マイケル・ジャクソンの楽曲「Jam」は、アルバム「DANGEROUS」のオープニング・トラックであり、ショート・フィルムではもう一人の 'MJ' マイケル・ジョーダンとの共演でも話題になりました。
デンジャラス - マイケル・ジャクソン
Jam - Michael Jackson
「Jam」は、発売当時から今も変わらず大好きな曲です。今日の記事はちょっと長くなりそうですが、歌詞の内容を中心に取り上げていきたいと思います。
「DANGEROUS」アルバムというと、言わずもがなマイケルが共同プロデューサーに指名したテディ・ライリーの貢献も大きいわけですが、このオープニング・トラックのクレジットを見ると、メイン・メンバーにレコーディング・エンジニア(録音技師)のブルース・スウェディンの名前がありますね。
音楽:レネー・ムーア、ブルース・スウェディン、マイケル・ジャクソン、テディ・ライリー
メロディー/作詞:マイケル・ジャクソン
プロデュース:マイケル・ジャクソン、テディ・ライリー、ブルース・スウェディン
ブルース・スウェディンについては前々回の「Leave Me Alone」の記事の後半で書いた通り(詳しくはこちら)、クインシー・ジョーンズの仕事仲間として映画「The Wiz」でマイケルと出会い、その後マイケルがクインシーから離れた後もエンジニアとしてマイケルを支え、時にプロデュース、ソングライティングの面でもマイケルと試行錯誤を重ねて、楽曲制作への情熱を共にしていた人物です。
(「Smooth Criminal」の中盤で、「全員退去せよー!!」と警察署のチーフ役でアナウンスを入れているのが、このブルースさんですね。)
ブルース・スウェディン(Wikiより)
マイケルとブルースの2人だけでプロデュースを行った曲もあるのですが、この「DANGEROUS」アルバムで言うと「Heal The World」「Will You Be There」「Keep The Faith」の3曲ですね。
「Jam」という曲は、このブルース・スウェディンと黒人ミュージシャンのレネ・ムーアが作ったドラム・サウンドが元になり制作されています。
(レネは確か、ジャネット・ジャクソンのデビュー曲を書いていたような気がします。)
そこにテディが入ってニュー・ジャック・スイング色が加えられ、マイケルもヴォーカルでリズムの要素を加えるなどしてサウンドが完成したのです。
以前も書きましたが、「DANGEROUS」アルバムは前半と後半で意識的に楽曲が分けられていて、前半はテディ参加曲が占めているのですが、後半では一転して、マイケル自身がプロデュースの主導権を握って制作した曲が並びます。
マイケルの好みや個性が良く出ているのがこの後半の曲群であり、先ほどのブルースとの共同プロデュース3作品ももちろんこの後半に置かれています。
ブルースの他にも、ビル・ボットレイルとの共同プロデュースでギタリストのスラッシュを招いた「Black Or White」、友人でもあったバズ・コーハンから提供された「Gone Too Soon」など、様々な創作過程が目に浮かぶような充実したラインナップです。
そして最後は再び、テディがアレンジしたタイトル・トラック「Dangerous」で終了という構成ですね。
ブルース・スウェディンは、マイケルとの共同プロデュースについて著書(「MAKE MINE MUSIC」)で綴っていますので和訳してみました。
「マイケル特有のセッションを体験できることは、私にとって最高の楽しみなんだ!私がマイケルと共同でプロデュースした曲は、その一つ一つが素晴らしい経験になった。
ある音楽に取り掛かると、私は少し自分で手を加えてみる。一度リズム・トラックを落としてみて、マイケルにそのテープを渡す。そしてマイケルはこう言う。『すごくいいね、でもこうしてみたらどうだろう。』私は戻ってもう少し手を加えてみる。行っては戻る、そんな感じでね。彼は何日でも待ってくれる。
彼のピッチ(音程)やなんやらは全て完璧だった。それにマイケルは礼儀正しく親切な人でもあった。例えば彼は『すみません、イヤホンのピアノの音を、もう少し上げてもらえますか?』なんて感じで言う。私がこっちでボリュームを上げるとマイケルは必ずこう言った、『ありがとう』。
私はとにかくマイケルを尊敬する。音楽への完璧なまでの誠実さには、度肝を抜かれるんだ。
私たちはいつも、作曲したものやデモを二人で聴いて、レコーディングするかどうかということを決めていた。そしてミュージシャンに入ってもらって、私たちはアレンジを施してレコーディングする。次にマイケルのヴォーカルを入れてみて、どんな感じか構成してみたり・・・なんて工程で行うんだ。
そして最初の要点をパスすれば、全体的な構造を適切な形にして、マイケルの声にフィットさせる。私たちは改良を加えたり多重録音の作業をしたりして、作業を終える。
つまり、その段階でも私たちは様々な試みを行っているということだね。正しい構成にしたり、しっくりくる感触を得るためだ。」
そして次に、「Jam」の制作秘話について語っている部分です。
「私は何度か、レネ・ムーアという、ロスを拠点にする若く才能のあるミュージシャンと仕事をしていました。私たちは、80年代の初頭から様々なプロジェクトで一緒に働いていたのです。レネーは仕事仲間というだけでなく、長年の間に真の友人になっていました。レネーは共に働くのが楽しく、素晴らしいミュージシャンです。ピアノ奏者として、ヴォーカリストとしても素晴らしい人の中の一人です。(中略)
レネーと私は、いくつかのプロジェクトで共にプロデュースや作曲を行っていたのですが、80年代後半に、私たちは古いながらも最高のエネルギーを持つような、ドラム・ループやリズム・トラックを使った試みを始めたのです。
