち、小此木氏は、出馬会見で、IRを取りやめることの理由としたのは「IR誘致に市民の理解を得られていない」ということであり、「市民の理解の程度」を住民投票によって確認することに反対する理由はない。

松沢氏も、今年2月に「民主的プロセスを経ていない形でIRを強行するのは反対だ」と述べていたものであり、上記のとおり「カジノ禁止条例」が無理筋であることがわかれば、民主的プロセスを経る方法としての住民投票に反対する理由はないと思われる。

また、山中竹春氏は、出馬会見では、「IRは断固反対、即時撤回」と述べているが、一方で、「住民自治」「市民が決めること」を強調しており、推薦する阿部知子立憲民主党神奈川県連会長も、ツイートで、市長選後の住民投票に賛成の意見を示していることからも、前向きな姿勢に転じる可能性は高いと考えられる。そもそも、最適な方法で住民投票を行い、民意を正確に計測することは、データサイエンティストを標榜する山中氏にとって専門領域のはずである。

「市長選後の住民投票条例」が、今後、市長選をめぐる大きな流れとなっていくことを期待したい。

政党、団体には一切頼らず、「横浜市を、菅支配から市民の手に取り戻す」ことをめざし、市民の皆さんと一緒に戦っていこうと思います。是非、ご支援をお願いします。

公式ウェブサイトにてボランティア・寄附募集中! http://nobuogohara.jp

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横浜市長選挙、立憲民主党は江田憲司氏の「独断専行」を容認するのか〜菅支配からの脱却を

7月7日の記者会見で、横浜市長選挙への立候補の意思について、横浜市長選挙への立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明(以下、「出馬意志表明」)したが、立憲民主党が推薦候補として擁立している横浜市立大学元教授の山中竹春氏が、野党統一候補として横浜市長となるのに相応しい人物であることが確認でき、私が掲げた重点政策に基本的に賛同するのであれば、立候補の意思は撤回し、山中氏を全面的に応援すると述べ、立憲民主党神奈川県連会長宛ての質問状も公開した。

しかし、その後の立憲民主党側の対応によって、出馬意志の「解除条件」とした「山中氏が市長に相応しい人物であること」「私の重点政策の受け入れ」のうち、前者の条件が充足される余地は全くないと判断せざるを得なかったので、7月16日の記者会見で、その経緯を明らかにし、改めて、明確に市長選への出馬意志を表明した。

同日の会見の内容は、YouTube《郷原信郎の「日本の権力を斬る」》に【7月16日 横浜市長選挙出馬会見】と題してアップしている。

会見では、山中氏批判に加えて、市長選出馬でめざす

  • 横浜市を、菅支配から、市民の手に、取り戻す
  • カジノに頼らない山下ふ頭の活用 生鮮食品市場を中核とする「食の賑わい施設群」フィッシャーマンズワーフを観光の起爆剤に!

についても述べている。後者については、この構想の提案者の市長選出馬表明者である横浜市中央卸売市場の本場で水産仲卸業「金一坪倉商店」を営む坪倉良和氏も会見に参加し、固い握手を交わした。

これまで、一貫して安倍・菅政権を批判し、国会での公述人、参考人陳述や、野党ヒアリングなどで野党側に協力してきた私としては、今回の横浜市長選で、自分自身の立候補によって反自民票が分散して自民党を利することになるのは、決して本意ではない。

しかし、今回の出馬意志表明までの経緯、そして、今回の立憲民主党側の対応等で山中氏について明らかになったことからすれば、私が、敢えて出馬意志を表明するに至ったことも理解して頂けるのではないかと思う。この二つの点について、詳しく述べたいと思う。

出馬意志表明までの経過

私が、立憲民主党側と、最初に、横浜市長選挙について話したのは、今年2月下旬、江田憲司氏がIR反対の統一候補者調整を中心になって進めていることが書かれた「現代ビジネス」の記事を目にして、江田氏と電話で話した際だった。私が、横浜市のコンプライアンス顧問として同市の行政に深く関わっており、市長選にも重大な関心を持っていることを伝えたところ、江田氏は、「参院広島に出馬しないことになった場合には、横浜市長選も考えてほしい」と言っていた。

その後、市長選挙で次々と名前が上がる与党側、野党側の候補者に、市長に相応しいと思える人物が全くいないと思えたこと、不適任の人物が市長に就任した場合に予想される「コンプライアンスへの重大な悪影響」は何とか食い止めたいと考えたことから、6月10日に、江田氏と電話で話し、「市幹部からは私の市長選出馬への期待もあるようだ」と言って、私も出馬を考えていることを伝えた。しかし、江田氏は、「素晴らしい候補者が複数手を挙げていて調整に困っている状況だ」と言っていた。その中には、横浜DNAベイスターズの初代社長の池田純氏も含まれていることを認めていた。

そして6月20日頃、「立憲民主党が横浜市立大学教授の山中竹春氏を、市長選挙に擁立へ」と報じられ、山中氏について、マスコミなどから情報を収集したが、市長に相応しい人物とは全く思えなかったことから、私自身が立候補を真剣に考えざるを得ないと判断し、その直後から、県連会長や党本部選対幹部など各レベルに、「7月6日の横浜市のコンプライアンス委員会までは顧問職を全うしたいと考えているので、市長選挙について自ら表明することはできないが、横浜市長選出馬に向けて覚悟を固めている」と伝えた。

6月24日には、横浜市に、7月6日のコンプライアンス委員会をもって顧問を退任することを申し出て、手続を終え、翌日に、ヤフーニュース記事で【横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える】と題して、市長選の最大の争点と目されていた横浜市のIR誘致の是非について、コンプライアンスの視点から私の見解を述べた上、記事の末尾で、7月6日でコンプライアンス顧問を退任することを明らかにした。

そして、7月6日のコンプライアンス委員会の終了をもって、顧問を退任し、翌日に行ったのが冒頭に述べた「解除条件付き出馬意志表明会見」だった。質問状への回答によって、山中氏の市長としての適格性・政策の共通性が確認できれば私は立候補の意志を撤回すると述べているが、逆に、それらが確認できないようであれば、山中氏の擁立を再検討すべきとの趣旨を含んでいた。

このような会見を行うことについては、事前に立憲民主党福山哲郎幹事長とも面談し、質問状も渡していた。質問状を受け取った阿部知子県連会長からも、「必ず書面で回答させます」という丁寧なメールが届いた。

江田氏、青柳氏らとの面談

7月14日、立憲民主党江田憲司代表代行、青柳陽一郎県連幹事長、藤崎浩太郎横浜市議の3人が、私の六本木の法律事務所を訪れ、山中氏に代わって、回答の内容を伝えてきた。

私の第一の疑問は、山中氏は、横浜市立大学教授、データサイエンス学部研究科長、学長補佐の立場にあり、「データに基づく行政」についても提言できる立場にあったのに、なぜ、年度の途中で、突然、その職も、研究も、学生の指導も投げ出して、市長をめざす必要があったのかという点だったが、この点についての合理的な説明は困難とのことだった。

2つ目の質問は、出馬会見等で「データサイエンティスト」を標榜し、「IRによるギャンブル依存症増加、治安悪化がデータから明らか」「データに基づく市政」「データによるコロナ対策」を行うなどとしていたので、それがどのようなものなのか、具体的な根拠と内容を問うものだったが、青柳氏の説明では、いずれも、具体的な根拠や内容はなく、単に、選挙向けに「データサイエンスの教授」の肩書を使っているに過ぎないことを認めざるを得ないとのことだった(江田氏は、私の質問の趣旨の説明に苛立ち、途中、一方的に退席)。

これらの立憲側の説明からすると、独禁法違反行為の一つに、「欺瞞的顧客誘引」というのがあるが、山中氏が行っていることは「欺瞞的有権者誘引」のようにも見える。

そして、山中氏の市長としての適格性に重大な疑問を持たざるを得ないもう一つの事実として、ネットメディア「ニュースソクラ」等で問題を指摘されてきた、昨年8月に吉村大阪府知事らが行った、いわゆる「イソジン会見」で、データ解析者として山中氏の名前が表示されていた問題がある。

山中氏は、記者会見を開いて、「イソジンについての共同研究に加わっておらず、データ解析は行っていない」と述べたが、大阪府の開示文書では山中氏の名前が頻繁に登場し、イソジン会見当日の朝に、グラフ作成に関して研究者の松山医師とメールのやり取りをしていることを窺わせる記載もある。ところが、山中氏は、この件に、いかなる「関与」「協力」をしたのかは全く説明していない。

一方で、山中氏の出馬会見では、同席した江田氏が、山中氏のイソジン問題への関与を指摘するメディアや他の出馬表明者に対する法的措置をちらつかせた。

イソジンの問題は、山中氏にとって、公職選挙への出馬表明に関して強調している「データ専門家」の信頼性に関わる問題だ。ところが、「データ解析を行っていない」と形式的に否定するだけで、関与についての実質的な説明は全くなされていない。地元支援者多数を政府の公式行事の「桜を見る会」に招待していた問題で、当時の安倍首相が、「募ったが『募集』はしていない」と意味不明の答弁したのと同レベルだ。

この点についても、青柳氏と話したが、合理的な説明は全くなかった。

青柳氏は、7月15日夜に私に電話してきて「本当は、郷原先生と一緒になりたいんです。でも私の力ではどうにもなりません」と率直に話していた。

なぜ推薦候補者決定を急がなければならなかったのか

こうして、16日の会見で、私は、横浜市長選挙への出馬の意志を、改めて明確に示すこととなった。

既に述べたように、私自身が、今回の横浜市長選挙に立候補する意思があることは、県連、党本部など各レベルに伝えていた。それなのに、敢えて山中氏の推薦を決定したことについて、青柳氏は、「山中氏は、6月中に出馬表明をしてくれた。郷原先生は、7月上旬まで、コンプライアンス顧問の職務との関係で出馬意志を表明できないということだったので、そこまで待つことはできなかった」と説明していた。しかし、この説明も、全く不可解だ。

山中氏が、出馬会見を行ったのは6月30日、私が「解除条件付き出馬会見」を行ったのが7月7日、その一週間の違いが、なぜそれほどまでに重要なのか。

出馬表明後、山中氏が行っているのは、横浜市内での街頭活動である。

立憲支持者のツイートによれば、以下のように、「8月22日 横浜市長選挙」と明示し、その選挙区の衆議院議員や立候補予定者の名前のノボリや看板を立てて、山中氏が、街頭演説を行っている。

また、江田憲司氏と山中氏の名前と写真を掲げ、「8月22日 横浜市長選挙」と大書した「二連街宣カー」が横浜市内を駆け巡っている。

このような「事前運動」まがいのことを、少しでも早く行うために、山中氏の推薦を決定したのであろうか。

江田氏が擁立しようとしていた池田純氏の顛末

江田氏が、調整中の複数の候補者の一人であることを認めていた池田純氏は、ダイアモンドオンラインの記事【さいたまブロンコス代表の退任から横浜市長選挙出馬の噂まで、その真相と真意について話します】(6月26日)で、次のように述べている。

2021年の1月20日のことです。私に立憲民主党から声がかかりました。今年で任期が満了となる林文子市長と自民党の統括下にある横浜市政に代わるために、横浜市長に立候補してくれないかという要請です。
(中略)
「カジノ反対なら全面的に応援と支援をする」「党を挙げて協力する。選挙資金も数千万円単位で用意するので推薦させてほしい」などなど、権威が欲しい人や、お金や利権に目がない人ならすぐにうなずくような口説き文句かもしれません。しかし、その背景には、立憲民主党が私の背後から横浜市をコントロールしたい、秋まで続く自民党との国政での戦いに横浜市長選を利用したいという意図が透けて見えます。

同記事では、市長選に出馬するか否かは明確に述べていなかったが、その後、公刊予定の著書と池田氏の名前・顔写真を大きく載せたラッピングバスを市内で走らせるなど、出馬への意欲を見せていた池田氏は、7月9日に、ツイッターで出馬しないことを明言した。それにもかかわらず、その直後から、ベイスターズ社長時代の金銭スキャンダルが、週刊誌等で相次いで取り上げられた。

池田氏が上記記事で書いているように、同氏の側から出馬要請を断ったのか、立憲民主側からスキャンダルの表面化を懸念して擁立を断念したのか真偽のほどは定かではない。しかし、少なくとも、6月10日の時点で、江田氏が、池田氏を有力候補の一人と考えていたことは間違いない。

「断固反対、即時撤回」か「住民投票による決着」か

同会見の翌日(7月17日)、山中竹春氏の支援団体などが集まる合同選対会議の初会合が開かれ、カジノ誘致に反対する横浜港ハーバーリゾート協会の藤木幸夫会長が名誉議長として出席。山中氏を全面支援する考えを示したと報じられ、記事の写真の中で、山中氏、藤木氏と並んだ江田憲司氏が、満面の笑みを浮かべている。

藤木氏は、現職閣僚を辞任して市長選に立候補を表明した小此木八郎氏と古くからの親密な関係だと言われており、同じくIR誘致反対を掲げて出馬を表明している元長野県知事の田中康夫氏も、藤木氏と旧知の間柄であることを強調していた。「ハマのドン」と言われる実力者で、横浜市の経済界に大きな影響力を有する藤木氏に、小此木氏でも田中氏でもなく、全く面識がなかった山中氏の「全面支援」と明言させた。江田氏は、藤木氏を味方に引き入れたのは、自分の功績だと言いたいのであろう。

IR誘致について、山中氏は、私が主張する「住民投票による決着」ではなく、「断固反対、即時撤回」を強調している。それは、市長選を「IR反対のための選挙」として位置づけてきた江田氏らの方針によるものであろう。

しかし、私が、コンプライアンス顧問在任中から指摘してきたように(【横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える】)、IR誘致について横浜市の方針を変更するとすれば、その理由は「民意」しかあり得ない。それを確認する方法は、市長選挙の結果だけではなく、「住民投票による決着」によるべきだ(【横浜IR、住民投票による決着が不可欠な理由】)。

神奈川新聞の世論調査の結果によれば、IRに関する住民投票については、賛成が76%を超えている(IR反対の71%を上回っている。)。立憲民主党阿部知子県連会長も、「郷原さんの主張について、とりわけIR誘致をめぐる住民投票の必要性に賛成する。」とツイートし、住民投票についての私の主張に賛成と明言してくれている。

山中氏の立場に立って考えたとしても、そもそも、住民投票を否定し「IR即時撤回」と主張していることは、政策として掲げている「住民自治の確立」「デジタル技術の活用と現場を重視した市民の声を直接聞く仕組みを創設」とは整合しないように思える。

住民投票を否定し「IR即時撤回」にこだわるのは、江田氏個人の意見の押しつけとしか思えない。

山下ふ頭の活用としての「新中央卸売市場」と「食の賑わい施設」

そして、重要なことは、この「住民投票」で何を問うかである。これまでの議論は、IRがもたらす経済的・財政的メリットと、社会的デメリットを比較して、「山下ふ頭へのIR誘致の是非」だけを問うというものだった。IR賛成派は、山下ふ頭にIRを誘致することにより、観光産業の活性化を図り、カジノ収入を今後の横浜市の財政を支えるための収益源とするというIRの経済的メリットを強調し、一方のIR反対派は、カジノを含むIRは、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化を招くなど、横浜市の社会と市民に重大な弊害をもたらすことを強調してきた。

しかし、果たして、横浜市が、カジノ賭博での「負け金」を当てにしなければ、将来の市民の生活すら維持していくことすらできない、という情けない状況だということを前提にして考えるべきなのだろうか。

歴史と伝統のある、日本でも「住みたい街」のランキングでも上位に入る横浜市には、本来、都市としての大きなポテンシャル、大きな可能性があるはずだ。今、それを横浜市民が全力で考えていくべき局面ではないだろうか。

そこで、山下ふ頭へのIR誘致の対案として、私達が考えたのが《生鮮食品市場を中核とする、市民と国内外の観光客が集う「食の賑わいと楽しみ」の施設群》を山下ふ頭に建設する構想だ。

現在、瑞穂ふ頭の少し陸側に、孤立して所在している「中央卸売市場」を、山下ふ頭に移転する。そして、その周辺の膨大な土地を、フィッシャーマンズワーフ、ファーマーズマーケット等の「食の賑わいと楽しみ」の施設に活用するのである。

かつて、日本で「食の賑わいの場」と言えば、東京・築地だった。しかし、築地市場は、豊洲に移転され、今では、無機質なコンクリートの塊の「豊洲市場」があるだけだ。豊洲に東京都が計画していた「食の賑わい施設」の計画も挫折した。

東京が失ってしまった「食の賑わいと楽しみの拠点」を、横浜・山下新市場を中心に築き上げていこう、アメリカ西海岸のサンフランシスコにあり、カジノを持たない観光地サンフランシスコの観光の拠点となっている「フィッシャーマンズワーフ」に、私達がめざすべき、横浜の未来があるのではないか。

我々は、この選択肢を、IR誘致の対案として示したい。住民投票は、決して、「カジノに頼らざるを得ないかどうか」を問うものではない、横浜市民にとって、もっとワクワクするものを提示したい。

現時点での提案は私の政治活動用webサイトにPDFで掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。
《食のライブマーケット構想〜生鮮食品市場を中核とする、市民と国内外の観光客が集う「食の賑わいと楽しみ」の施設群》

立憲民主党は、江田氏の行動を容認するのか

私は、「横浜市を、菅支配から、市民の手に、取り戻す」というスローガンを掲げ、政党・団体の支援も協力もなく、費用も自費で、これから募集するボランティアの協力だけで選挙の準備を行っていこうと思う。私の横浜市への思いは、きっと横浜市民に届くものと確信している。

阿部県連会長も、青柳幹事長も、そういう私の思いや主張は十分に理解してくれているように思える。しかし、江田氏の「独断専行」ですすめてきた同党の横浜市長選挙への対応は、全く真逆である。そこには、「菅支配と戦おうとする姿勢」は全く見られないし、横浜市のことを真剣に考え、横浜市長に相応しい人物を擁立しようとしているとは思えない。

これまで述べてきた経緯と山中氏に関する問題を踏まえ、立憲民主党は、横浜市長選挙への対応を真剣に見直すべきではなかろうか。

菅政権のコロナ対策、オリンピック開催をめぐって、国民の不満・反発は頂点に達しつつあり、内閣支持率が30%を割り込む世論調査結果も出てきている。まさに、内閣は崩壊の危機にあるのに、一方の野党第一党の立憲民主党に対する支持率は一向に高まらない。

今回の横浜市長選挙への対応は、立憲民主党にとって「菅政権に対立する勢力としての真価」が問われるものと言えよう。国民の期待が一向に高まらない同党こそが、自民党安倍・菅政権の延命の最大の要因となっていることを、改めて認識すべきであろう。

