Dangerous~2~

さて、ここからは歌詞以外の部分について語っていきたいと思います。

以前紹介したとおりこの「Dangerous」は、マイケルが単独で作った「Streetwalker」という曲がベースになっています。

Streeawalker」→「Dangerous(Early Version)」(アルティメット・コレクション収録のデモ版)→「Dangerous」(最終アルバムバージョン)という流れを辿るわけです。


「Streetwalker」は「BAD」期の曲ですから、この「Dangerous」という曲に発展して日の目を見るまでに、相当の時間があったというのが分かります。

マイケルは、一つの曲の制作に充分な時間をかけ、じっくりと肉付けしていくのが好きだったそうです。
そのため、曲を作ったけど完成とまでいかず放置→しばらくしてアレンジし直してみる→でも納得できなくてまたボツにする・・・そういう曲が大量にあったようです。

「Streetwalker」を聴く限り、これがどうやって「Dangerous」になったのかあまり繋がりが無さそうに見えますが、マイケルの話を聴くと理解できます。
「アルティメット」版はビル・ボットレイルのアレンジですが、最終バージョンはテディ・ライリーのアレンジに変わっていますから、そこにどういう経緯があったのかも含めて、順を追って振り返ってみたいと思います。


マイケルと彼のエンジニア、ビル・ボットレイルは、「Streetwalker」をとても気に入っていたそうです。でも、まだ完璧と言える出来ではなかった。
結局「BAD」アルバム選考から漏れ、替わりに「Another Part Of Me」が選ばれます。

「Streetwalker」↓




「(『Streetwalker』)をレコーディングした後、僕はまだ満足できなかった、不満だった。
‘あるべき姿’にならなかったんだ。
僕には、そういう‘未完成’な曲がたくさんあるんだけど。
それで・・・その曲をビル・ボットレイルに渡したんだ。」


「僕は『BAD』のために『Streetwalker』という曲を作ったのですが、そこには迫力のあるベース・メロディーが使われています。
僕のエンジニア(ビル)がそこからベース音を取り出して・・・なぜなら僕は曲自体に納得出来てなかったので、彼はベース音だけを取り出して、そこに新しいコード(和音)を付けたんです。
それが、『Dangerous』のヒントになりました。」(マイケル)



ベース音、というものが分からない方、マイケルに説明してもらいましょう(笑)

「『ベース音』というのは、ベースギターという楽器のメロディーで、メインの演奏と同調して演奏されることもあれば、曲のメロディー自体になったりする。そういうことです。」

「Streetwalker」自体を作った時のことについては、マイケルはこう話しています。

「僕はいつも・・・、歌で、口を使ってメロディーをテープレコーダーに吹き込みます。
例えば『Streetwalker』では、さっき言ったように強いベース音が聴こえたので、僕はいつもレコーダーを持っているので、そこに向かってそのベース音を歌ったんです。
『Streetwalker』の時はこんな感じでした、(~ベースギターを口真似するマイケル~)
このベース音を使って、そこにメロディーをくっ付けていくんです。
それで・・・それがヒントになって、頭のなかで聴こえたいろんな音が繋がっていくんです。」


マイケルは、いつも頭に浮かんだ音をテープに吹き込み、それを発展させていました。
ビル・ボットレイルも、こう話しています。

「僕がマイケルと作る曲はね、どれもマイケルが口ずさむメロディーやグルーヴがきっかけになるんだ。
それで彼がスタジオから出て行くと、僕はドラム機材一式とサンプラーとかを使って、そのアイデアを発展させていくんだ。」


「Streetwalker」と「アルティメット」の方の「Dangerous」には、同じメロディーを奏でるベースギターが使われていますよね。
「Streetwalker」でマイケルが気に入っていたのが、何よりもこのベース音だったのでしょう。
だから、ビル・ボットレイルはそこだけを切り取り、他の音を加えて別の曲として再構築を試みたようです。


ビルが発展させたものを、マイケルは聴きます。

「そして、彼がテープを返してきた。ベース音もドラムも、すべて入った状態でね。
それで僕はこれを何度も聴き返した。
気に入ったんだけど、でもまだメロディーが浮かんでこなかった。ヴォーカル・メロディーがね。
でもそうこうしているうちに、メロディーが突然やってきたんだ。
音楽、曲全体の構成、全部だよ。」


