医学界新聞

寄稿

2013.04.22

視点

災害時,海外からの支援者受け入れを推進するために

原田奈穂子(日本プライマリ・ケア連合学会)
窪田和巳(日本医療政策機構)


 東日本大震災から2年が経過し,南海トラフ地震等への対策が急がれる中,国外からの支援受け入れに関する具体的な指針や政策は構築途上のように見える。こうした支援は,(1)支援者を送る側と受け入れる側の合意,(2)実働するシステムがあり初めて実現可能と考えられる。本稿では東日本大震災(以下,311)において海外在住医療者の受け入れを民間主導で行った事例を通し,当該政策推進の一助としたい。

◆3組織の連携で医療人材を被災地へ
 本事例においては,米国の海外医療支援NGO「Project HOPE(以下,HOPE)」が支援者を送り出し,受け入れは日本プライマリ・ケア連合学会(以下,PC連合学会)東日本大震災支援プロジェクト(PCAT)が担当。日本医療政策機構(HGPI)が2組織間の連携を取り持った。

 緊急時医療支援の際,大前提となるのは,外国での医療免許で災害医療支援活動に従事することを被災国が認可することである。311では3月14日に厚労省が特例を出した。

 さらに,支援に参加する条件として,事前確認が必要な項目がいくつかある。HOPE側は他の支援プロジェクトと同様,オンライン上に支援活動参加志願フォームをアップロードし希望者を募った。311の場合,日本の医療免許は必須ではないが「日本語が第一言語,もしくは不自由なく使えること」「最低2週間以上現地での活動が可能なこと」を応募条件とし,文化的背景や同一医療者による継続的な支援に配慮した。選考に通ると,予防接種履歴,所定の健康診断用紙,犯罪歴や過去7年間の米国での住所を含む履歴書,パスポート,卒業証明書や医療免許等各種証明書の写しをミッション前に提出することが義務付けられる。これらをすべて整えた上で,指定の日時に成田空港や都内などに集合し,ミッショングループ単位で現地入りした。

 一方,PCATはチームの日本到着後のブリーフィング,宿泊施設提供,そして現地での活動に関する一切を取り仕切った。PCATは311直後より被災地での支援活動を開始しており,HOPEを受け入れた際,継続的な医療支援活動に必要となるロジスティクス(宿泊施設,物資供給システム,コーディネーター)を既に構築していた。

 結果的にHOPEからは,2011年5月8日から7月16日まで2週間交代の5期にわたり,医師11人,看護師16人の計27人を派遣。1グループは医師1-3人と看護師3-4人で構成され,主に避難所,特殊避難所にて住宅被災者への医療保健支援活動を行った。

 なお費用については,派遣前に必要な追加予防接種や検診は個人負担,自宅からミーティングポイント経由,日本までの移動はHOPE,国内活動中の宿泊や食事の一部はPCAT,調整にかかる人件費はHGPIとHOPEが負担した。

◆発災直後から支援可能なシステム構築を
 この事例で強調したいのは,HOPE,PCAT両団体の確立されたシステムに加え,HGPIの調整により日米多機関がかかわった結果,支援希望者が支援活動に至るまでのプロセスを最低限,最短に抑えたという点である。ただし最初の派遣は発災2か月後であり,実現までに時間がかかったことは今後の課題として留意する必要があろう。

 将来の大規模災害に備え,発災直後から,海外からの支援者派遣・受け入れができるシステムの構築と,支援希望者個人レベルでの準備が急がれる。


原田奈穂子氏
看護師。聖路加看護大,米ペンシルベニア大を経てボストンカレッジ看護学部博士課程在籍中。2011年夏より日本PC連合学会東日本大震災支援プロジェクトに参画。

窪田和巳氏
看護師。名市大を経て,2013年東大大学院医学系研究科博士課程修了。武蔵野赤十字病院,衆議院議員秘書,日本看護連盟幹事等を経て現職。

執筆協力/乗竹亮治氏 (日本医療政策機構),角泰人氏,林健太郎氏 (日本PC連合学会)

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