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横浜IR、住民投票による決着が不可欠な理由

昨日(7月12日)、【横浜市長選挙を通して、「住民投票」と「候補者調整」の意義を考える】と題して、私自身も出馬意志を表明している横浜市長選挙の主要な争点である「IR誘致の是非」について、住民投票を実施することの意義について述べたところ、立憲民主党神奈川県連会長の阿部知子氏が、以下のツイートで、私の意見に賛同してくれた。

私の言わんとするところを十分に理解して頂き、大変心強い限りである。

 私は、6月25日に出したヤフーニュース記事【横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える】でも、地方自治体のガバナンス、コンプライアンスの視点から、横浜IRについては、市長選挙において、賛成派・反対派のいずれが勝利を収めるかということだけで、一刀両断的に決めるのではなく、事業の内容を具体的に示し、その目的、それが横浜市の将来にもたらすメリット・デメリット等を示し、市民に判断材料を提供した上で、住民投票を行うことが必要であると指摘してきた。

 マスコミの世論調査等で、IR誘致への反対が多数を占めていると報じられていることを意識してか、IR反対を掲げる出馬表明が相次ぎ、自民党の現職閣僚だった小此木八郎氏までもが、「市長に就任したらIRを取りやめる」などと述べて出馬表明をしたが、IRを推進してきた自民党市議会議員から強い反発を受け、自民党横浜市連は、自主投票を決定した。

 IRを推進してきた現職の林文子市長も、今週中には出馬表明をすると見られている上、本日の記事で、前神奈川県知事の松沢成文氏も出馬の意向と報じられるなど、市長選の状況は、ますます混迷を深めている。

 このような状況下においては、横浜市へのIR誘致の問題の決着には住民投票を行うことが不可欠だ。そう考える理由を、改めて整理することとしたい。

選挙の結果は、必ずしも民意を反映しない

第1の理由は、市長選挙の結果で、IR誘致の是非を決めると言っても、現在の市長選をめぐる状況では、選挙の結果が、IRの賛否についての民意を反映するものになるとは限らないことである。

現在までに出馬表明している8人、出馬の意向と報じられている2人の合計10人の立候補予定者のうち、IR反対を明言しているのが8人、それに対して、IR賛成派は、現職の林市長と、出馬表明ではニュートラルとした上、その後に賛成を表明した福田峰之氏のみである。しかも、前回の市長選挙で、出馬表明前まで菅義偉内閣の一員としてIRを推進する立場にあり、カジノ管理委員会の委員長も務めていた小此木八郎氏については、前回市長選挙で、林市長が、「IRは白紙」として当選した後、2年後にIR誘致の方針を打ち出した前例が引き合いに出され、「IR反対を掲げて当選した後に、時機を見てIR推進に転じる可能性」が指摘されている。

このような状況で市長選挙が行われた結果、仮に、僅差で林市長が当選したとしても、選挙結果で「IRの賛成」の民意が示されたとは言えないことは明らかであり、また、小此木氏については、「IR反対・取りやめの言葉を信じてよいか」という同氏の言葉への信頼性がもっぱら評価の対象になるのであり、仮に、小此木氏が当選したとしても、それを「IR反対」の民意と見做して良いかどうかは微妙だ。

結局、現在のような市長選の状況では、選挙結果を「IR誘致についての民意」と受け止めることは到底できないのである。

従来の議論での最大の論点は「住民投票実施の是非」だった

第2に、IR誘致に関する横浜市での議論の経過を見ても、最大の論点が「住民投票を行って、民意を問うべきか否か」であったのは明らかだ。IRに反対する市民運動では、住民投票を求める法定数を超える19万筆以上の署名が提出されたことを受け、市議会に住民投票条例案が提出されたが、否決された。一方、IRを推進しようとする林文子市長のリコールを求める署名は9万筆にとどまり、法定数に達しなかった。IRをめぐる問題では、住民投票を求める意見は市民から一定の支持を得たが、市長を解職すべしとの意見は、市民の多数とはならなかった。

住民投票条例を審議した市議会の議事録によれば、「住民投票を行うことの是非」について、自公両党からは否定する意見、立憲民主、共産等からは肯定する意見が出され、それぞれ、相応の論拠に基づいて議論が行われた結果、条例は否決されている。ここで、自公側が住民投票実施反対の主たる理由としたのは、わが国の法制度上、住民投票という方法によって民意を問うことには限界があること、その時点ではIRの事業計画すら明確になっておらず、住民投票で民意を問う段階に至っていないことであった。

後者の理由については、その後、設置運営予定事業者の公募、事業者からの事業計画案の提出も終えているのであるから、現時点では、住民投票で市民に判断を求めるIRの事業内容は具体化している。また、前者の、「住民投票を行うこと自体の意義」は、地方自治における二元代表制の下で、直接民主主義をどの程度に活用していくのかという問題であり、まさに、市長選挙で市民に意見を問うべき重要論点である。

市長選への出馬表明者、今後出馬表明をすると報じられている人について見てみると、現時点で、住民投票をすべきと明言しているのは私だけだが、他の出馬表明者も、「民意」の確認を重要視していることは間違いない。

小此木氏が、出馬会見で、市長に就任したらIRを取りやめることの理由としたのは「IR誘致に市民の理解を得られていない」ということであり、「市民の理解の程度」を住民投票によって確認することに反対する理由はない。出馬の意向と報じられている松沢氏も、今年2月に「民主的プロセスを経ていない形でIRを強行するのは反対だ」と述べていたものであり、民主的プロセスを経る方法としての住民投票に反対する理由はないと思われる。また、山中竹春氏は、出馬会見では、「IRは断固反対、即時撤回」と述べているが、一方で、「住民自治」「市民が決めること」を強調しており、冒頭で述べたように、山中氏を推薦する立憲民主党の阿部知子県連会長が、住民投票に賛成の意見を示していることからも住民投票に前向きな姿勢に転じる可能性は高いと考えられる。データサイエンティストとしての山中氏にとって、最適な方法によって住民投票を行って、民意を的確に計測することの提案は、まさに専門家としての面目躍如ではないかとも思える。

結局のところ、IR誘致についての住民投票を明確に否定しているのは田中康夫氏だけである。しかし、「IR誘致への反対の市民のコンセンサスが得られている。市長選挙は住民投票を含む」とする同氏の見解が誤っていることは、【横浜市長選挙を通して、「住民投票」と「候補者調整」の意義を考える】で既に述べたとおりである。

 IR誘致反対の出馬表明者にとっては、住民投票実施を公約に掲げることは、これまでの発言からも親和性のある対応と言えるのである。

新市長による「IR撤回」が市議会との対立を招く可能性

そして、第3に、市議会との関係である。

日本の地方自治体では、首長と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶという二元代表制がとられており、自治体の意思決定は、首長と議会に委ねられている。そして、それについて、首長と議員との間で、様々な面から「熟議」が行われることが前提とされている。

市長選挙で「民意」が示されたとして、市長がIR誘致を撤回することは法的には可能であるが、それに関して、市議会で議論が行われることは必至だ。今回、IR反対を掲げて出馬表明を行った自民党県連会長の小此木氏に対して自民党の市議会議員が反発し、自主投票になったのは、多くの自民党市議の支持者がIR推進派であり、IR反対に転じることは支持者に対する裏切りになるからであろう。このような自民党市議としては、新市長がIR誘致を撤回すると言っても、それに唯々諾々と従うわけにはいかない。市議会では、なぜ、IR誘致を撤回すべきと考えるのか、徹底追及が行われることは必至だ。

その際、これまで、市の執行部と市議会で行ってきた議論を覆す十分な根拠があるのかが問題になる(それが、私が、立憲民主県連会長宛ての質問状で、「IR即時撤回」を掲げる山中氏が、その理由としているギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだ」としていることについて、データ上の根拠を問い質している所以である。)。

新市長が、十分な根拠もなくIR誘致即時撤回の方針を強行しようとすれば、市議会の多数を占める自公両党との対立が深まるのは必至である。それは最終的には、不信任決議案の可決という事態に発展する可能性も全くないとは言えない。

コロナ禍で多くの市民が、その暮らしや仕事に大きな影響を受け、コロナ対策が市政の最重要課題となっている中、市長と市議会の対立による市政の混乱は、絶対にあってはならないはずだ。

そういう意味でも、IR誘致の是非について、住民投票で民意を問うことについて、市長選挙で市民の意向を確認すること、市長選挙後に合理的な方法の住民投票で民意を正しく把握し、その民意実現のために、市長と市議会が協力し、IR問題を決着させることが、市民にとって最も望ましい方法と考えられるのである。

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横浜市長選挙を通して、「住民投票」と「候補者調整」の意義を考える

2021年7月8日、作家で元長野県知事、元参議院議員、元衆議院議員の田中康夫氏が、横浜市内のホテルで、横浜市長選への出馬表明の記者会見を行った。

その会見で、田中氏は、前日に私が行った同じ横浜市長選への「出馬意志表明会見」を意識したと思える発言がいくつかあった。いずれも、私の主張を批判的に取り上げたものだが、それらには、今回の市長選で最大の争点とされてきた横浜へのIR誘致の是非に関する意思決定の在り方や、公職選挙、とりわけ首長選挙における候補者調整の在り方について重要な論点が含まれている。

IR誘致の是非を住民投票で決着することの是非

第1に、田中氏は、

「IRについては、各種世論調査で、IR誘致への反対の市民のコンセンサスが得られている。市長選挙はIRについて市民の反対の意思を確認するものであり、住民投票を含むものだ。市長選後に、巨額の費用をかけて住民投票を行うべきだというのは誤っている。」

と言っている。

しかし、現在の市長選挙をめぐる状況を見る限り、選挙結果でIRについての市民の反対の意思が示されることになるとは限らない。

田中氏は、「当選すれば、問答無用でIR誘致は取りやめる」、ということであろう。しかし選挙結果は必ずしもそうなるとは限らない。既に、7人が出馬表明しており、そのほとんどは「IR反対」を掲げている。今後、IRを推進してきた現職の林文子市長も4選をめざして出馬を表明すると言われている。「IR反対」候補が乱立する中、IR推進を掲げる林市長が僅差で当選した場合、全体としては、市民の圧倒的多数が「IR反対」候補に投票したのに、選挙結果は「IR賛成」側の勝利ということにもなりかねない。

また、各種世論調査の結果だけで、「IR誘致反対についてのコンセンサスが得られている」と言えるのかも疑問だ。世論調査で、IR反対の意見が多いことは確かだが、民意を正しく反映したというためには、横浜市がIR誘致の理由としていることも正しく理解された上で、判断が示される必要がある。

それは、主として財政上の理由であり、(1)今後、横浜市でも生産年齢人口の減少等による、消費や税収の減少、社会保障費の増加など、経済活力の低下や厳しい財政状況が見込まれており、そうした状況であっても都市の活力を維持するための財源確保が必要、(2)横浜市は上場企業数が少なく、法人市民税収入が少ない。(3)今後、小中学校の建て替えなど、公共施設の保全・更新に膨大な予算が必要となる、などの事情だ。

そこで、従来、観光客は日帰りが多く、観光消費額が少ない横浜市の観光収入を飛躍的に増やし、IRからの収入で将来の横浜市の財政を賄おうというのである。

これに対して、IR反対派の主たる論拠は、IRに含まれるカジノ賭博によるギャンブル依存症の増加、治安悪化等の負の側面があるとの指摘だ。

これらのIR賛成派、反対派の論拠が正しく示された上で、横浜市民が、IR誘致によって、経済を活性化させ、賭博の収入で将来の市の財政を賄おうとすることの是非について、横浜市民に判断を求めようというのが、住民投票を実施することの意義だ。

かかる住民投票と比較した時、各種世論調査における、「山下ふ頭に、カジノを含むIR(統合型リゾート)の誘致に賛成ですか、反対ですか」という質問への答が、本当にIR誘致の是非に対する民意を反映するものと言えるのかは、甚だ疑問だ。

本来、地方自治体の首長選挙は、その後の4年間の任期中の市の運営や事業遂行について、市民が基本的に白紙委任する対象となる市長を選ぶためのものだ。4年間の市政を全面的に委ねるに相応しい能力・資質を持ち、人格的にも信頼できる市長を選ぶことが、まず重要であることは言うまでもない。しかも、首長選挙において民意を問うべき事項は、決して単一ではない。4年間の任期において実施の是非の判断を求められる重要施策、事業には様々なものがある。それら全体について適切な判断を行う首長を選ぶのが首長選挙であり、一つの重要施策の是非だけが問われるのではない。

また、住民投票の費用についても、公職選挙法上の「選挙」と異なり、「候補者」はいないのでポスター掲示版が不要であるなど、費用構成は異なるし、仮に、この秋に行われる衆議院総選挙と同じ日程で住民投票を行えば、費用は相当削減できるはずだ。また、そもそも、この場合の住民投票は、市長選の結果に基づいて市議会に条例案を提出して、審議を行うものであり、公職選挙法に基づくものではないので、実施方法についても柔軟に検討できる余地がある。電子投票を導入すること等で大幅にコストを削減することも検討に値するだろう。

IR誘致の是非が、横浜市にとっても、横浜市民にとっても、極めて重要な決定であることを考えれば、「費用がかかるから住民投票は行うべきではない」との立論は成り立たない。

日本の地方自治体では、首長と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶという二元代表制がとられており、自治体の運営と意思決定は、基本的には、首長と議会に委ねられている。しかし、当該自治体やその住民に重大な影響を生じさせるような施策や事業の遂行については、その自治体の住民の民意を確かめ、考慮しつつ進めていく「住民自治」の拡大が積極的に行われるべきであり、住民投票をIT化し、効率化することも、そのための重要な手段となる。まさに、横浜市にとって、IR誘致の是非について住民投票によって民意を問うことは、その試金石と言っても過言ではないのである。

首長選挙における出馬意志表明後の候補者調整の意義

第2に、田中氏が、

「公式の場で立候補を表明した後に、一本化の話をするのは開かれた談合のようなもので、民主主義が本来あるべき姿ではない。」

と述べたのは、私が、前日の会見で

「立憲民主党の推薦候補となっている山中竹春氏が、野党統一候補として横浜市長となるのに相応しい人物であることが確認でき、私が掲げた《横浜市政に関する主要政策》にも基本的に賛同して頂けるのであれば、私の立候補の意思は撤回し、山中氏を全面的に応援したいと考えています。」

と述べたことを意識し、批判したものだろう。

田中氏が言うように、「出馬表明後に候補者の人物評価、政策の擦り合わせによる候補者調整を行うこと」は、否定されるべきなのだろうか。

まず重要なことは、公職選挙の告示前の「出馬表明」というのは、あくまで、その時点で、「立候補をめざして活動していく意志の表明」であり、「確定的な立候補の決意表明」ではないということだ。「立候補の決意を固めて選挙での当選をめざす活動」を行うとすれば、「選挙運動」そのものであり、告示後でなければ行えない。告示前に選挙運動を行えば、「事前運動」として違法となる。

そういう意味では、公職選挙で立候補しようとしている者が、告示前に公の場で、明らかに問題がない言い方で「立候補」に言及するとすれば、実際に私が出馬意志表明会見で述べたように「横浜市長選挙への立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明します。」ということだけだ。この時点での「立候補」というのは確定的なものではなく、単に、「その意志を持っている」というだけだ。

そして、「立候補の意志を持って行う政治活動」にとって重要なのは、立候補する場合に掲げる政策を検討・公表し、最終的に立候補するかどうかについて、当該選挙区域内での自らへの支持の状況を、有権者の反応や各種調査等で確認すること(「瀬踏み行為」)、他の候補と、政策面での擦り合わせ等を行い、立候補の調整を行うことなどだ。

公職選挙における民主主義のプロセスとしても、立候補者の意志を持つ者が、その意志を表明し、それが固まっていく経過の中で、どこでその意志の表明を行うかについては、様々な考え方があり得る。

国政選挙の場合は、政党中心に候補者の選定が行われるが、自治体の首長選挙等は、政党主導とは限らない。この場合、「立候補の意志を持った者」の存在がマスコミ等で明らかになるのは、出馬意志の表明、すなわち「出馬表明」の時点だ。それによって、出馬表明者の存在と、その属性、政策等が世の中に明らかになる。それ以降、出馬表明者相互間の調整を行うことも可能となり、最終的に、選挙で有権者の選択に委ねられるべき候補者が確定する。それは、地方自治体の首長選挙における民主主義の実現にとって、むしろ望ましいプロセスなのではないだろうか。

今回の横浜市長選挙に関して言えば、私が、出馬意志を表明した7月7日の時点までに、多くの人の出馬表明が行われていたが、その中で、唯一、具体的な政策を明確に掲げたのが、中央卸売市場の山下ふ頭への移転と「食の拠点化」を掲げていた中央卸売組合理事の坪倉良和氏だった。

その坪倉氏の構想に触発された私は、出馬意志表明会見において、市長選での最大の争点とされていたIR誘致の是非について、従来からの「住民投票によって決着すべし」という主張に、選択肢としての「山下ふ頭活用の選択肢としての市場と『食の賑わい施設』」を政策の一つとして加えた。市場関係者である坪倉氏の出馬会見があったからこそ、私は、このような構想を知ることができたのであり、現在、その構想の具体化に取り組んでいる。

自民党側では、現職閣僚を辞任して市長選への出馬表明を行った小此木八郎氏は、「IRは取りやめる」ということ以外に、全く政策を明らかにしておらず、これまでIRを推進してきた自民党側候補の「IR反対表明」に自民党市議団は混乱し、市長選での対応方針すら固まっていないと言われる。

一方、野党側の推薦候補である山中竹春氏は、「IR絶対反対、即時撤回」を掲げているが、それ以外の政策は、「データを活用した行政」という抽象的なものにとどまっており、前記のとおり、私が、横浜市政に関する主要政策に基本的に賛同する場合には立候補の意志を撤回し、全面支援するとしたことを受け、現在、山中氏の陣営でも、私の主要政策について検討が行われている。

私が掲げた主要政策の中の「常設型の住民投票条例を制定し、市民に重大な影響を与える事項について住民投票を実施できるようにする。」という政策を実現するとすれば、IT化等によって効率的に民意を問うことが重要な課題になるのであり、まさに、データサイエンティストとしての山中氏の専門領域だと言える。そういう意味では、私が出馬意志表明で掲げた政策は、山中氏にとっても、政策を具体化する上で参考になるものと思われる。

このように、候補者乱立の様相を呈している横浜市長選挙においても、出馬会見が契機となって、他の候補者の市長選挙に向けての政策が具体化し明確になり、それによって、立候補の時点で政策がさらに成熟したものとなることが期待できるという状況になっているのである。