そのメロディーというのが、「アルティメット」の方に登場するものですね。その後、最終バージョンの「Dangerous」でもほとんど変化していません。


この曲のメロディー構成についても、マイケルが解説しています。

「最初の部分・・・1番は、ラップのような感じだ。

‘The way she came into the palce I knew right then and there
 There was something different About this girl
 The way she moved Her hair, her face, her lines
 Divinity in motion’

1番はだいたいこんな感じ。で、そこからBセクションへと移っていくんだ。
そしてサビになだれ込む。こんな感じ・・・

‘I never knew but I was Walking the line
Come go with me I said I have no time ’

それから、こう構築するんだ、Bセクションからサビへ・・・歌詞は、えー・・・・、

‘I・・・・・・・・・・・ we didn't Talk on the phone
 My baby cried And left me standing alone
dangerous The girl is dangerous’(マイケル、歌詞うる覚え)

だいたいこんなかんじだよ。コードを聴いているとさ、メロディーが浮かぶんだよ。」


どの部分がヴォーカル・メロディーなのか聴かれて、こう答えています。

「それは、Bセクションのサビに向かうところ。僕が‘デンジャラス!’と言うところがサビ。
盛り上がりが高まって、曲のクライマックスだよね。
わかるでしょ、サビを形成するんだよ。
最初は静かに、Bセクションでだんだん盛り上がって、サビにくるとクライマックスだ、破裂するみたいなね。クスッ(笑)」


最後の一文を、なぜかすごく楽しそうに話したマイケル。
「クライマックス」という言葉は、性的なオルガズムの意味も含む言葉ですから、どうやら曲の展開を性的興奮と掛け合わせて説明してみたようですね・・・・(笑)

静まり返った法廷?で、そんなことをしてしまうマイケル。緊張とか、したことないのかな?と思ってしまう。

でも確かに、特に最終バージョンの「Dangerous」はその歌詞とともに、サビに向かう部分のスリリングさというのが、性的な興奮の高まりに似ているような気もします。


「彼(ビル・ボットレイル)がしてくれたことは、僕に曲を書くヒントをもたらしてくれたことです。
僕はコードを聴いていると、それがどんなタイプのコード進行でも、頭の中に無数のメロディーが聴こえるんだ。」


全てのメロディーが出来上がり、マイケルはレコーディングに取り掛かります。
それが、「アルティメット」収録の「Dangerous」ですね。


ところがこれを聴いたマイケル、また納得がいきません。

「(アルティメットの)をレコーディングした後も、僕はまだ、満足できなかった。
時代に即していない気がしたんだ。
だから・・・・、テディに入ってもらった。サウンドを「最新化」してもらうためにね。

『‘ヒップホップ’っていう言葉を使うのは嫌いだけど、でもテディ、‘ヒップホップ’な感じだよ、現代的で感情的で・・・・新しいダンスも踊れるようなね。だって、僕は踊るのが大好きだから。』って。

その曲(アルティメットの方)を家でかけて踊ろうとしたんだけど、いまいちノレなかったんだ。
だから僕は、その曲にもっとアツさとかアクションとか深みを加えたかったんだ。」



個人的に、この部分は私が一番面白いなと思った部分です。

80年代後半のヒップホップ世代の台頭に逆行した「BAD」から一転、「Dangerous」ではテディ・ライリーを起用しストリート感を意識したはずのマイケル。
いくつかの曲ではラッパーさえフィーチャーしている。

それなのに、‘ヒップホップ’という言葉を使うのを嫌ったというマイケル。

私が思うに、こういうことではないでしょうか。

「自分は、流行のサウンドはちゃんとカバーしている。
でも僕はラッパーではない。トレンドは押さえつつ、あくまでも‘マイケル・ジャクソン’の音楽を貫くんだ。」

前回語った「語り」部分も、「ラップ調」ではあるけれど決して微妙に「ラップ」ではない仕上がりになっています。

このアルバム全体を通して、そういった「線引き」が絶妙な加減で行われているということは、マイケル自身がトップ・アーティストとしての自分の「立ち位置」というものを充分に意識していたことの現れであると言えると思います。