「開かれた談合」としての候補者調整を否定する田中氏の見解

田中氏が言う「出馬表明後の候補者調整」が、「開かれた談合」であるというのは、まさにその通りであるが、談合の温床と言われたのが「ダム工事」であり、「脱ダム宣言」の田中氏であるから、「談合は徹底排除」ということなのであろう。

しかし、「談合」は、私にとっても、最大の専門事項の一つだ。法務省法務総合研究所研究官や現場の検察官として捜査で取り組んできたのが、公共工事をめぐる談合構造の解明であり、それは、コンプライアンス専門の弁護士としての活動の中でも主要テーマともなった(「『法令遵守』が日本を滅ぼす」(新潮新書)第1章[非公式システムとしての談合])。

談合というのは、「競争者間の合意によって競争を制限すること」であり、工事発注などでは、受注価格上昇という「価格面の問題」を生じさせる。一方で品質・価値の面では、談合による競争回避が価値を低下させる場合もあれば、逆に競争の激化が品質低下を招く場合もある。過去の談合の多くは、「プロセスの不透明性」に問題があり、それが、政官財の癒着という社会的弊害を生じさせてきた。そういう意味では、公共発注をめぐる談合は基本的に否定されるべきだとしても、世の中一般において、透明性が確保された「開かれた談合」が行われることを、一概に否定すべきということではない。

公職選挙における立候補の前の、「政治活動」の段階で、他の立候補予定者と「話し合い」を行うこと、すべて「談合」として否定すべき、というのは、田中氏のやや極端な独自の見解のように思える。そこには、「価格面の影響」という弊害はない。候補者の絞り込みは、選挙にかかる公的コストを低下させることにつながる。問題は、「一旦出馬表明した以上、すべて立候補に向かって突き進むすべし」という考え方と、出馬表明者間で、透明なプロセスで、人物評価や政策面の擦り合わせ等が行われて有力候補に絞り込まれることで、人物面・政策面で一定の評価を受けた候補者間での有権者の判断が行われるべきという考え方と、公職選挙における民主主義の実現という面から考えて、どちらが望ましいかという問題だ。

もっとも田中氏も、「候補者として、それぞれが切磋琢磨すること、個別に、或いは複数でディスカッションすることは、大いに行われるべき民主主義だろうと思う」と述べている。

田中氏も、出馬会見で、具体的な政策を打ち出しており、その中には、私が掲げた主要政策と基本的な方向性を同じくするものもあれば、考え方を異にするものもある。

今後、市長選挙告示までの間に、田中氏との間でも公開の場でのディスカッションを重ねていきたいと考えている。

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「7つの重点政策」を掲げ、横浜市長選に出馬表明~候補者調整の提案も

昨日(7月7日)、横浜市役所内で記者会見を開き、横浜市長選挙への立候補の意思について、次のように表明しました。

弁護士で、昨日まで横浜市のコンプライアンス顧問を務めていた郷原信郎です。
私は、本日から、横浜市長選挙への立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明します。事実上の出馬の表明と受け取っていただいて構いません。
私がこのような決意をした理由についてお話しします。
私は2007年からコンプライアンス外部委員として横浜市に関わるようになり、この4年間はコンプライアンス顧問として、様々な問題におけるコンプライアンスの重要性について指導してきました。コンプライアンスによって目指してきたのは、横浜市役所の組織が地域社会、市民の要請に応えて活動をしていくことです。そういう意味で、これまで取組みをしてきたわけですが、何といっても、市長と市議会からなる二元代表制の地方自治体では、市長選は、自治体としての民主的基盤を確立する上で極めて重要なものです。
この8月に予定されている市長選挙は、これまでの選挙と違って、IR誘致の是非が争点となる、市民にとっても極めて重要な選挙だろうと思います。
しかしながら、この選挙をめぐる、これまでの情勢を見ますと、果たしてこの選挙がIR誘致の是非、それ以外の様々な横浜市が抱える問題、直面する問題などについて政策面の論争がしっかりと行われ、民意が反映される選挙になるのか、甚だ疑問、懸念がある状況です。IRについて言えば、賛成・反対が錯綜し、一体、何がどう争われていくのか分からない状況になっています。
一方、この市長選で横浜市政について、どのような政策を掲げるのかということについては、与党側も野党側も、ほとんど具体的には明らかにされていません。
極めて重要な横浜市民の選択になるべき選挙において、しっかりと政策を打ち出し、その中でIR誘致の是非についても明確な方針を示し、民意を問うことが不可欠だと考えて、私自身が立候補の意志を表明することにした次第です。

続いて、「7つの重点政策」について、次のように説明しました。

1.住民投票で横浜IRに決着

・林文子市長は、前回市長選挙で、「IRについては白紙」と言って態度を曖昧にしたまま当選し、その2年後にIR誘致を表明。これに対して、市民による19万3193筆(住民投票条例制定の直接請求に必要な法定数6万2604筆の3倍超)の住民投票を求める署名が提出されたにも関わらず、議会で否決。市議会自民党公明党の支持を得て、今年1月、IR実施方針を公表し、設置運営事業予定者の公募を開始している。今回市長選挙では、このIR誘致の是非が最大の争点とされてきたが、IR反対を掲げる立候補表明が相次いだ末、IRを推進してきた現職閣僚が、「IR反対」を掲げて立候補表明するなど、市長選でのIR誘致への賛否の構図が複雑化している。
・IR誘致の是非が市長選での争点となっても、現在のような反対派候補が多数出馬を表明している状況では、市長選の結果が民意を反映するものになるとは限らない。また、市長選の結果に市議会が従うとは限らない。
・ この問題に決着を付けるためには、市長選の結果を受け、改めて住民投票条例を市議会に提出し、可決成立させ、住民投票を実施して横浜市民の選択を求めるしかない。

2.山下ふ頭活用の選択肢としての市場と「食の賑わい施設」

・IRに替わる“有力な選択肢”として、山下ふ頭には中央卸売市場を移転するとともにフィッシャーマンズワーフを整備して食の拠点化を実施することを提案する。
・6月29日に立候補表明した坪倉良和氏の《中央市場の全面移転、フィッシャーマンズワーフ構想。ハマの文化の継承と発展へ》という構想に共感した。
・これまでIR誘致をめぐる議論には、実質的に代替案がなかった。「カジノなしハーバーリゾート構想」には膨大な資金が必要であり、調達困難。
・IR誘致は内外の観光客や横浜市民が「カジノで負けて失う金」で、将来の横浜市の財政難を補う収益源にしようとするものであり、ギャンブルによる「負の側面」の是非を問う住民投票では「消極的選択」にしかならない。
・その点、中央卸売市場を山下ふ頭に移転し、「フィッシャーマンズワーフを含む『食の賑わい施設』を作ろうというのは、内外の観光客に安らぎと充足を与える空間。横浜市民のみならず日本国民に夢を与える構想。中央卸売市場の主要施設である卸売棟は老朽化が進んでおり(卸売棟は1982年〜1986年頃整備)、今後市による建て替えが必要となっている。もともと、市場の整備には横浜市として負担すべき費用であり、IRと比較すれば、新たに必要となる費用が少ない。フィッシャーマンズワーフは民間による整備もありえる。
・「食の文化」の中心地であった築地を廃してコンクリートの塊だけの豊洲市場にしてしまった東京都とは真逆の方向性となる。

3.不要不急の予算を新型コロナ対策へ

・約2600万円の市長給料は市民感覚から乖離しており、市長給与を半額カットする。政令指定都市の市長の平均給与(2020年1765万円)を大きく上回り全国最高額となっている(横浜市の将来の財政状況を懸念するのであれば、まず、市長自身の高額給与を削減する)。
・総事業費600億円超のみなとみらい新劇場整備や市としても大規模支出が不可欠な上瀬谷通信施設跡地テーマパーク構想、花博誘致事業などが推進されており、不要不急の巨大プロジェクト予算を見直す。
・市のあらゆる予算執行に関して決算チェックを強化。無駄を徹底排除する。
・これらにより、医療体制の強化、ワクチン接種推進、生活困窮者支援、地元事業者支援など新型コロナウイルス対策予算に振り分けて行く。

4.政治的圧力との決別

・横浜市が、地方自治体として自立・独立し、政治的な介入・圧力を受けることなく、横浜市民と地域社会の要請に応える活動を行うことができる環境を実現する。
・コンプライアンス顧問として横浜市の行政に関わったこの4年間、「社会の要請に応えること」という方向性が横浜市職員によく理解され、現場で発生する個々の問題事象への対応のレベルも格段に向上した。しかし、顧問の立場上これまでは関わって来なかった自治体の運営、事業に関する重要な意思決定の部分において、果たしてそれが市職員の「社会の要請に応える」という方向での検討・議論の結果であるのか否か疑問に思えるものがあった。
・IRの誘致も、横浜市民にとって横浜市の未来にとって極めて重要な意思決定だが、横浜市の対応は、結局、政府の方針や政治的かけ引きに振り回されているだけで、地方自治体としての自立した判断が行われているとは到底言えないものだった。このような横浜市としての重要な意思決定に、外部から政治的圧力が働いているとすれば、そのような力に対して「盾」になって、その力をはねかえすのが市長の重要な役割。
・市の内部においては、自治体としての主体性、自立性を高める「ガバナンス改革」として、職員への研修を徹底するとともに、現場の職員だけでなく市幹部の意思決定の透明性を高め、市民と地域社会の要請に応える市役所に変える。

5.住民自治を発展

・常設型の住民投票条例を制定し、市民に重大な影響を与える事項について住民投票を実施できるようにする。(川崎市では常設型の住民投票条例が2009年施行、投票有資格者1/10以上の住民・議会・市長により発議が可能)
・横浜市は南北での特色の違いなど地域毎の多様性が豊か。地域毎の多様性を活かした行政を実現するため、区長権限を強化するとともに、区毎の地域協議会、区選出議員による委員会を設置、区の住民自治機能を向上させる(泉区には地域協議会あり)。
・市長や区長が積極的にタウンミーティングを開催し、市民の感覚を市役所へ反映する。
・条例により可能な、上記の区の住民自治機能強化を実施した上、法改正が必要な特別自治市構想の実現を引き続きめざしていく。

6.市民の多様性が輝く横浜へ

・新型コロナの影響で特に高齢者の生きがいや運動の機会が奪われている。ワクチン接種が進む中、引き続き感染対策に万全を尽くすとともに生きがいや運動の機会を持ちながら健康寿命を伸ばして行くことが重要。横浜市では敬老パス(横浜市敬老特別乗車証:70歳以上の横浜市民が一定額で市内のバス、地下鉄等が乗り放題になる)の見直しの議論が進められている。外出機会をさらに減らすことにつながる敬老パス見直しはストップさせる。
・女性が活躍しやすい環境整備にはまだまだ課題が残っている。まずは横浜市役所がモデルとして変化しなくてはいけない。市政に多様な視点と市民感覚を反映するために、そして、市役所の取り組みが社会に波及し、誰もが暮らしやすい社会をつくるために、区局長、部長ポストに女性の活用を拡大する。男性の育児休業取得促進など男女を問わず働きやすい職場環境をつくる。性的マイノリティの職員も働きやすい環境を整えて行く。
・その他、障害者への合理的配慮の補助新設、課題の多いハマ弁を継承して2021年度に始まった公立中学給食の検証、統計の変更で見えなくなっている隠れ待機児童対策(希望の保育所等を利用できないケースや育児休業中の家庭の児童等が含まれなくなっており引き続き待機児童対策が必要)、教員や児童相談所等のセクハラ対策の厳格化、民間団体への支援充実によるこどもの貧困対策、動物愛護センターでの殺処分ゼロ化(横浜市「人と動物との共生推進よこはま協議会」2020年度資料によると2019年犬28件、猫250件)など、横浜市が抱える様々な課題に対応していきたい。

7.市民の命と暮らしを守る

・土砂災害を防ぐため崖地防災対策事業予算を倍増する。(2021年度予算2.3億円、うち崖地防災対策工事助成金5300万円、助成金一件あたり限度額400万円)。
・横浜市では2014年の台風で緑区、中区で土砂災害死亡事故発生。2020年には伊豆市、今年7月3日に熱海市で死亡事故が発生していること、2020年6月に新横浜駅付近の横浜市道環状2号線で2回の道路陥没が発生を踏まえ、開発行為やメガソーラー設置、トンネル工事等によるリスク検証を開始する。

このような主要政策を打ち出しましたが、一方で、これまで一貫して安倍・菅政権を批判してきた私としては、今回の横浜市長選でも、反自民勢力の結集が極めて重要と考えており、私自身の立候補によって反自民票が分散して自民党を利することになるのは、決して本意ではありません。
立憲民主党が推薦候補として擁立し、6月29日には出馬会見も行って、市長選に向けての活動を開始している横浜市立大学元教授の山中竹春氏が、野党統一候補として横浜市長となるのに相応しい人物であることが確認でき、私が掲げた「横浜市政に関する主要政策」にも基本的に賛同して頂けるのであれば、私の立候補の意思は撤回し、山中氏を全面的に応援したいと考えています。
そこで、阿部知子立憲民主党神奈川県連会長宛てに質問状を送付し、同質問状には、以下の「質問事項」と上記の「7つの重点政策」を添付しました。

山中竹春氏に対する質問事項

(1)市長選挙出馬の決意表明で、「データ分析の専門家として、データを活用した市政を行いたい」と言われていますが、横浜市立大学の教授・学長代行、大学院データサイエンス研究科長という、横浜市の公立大学での要職のままで、データサイエンスの横浜市の行政に活用していくことはできなかったのでしょうか。なぜ、市長になることが必要と考えられたのでしょうか。
(2)6月29日の出馬会見の際、「カジノによって依存症が増え、治安が乱れ、教育環境が悪くなるのはデータによって明らかだ。IRの誘致には断固反対で、即時撤回する」と発言されていますが、ここで言われる「データ」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか。そのデータによって、カジノによる依存症増加、治安悪化が、どのように根拠づけられているのかご教示ください。
(3)横浜市立大学教授在任中に、データに基づき「カジノはギャンブル依存症の増加、治安悪化につながる」との指摘を、横浜市立大学内部で、或いは横浜市に対して行ったことはあったのでしょうか。指摘できなかったとすれば、どのような事情があったのでしょうか。
(4)山中氏は、「データサイエンスの立場から、市長として、数字と根拠に基づく的確かつ迅速なコロナ対策」を行うとされているのですが、この「コロナ対策」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか。現在の横浜市の対策とどのように異なるのでしょうか。

【質問の理由】

横浜市では、2017年3月に「横浜市官民データ活用推進基本条例」が、自民党若手議員を中心とする議員提案で制定され、市としてのデータ活用への取組みが本格化しています。山中氏の横浜市大でのデータサイエンス研究は、その中核に位置付けられていたはずです。山中氏が横浜市大教授を突然、辞職したことによって、大学院データサイエンス研究科長が事実上空席となるなど、大学院研究科の運営にも重大な支障が生じています。山中氏は、市立大学の要職のままで、データサイエンス研究を市の行政に活用するのではなく、市長という立場に立つ必要があると考えたのはなぜなのでしょうか。
横浜へのIR誘致の是非は、今回の市長選の最大の争点とされていますが、出馬会見において、山中氏は、データサイエンティストの専門の立場から、「ギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだ」とされています。
しかし、横浜市では、「横浜市民に対する娯楽と生活習慣に関する調査」としてギャンブル依存症の実態調査を行い、「医学部を持つ横浜市立大学等と連携し、より効果的な対策や予防教育の検討を進めるなど、事業者や研究・専門機関との研究を進める」との方針を打ち出し、横浜市大の協力も得ながらデータに基づく検討を行ってきたはずです。私が、コンプライアンス顧問として、IR担当部長から説明を受けたところによれば、これまでの調査・研究の結果、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化が裏付けられるデータは得られていないとのことです。また、治安対策については、近年、日本の経済社会全体で強化されてきた反社対策、マネーロンダリング対策等を踏まえて行われているものであり、私自身も、それらについては元検察官の弁護士として、専門知識がありますが、少なくとも、カジノを含むIRによる治安悪化は防止できる制度的整備はなされていると考えています。山中氏が、IR誘致による治安悪化がデータによって明らかだというのであれば、IR整備法等の法律の実効性に重大な問題があることになります。
横浜市大教授・学長補佐の立場にもあった山中氏が、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化が「データ」によって明らかだというのであれば、横浜市大内部や横浜市に対して、そのデータを示して、IR誘致による弊害を指摘することができたはずです。もし、山中氏が指摘しているのに、そのような指摘やデータが横浜市大内部で握りつぶされ、隠蔽されてしまったというのであれば、横浜市にとって重大なコンプライアンス問題になりかねません。根拠となる「データ」の中身と、それがどのようにして収集されたものかを明らかににするべきだと思います。
山中氏は、市長になったらIRを「即時撤回」すると言われていますが、これまで、IR誘致賛成が多数を占めてきた市議会の構成に変化はなく、IRの「即時撤回」を打ち出した場合、その理由について、市議会で説明を求められることは必至です。その際、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだというのであれば、その根拠となるデータを提示することが不可欠と考えられます。
また、データに基づく「コロナ対策」についてですが、新型コロナ対策特措法上の権限は国と都道府県にあり、市町村で「コロナ対策」に関して行えることは、保健所での感染者対応、ワクチン接種、事業者支援等に限られます。データに基づくコロナ対策として、横浜市にとってどのような対策が想定されているのかわかりません。
 以上のとおり、山中氏は、IRについても、コロナ対策についても、データサイエンティストとして専門性を強調し、データに基づく立論をされていますが、今のところ、根拠が示されず、具体的な説明がありません。上記の各点についてデータ上の根拠の提示と明確な説明を求めます。

なお、今後の市長選に向けての政治活動の進め方ですが、東京でコロナ感染者が再び急増し、それが横浜市にも波及することが懸念される中、「人と人との接触」は極力回避する活動を展開したいと考えています。
まず、ホームページを開設し、「7つの重点政策」を掲げて、皆さんからの質問・意見を求めます。それに対する私の意見も述べ、ネット上での議論を活発化させていきます。
また、他候補とのネット上での討論会も積極的に行い、横浜市の当面の課題や将来ビジョンについて政策論争を深めていきたいと思います。
特に、「7つの重点政策」の中で、2.山下ふ頭活用の選択肢としての市場と「食の賑わい施設」として掲げた、山下ふ頭の活用に関する新たな選択肢については、既に市長選への立候補を表明している発案者の中央卸売組合理事の坪倉良和氏にも協力を求め、構想を具体化させ、横浜市民のみならず、全国の皆さんに、「山下市場・フィッシャーマンズワーフ構想」の素晴らしさを訴えていきたいと思います。
このような活動を行いながら、上記の山中氏への質問事項への回答を待ち、その内容によって、市長選に向けての私の対応方針を確定したいと思います。

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河井夫妻事件被買収者“全員不起訴”で「検察の正義」は崩壊

2019年7月の参院選広島選挙区をめぐり、河井克行元法相と妻で前参院議員の案里氏から現金を受け取った公職選挙法違反(被買収)の事実で告発されていた広島県の県議会議員・市議会議員ら100人について、東京地検特捜部は、7月6日、全員を不起訴とした。

既に、克行氏・案里氏について、買収の事実で有罪判決が出されており(案里氏は有罪確定)、犯罪事実が認められることは明らかだ。検察は、犯罪の嫌疑が不十分だという理由で不起訴にすることはできない。しかし、検察には、犯罪事実が認められる場合でも、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」(刑訴法248条)という「訴追裁量権」が与えられている。

今回の不起訴処分は、この訴追裁量権に基づき、被買収者全員を「起訴猶予」としたものだ。

「選挙買収」は、しばしば「贈収賄」と混同される。「贈収賄」は、国や自治体から給与を得て職務を行う公務員が、その職務に関連して金品を受け取ることが、「職務を金で売ってはならない」という、「公務員の職務の不可買収性」に反するという理由で処罰される。一方、「買収」に関して言えば、「選挙人自身の投票」や、「選挙運動」は、自らの意思で、対価を受けずに行うべきなのに、それを、対価を受けて行うことが「不可買収性」に反するということである。そういう意味で、「買収」と「贈収賄」とは構造が似ている。「買収」は、「贈収賄」と同様に、供与者・受供与者側の双方に犯罪が成立することになる「対向犯」だ。両者が処罰されるのが原則であり、その例外は、特別の事情がない限りあり得ない。

公職選挙法違反の罰則適用は、「選挙の公正」を確保するために行われるのであり、公平性が特に重視される。検察庁では、買収罪について、求刑処理基準が定められている。私が現職の検察官だった頃の記憶によれば、犯罪が認められても処罰しないで済ます被買収事案の「起訴猶予」は「1万円未満」、「1万円~20万円」は「略式請求」(罰金刑)で、「20万円を超える場合」は「公判請求」(懲役刑)というようなものだった。

今回は、多額の現金の買収事件(金額は5万円~200万円)であり、「被買収者側全員を起訴猶予にする」などというのは、検察の刑事処分としてあり得ない。公職選挙における買収事件の処罰の実務を崩壊させるものだ。

東京地検次席検事が記者会見で説明した「被買収者全員不起訴処分」の理由は、以下のようなものだったようだ(本来、社会的にも極めて影響が大きい事件の不起訴処分であり、記者会見が公開されるのが当然だが、今回も非公開の「記者説明」だったようだ。会見の内容は、マスコミ関係者からの情報による。)。

(1)克行が主導した犯罪で、克行が受供与者の選定など全体を差配し、大半が自ら実行した。克行が計画した事案。大規模買収だが組織的買収事案とは異なっている。

(2)受け取った金員をさらに他者に供与するようなことは認められなかった。

(3)積極的に求めた者はいなかった。立場の差などに基づいてやむを得ず供与を受けた者も少なからずいた。返却した者、家に保管していた者もおり、いずれも受動的。現金の受領を拒む者、むりやり渡された者もいた。

(4)リストに日時の場所の特定ができない者もいる。公判で明らかになったリストでは今回の100人以外の者も含まれているが、証拠によって認定できたものが100人。被告発人100人だけを処分するのは法的な公平性に欠ける。

しかし、いずれも、多額の現金の被買収事案を起訴猶予にする理由には、全くならない。

 (1)については、買収事件を候補者個人が主導したもので、組織的なものではないから、被買収者を処罰しなくてもよいなどという話は、これまで全く聞いたこともなく、凡そ、出てくる余地のない「理屈」だ。処罰する要件を勝手に加えているようなものだ。

 過去に摘発された選挙違反事件の多くは、末端の運動員と有権者との間の現金買収であり、上位の運動者、最終的には候補者も関わっている事案であっても、証拠上、上位者は摘発の対象とはならない場合が多い。本件のように、候補者自身や選挙運動の総括主宰者(克行氏)から直接現金を受領した事案というのは稀だ。

 しかし、同じ現金を受け取っても、末端の運動員からの受領なら処罰され、総括主宰者等の上位者であれば処罰不要などと、どうして言えるのだろうか。誰がどう考えても通用する理屈ではない。

(2)については、被買収者が、それを原資にさらに買収を行うのではなく、金を手元にとどめていた、或いは、使ってしまったからと言って、それは、被買収事件では一般的なことであり、有利な情状にも、不処罰の理由にもならない(この場合、買収金の利益を被買収者にとどめておかないように、起訴して有罪判決の中で、買収額の「没収」「追徴」が言い渡されるのが通常だ)。

(3)については、通常、選挙買収事件は、候補者側が、票や選挙運動をお金で買おうとして、積極的にお金を渡そうとするのが大部分であり、被買収者側から、投票や選挙運動をしてやるからと言って金を要求する事案というのはむしろ少ない。このような理屈が通用するのであれば、贈収賄事件の場合、贈賄業者が、政治家や役人に便宜を図ってもらおうとして多額の賄賂を強引に渡した場合、政治家や役人は「断り切れずやむを得ず賄賂を受け取った」ということで許してもらえることになってしまう。

買収事件では、「選挙の買収金を渡そうとしているとわかって、何回も押し返そうとしたが、結局、そのまま受け取ってしまって、返すに返せず、そのまま自宅で保管していた」などというのは、むしろ、よくある話だ。だからと言って、被買収が不起訴になるなどという話は聞いたことがない、

(4)も全く理由にならない。

 贈収賄の事件でも、贈賄側が、多数の公務員に賄賂を贈っていた事案の中で、賄賂の授受が証拠によって裏付けられたものが、その一部だったという場合、収賄側が自白し、証拠によって立証可能な事件は贈賄側・収賄側両方を起訴できるが、収賄側が否認し、立証が困難な事件は不起訴にせざるを得ないというのは、刑事事件の処分では当たり前のことだ。起訴された収賄者側が、公判で「他にも賄賂をもらった奴がいる。自分だけが処罰されるのは納得がいかない」と不満を述べても、凡そ、弁解として取り上げられることはないはずだ。

「他に同様の事件があるのに処罰されていない。だから偏頗な起訴だ」という主張には一切耳を貸さないというのが、これまでの検察の姿勢ではなかったのか。

 このような次席検事の不起訴理由の説明に対して、記者から質問が行われている。その回答も、唖然とするようなものだった。

(5)「金額300万、複数回の者もいるのに、一律不起訴とする判断は?」

と問われ、

本件犯行の性質から、克行・案里を処罰することがあるべき姿だと判断した。起訴するものを選べばいいのではとの指摘かと思うが、確かに金額を基準にすることも考えられるが、本件では、判決認定事実を踏まえて再度捜査し、受供与者の立場・経緯・状況・返還の有無・辞職したかどうかなど犯行後の事情は、各人各様だ。公職者をみると、10~200万。たとえば、後援会関係者と比べて、多い人も少ない人もいる。さらに少額でも返還せずに使用した者もいる。一定の線引きで選別することは、諸般の事情を考慮すると、選別が公平かどうか、合理的な基準かどうか、考えたときに、線引きをすることが困難と判断した。

 と答えた。

同種の事案で、被疑者ごとに有利な事情と不利な事情とがあり、起訴不起訴の判断に悩むということは、検察官であれば珍しいことではない。だからと言って「全部不起訴にしてしまえ」などということは、検察庁内では凡そ通用する話ではない。そもそも、前記のとおり、検察庁内にあるはずの「求刑処理基準」から言えば、すべて「起訴相当」の事案であり、その中で、特に他と比較して不起訴にすることが明白な事案がない、ということであれば、「全員起訴」が当然だ。

(6) 「公判を終えてから不起訴処分を出したのは、検察に有利な証言を引き出すためだったのではないか」との質問に対して、

河井2人の起訴の時点で、起訴すべきものは起訴した。他の者は処分を要さないという判断だったが、告発がきたので改めて捜査し、本件では、河井克行が否認していたので、克行が公判でどういう供述をするのかという経緯を見ていた。

これまた、「告発」という刑訴法上の制度を軽視するかのような、恐ろしい発言だ。

今回の河井夫妻からの被買収者の事実について、両名の起訴の段階で刑事立件すらしなかったことは、検察官として到底許されることではない。それに対して、市民が「当然の告発」を行い、その結果、刑事処分を行わざるを得なくなったのである。

それを、東京地検次席検事は、克行・案里の起訴の段階で「刑事立件も、刑事処分もしない」という判断をしていたのに、告発が行われたから、したくもない「刑事処分」を行わざるを得なくなり、不起訴にした、というのである。

《検察は、現に証拠があり、犯罪が認められても、検察は「刑事立件も、刑事処分もしない」ということを勝手に決めることができる。「起訴すべきものは起訴した」と言っておけば、理由の説明すら要らない。それに対して、「告発」などという余計なことが行われたから、不起訴処分という余計なことを行わなくてはいけない話になったのであり、それを検察官が不起訴にするのは当たり前のことだ》と言いたいようだ。

そもそも、検察官は、刑事事件として立件、起訴した事件に関連して、証拠によって認められる犯罪があり、処罰しない理由がないのであれば、刑事事件として立件するのが当然であり、それを立件しないで見過すのは「犯人隠避」にも当たり得るというのが、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で、検察が、大坪弘道特捜部長・佐賀元明副部長を、主任検察官の証拠改ざんについての「犯人隠避」で刑事立件し、起訴した検察の理屈だったはずだ

(7)「お金受け取っても不起訴になるということで、全国で悪い影響がでるのではないか」

これは、今回のような多額の被買収事件が不起訴とされたことが、今後の全国の公選法違反事件の刑事処分に影響を与えるのではないか、という当然の質問だ。

それに対する次席検事の答は、支離滅裂であり、全く答になっていない。

起訴猶予は犯罪の成立を認定している。受け取っても良いんだ、というのは違って、犯罪であるという認定は、我々はしている。検察官は取り調べをして、訓戒している。起訴猶予は良いとか、許しているとかそういうことではない。起訴をしなかっただけということ。

ここで、問われているのは、多額の被買収事件で「犯罪が認められる」としているのに、「起訴猶予」ということであれば、被買収事件についての検察の刑事処分の基準が変わったことになり、今後、同種の買収事件でも、同じような理由で「起訴猶予」にすべきということになるのではないか、買収事件での被買収者の起訴はできなくなるのではないか、という点である。

 それに対して、「検察は犯罪を認めた上で、取調べをして訓戒をして、その上で起訴猶予にして起訴しなかっただけ」というのである。

 検察は、どのような犯罪であれ、取調べて、訓戒をした上で、自由自在に起訴猶予にすることができるという「検察の独善・傲慢」そのものだ。

最後の点は、今回の全員起訴猶予の不起訴処分の決定的な問題であり、今回の事件のような多額の被買収の事案が、「受動的だった」「他に疑いがあっても証拠上立件できない被買収者がいた」などという理由にならない理由で起訴猶予になったことで、今後の公選法違反事件の刑事処罰の実務が重大な影響を受けることは必至だ。

公選法違反事件、とりわけ選挙買収事件に対して、厳正・公平な処分が行われることは、公正な選挙の基盤だ。今回の検察の不起訴処分は、今後、公職選挙の公正を著しく阻害する。

黒川弘務元東京高検検事長の「賭け麻雀」の賭博事件、菅原一秀氏の公選法違反(寄附制限違反)事件と、検察が起訴猶予とした判断が検察審査会で覆され、起訴相当議決で検察の不起訴処分が厳しく批判される事例が相次いでいる。今回の河井夫妻事件被買収者全員「全員不起訴」に対して、検察審査会で「起訴相当議決」が出れば、検察に訴追裁量権を与えていることの是非が問題とされかねない(日本のような制度を「起訴便宜主義」というが、ドイツ等は、「起訴法定主義」であり、検察官は犯罪事実が認められる限りすべて起訴しなければならない。)

今回の不起訴処分は、「検察の正義」を崩壊させるものにほかならない。

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横浜IRをコンプライアンス・ガバナンスの視点で考える

コンプライアンスは、「法令遵守」ではなく、「組織が社会の要請に応えること」である。

桐蔭横浜大学特任教授・コンプライアンス研究センター長として、本格的にコンプライアンスに関する活動を始めた2004年以降、私が、常に世の中に訴え続けてきたことである。そのようなコンプライアンスの視点から、組織をめぐる様々な問題の解決、コンプライアンス体制の構築・運用等に関わってきた。

「社会の要請に応える」という観点が特に重要なのが地方自治体である。

民間企業の「社会的要請」が、需要に反映された社会の要請に応えることがベースとなり、それが、組織の存続・成長にもつながるのに対して、地方自治体の場合、住民のニーズに応えることが最も重要な社会の要請であることは間違いないが、その時点での直接的なニーズに応えることだけで地方自治体の役割が果たせるものではない。自治体には、住民にとっての短期的利益、長期的利益のほか、その時々の国家的、社会的利益も含めて様々な社会の要請が交錯する。地方自治体の日々の業務や実施する事業に関して、「社会的要請に応えること」は、複雑かつ困難な問題となる。

そのようなコンプライアンスの視点を、自治体の行政に活用することに関して、多くの自治体の制度や仕組みの構築や不祥事対応等に関わってきたが、その中で最も深く関わりを持ってきたのが横浜市だ。桐蔭横浜大学教授コンプライアンスセンター長を務めていた2007年からコンプライアンス外部委員、2017年9月からはコンプライアンス顧問として、各部局、各区で生起する様々な不祥事、コンプライアンス問題について対応の助言を行うほか、各部局、各区の幹部に対するコンプライアンス研修も実施してきた。

その中で関わった具体的な問題について、これまでにも、日経グローカルの巻頭「直言」で取り上げた(2019年4月「社会の要請に応え信頼される自治体に」)ほか、今年6月10日には、当欄の記事【生活保護への対応と地方自治体のコンプライアンス】で、今年2月に起きた神奈川区生活支援課での生活保護の申込への対応をめぐる問題についても書いた。

コンプライアンス、ガバナンスという観点から、現在の横浜市にとっての最大の問題は、統合型リゾート(IR)推進の是非をめぐる問題だ。

横浜港・山下ふ頭にカジノを含むIRを整備する計画について、開発・運営する事業者の公募を行っていた横浜市は、5月31日、海外のIR事業者等による2グループが応募のための資格審査を通過したことを公表した。今後、事業計画の提案を受け、今夏頃に事業予定者が選定される予定とされている。

一方、IR(統合型リゾート)誘致に反対の立場を取る横浜港運協会の藤木幸夫前会長が中心となって設立した一般社団法人横浜港ハーバーリゾート協会は、IRとは異なる山下ふ頭の再開発をめざす活動を展開しており、IRに反対する立憲民主党、共産党などの野党も加わり、IR反対派の動きが強まっている。

山下ふ頭という、横浜港の中心にある広大な土地を、どのように開発し、活用していくのか、そこに、カジノを含む大規模リゾートを誘致すべきなのか否か、その判断は、横浜市の将来、地域社会の在り方にも重大な影響を及ぼすものとなる。財政的、文化的、教育的、環境的な社会の要請が複雑に絡み合い、その意思決定に関して、自治体のガバナンスの在り方が正面から問われる問題であり、まさに、最も複雑かつ困難な地方自治体のコンプライアンス問題だと言える。

 この問題についての私の見解を述べておくこととしたい。

IR推進をめぐる議論の整理

まず、横浜市のIR事業に関する議論を整理してみたい。

IR(統合型リゾート)とは、民間事業者が、展示施設・国際会議場、ホテル、レストラン・ショッピングモール、エンターテイメント施設などの施設と、これを収益面で支えるカジノ施設を一体的に整備して運営するものであり、これにより観光の振興、地域経済の振興、財政の改善を図ろうとするものである。

横浜市において、IR整備計画を推進すべきとする財政上の理由として、次のようなものが挙げられる。

(1)今後、横浜市でも生産年齢人口の減少等による、消費や税収の減少、社会保障費の増加など、経済活力の低下や厳しい財政状況が見込まれており、そうした状況であっても都市の活力を維持するための財源確保が必要である。

(2)横浜市は上場企業数が少なく、法人市民税収入が少ない。

(3)今後、小中学校の建て替えなど、公共施設の保全・更新に膨大な予算が必要となる。

  そして、観光の特性に関して指摘されるのが

(4)横浜市への観光客は日帰りが多く、観光消費額が少なく、その伸びも小さい。

  ということである。

要するに、(1)~(3)のような事情から、横浜市の財政が将来悪化すると予想されるので、IRから市に入る収入によって財源を確保しようというものである。

そして、(4)の日帰り中心の観光を、IRの整備による内外の宿泊客の増加で観光消費額を増大させ、経済の活性化を図ろうというものである。

これに対して、IR反対派の主たる論拠は、カジノ賭博によるギャンブル依存症、治安悪化等のカジノの負の側面の指摘だ。

実際に、韓国などでは、カジノを含む総合リゾート施設がカジノによる巨額の収益を上げる一方で、自国民の多くがギャンブル依存症で生活破綻に追い込まれ、深刻な社会問題となった。

このようなギャンブル依存症に対しては、IR整備法による対策として、「日本人等への7日間で3回迄、28日間で10回迄の入場制限」、「広告・勧誘の制限」や「カジノ内ATM設置禁止」など施設内制限、「本人・家族の申告による入場制限」、「日本人等への24時間毎に6,000円の入場料の徴収」等の措置がとられるほか、顔認証やAI等による入場制限など事業者独自の依存症対策も行われ、市としても独自の取組みを行うので対策として万全だというのが、IR推進の立場からの説明だ。

確かに、日本人の入場規制等の対策は、一応のギャンブル依存症対策にはなっているといえるだろう。少なくとも、連日カジノに通い詰めるような極度の依存症は防止できそうだ。

しかし、日本人が「28日間で10回」(休日はすべてカジノ)というような頻度でカジノに入り浸ること自体、立派な「ギャンブル中毒」といえる。そのようなレベルでの入場が可能であるのに、依存症を防止する「十分な対策」と言えるのだろうか。

ギャンブル依存症対策をこの程度にとどめざるを得ないのは、もともと、この事業が、カジノだけを目的に入場する日本人が失う「賭け金」による収入を相当程度見込んでいるからであるようにも思える。

IR推進派は、「カジノの面積は、施設全体の面積の3%以内」とされていることを強調し、カジノは施設のごく一部に過ぎず、「IRは、アトラクション、散策を楽しむ市民の憩いの場」であることをアピールしているが、それは、ギャンブルの収益によって成り立つ事業という「本質」を覆い隠すもののように思える。