そしてそのバランスの良さが、このアルバムの成功に結びついたと考えられるのでしょうし、またあくまでもマイケル・ジャクソンのオリジナリティが基盤にしっかりあったからこそ、今でも名盤として色褪せずにいられるのだと思うのです。


「音を変え、ベースの音、質を変え、ドラムの音を変え、迫力をつけたんだ・・・(~スネアドラムを口真似するマイケル~)奮い立つような演出だ。
テディは曲に、感情とか興奮を加えてくれたんだ。それこそが、僕が求めていたものだったんだ。
そして僕たちは、形を整え、あるべき形にはめ、「DANEROUS」アルバムに収録されたものに仕上げたのさ。」


「アルティメット」の「Dangerous」の段階まで存在したベース・メロディーは、心臓の鼓動のような、深く沈み込むドラマティックな音に変貌を遂げたんですね。


テディ・ライリーは、後にこう話しています。

「もし他の誰かがもっと良い『Dangerous』を持ってきたとしたら、彼はそれを使っていたはず。
だから、それが僕なのかビリーなのかって言うことではなくて、‘音楽’がすべてなんだよ。」



こうしてできた「Dangerous」ですが、その音作りはといえば、スネアドラムにシンセサイザー、サビ部分でのマシンガンの音、指パッチンと、いたってシンプルになっています。

「語り」部分、サビへ向かうBセクション、そしてサビの衝撃、各パートの入れ替わりが明確になっていて、どこも聴き応えがあるのは、「Billie Jean」に似ているな、と思います。

そしてマイケルの多彩なヴォーカル。
「男っぽさ」全開の叫びもものすごくセクシーだし、メロディーに絡みつく熱い吐息、「ヒ、ヒー!」「フォー!」も絶妙。
この曲のヴォーカル・アレンジは、特に素晴らしいですね。
私にとっては、非の打ち所がない「パーフェクト」な曲です。

主なクレジットを紹介しておきたいと思います。

 作詞・作曲:Michael Jackson, Bill Bottrell, Teddy Riley
 プロデュース:Michael Jackson, Teddy Riley
 ソロ・バックコーラス: Michael Jackson
 ヴォーカル・アレンジ: Michael Jackson
 リズムアレンジ:Teddy Riley
 シンセサイザー・アレンジ:Teddy Riley
 シンセサイザー:Teddy Riley, Brad Buxer and Rhett Lawrence



そうそう、「アルティメット・コレクション」の方の「Dangerous」の冒頭、何かが倒れ、マイケルが「Oh!!」と言っている声が入っていますね。

ご存じない方の為に触れておこうと思いますが、あれは偶然入ってしまった音なんですね。
このレコーディングの日のこともマイケルが話していますので、最後に紹介したいと思います。

「あれはなんていうか・・・、面白い日だったよ(笑)。面白いっていうかね・・・。
僕はいつも(スタジオの中を)暗くして歌うんだ。全部を感じたいというか、ステージに立ってる時以外は人に見られるのは好きじゃないんだ。
そんなわけで・・・、照明は全部消えてたんだ。
で、僕が歌いだす直前に、でっかい、7フィート位はありそうな壁(音響保護壁?)が僕の頭に落っこちてきたんだ。
‘バン!’って大きい音がしてね、痛かったよ。
でも、それがどれくらいの衝撃だったかは、次の日になってから分かったんだ。
めまいがしたから(笑)
そういうのも、全部録ってあるよ。」


めまいがするほど頭打ったのに、そのまま歌い続けなくても・・・・と思いますが(笑)
その音も収録したのは、マイケルのお遊びなんでしょうか?


さて、「僕は踊るのが大好きだから」と話したマイケル、この「Dangerous」はどう踊るのか、皆さんご存知の「伝説」と言われるパフォーマンスについて、次回は語りたいと思います。

踊るマイケルについて語るのは久々ですねー(笑)
最近はバラードばかりでしたから。

では、また。

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