IRは、確かに、魅力的なアトラクション、憩いの場を含むリゾート施設である。しかし、それらの施設の整備・運営がカジノの収益によって行われるものである。そうである以上、外国客だけでなく、日本人、とりわけ、横浜市民がカジノで失う賭け金による収入も相当な額に上ることが想定されているのは「厳然たる事実」だといえよう。

IRをめぐる議論は、結局のところ、上記(1)~(3)の横浜市の財政事情や(4)の観光収入の実情などから、IRによって「横浜市を豊かにすること」への期待を重視するか、横浜市の未来が「ギャンブルによって支えられる」、そこには「横浜市民がカジノで失う賭け金も含まれている」という負の側面を重視するか、ということに帰着するように思われる。

少なくとも、上記(1)~(3)の横浜市の財政事情に対しては、IRによる収入増加を図ることだけが解決策ではない。

市民が健康で文化的で安心して暮らせる横浜市のために、何が必要なのかという観点から、政策の優先順位を検討し、市の財政支出の抑制を図り「静かでコンパクトな横浜」をめざすのも一つの方向である。そこには、「超大型テーマパーク」開発に伴う相鉄線瀬谷駅付近と跡地を結ぶ新交通システムの建設、文化芸術の創造・発信の拠点となる新たな劇場の整備などを、従来の横浜市の方針どおり実施すべきなのかという問題も密接に関連する。

 

地方自治体のガバナンス

 上記のような議論の整理を踏まえて、IR事業の是非を考えることになるのであるが、その前提として、地方自治体にとって、地域社会にとって、重要な問題についての意思決定がどのような手続・プロセスで行われるべきかという、地方自治体のガバナンスについて、民間企業等などとの比較も踏まえて、整理しておきたい。

日本の地方自治体では、首長と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶという二元代表制がとられており、自治体の運営と意思決定は、首長と議会に委ねられている。

予算・条例の提出権が首長側にしかなく、議会は、それを議決する権限しかないなど、首長に権限が集中しているところに特色がある。

(大統領制に近いが、予算・法律の提出権限がなく、議会に対しては拒否権しかないアメリカの大統領と比較しても、日本の自治体の首長の権限は強い。)

首長に権限が集中し、その権限行使を議会でチェックする二元代表制の枠組みの下では、議会で議案が否決されない限り、首長の判断がそのまま自治体の決定となる。

例外として、「直接民主制」の方法である住民投票が行われる場合もあるが、地方自治法第 12 条、74条に規定される「住民による条例制定又は改廃の直接請求権」に基づく「住民投票」は、首長、議員の解職請求(リコール)のような二元代表制の構成要素の変更に関わるものや、市町村合併の是非のような自治体の存立自体に関わるものに限られる。

自治体運営に関する個別の事項について住民投票が行われるのは、自治体執行部の提案する住民投票条例が議会で可決成立した場合だけだ。法定数を超える署名によって住民投票条例制定を求める直接請求を行うことも可能だが、この場合も、執行部から議会に提出される住民投票条例が可決されなければ、住民投票は実施されない。しかも、住民投票の結果は、自治体の決定を法的に拘束するものではない。

そういう意味では、法令上は、直接民主制としての住民投票は、あくまで、二元代表制の枠内で、それを補完する機能を果たすに過ぎない。つまり、二元代表制の下では、首長と議会議員は、選挙で選ばれることによって、それぞれ住民から、その任期中「白紙委任」を受けているので(「選挙公約」には法的拘束力はないので、候補者が特定の事項について選挙公約で約束したとしても、法律的には「白紙委任」となる)、議会の了承が得られる限り、首長は、自治体の運営に関していかなる判断をも行うことができる。

もっとも、そのような首長の地位は選挙で住民に選ばれたことによるものなので、任期が満了し、選挙で首長が交代した場合は、新たな首長によって、前任の首長の判断が覆されることもある。

民間企業のガバナンスとの比較

このような地方自治体のガバナンスを、民間企業のガバナンスと比較してみよう。

株式会社の場合、株主総会で選任された取締役で構成される取締役会において、代表取締役を選任する。会社の業務執行は、重要事項については取締役会決議が必要となるものの、基本的に代表取締役の裁量に委ねられる。

一方、地方自治体の首長は、住民から直接選挙で選ばれる点において、株式会社の代表取締役が、株主総会で株主が選任した取締役によって選任されるのとは異なるが、一旦選任されれば、任期中、業務執行について広範な裁量権があること、任期満了によってその地位を失うことにおいては、会社の代表取締役と基本的な相違はない。

しかし、「地方自治体の首長と住民の関係」と、「株式会社の代表取締役と株主の関係」との間では、大きく異なる点がある。

株主が会社に求めるのは配当金の支払や株価の上昇などの経済的利益であり、基本的にはそれに尽きるのに対して、当該自治体の区域内で生活し、住民サービスを受ける立場の自治体の住民は、自治体の運営によって居住環境や生活に関しても大きな影響を受ける。

首長が担う自治体の運営は、経済的利益のみならず、住民サービスを通して、住民の日常生活に深く関わる。そういう意味で、株主と住民との間には、ステークホルダーとしての立場に大きな違いがある。

株主にとっては、株価の変動要因となり配当の多寡にも影響する会社の財務内容・業績が最大の関心事であるが、住民にとっては、自治体の財政状況や収支の状況が、将来にわたって行政サービスのレベルに影響を与える重要な要素ではあっても、その時点での自治体行政の評価に関する一要素に過ぎず、むしろ、日常的に受ける住民サービスの内容の方が大きな関心事となる。

すなわち、会社にとっての株主の意向は、基本的に、期待どおりの配当金が得られ、株価を上昇させることに尽きるが、自治体の住民の意向は、そのように単純なものではない。

既に述べたように、自治体の首長は、任期中、自治体の運営について住民から「白紙委任」を受けているが、その判断に当たって、住民の意向や意見は十分に考慮する必要があるという面で、会社の代表取締役と株主との関係とは異なるのである。

もし、首長の自治体運営や決定が、住民の意向と大きく乖離したものとなった場合、最終的には、選挙で住民の意思が示され、首長が交代することになる場合もある。しかし、自治体が行う大規模な事業等について一度決定したことが、選挙で首長が交代して覆された場合、当該自治体に大きな混乱と損失が生じることとなる(【「事業の検証と責任追及」についての小池知事と五十嵐市長の決定的な違い】)https://nobuogohara.com/2017/04/21/。

そのため、地方自治体の首長は、当該自治体やその住民に重大な影響を生じさせるような施策や事業の遂行については、二元代表制に基づき「首長の判断について、議会の承認を受けた」というだけでなく、その自治体の住民の民意を確かめ、考慮しつつ進めていくことが必要であり、その点は、地方自治体のガバナンスにおいて特に重要な点だと言える。

地方自治体にとって「社会の要請に応えること」

 このことは、地方自治体という組織にとっての「社会の要請に応える」という意味のコンプライアンスの特質にも関連する。

地方自治体にとっての「社会の要請」が、第一次的には「当該自治体の行政区域の住民からなる社会(地域社会)の要請」であることは異論のないところであろう。

ただし、それは、その地域の利益のみを図り、国全体の利益を損なうものであってはならない。「地域社会の要請」は、「国家社会の要請」と調和したものでなければならない。

また、「地域社会の要請」には、短期的なものと長期的なものがある。現在の住民の利益ばかりを図ることが、将来にわたる地域社会の利益を損なうものであってはならない。

そういう意味で、「自治体の運営・事業の遂行が民意に沿うものであるべき」ということにも、一定の限界があることは否定できない。事柄の性格によって、「民意に沿った政策決定」が求められる程度は異なる。そのために、首長と議会による「二元代表制」による「熟議」を通して、その地方自治体が、様々な社会的要請に応えられるような意思決定を行うことが求められているのである。

横浜市におけるIRをめぐる議論と自治体ガバナンス

これらの地方自治体のガバナンス、コンプライアンスの一般論を前提に、横浜市のIRをめぐる議論の経過について、改めて考えてみよう。

横浜市におけるIRの推進に関して、林文子市長は、当初、「市の将来の経済成長に有効な手段で、導入に非常に前向き」との見解を示してきたが、2017年7月の市長選の半年前に「白紙」と立場を変えて選挙に臨み、三選を果たした。

この際、選挙公約で「統合リゾートの導入検討」を掲げていたともされているが、膨大な「選挙公約詳細版」の中に小さく書かれているに過ぎず、実際に、IRの推進が、市長選挙の実質的な争点にはならなかった。

ところが、2018年7月に、統合型リゾート施設(IR)整備法が成立した後の2019年8月、横浜市は、山下ふ頭でのIR整備に取り組んでいく方針を公表した。

これに対して、IRに反対する市民運動が活発化し、住民投票を求める署名が法定数を超える19万筆も集まり、市に提出された。しかし、住民投票条例案は、市の反対意見が付されて、市議会に提出され、市議会は条例案を否決した。

林市長は、「二元代表制で、市長が提案し、議会が承認の議決をした」と強調する。確かに、IR推進の横浜市の方針は、市議会が、関連予算を可決するなどして承認しており、二元代表制という面で言えば、意思決定のプロセスに問題はない。

一方で、カジノを含むリゾート施設を、市の中心部である山下ふ頭に整備する計画は、横浜市の財政状況に重大な影響を生じるだけでなく、ギャンブル中毒症、治安の悪化のおそれが指摘されるなど、横浜市民の生活にも重大な影響を及ぼし得るものであるだけに、IR推進の是非については、「二元代表制」によるプロセスを経るだけではなく、横浜市民の民意の確認も必要だと考えられるが、横浜市のIR推進については、これまで民意の確認は殆ど行われていない。19万筆を超える反対署名が集まったことや世論調査の結果等から、現状において、多くの横浜市民がIRに否定的な意見を有していることは否定できない。

このような経緯から、IRの推進の是非については、「民意を問う」というプロセスが欠落しており、今年8月に実施予定の横浜市長選挙において重要な争点となり、選挙結果によって民意が反映されることになるのは、ある意味では必然と言える。

重要施策について首長選挙で「民意」を問うことの限界

しかし、地方自治体の重要施策について、首長選挙で賛成・反対両方の意見の候補者による選挙戦の結果、当選した候補者の意見を「民意」とみなし、それだけで、施策の是非について一刀両断的に結論を出すことが適切と言えるだろうか。

首長選挙は、その後の4年間の任期中の市の運営や事業遂行について、市民が基本的に白紙委任する対象となる市長を選ぶためのものだ。4年間の市政を全面的に委ねるに相応しい能力・資質を持った市長を選ぶことが、まず重要であることは言うまでもない。

しかも、首長選挙において民意を問うべき事項は、決して単一ではない。4年間の任期において実施の是非の判断を求められる重要施策、事業には様々なものがある。それら全体について適切な判断を行う首長を選ぶのが首長選挙であり、一つの大規模事業の是非だけが問われるのではない(横浜市において、現在計画中の大規模な事業として、米軍上瀬谷通信施設跡地で進められていた「超大型テーマパーク」開発に伴う相鉄線瀬谷駅付近と跡地を結ぶ新交通システムの建設の是非、文化芸術の創造・発信の拠点となる新たな劇場の整備などがある。)

また、首長選挙は、多数の候補から1名の首長を選ぶ手続きであり、その結果は、必ずしも、当該施策の是非についての民意の多数を反映するものではない。例えば、当該施策に反対の候補者が3名、賛成の候補者が1名で選挙戦を行った結果、賛成の候補が僅差で当選した場合、「賛成」の候補が市長に就任するが、民意の多数は「反対」ということになる。

 そして、もう一つ、決定的に重要なことは、首長選挙の結果を「民意」とみなして、重要施策の是非について一刀両断的に結論を出すことは、「二元代表制」のもう一方の要素である「議会」におけるプロセスを無視することになる、ということだ。

 前述したように、地方自治体の運営や事業の遂行は、基本的に、「二元代表制」に基づいて意思決定が行われる。重要施策の是非について、首長と議会との間の「熟議」を経て、判断が形成されていくのであるが、仮に、その判断が「民意」と異なっている場合に、首長選挙において、その施策に反対の民意が示されるということもあり得る。しかし、その場合も、その首長選挙において示された民意を、地方自治体の決定にどのように反映させるべきかは、当該施策の性格や実施の段階によって異なる。

 その重要施策が、大型事業である場合、それがまだ計画段階なのであれば、首長選挙で示された民意は、事業の中止の方向に向かうことになろう。しかし、既に、首長の判断と議会の承認の下で事業実施が決定され、契約も締結され、事業の一部が既に実施されているような場合、当該事業を白紙撤回することが、自治体に大きな損失や負担を生じさせることもあり得る。

そのような場合に、仮に、事業の白紙撤回の方向に大きく舵を切るとすれば、それを首長が議会に提案し、議会で審議をした上で、白紙撤回を模索していくことになるだろう。場合によっては、白紙撤回のために大きな財政上の負担が生じ、その予算を議会が承認する必要が生じることも考えられる。

それだけに、「民意」を確認する方法も、首長選挙で事業への反対の意見の候補者への投票が、他の候補者より相対的に多数を占めたというだけでなく、首長と議会という「二元代表制」のプロセス全体に向けられた「重い民意」であるべきである。それは、住民投票のような「直接民主主義」の方法によるほかないのではなかろうか。

横浜IRについて「民意」を反映させる方法

 横浜市のIR事業に関しては、事業者からの企画提案を受け、事業者を選定する段階であり、まだ事業の実施が決定されたわけではないので、現時点での「白紙撤回」が、事業者からの損害賠償等の法的な問題を生じさせることはないだろう。しかし、事業実施を前提として行われてきたこれまでの様々な施策を見直し、現実に白紙撤回を実行していくためには、予算の見直しなど議会の承認が必要となることも多々あり、まさに「二元代表制」に基づいて市長と市議会が十分な議論を経て協力して行っていくことが必要となる。

これまでの決定のプロセスでは、民意の確認が不十分であり、反対署名の数、世論調査の結果等によれば、むしろ民意に反しているようにも思える。そのような「民意の反映」の欠落を補完する重要な機会が、市長選挙であることは間違いない。しかし、その「民意の反映」を、市長選挙において、賛成派・反対派のいずれが勝利を収めるかということだけで、一刀両断的に行い、IR問題にすべて決着を付けることができるかと言えば、決してそうではない。そのような方法は、今後の市政に大きな混乱が生じさせることになりかねない。では、市長選挙でのIR推進について「民意」を問うとすれば、その選択肢は、どう設定すべきか。それは、現職の林市長が議会の支持を得て進めてきたIRを従前どおり推進するのか、それとも、改めて住民投票で民意を問うのかのいずれかである。

横浜市のIR事業については、住民投票を求める署名が法定数を超えたことに基づいて市議会に提出された住民投票条例が否決されている。しかし、この時点では、まだ、事業の内容すら固まっておらず、その時点で住民投票を行っても、単に「カジノ賛成・反対」だけを問うものにしかならず、横浜市の将来にも重大な影響を及ぼすIR事業推進の是非についての「本当の民意」を示すものにはならなかったであろう。

 現時点では、既に事業者からの提案も出揃っているのであり、事業の内容を具体的に示し、

その目的、それが横浜市の将来にもたらすメリット・デメリット等を示し、市民に判断材料を提供した上で、住民投票を行うことも可能である。

市長選で、「住民投票で改めて民意を問うこと」を公約に掲げた候補者が当選し、その点についての民意が確認された場合、市長が市議会に、IRについて「真の民意」を問うための上記の実施方法も含む住民投票条例案を提出することになるだろう。市議会では、「住民投票を実施すべき」との民意が市長選挙で示されたことを踏まえ、住民投票条例案の可否を審議・議決することになる。市議会で住民投票条例が可決され、住民投票が実施された場合には、その結果示された「民意」に従うことになる、IR事業「白紙撤回」が多数であれば、市長と市議会と協力し、全力で民意を実現していくべきことは言うまでもない。

冒頭でも述べたように、「IR事業推進の是非」は、横浜市の将来、地域社会の在り方にも重大な影響を及ぼす、最も複雑かつ困難な地方自治体のコンプライアンス問題である。その判断が、横浜市の未来に禍根を残さないようにするためには、自治体組織としての健全なガバナンスによって、意思決定が行われることが不可欠である。

私が横浜市のコンプライアンス顧問に就任したのは、2017年、3期目に入った直後の林文子市長が、重点施策として「コンプライアンスへの取組み」を掲げたことに伴うものだった。それから4年、「社会の要請に応える」コンプライアンスは、市の組織全体に着実に浸透しつつあると実感している。林市長の任期満了に先立ち、私自身は、7月6日のコンプライアンス委員会をもって顧問を退任する。しかし、立場は変わっても、IR事業を含む今後の横浜市の行政には、引き続き注目していきたい思う。

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外環道大深度工事の地上被害は「陥没・空洞」だけではない。外環道工事延伸、リニア中央新幹線の大深度工事への波及は必至

2020年10月、東京外環道のトンネル工事によって地上に陥没・空洞が発生、周辺地域で、家屋の傾き、損傷、地盤沈下等の被害が次々と明らかになった。「地上から40メートル以深、又は、支持層の下10メートル以深のいずれか深い方」という地下空間を、公共利用のために、国交省の認可を受けて、地上の土地に関する権利と関わりなく使用できる、という「大深度法」に基づき、地上への影響はないことを前提に行われている工事だったが、その前提を覆す「地上住民への深刻かつ重大な被害」が発生したものだった。

閑静な住宅地で、平穏な生活を営んでいた住民たちにとって、何の了解も同意もなく、地中で進められた工事によって、不安と恐怖に苛まれ、甚大な被害にさらされたことは、あまりに理不尽だ。被害住民としては、なぜ、そのような深刻な被害を生じさせる事故が生じたのか、徹底した原因究明が行われ、納得できる合理的な説明と情報開示が行われることを求めるのが当然だ。

私は、東京外環道工事の被害住民17名(現時点で契約済みの方)から委任を受けた代理人弁護士からなる弁護団の団長として、NEXCO東日本・中日本、国交省関東地整という3者の共同事業者に対して情報開示や説明を求めてきた。

しかし、NEXCO東日本など事業者側が2021年3月19日に公表した有識者委員会報告書の内容には、多くの疑問点、不合理な点があり、被害住民の委任を受けた当職らが、それらの疑問に答えるよう4月9日付けで要請書を送付したにもかかわらず、事業者側は、他の被害住民からの質問と「十把ひとからげ」にして、ホームページに回答を掲載しただけであり、しかも、その内容は、要請書で示した疑問にはまともに答えず、虚偽説明、問題のすり替え、ごかましに終始している。要求している情報開示もほとんど行っていない。その一方で、事業者側は、トンネルルート直上の住民に対して、「地盤補強のための一時移転」を求めてきている。

地上被害発生への「不安」は、リニア中央新幹線大深度工事にも波及

このような事業者側の被害住民に対する説明責任も果たさず情報開示も行わない不誠実極まりない対応によって、この問題は、新たな局面を迎えようとしている。

同様に、大深度法に基づいて、東京都大田区、世田谷区などの地下空間にトンネルを掘削する予定のリニア中央新幹線工事についての地上住民に対する説明会が先週開かれた。外環道工事での陥没・空洞問題は、リニア大深度工事の地上住民にも大きな不安を与えているはずだ。この工事の事業主体のJR東海が、外環道大深度工事で発生した地上の住民への被害に対して、外環道の事業者と同様の説明で済まそうとしたのでは、住民の不安は全く解消されないことは明らかだ。

今後、外環道被害住民側からも、外環道事業者がとり続けてきた不誠実極まりない対応についての情報が、リニア中央新幹線大深度工事の地上住民側にも提供されれば、大深度工事への地上住民の不安が拡散・拡大することは必至だ。それは、今後、外環道大深度工事が再開された場合に、地上でその影響を受ける可能性がある、三鷹市、練馬区、杉並区等の地上住民にとっても、他人事ではない。

外環道工事が、その完成によって、首都圏の交通渋滞を緩和するなどの交通上の利便を提供するという意味で、社会の要請に応えるものであることは確かだ。しかし、そのための工事の施工に当たって、地上住民の生活・健康に影響を及ぼす被害・損害を生じさせないという「社会的要請に応えること」は、事業者にとって最低限のコンプライアンスだ。地上の住民・権利者の同意なく大深度地下を掘削する工事なのである以上、一層強くそれが求められるのは当然だ。大深度法という法律に基づいて施工する工事なので「法令遵守」上問題ないという「慢心」があるとすれば、それは、事業者に対する信頼を著しく損ない、今回の外環道工事をめぐる不祥事の社会的影響を一層巨大化することになりかねない。

地上被害は陥没・空洞発生以前から生じていた

昨年10月に、調布市の外環道大深度工事の地上で被害が発生した時点から、この問題は「陥没・空洞問題」と報じられることが多かった。しかし、実は、大深度工事による地上住民への被害は、陥没・空洞が初めてではなかった。それより1か月以上前の2020年8月に入った頃から、振動及び低周波音の体感的被害の被害が深刻化していた。

ある住民は、その被害の模様について、次のように述べている。

ある日、仕事を終えて夜に帰宅すると、どこからか不明の地響きのような重低音が聞こえてきた。初めは2階の家族が大音量の音楽を聴いているのかと思い、様子を見に行くと家族は音楽を聴いていなかった。鼓膜に圧力がかかり食事も喉を通らないような不快な重低音(振動)であったため、外にでて原因を確認しようとしたが、外に出ても音源に近づくことができず、不快な重低音は不明なまましばらく続いた。記憶は定かでないが21時頃に振動はやんだ。

ネットで調べてみると外環工事が進行中であることがわかり、数日耐えればよいと言い聞かせて過ごした。しかし、重低音は数日かけてゆっくりと遠くから近づき、そのまま遠のいていくことを期待していたが、一向に遠のかず、2週間以上の間、同様の振動に毎朝・毎晩悩まされた。

当時、数週間にわたり継続する異常な振動に、地盤は大丈夫なのかと不安がよぎる。 また後に、この振動が直下の掘削ではなく、直線で20m程度離れたルートの掘削であったことを知り、直下であればどれほどの振動になるのかと恐怖を感じる。

また、ある住民は、次のように述べている。

ある日、突然変な波長の震えが鼓膜をびんびん突き刺し、頭も体も振動を感じ、食   器は振動を受け、チャリチャリとなり続けた・・・3週間ほど続いた。常に2階で大男がずしんずしんと歩くような振動を感じた。

「苦情・問合せ」に対応した夜間施工時間短縮が陥没・空洞の原因との事業者説明

事業者側は、陥没・空洞の発生を受けて、有識者委員会を設置、2021年3月に公表された報告書では、事故原因について「『特殊な地盤条件』が存在し、振動・騒音に対する問合せが相次いだために、夜間の工事中止時間を延長し施工時間を短縮したところ、カッターの回転不能が頻発、それを解消するために行った特別な作業で土砂の取り込みが発生。過剰な取り込みで陥没・空洞が発生した」と述べている。

要するに、地上住民の苦情を受けて、夜間の工事中止時間を延長するという「地上住民への配慮」を行ったことが、陥没・空洞が発生した原因であるかのように述べているのである。

そして、リニア中央新幹線の大深度工事を施工するJR東海は、このような外環道の大深度工事の陥没・空洞の発生の「教訓」からか、住民説明会で、「マシンを止めないのが安全な工法。夜も進めたい」と述べ、夜間も工事を実施し、振動や騒音には個別に対応する方針を明らかにしている。

「外環道の陥没・空洞は、住民の苦情がうるさかったから夜間工事を止めたのが原因、リニア大深度工事では、なりふり構わず夜間も掘り進めるので、陥没・空洞は起きない」と考えているのかもしれない。しかし、そもそも、地上への影響がないことを前提に制定されている法律に基づいて行われる工事で、地上住民に上記のような振動、低周波音の被害を発生させ続けていたことが重大な問題であり、それに対して苦情が殺到するのは当然のことである。その当然の苦情への対応のために「陥没・空洞」が発生したのだとすれば、その根本原因となった振動・低周波音を「一次的な被害」ととらえ、その発生を防止するのが、地上住民の同意なく大深度近くを掘削する事業者の当然の義務と言うべきであろう。外形的に明らかな「陥没・空洞」さえ発生させなければよいというのは、あまりに無責任な考え方だ。

根本原因は、不十分な事前調査で地盤の把握ができていなかったこと

根本的な問題は、有識者委員会の事故原因の説明にも出てくる「特殊な地盤」について、事業者が施工計画の段階で把握して、地上への影響を生じさせないようにするための十分な対策が講じたかどうかだ。

その点に関しては、事前の地盤調査が十分に行われていたのか否かに重大な疑問がある。

事業計画では、、トンネルルート上で、200メートルに1本のボーリングを行うことが原則とされていたのに、被害発生個所周辺のルート直上では、1キロメートルにわたってボーリングが実施されていなかった。しかも、その周辺には、「NEXCO中日本所有地」、「国道事務所所有地」、「市管理の公園」というボーリング実施が可能と思える3箇所の土地があった。今年4月に、被害住民弁護団から事業者への「要請書」で、この3箇所でボーリングが実施されなかった理由について尋ねたところ、

ボーリング調査は、大型の機械により数ヶ月の作業を要することもあり、また調査作業等で周辺への影響が懸念されること等、地域の周囲の住環境も考慮の上、調査箇所を選定しております。

ご指摘の3箇所の用地については、

・住居が近接しており、騒音・振動による周囲の住環境への影響が懸念されたこと

・当時の土地利用やアクセス道路の状況から実施が難しかったこと

・周辺のボーリング調査や微動アレイ調査を組み合わせることにより必要な調査がカバーできたこと

等により、ボーリング調査は実施していないものと考えております。

ボーリング調査は、物理的に実施可能な箇所全てで実施するものではなく、既存調査等で把握した地質状況を踏まえた上で実施箇所を検討して必要な箇所で実施しております。

陥没・空洞事故を受け、地域の住民の方々に、ご不便やご迷惑をおかけしながら、ご協力を頂いて実施した原因究明のためのボーリング調査等の結果は、この事前調査の結果と概ね一致しており、工事着手前に行われる地盤状況把握のための事前調査は適切に行われていることを有識者委員会に確認いただいております。

などと回答した。

事業者側の説明は、ボーリング不実施の理由には全くならない

しかし、少なくとも、「国道事務所所有地」と「市管理の公園」は、調査時点でも道路に面しており、現に陥没事故後にはそこで特段の騒音・振動対策も行わずにボーリングが実施されている。「NEXCO中日本の用地」でも、陥没事故後に特段の騒音・振動対策も行わずにボーリングを実施しており、ボーリング調査が当該3地域において実施可能であったことが事故後に実証されている。

ボーリング調査を補完するために行ったとする「微動アレイ調査」については、地表近くの地盤状況しか把握できないとの指摘もあり、国交省のホームページにもそのような記載がある。

NEXCOは「工事着手前に行われる地盤状況把握のための事前調査は適切に行われていることを有識者委員会に確認いただいております」としているが、同委員会の小泉委員長は、「ネクスコや国土交通省の用地については説明を受けていないので認識していなかった。」(2021年2月12日ブリーフィング)、「通常のボーリングよりは距離が飛んでいる。・・・こういう事象が起こってみれば、この辺のボーリングはもっと取れればよかった。」(2020年12月18日ブリーフィング)などと発言しており、委員会として、「地盤状況把握のための事前調査は適切」と判断していたとは思えない。

事業者側の回答は、単なる「ごまかし」である。被害住民に対して、事故を発生させたことを真摯に反省し、工事の事前調査、工事施工全般にわたる事故原因の分析を誠実に行って、振動・低周波音、陥没・空洞、地盤の緩み等の被害を二度と発生させないようにしようとする姿勢が全く見受けられない。

「地盤補強のための一時移転」を被害住民に求める事業者

その一方で、事業者側は、地盤補強のための一時移転に向けての交渉を進めようとしている。陥没・空洞が発生した区間に生じた「地盤の緩み」を補強するため、薬液の注入等の工事を実施したいとして、トンネル直上の家屋の住民に対して、2年間の「一時移転」を要求している。

この工事も、口先では、大深度トンネル工事によって地上に生じた被害の復旧であるかのように言っているが、本当の目的は、工事続行ために必要な「地盤補強」であることが疑われる。というのは、今回、地上に被害を発生させたNEXCO東日本「南行きトンネル」と隣接して、NEXCO中日本が施工中の「北行きトンネル」の大深度工事が被害発生現場周辺であり、それが、今回の陥没・空洞の表面化以降ストップしている。NEXCO中日本は、工事再開を目論んでいるようであり、その工事施工のためには、今回の事故で生じた「地盤の緩み」を解消する必要があり、そのために「地盤補強」を行おうとしている可能性があるのである。

不誠実極まりないNEXCO東日本等の事業者の対応に、被害住民は、呆れ果て、その怒りは頂点に達している。

事業者側の不誠実極まりない対応による被害住民の「不安」は、今後、リニア中央新幹線大深度工事の地上となる大田区、世田谷区、外環道大深度工事の延伸先の三鷹市、練馬区、杉並区の地上住民にも波及することは必至だ。今回の事故は、単なる「調布陥没・空洞被害者」だけの問題ではないことを、これらの大深度工事が通過する行政区域の住民すべてが認識すべきだ。

なお、外環道大深度工事の問題に対する対応の経過、事業者側に送付した要請書等については、郷原総合コンプライアンス法律事務所のホームページに掲載しているので、ご関心がある方はご覧頂きたい。

➡ https://www.gohara-compliance.com/information/gaikan

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生活保護への対応と地方自治体のコンプライアンス

私は、コンプライアンスを、「法令遵守」ではなく、「組織が社会の要請に応えること」ととらえ、組織をめぐって発生する様々な問題の解決、事業・業務におけるコンプライアンスの取組みに関わってきた。

とりわけ、「社会の要請に応える」というコンプライアンスの観点が重要なのが地方自治体である。民間企業においては、需要に反映された社会の要請に応えていくことがベースとなるのに対して、地方自治体の場合、住民のニーズのほかに、公共の利益に関連する様々な要請が絡み合い、それに応えていく地方自治体の業務に関して、複雑かつ困難な問題が発生する。

その中で、最も深く関わってきたのが横浜市だ。2007年から、コンプライアンス外部委員としてコンプライアンス委員会に関わっていたが、2017年からはコンプライアンス顧問として、各部局、区で生起する様々な不祥事、コンプライアンス問題について対応の助言を行うほか、各部局・各区の幹部に対するコンプライアンス研修の実施などを通して、深く関わってきた。

コロナ禍の長期化で、社会全体が消耗、疲弊する中で、地方自治体に対する要請も複雑多様となり、バランスよく的確に応えていくことは容易ではなくなっている。こうした中で、横浜市においても、様々な不祥事の発生が続いている。

そのうちの一つ、社会的にも大きな問題となったのが、今年2月、横浜市神奈川区生活支援課での生活保護の申請をめぐる問題だ。

生活保護をめぐる複雑な社会の要請

生活保護という制度と運用をめぐっては、これまでも地方自治体の現場で様々な問題を発生してきた。そこには、制度と運用をめぐって社会の要請が複雑に絡み合う構図がある。

1つは、「生活保護は他の手段の補足であるべきだ」という要請である。誰しも、自らの資産・能力によって健康で文化的に生活できることを望んでいるはずであり、それが困難な人に対する直接的な公的支援として行われる生活保護は、「最終的な手段」だ。生活困窮者に対して、就労機会の提供や他の制度の活用などによって自立を支援できるのであれば、その方が望ましいことは言うまでもない。

2つめは、「保護を必要とする人には積極的に対応する」という要請だ。自らの資産・能力では健康で文化的な最低限の生活を維持することが困難な状況になっている人に対しては、生活保護による支援を積極的に行うことが求められる。真に生活保護を必要としている人に申請を躊躇させるようなことはあってはならない。特に、現在のコロナ禍のように、困窮者が急増する経済、社会状況においては、生活保護による支援が、より幅広く行われる必要がある。

3つめは、「保護要件の審査は厳格に行うべき」という要請だ。生活保護費は、公的資金によって賄われているのであり、保護要件の充足に関する審査は厳正に行われなければならない。いかなる状況においても、資産・能力についての虚偽申請や不正受給は許されないし、特に、暴力団関係者等による不正請求に対しては、毅然とした対応が求められる。

生活保護に対応する自治体には、複雑に交錯するこれら3つの要請に、バランスよく適切に対応することが求められる。

自治体の現場での生活保護への対応の経緯

自治体の受付窓口では、生活保護の申請があれば、まず「相談」という形で対応し、生活保護制度のほか、生活福祉資金・障害者施策等各種の社会保障施策についても説明する。そのうえで、申請の意思を確認し、様々な検討・調査が行われる。その際、自治体の側で、保護申請をなるべく受理したくないと考えて、申請書を渡さない、受け取らない、申請を取り下げさせるような対応がなされることがある。

かつて、暴力団などの不正受給防止のために厳格な審査を求める通知が厚生省から発出されたことがあり、その通知に過度に反応した現場が、申請を受理せず、窓口で追い払う傾向が強まったことがあった。それが、「水際作戦」として批判にさらされた。2006年には、北九州で生活保護申請を受理してもらえなかった生活困窮者の餓死事件が発生したことで、社会問題化した。

その後、厚生労働省は、「要保護者の申請権の侵害をしない」方針を明確に打ち出し、生活保護法23条による法施行事務監査を行って、「保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと」と徹底してきた。

しかし、その後も、2014年に銚子市で母子心中事件が起きるなど、生活保護をめぐる問題は後を絶たない。「保護申請をなるべく受理しない」という「水際作戦的な姿勢」は、まだ、自治体の一部に残っているようである。

自治体としては、窓口での対応が、そのような批判を招かないよう、最大限の努力をすべきであるよ。

横浜市神奈川区生活支援課の事案

そこで、横浜市神奈川区生活支援課で発生した事案についてみてみよう。

2月22日、横浜市神奈川区生活支援課に、「アパートで暮らしたい」という理由で生活保護を申請しようと訪れた20代女性の申請を受け付けなかったことが問題になった。女性を支援する生活保護の支援団体から、「生活保護の申請権を侵害する悪質な水際作戦」などと批判され、マスコミでも大きく報じられた。

その女性は、居所がなく、「アパートで生活をしたいため」生活保護を申請したいと希望していたのに、対応した職員が、路上生活者などに提供される横浜市の生活自立支援施設を案内し、「居所が定まらないと申請が却下される可能性がある」などと施設入所が受給の要件であるかのような誤った説明を行って、女性の当日の申請を諦めさせてしまったのである。

担当職員が事実と異なる説明を行い、申請の意思があったのに受け付けなかったのは、明らかに誤った対応だ。問題は、そのような対応が、どのような意図で行われたのか、それが、担当職員個人の問題なのか、横浜市の組織としての生活保護への対応姿勢にも問題があったのかという点だ。

この事案では、申請書を持参して「申請したい」と口頭で述べている時点で、客観的に申請意思が明らかだったと言える。路上生活者になりかねない若い女性が救済を求めてきているのであるから、上記の2つめの「保護を求めている人には積極的に対応する」要請という面では、担当職員から促してでも、申請書を受け取るべきだった。

その女性は「アパートで生活をしたい」との希望を述べていたのに、申請書を提出させる前に、施設等を案内し、そこに住民票を移せば容易に手続きできるかのような説明を行えば、施設入所が受給の要件であるかのように思われ、意にそぐわない施設入所を押し付けられたように受け取られる。そういう意味で、申請権を侵害する可能性のある対応であったことは否定できない。

「水際作戦」だったのか

しかし、担当職員の対応は、果たして、申請をなるべく受理したくないとか、申請を諦めさせようとする意図で行われたのだろうか。

支援施設を保有している横浜市の担当職員として、居所のない困窮者に対して、支援の「選択肢」として、経済的負担のない施設への入所を案内することは、一般論としては間違っていない。また、居所があることは生活保護申請の要件ではないが、居所が定まっていない場合、受給決定後の生活状況の調査等に支障が生じる可能性があるという意味で、受給の可否の決定に影響を与える要因となることは否定できない。保護が開始されるために、居所を定めたほうがよいというのも、生活保護の受給についての説明として間違っているわけではない。

そういう意味では、申請を妨げようとする意図ではなく、むしろ、良かれと思って説明していたのではないかとも思える。それは、申請を受け付けた後の要保護要件の審査で、上記の3つめの「保護要件の審査は厳格におこなうべき」との要請が働くことを念頭において、1つめの「生活保護は他の手段の補足であるべきだ」との要請から、まず、居所のない状況を解消すれば実質的な救済につながると思った可能性がある。

しかし、そうであったとしても、若い女性に、いきなり施設入所を勧めたことが配慮を欠いた対応であったことは否定できないし、それが、申請を受け付けること自体に消極的であるように受け取られ、2つめの「保護を求めている人には積極的に対応する」という要請に反することになったのである。

担当者個人の対応の背景にある、横浜市の生活保護行政の姿勢自体については、問題があったようには思えない。最近の厚生労働省の生活保護法施行事務監査において問題が指摘されたことはないし、昨年も、緊急事態宣言を受け、ゴールデンウイーク中も臨時相談窓口を開設して対応するなど、むしろ、生活保護への対応には積極的な姿勢で臨んでいた自治体である。横浜市としては、必要な生活保護費については、十分に予算確保する考えが浸透しており、申請を絞り込む動機があったとも思えない。

コロナ禍での環境変化への不適応

そのように考えると、むしろ、今回の事案は、コロナ禍での要保護者の状況の「変化」に、担当職員を含め神奈川区の生活保護担当部門が適応できていなかったことに原因があるように思われる。感染対策の影響でいきなり職を失い、住居も失って、生活保護を求めるケースが増えており、その中には、居所さえあれば施設でもよいと考える困窮者ばかりではなく、職を失って所持金は減少していても、施設には抵抗感があり、一般住居に暮らしたい、と希望する人もいる。“生活保護”と一口に言っても、要保護者が求めることの中身が多様化し、よりきめ細かな対応が必要となっていると言えよう。

そうした状況においては、受付窓口での相談の段階から、その実情、困窮の態様・程度に応じて、実質的に有効な支援を行えるよう適切な対応が必要となるし、それが、要保護者に正しく認識理解され、寄り添った対応ができるよう、より高度なスキルが求められる。

現場の知識習得・技術向上のための指導体制、人員不足の改善などにも目を向ける必要があるだろう。

横浜市は、今回の事案を受けて、5月14日、第三者による検証を行うため、「生活保護申請対応検証専門分科会」を設置した。そこでは、今回の不適切な対応について検討し、原因を明らかにするだけでなく、コロナ禍での環境激変の中で、要保護者にきめ細かなケアを行うための職員の指導監督や体制整備の方策について幅広く検討が行われることが期待される。

そして、事案の調査、上記分科会による検証を踏まえて、現場レベルでの改善措置を十分に講じることに加え、もう一つ重要なのは、自治体としての明確なメッセージを発することである。今回の事案がマスコミで「水際作戦」などと報じられたことで、横浜市の生活保護行政に対して疑念や不信が生じたことは否定し難い。それを払拭するためには、コロナ禍で増大する生活困窮者に対して、生活保護も含め、あらゆる手段を講じて積極的に支援を行っていく方針を明確に示すことが大切である。自治体のトップ自らの対応が求められる場面である。

 

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菅原一秀氏は、なぜ公の場で「国民への説明」をせず、ネット上での「一方的な発信」ばかりするのか?

菅原一秀衆院議員(前経済産業大臣)が、地元で香典・枕花等として現金を渡したとされる事件で、公職選挙法違反(選挙区内での寄附)の罪で略式起訴される見通しとなったことを受け、菅原氏は、6月1日に自民党を離党した上、議員辞職願を提出し、3日に、衆議院本会議で辞職が認められ、菅原氏は、議員の身分を失った。

来週には略式起訴が行われるとされており、裁判所が罰金の支払を命ずる略式命令を出すと、選挙権・被選挙権(公民権)が原則5年間停止となり、その間、菅原氏は、公職を務めることも、公職選挙に立候補することもできないし、選挙運動を行うことも禁止される。

菅原氏は、自らの「公式ブログ」で、

けじめとして、本日、衆議院議員を辞すべく院に辞職願を提出致しました。

などと述べているが、罰金刑で公民権停止となり国会議員失職となるからこそ、議員辞職願を提出したものであり、自発的に「けじめ」をつけたものでは全くない。

 菅原氏に対しては、野党だけではなく、自民党と連立政権を組む公明党や自民党内からも説明を求める声が上がっているが、菅原氏は、マスコミへの発表文とブログで

当局の処分がまだ出ておりませんゆえ、ここですべてをお話することは差し控えさせていただきます。

と述べ、現時点では、事件についての公式の説明を全く行っていない。

 ところが、ブログやフェイスブック(Facebook)では、上記の投稿を含め、「一方的な発信」を続けている。

 6月に入ってから辞職願を提出したことで、6月末の期末手当が全額支給されることについて野党などから批判されたことを受け、2日夕刻、Facebookで

昨日、議員辞職願を提出しました。明日の本会議で辞職が許可される予定です。尚、月末予定の賞与は当初より、全額返上するつもりでしたので、その手続きに入ります。法律上、返上が叶わなければ、昨年同様、被災地に全額お送りさせていただきます。

と投稿した。

 その後、菅原氏は、翌朝までに、上記投稿の「尚、月末予定の賞与は」の前に、「検察の処分が6月とのことで、それまで任期を全うしようとしました。」を付け加えている。

 6月1日に辞職願を提出したのは、検察の処分が出るまで任期を全うしようという意図で、期末手当をもらうためではないという「言い訳」がしたいのであろうが、そもそも、地元有権者への寄附の公選法違反の事実を認めていながら、ここまで議員の椅子にとどまったこと自体、本来、許されることではない。

今回、刑事処分に先立って辞職したのは、検察に、自発的に議員辞職したことを情状面で評価してもらい、「公民権停止期間は3年に短縮が相当」との意見を裁判所に提出してもらおうとの魂胆であろう。刑事処分後に議員辞職したのでは、情状面の評価の対象にならないことは言うまでもない。そういう意味では、「6月1日議員辞職願提出」というのは、「期末手当満額支給」で、なおかつ「公民権停止期間短縮」を狙える「絶妙なタイミング」と言える。

そして、菅原氏は、2日深夜、公式ブログにも同様の投稿を行った。

3日夜には、Facebookの投稿で、議員辞職が許可されたことの報告に加えて、

なお、期末手当について総務省と衆議院の議員課に確認したところ、やはり国庫への返納は不可とのことです。全額、被災地へお送りさせていただきます。

と述べている。

 しかし、菅原氏の「被災地に送る」というのも、「期末手当返上」として額面どおり受け取ることはできない。

 元秘書らの話によると、菅原氏は、秘書から、公設秘書が国から支給されている給与と私設秘書の給与の差額を「上納」させており、その時にも、「被災地への寄附」や「赤い羽根募金に充てる」ことを名目にしていたという。また、常時「香典袋」を持参して活動していた秘書が、地元の支援者の葬儀・通夜の情報を入手し損ねて香典等を出すことができなかった時に、「罰金」と称して秘書から金を巻き上げる際にも、「慈善団体に寄附する」などと言っていた。

 今回は、「秘書から」ではなく、「国民から」期末手当分を巻き上げることになるのだが、秘書に対して常時使っている「被災地に送る(寄付する)」という常套文句で批判を逃れようとしているのであろう。

 自分の支持者、支援者向けのブログ・Facebookで一方的に発信しているが、その内容は、公の場や記者会見であれば、追及されて、到底維持できなくなるようなことばかりなのである。 

 菅原氏は、公選法違反を犯した事実を認めていながら、6月1日まで議員の職にとどまって歳費ばかりか期末手当まで全額を受領することになった。一方で、事件の内容や経緯についても、6月1日に辞職願を提出した理由についても、国民への説明責任を全く果たさず、ブログやFacebookで身勝手な「一方的な説明」を続けている。

このような議員が、自民党の要職を務め、経済産業大臣まで務めていたというのは、巨額買収事件で後に逮捕された河井克行議員が法務大臣を務めていたのと同程度に、信じ難いことだ。

菅原氏に対する略式命令では、議員辞職したことを有利に評価することなどあってはならない。原則どおり、5年の公民権停止が当然だ。

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「検察審査会の正義」で議員辞職に追い込まれた菅原一秀氏、「秘書にハメられた」についても説明を

 菅原一秀衆院議員(前経済産業大臣)が、地元で香典・枕花や現金を渡したとされる問題で、菅原氏は、6月1日に自民党を離党し、議員辞職願を提出した。東京地検特捜部は、近く、公職選挙法違反(選挙区内での寄付)の罪で菅原氏を略式起訴する見通しと報じられている。

 私は、菅原氏の指示で有権者への香典・枕花や現金供与を行っていた元公設秘書2人の代理人として、そして、当初の検察の菅原氏に対する不起訴処分(起訴猶予)に対する検察審査会への審査申立の代理人として、この事件に関わってきた。その契機となったのは、当時公設秘書だった2人から、2019年11月、「菅原氏から、『文春と組んで代議士をハメた秘書』のように言いふらされて、事務所をクビにされそうになっている」と相談を受けたことだった。

 この事件が週刊文春で報じられた後、検察が捜査に着手し、不当な不起訴処分に終わった時点までの経緯については【菅原前経産相・不起訴処分を“丸裸”にする~河井夫妻事件捜査は大丈夫か】で詳細に述べている。

 2020年6月、検察は、菅原氏の公選法違反事実を認めた上で「起訴猶予」としたが、次席検事が異例の会見を開いて説明した理由は全く納得できるものではなく、検察審査会に持ち込まれれば、覆ることは必至だと思えた。ところが、検察は、7か月以上も前に受領していた告発状を、不起訴処分の直前に告発人に送り返し、「告発事件」ではなく、検察が独自に認知立件した事件のように装って、事件が検察審査会に持ち込まれないようにする「検察審査会外し」を画策していたことがわかった。

 私は、同年7月、告発人から委任を受け、審査申立代理人として、「有効な告発状を提出している以上、検察が不当に受理せず返戻していても『告発した者』として検察審査会への申立ては可能」との法解釈に基づいて、検察審査会への申立てを行ったところ、数日後、東京第4検察審査会から「令和2年(申立)8号事件として受理した」旨の通知が届いた。(この間の検察の不当な対応と審査申立の経緯については、ブログ記事【菅原前経産相不当不起訴の検察、告発状返戻で「検審外し」を画策か】)

 そして、その9か月後の2021年3月12日、東京第4検察審査会が、菅原氏に対して「起訴相当」の議決を行ったことが発表された。

 告発人の「申立事件」として検察審査会が受理しているのに、検察は、検察審査会から提出を求められた不起訴記録を提出しないという「審査妨害行為」を行ったが、菅原氏の元公設秘書2名が、菅原氏に指示されて公選法違反行為を実行していた状況についての「陳述書」や資料を提出するなどして審査に協力したこともあって、東京第4検察審査会として職権で審査を行うことを議決した上、「起訴相当」議決に至ったものだった。まさに、市民の代表として「検察の不正義」を正した画期的な議決であった(【菅原一秀議員「起訴相当」議決、「検察の正義」は崩壊、しかし、「検察審査会の正義」は、見事に示された!】)。

 検察官が、犯罪事実を認めた上で「起訴猶予」とした事件が、検審で「起訴相当」と議決された場合、検察が再捜査の結果、再度「起訴猶予」にしたとしても、検審での再度の審査で「起訴議決」となり「強制起訴」されることはほぼ確実だ。検察にも、不起訴処分の際に犯罪事実を認めている菅原氏にも、「逃げ道」はなかった。

 そういう意味で、検察が菅原氏を起訴し、議員失職となるのも当然の結末だった。今回、菅原氏が議員辞職したのは、現職議員のまま刑事処分を受けることを避けるためであろう。

 このような経緯の中で、最大の問題は、当初、検察が、なぜ菅原氏を「起訴猶予」にしたのかという点だ。

今回の結末からも明らかなように、現職国会議員の「違法寄附」の公選法違反行為が認められる以上、罰金刑に処するのは当然であり、「起訴猶予」などという処分はあり得ない。

 2019年10月に週刊文春の報道を受けて経産大臣を辞任した菅原氏は、その後、「体調不良」を理由に10月から開かれていた臨時国会を欠席し続ける一方で、「秘書にハメられた」と言って地元支持者回りをしていた。

 そして、2020年1月20日の通常国会の初日には、国会内で、記者に公選法違反の疑惑について質問されて、

「告発を受けているので答えられない」

と述べて説明を拒否していた。

 ところが、6月16日、菅原氏は、突然、自民党本部で記者会見を行い、

「近所や後援会関係者らの葬儀が年間約90件あり、自身は8~9割出席しているが、私が海外にいた場合、公務で葬儀に参列できない場合に秘書に出てもらい、香典を渡してもらったことがある。枕花の提供もあった。」

として公選法違反の事実を認め、

「反省している」

と述べた。

 その翌週の6月25日、菅原氏の不起訴処分が、東京地検次席検事の記者会見で公表された。

 このとき認定された違法寄附は約30万円、不起訴理由は、「後援会関係者らの葬儀には自身が8~9割出席した」という菅原氏の言い分を「丸呑み」したものだった。元秘書らは、常に「菅原一秀」という文字が印字された香典袋を持ち歩き、通夜・葬儀の情報を得たら菅原氏に金額を尋ねて香典を持参しており、菅原氏本人の出席は、そのごく一部に過ぎず、違法な寄附の総額は300万円程度に上ることは、秘書らの供述やLINEデータ等からも明らかだった。

 菅原氏の突然の「記者会見」と検察の不起訴処分のタイミング、不起訴理由の説明などから考えると、検察側と菅原氏側と間で、何らかの話し合いが行われ、不起訴の方針が決まったようにしか思えない。 

 今回、菅原氏が起訴される見込みの公選法違反の法定刑は50万円以下の罰金である。簡裁の略式命令による罰金刑が確定すれば、公選法の規定で「公民権停止」となり、衆院議員を失職する。公民権は原則5年間停止され、その間は立候補もできない。

 この公民権停止については、裁判所が、情状により、刑の言渡しと同時に、規定の不適用や期間短縮を宣告することができるとされている(公選法252条4項)。そして、それについて、検察官が、裁判所に「意見」を述べるのが通常だ。

 公民権停止期間が、原則通り5年なのか、3年程度まで短縮されるかは、菅原氏が、今年秋までに行われる次回衆院選には立候補できないとしても次々回の衆院選に立候補できる否かに関わる。近く行われる菅原氏の略式請求で、公民権停止について検察がどのような意見を述べるのか、裁判所が略式命令でどう判断するのかが注目される。(裁判所は、検察の意見には拘束されない。)

 元秘書らは、2020年3月末に菅原氏に公設秘書を解任されたが、それまで、秘書として菅原氏の指示に忠実にしたがい、職務を行ってきた。国会議員秘書の職にある者にとって、「週刊誌と組んで議員を大臣辞任に追い込んだ」などと言われることは、職業生命を奪われる程の「汚名」だ。菅原氏は、秘書にそのような汚名を着せて自らを正当化し、検察も、そのような菅原氏の言い分を「丸呑み」して不当な起訴猶予処分を行った。しかし「検察審査会の正義」によって、それが是正されようとしている。

 菅原氏は、今回の事件について、これまで全く説明責任を果たして来なかった。

 略式命令を受けた際には、「秘書に汚名を着せていた点」も含めて、公の場で説明責任を果たすべきだ。 

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2021年開催回避のための「現実的方策」としての“2024年東京パリ共同開催”

 コロナ禍による医療の危機的な状況が続き、2か月先に迫った東京五輪の開催に、国民の8賄以上が、中止か延期を望んでいるにもかかわらず、日本政府や五輪組織委員会、東京都の「開催強行」の方針は変わらず、国民の間に、強い不安と反発が渦巻いている。

 こうした中、東京五輪開催に否定的な論調のTBS系「サンデーモーニング」に出演した姜尚中氏が、東京五輪を2024年のパリ五輪と一部“共催”にする案を提示した。東京五輪開催を「賭け」と表現し、「それはしてはならない」と否定し、

「場合によっては、パリ大会の時に一部を日本で開催するなんていうことも、フランスとIOC、JOCでやって、そこで初めて日本なりに『克服しました』と世界にアピールすればいい」

と述べた。

 私は、昨年6月、都知事選の際に、「2021年東京五輪」の開催を中止し、「2021東京パリ共同開催」とすることを現実的な選択肢として提案していた(【都知事選の最大の争点「東京五輪開催をどうするのか」】)。

その時点で考えた案は、

会場設置に多額の費用がかかる種目を中心に、全種目の3分の2程度を東京或いはその周辺で開催し、パリでは、会場の整備等の費用が低額で済む競技(例えば、暑さが問題とされるマラソン・競歩や、お台場の競技会場が「トイレのような臭さ」で評判が悪いトライアスロンなど)を開催することで、競技種目を分担し、開会式は東京で、閉会式はパリで実施する

というものだった。

 7月に、あるルートを通じて、フランス側関係者の意向を確かめてもらったところ、

「フランス側としては、日本が2021年夏東京五輪開催の方針を維持している限り、2024年開催について日本側と話をすることは困難」

とのことだったので、それ以降、様々な観点から、2021年東京五輪開催を強行すべきではない、早期に開催を断念すべき、との意見を述べてきた(【”東京五輪協賛金追加拠出の是非”を、企業コンプライアンスの観点から考える】、【東京五輪開催中止「責任回避」合戦を、スポンサー企業も国民も冷静に見極めるべき】)。

 パリ五輪については、フランス政府等は、予定どおり開催の方針を崩していないが、少なくとも昨年9月末の時点では、瀬藤澄彦帝京大学元教授が、コロナ禍でパリ市内の交通網の整備、開催資金の調達等が大きな影響を受けており、決して開催準備が楽観視できる状況ではないと指摘していた(【コロナ危機の影響受ける24年パリ五輪の開催準備】。

 フランスとしても、パリ五輪開催には、国の威信がかかっているのであろうし、それに先立つ東京五輪の開催方針が変わらない以上、3年先の五輪開催に消極的な姿勢は見せられないのは当然であろう。

 しかし、東京五輪でも、開催経費は当初の予定を大幅に上回り、しかも、開催直前まで開催の是非をめぐる混乱が続いていることで、パリ五輪開催に向けてのスポンサー企業の姿勢には大きな影響が生じているはずだ。フランスにとっても、膨大な費用をかけて当初の予定どおりパリ五輪の開催を進めることに、本当に問題はないのだろうか。

 フランスのマクロン大統領は、いち早く、東京五輪開会式への参加を表明しているが、もし、「2024年東京パリ共同開催」ということにできるのであれば、東京五輪開会式を、日本とフランス政府、東京都とパリの代表だけが出席した「東京・パリ聖火共有イベント」に代替することで、日本とフランスの連携・協力をアピールする場にすることも考えられる。

 1年前から、この方向に舵を切っていれば、今のような、直前に迫った東京五輪開催に向けての「進退両難」の“断末魔状態”に陥ることはなかった。しかし、時計の針を戻すことはできない。今からでも遅くない。2021年夏開催を中止する現実的な選択肢として考えてみるべきだ。

 商業化したオリンピックというイベント自体に対して批判的な意見も多くなっており、東京五輪中止だけでなく、今後、オリンピックには一切関わるべきではないという意見もあろう。しかし、開催に向けてのIOCの強い意向を受け、政府・組織委員会・東京都が、開催に向けて「爆走」する中、「開催強行」から国民の命や健康を守るために、どうしたら、今年7月の開催中止を実現できるのかを考えるしかない。「2024年東京パリ共同開催」は、国民の命を守り、しかも、これまで東京五輪にかけてきた膨大な費用がすべて無駄になってしまわないように2021年東京五輪開催を中止する現実的な選択肢だ。

 今からでも遅くない。パリ五輪に関する情報収集を行い、パリ市側との水面下での意見交換を行って「東京パリ共同開催」を模索することが、開催都市の東京都にとって、「東京都民の命を守る」という社会的要請に応える “究極のコンプライアンス”だと言えよう。

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自民党重鎮「関与否定」発言から明らかになった「1億5千万円提供の指示者」~資金使途は関連書類「仮還付」で解明可能

2019年参院選を巡る買収事件で有罪が確定した河井案里元参院議員の陣営に、自民党本部から、同じ自民党公認の溝手顕正氏の10倍の1億5000万円もの資金が提供されていた問題について、党重鎮の発言が波紋を広げている。

5月17日の自民党本部での記者会見で、二階俊博幹事長は、資金の支出について「私は関係していない」と述べ、林幹雄幹事長代理も「実質的には当時の選挙対策委員長が広島を担当していた。幹事長は細かいことはよく分からない」と説明した。

党本部が資金を支出した2019年4~6月、自民党の選挙対策委員長を務めていたのは、甘利明・税制調査会長だったが、同氏は、18日、記者団に「(1億5000万円の支出には)1ミリも関与していない。1ミクロンもかかわっていない。事件後の新聞報道を見て初めて知った」と述べた。

このような自民党幹部の発言に関して、岸田文雄前政調会長は、18日に出演したBS番組で、「1億5000万円を出したその後、それを何に使ったか、これを明らかにしてもらいたい。我々が申し入れをした論点と、昨日から騒ぎになっている論点、これはちょっとずれている」と発言した。

自民党本部から河井陣営に提供された1億5000万円に関して問題になっているのは、

(1)溝手候補の10倍もの資金提供は誰が決めたのか、

(2)何に使ったのか、

の2つの点だ。

(1)の点は、そもそも、自民党広島県連の強い反対・反発にもかかわらず、参院広島選挙区に2人目の候補として案里氏を公認したのは、いかなる目的だったのか、という点に関連する。

克行氏が公判で供述しているように「自民党の党勢拡大、憲法改正の発議のため」だけだったのか、安倍晋三前首相が「溝手氏への私怨」から同氏の落選を狙ったのか、或いは、菅義偉氏、二階氏らが、総裁選を見据えて、安倍首相の後継の自民党総裁の有力候補だった岸田氏の大番頭の溝手氏落選を狙ったのかなど、様々な見方がある。

いずれにせよ、1億5000万円の資金提供を決定した人物は、10倍もの資金提供の理由について説明責任を負うことになる。

一方、(2)の点は、資金提供の違法性、不当性に関連する。

結果的に、買収原資に充てられたというだけでも、その政治的・社会的責任は重大だ。もし、資金提供が、「案里氏を当選させる目的で」買収原資に充てられることを認識した上で行われたのであれば、公選法の買収目的交付罪に該当する可能性もある(【検察は“ルビコン川”を渡った~河井夫妻と自民党本部は一蓮托生】)。

この点について最もよく知る克行氏は、自らの公判の被告人質問で、買収の資金について、「私の手持ちの資金で賄った」「衆議院の歳費などを安佐南区の自宅の金庫に入れ保管していた金で賄った。」と供述した。しかし、検察官から、日頃から議員活動のために「借り入れ」をしていることとの関係や、平成31年3月に金庫にあった現金の額について質問され、「覚えていない」としか答えられず、また、検察官から「自宅を検察が捜査した時点では大金はなかった。」と指摘されても「わからない」と述べるだけだった。

一方で、克行氏は、公判供述で、県連が溝手氏だけを支援し、案里氏の支援をすべて拒絶しており、「県連が果たすべき役割を果たしていない」ので、「やむを得ず」「市議、県議に県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げ」たと述べている(【「事実を認めた」河井克行元法相の公判供述は、広島県連・安倍前首相・菅首相にとって「強烈な刃」!】)。

克行氏は、5月18日の公判期日の被告人最終陳述では「1億5000万円の交付金の使途につき、いわゆる買収資金には一銭も使わなかった」と述べたが、弁護人の弁論では買収原資については全く触れておらず、「買収資金はポケットマネー」という克行氏の公判供述は弁護人にも信用されていない。

このように、上記(2)について、買収資金に充てられたことが明白になっており、上記(1)の1億5000万円の資金提供を誰が指示・決定したかが特定されると、責任追及が必至ということで、二階氏・甘利氏ら自民党重鎮が「関与否定発言」を行っていると見るべきであろう。

岸田氏も求めている、上記(2)の点についての自民党としての事実解明について、二階氏などは、これまで「検察から書類が戻れば、報告書を作成し、総務省に届ける」と述べて、「関係書類が検察に押収されていること」を、事実解明ができない「言い訳」にしてきた。しかし、河井夫妻の公判の状況からすれば、現時点では、その「言い訳」は全く通用しない。1億5000万円の使途を明らかにする関連書類の入手はすぐにも可能だ。

証拠物の押収というのは、捜査や公判立証のために行われるものであり、原則として、当該事件の裁判が終わるまでは押収物は返還されないが、刑訴法上、「押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。」(222条1項、123条2項)とされ、「仮還付」が認められている(仮還付を受けた者はその物を、証拠価値を変動させないように保管する義務を負う)。

案里氏の公判は終了して判決が確定し、克行氏の公判は、既に、検察官立証も論告弁論も終了し、判決を待つだけの状況になっている。関係書類の押収を継続する必要が全くなくなったとは言えないとしても、仮還付が行えない理由は考えられない。党本部が「任意提出」し「領置」(捜査機関が任意提出で証拠物を取得すること)されている関連書類については、党本部が仮還付を求めれば、すぐに仮還付されるだろう。また、克行氏が捜索の際に押収された資料は、克行氏自身が検察に仮還付を求めなくてはならないが、党本部が、克行氏に、総務省への報告のために必要だとして関係書類の仮還付を検察官に請求するよう要請すれば、克行氏が拒むことはできないはずだ。克行氏がその理由で仮還付を求めれば、検察官も仮還付を拒む理由はない。

つまり、現時点では、党本部にとって、1億5000万円の使途の全容の解明はすぐにも可能であり、上記(2)について岸田氏の要請に応じない理由はないのである。

では、自民党幹部の説明が食い違っている(1)の「誰が資金提供を決めたのか」という点は、どうなのだろうか。

この資金提供は、自民党の公式の政治資金によるものであり(原資の大部分は「政党助成金」と言われている)、自民党本部の会計責任者の事務総長が手続を行ったものと考えられる。その事務総長に対して、資金提供の指示を行ったのは誰なのか。

幹事長が関わるのが通常だろうが、もし、二階氏が言うように、「幹事長が関わっていない」とすると、自民党本部内で事務総長に指示できるのは、幹事長より上位の役職者しか考えられない。

そして、広島の選挙を担当していた選挙対策委員長の甘利氏が「1ミクロンも関わっていない」のであれば、「幹事長より上位の役職者」が、選対委員長を飛び越して、直接、事務総長に指示したことになる。

「首相動静」によれば、この合計1億5000万円の党本部からの資金提供が行われた前後に、克行氏と当時の安倍首相(自民党総裁)とは頻繁に単独面談を行っている。案里氏を公認した3月13日の前後の2月28日と3月20日、党本部から案里氏が代表を務める政党支部に1500万円を振り込んだ2日後の4月17日、3000万円を振り込んだ3日後の5月23日に安倍氏と克行氏とが単独で面会しており、6月10日に案里氏政党支部に3000万円、克行氏政党支部に4500万円が振り込まれた10日後の20日にも安倍氏と克行氏とが単独で面会し、その一週間後の同月27日に克行の政党支部に3000万円が振り込まれている(【“崖っぷち”河井前法相「逆転の一打」と“安倍首相の体調”の微妙な関係】)。

これらの単独面談の中で、克行氏から安倍氏に「広島県連が、案里氏の選挙への協力をすべて拒否し、果たすべき役割を果たしていないので、やむを得ず、県連に代行して市議、県議に、党からの交付金を現金で差し上げざるを得ない」という説明が行われなかったとは考え難い。

2019年参院選広島選挙区の買収事件で有罪が確定した河井案里氏陣営に提供された1億5000万円をめぐっては、依然として多くの「闇」が残されている。しかし、案里氏の夫で元法相の克行氏の公判供述によって、「党本部からの交付金」である1億5000万円が買収原資になったことは、もはや否定する余地はなくなっている。押収された関連資料も仮還付可能な状況となり、事実解明を拒否する自民党本部の「検察庁に資料が押収されている」との言い訳も通用しない。

では、資金提供を指示したのは誰なのか。

事ここに至って、にわかに自民党重鎮間で「関与否定発言」の応酬が起きたことで、それが誰であるかが一層明白となった。そして、その資金提供の指示が、地元政治家に、党からの交付金を現金で渡すことになると認識して行われたことも、否定することは困難となっている。

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河井元法相公判、懲役4年”実刑論告“で「最重要論点スルー」の謎

2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる公職選挙法違反(買収)事件の河井克行元法務大臣の公判で、4月30日に論告求刑が行われた。

検察は、懲役4年を求刑し、「現職国会議員によるこれほどの大規模買収事件は過去に前例はなく、正に前代未聞の悪質な犯行である」「被告人の刑事責任は極めて重大であって、被告人に対しては厳罰をもって臨むべきであり、被告人には相当期間の矯正施設内処遇が必須である」と述べた。

懲役4年は、総括主宰者に対する法定刑の上限である。また、「相当期間の矯正施設内処遇が必須」という表現は、「絶対に実刑に処すべき」ということであり、通常、「執行猶予付判決であれば控訴」を意味する。

かつて、検察組織を指揮監督する立場にあった元法務大臣に対する論告として、誠に厳しいものだったといえよう。

しかし、論告全文を入手して読んだところ、その内容が、厳しい論告求刑に見合うものと言えるのか、甚だ疑問だ。現金供与が、「党勢拡大、地盤培養活動の一環としての政治資金の寄附」であったのか否か、そうだとした場合に、それが、買収罪の「犯罪の情状」にどう影響するのかが、克行氏が実刑か執行猶予かを分ける最大のポイントになることは必至だが、論告では、その最重要論点をスルーしてしまっているのだ。

河井克行氏は、県議・市議・首長など地方政治家への現金供与について、「自民党の党勢拡大、案里及び被告人の地盤培養活動の一環として、地元政治家らに対して寄附をしたもの」と主張し、弁護側も、初公判での冒頭陳述で、同主張を前提に、「被告人が現金を供与した趣旨は、それぞれ相手方によって異なるが、いずれにしても、実務上、広く慣習として行われ、法的にも許容されている政治活動に伴う現金の供与であった」と述べて無罪を主張していた。

被告人質問の冒頭で、罪状認否を変更して、殆どの起訴事実について「事実を争わない」としたものの、その後、5日間にわたる弁護人からの被告人質問でも、その「政治資金の寄附であった」との主張を維持し、主張に沿った供述を詳細に行った。

次回期日での弁護側の弁論では、情状面の主張として、克行氏の現金供与が、従来摘発されてきたような、投票や選挙運動を直接依頼する「買収」とは異なることを徹底して主張するはずだ。従来は許容されてきた「政治資金の寄附」という性格の現金供与であり、「違法性の低いもの」と主張してくるのは確実だ。

被告人質問終了の時点で出した記事【河井元法相公判供述・有罪判決で、公職選挙に”激変” ~党本部「1億5千万円」も“違法”となる可能性】で述べたように、克行氏が「事実を争わない」としたものの、地方政治家に対する現金供与は「政治資金の寄附」であるとの供述を維持したことで、克行氏への有罪判決において、「政治資金の寄附であっても当選を得させる目的で金銭を供与すれば買収罪が成立する」との判断が示される可能性があり、そうなると、党本部が、国政選挙の際に都道府県連を通して政治家の支部に交付する「選挙資金」も、使途を限定しない「供与」であれば「買収罪」に該当することになりかねない。公職選挙の在り方に重大な影響を与えることになるため、克行氏公判での検察官の論告、弁護人の弁論、それらを受けて言い渡される判決に注目すべきと述べた。

県議・市議らへの現金供与について、克行氏の「自民党の党勢拡大、案里及び被告人の地盤培養活動の一環として、首長・県議ら地元政治家らに対して、寄附をした」との主張は、初公判から被告人質問まで一貫しており、検察官の質問でも揺らいでいない。

この点の克行氏の主張を否定することができるのか。検察官が、「政治資金の寄附」であることを否定するとすれば、「政治資金収支報告書に記載されていない」「領収書が授受されていない」などの根拠が考えられる。

しかし、河井夫妻の公選法違反事件で同氏らの事務所への捜索が行われたのは2020年1月、2019年分の政治資金収支報告書の提出期限の前で、収支報告書の記載が確定していない時期であり、収支報告書の記載の有無で「政治資金」かどうかを判断することはできない。

また、克行氏の供述によれば、政治資金の財布は4つあり、寄附については、金額などを調整して先方とも協議し、最終的に報告書に記入していたとのことであり、現金の授受の時点で領収書の授受を行わないのは、通常のやり方と変わらないことになる。領収書を受領していないことも、「政治資金」であることを否定する理由にはならない。

現金供与は政治資金の寄附だという克行氏の一貫した供述を否定することは困難なのではないか。(一方で、克行氏の「買収原資がポケットマネーである」とか、「溝手氏を落選させる意図はなかった」などの供述は、検察官の反対質問で崩されており、信用性がないことは明らかになっている。)

それでも、検察の論告では、現金供与が「政治資金の寄附」であることを否定する主張をするのか、それとも、「政治資金の寄附であることは、現金供与が買収であることを否定するものではなく、違法性を低下させるものでもない」と主張するのか、そこが、論告の最大の注目点だった。

ところが、検察は、この最も重要な論点について、ほとんど触れておらず、克行氏の主張の中に再三でてくる「党勢拡大」「地盤培養」という言葉も全く出てこないし、「政治資金の寄附」という言葉も見当たらない。

検察は、5万字を超える論告の大部分を、克行氏が本件選挙における案里氏の当選に向けた活動全般を取り仕切る立場にあった選挙の総括主宰者であったこと、案里氏の現金供与が買収に当たり、それについて克行氏の共謀が認められること、克行氏が、事実を争っている県議会議員4名に対しても現金供与の事実があり買収罪が認められること、などに関する記述に費やし、克行氏が、事実を争わないとしつつも、被告人質問の時間の大半を費やして行った「自民党の党勢拡大、案里及び被告人の地盤培養活動の一環として、地元政治家らに対して寄附をした」との主張については、県議会議員、市議会議員、町議会議員及び首長らへの現金供与の趣旨に関する被告人の弁解についての項目でわずかに述べているだけだ。

その内容も、初公判の弁護人冒頭陳述で「克行氏自身の政治基盤を強固にすること」だけではなく、「自民党の党勢拡大」「案里氏のための地盤培養」のための「政治資金の寄附」だと主張し、被告人質問でも、克行氏は、その主張に沿って詳細に供述したにもかかわらず、検察官は、克行氏が「自分自身の政治基盤を維持し強固なものとする目的」であったとだけ主張しているように引用し、それを否定する理由として、各現金供与当時に目前に迫っていたのは克行氏の選挙ではなく案里氏の選挙であったことや、現金を供与した際に自己の広報誌「月刊河井克行」の配布や自己の活動状況の報告を一切行っていないことなどを取り上げている。

しかし、国会議員の政治基盤強化のための政治活動は、自らの選挙が迫った時期だけではなく、日常的に行われているのが実態であり、広報誌の配布や自己の政治活動の報告もそれがなければ政治活動ではないと言えるようなものではない。検察の主張は、克行氏の主張を正しくとらえていないだけでなく、政治活動の実態に反する全く的はずれの主張だ。

克行氏は、被告人質問で、「一般的に、県連が、交付金として党勢拡大のためのお金を所属の県議・市議に振り込むが、県連からの交付金は溝手先生の党勢拡大にのみ使われ、県連が果たすべき役割を果たしていないので、やむを得ず、その役割を第3支部(克行支部長)、第7支部(案里支部長)で果たさないといけないと思い、県議・市議に、県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げた」と供述し、県議・市議などへの現金の供与は、自民党広島県連が行っている「党勢拡大のための資金の振込み」と同じ性格のものだと主張して、自らの現金供与を正当化しているが、検察は、これに対しても、何ら反論できていない。

検察は、一方で、法定刑の上限の懲役4年を求刑し、「実刑必須」と述べたのである。

検察官の論告と、弁護人の弁論を受けて判決が出されることになるが、裁判所としては、「懲役4年求刑」「実刑必須」という検察の厳しい論告なので、執行猶予判決は容易には選択できない。一方で、実刑を言い渡すとすれば、弁護人の主張に正面から判断せざるを得ないことになる。

弁護人が、「自民党の党勢拡大、案里及び被告人の地盤培養活動のための政治資金の寄附」であることを情状に関する主張として強調することは確実であり、裁判所としても、克行氏の現金供与が「政治資金の寄附」であるのか、そうだとして、それが情状面でどう評価されるのかについて判断を示さなければ、克行氏に実刑判決を下すことはできないだろう。

しかし、「政治資金の寄附ではない」という事実認定を行うとしても、検察は、否定する根拠を何一つ示せていない。また、上記のとおり、克行氏の被告人質問での供述からも、現金供与が、「当選を得させる目的」であると同時に、「政治資金の寄附」でもあることを否定することはできないので、「党勢拡大、地盤培養活動の一環としての政治資金の寄附」であることを認定した上で、「当選を得させる目的で供与した以上、公選法違反の買収罪が成立する」との前提で、それを情状面でどう評価するかの判断を示すことになるだろう。

河井夫妻を買収で起訴する一方で被買収者の処分を全く行っていない検察は、今後、被買収者の刑事処分という、誠に厄介な問題に直面することになるが、克行氏の判決で、地方政治家への現金供与が「政治資金の寄附」であったのか否か、それが、買収罪の「犯罪の情状」にどう影響するのかについて示される判断は、被買収者の刑事処分にも大きな影響を与えることになる。これまでは、検察の「自己抑制」によって、「政治資金の寄附」の弁解が予想される、選挙に関連する政治家間の資金のやり取りの事案が刑事事件として立件されることはほとんどなかったが、河井夫妻の事件で、検察は、敢えてそこに踏み込み、元法務大臣の現職国会議員を逮捕した。ところが、検察は、論告で「政治資金の寄附」と買収の関係の問題をスルーする一方で、克行氏を「実刑必須」と主張する、誠に不可解な論告を行った。

「政治資金の寄附」を情状面で強調する弁論を受けての判決では、「政治資金の寄附と買収罪の関係」が裁判所の判断の対象となることは避けられない。それによって、元法務大臣の多額現金買収事件による日本の公職選挙の「激変」が、現実のものとなるのである。

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