私たちのアイデアは、こういったヴィンテージなドラム・パフォーマンスの感触を加えたかったのと、それを最新の音と重ね、現代的なサウンドに対応させたかったのです。グルーヴの音の価値を今風に作り替えたかった。
多くの人がそれを行ってきて、ある程度成功していました。私たちが違ったのは、私たちは真に並外れたものを作ってみたいということだった。私たちは、モータウン・レコード所属のレネーのアルバムの為に、こういったアイデアに取り組んでいたのです。
私は、リズムを担う要素のひとつに、ミネソタの祖父の農場にあった ‘そりの鈴’ を使ってみました。しばらくすると、驚異的な、シビれるグルーヴが出来上がった!最高のグルーヴが加わって、曲が素晴らしく出来始めたんだ。
私たちはある日の午後、レネーの自宅スタジオで作業をしている時にお互いの顔を見合ってこう言った、『ワオ!マジで最高だよ!これ、マイケルのアルバムに使ってもらうべきじゃないか?』私はその時、マイケルのデンジャラス・アルバムに取り掛かっていたんですね。だからその翌日、私はレネーを連れてスタジオに行き、マイケルに自分たちの作ったトラックを聞いてもらえないか訊ねると、マイケルは言ったのです。『もちろん。準備が出来たら教えてね』」。
数時間後、ブルースが電話でマイケルを呼び戻してこのドラム・ループを大音量で流すと、マイケルはなんとコントロール・ルームの中を踊り回ったのだそうです。
ブルースは、「マイケルはこのコンセプトを気に入ってくれたんだ!」とその時の感動を記しています。
そしてブルースによると、その翌日には早速マイケルによりメロディーと歌詞が加えられており、その曲は「Jam」と名付けられます。さらにその翌週にはテディも加わりアレンジが施されました。
マイケルのヴォーカル録りはたった一日で終了し、ブルースがミックスを行い、それが最終的に「DANGEROUS」のオープニング・トラックに選ばれることになったのです。
この曲の制作スピードは凄いですね。アルバムのタイトル・トラック「Dangerous」とは、随分違うようです。
「Dangerous」はビル・ボットレイルが作ったドラム・サウンドがその前身なのですが、マイケルがそれを気に入ったものの、メロディーや歌詞が浮かぶまでにしばらく時間を要し、書いた後もマイケルはしっくり来ず、「家でこの曲に合わせて踊ろうとしたけどノレなかった。音が時代に即していないと思った。」ということで、テディを呼んだわけです。
私がこの「Jam」で一番好きな音が、シャンシャンと鳴り続ける ‘鈴の音’ なのですが、これはブルースのおじいさんの農場の鈴だったんですね。
ブルースが表現した 'ヴィンテージ' というフィーリングを、確かにこの鈴の音から感じることが出来ますよね。
「Jam」は歌い出しまでに60秒近くあるわけですが、このドラム・サウンドをたっぷり聴かせて興奮を呼び覚まそうという、マイケルの熱意が感じられます。
思い出すのが「Billie Jean」。イントロの30秒という長さはラジオで使ってもらう際に不利になるから、もっと早く歌い出した方が良いというクインシーの助言に対し、「この部分があるから踊りたくなるんだよ!」とマイケルが言い返したという逸話を思い出します。「Jam」は30秒どころかその倍もあるんですよね。ダンサーでもあるマイケルらしいイントロです。
そして、始めに触れたように「Jam」といえばバスケット・ボールですね。
以前、ロサンゼルス・レイカーズで活躍した元スター選手、コービー・ブライアント(Kobe Bryant)は、実はマイケルが大のNBAファンだったといことを明かしていました。
コービー・ブライアント
時は1998年、コービーは当時18歳にして既に若手スターとして順調にトップ・キャリアを積んでいたものの、自分のプレー関する様々な記事に精神的に対応できず、ナーヴァスになっていたのだそうです。
そんな中である日突然、面識のないマイケル・ジャクソンから、トレーニング中のコービーに電話が掛かってくるのです。
驚いているコービーに、マイケルは電話口で「自分のやっていることにフォーカス(集中)するんだ。」と言って、勇気を出せとアドヴァイスするのです。
マイケルは「偉大な選手になりたいのなら、偉大な先輩から学ぶんだ。」とも言ったそうですが、それ以来、マイケルはコービーにとって「人生の師」となります。
コービーは、「メンタル面において、マイケル・ジョーダンでもなく他のどの選手からでもなく、マイケル・ジャクソンから全てを学んだんだ。」と語っています。
マイケルは、コービーがお気に入り選手だったのでしょうか?(笑)
You Tubeではジョーダンとコービーの対決動画などもUPされているので、バスケが好きな方は是非観てみてくださいね。(あ、ちなみにコービーのスペル「KOBE」は神戸牛からとったそうです。本名ですよ。)
さあそして「偉大な先輩」といえば、「バスケの神様」マイケル・ジョーダンですね。いやー、懐かしいなあ(笑)
マイケル・ジョーダン
私も小中学校時代は「スラムダンク」にハマりましたし(周りの女の子はもちろん流川くん押しでしたが、私はゴリが好きでした・・・笑)、「エア・ジョーダン」とかみんな履いてましたよね。
ジョーダンがダンクしに行く時って、ぺろっと舌を出すんですよね。本人曰くただの癖らしいのですが、それもなんだかカッコ良かったなぁ。身長が198㎝ということで、バスケ選手としては意外と小さいのですが(ちなみにマイケルは178㎝)、手がものすごく長いんですよね。ジョーダンは空中での動きが凄いので、ジョーダンがフリー・スローエリアから飛び込むと「ジョーダンが離陸だ!!」なんて実況されていて、もう大迫力でした。
こちら↓ はジョーダンのダンク集です。
https://youtu.be/79MQ4_r7QZM
「Michael Jordan's Top Career Dunks」
マイケルも小さい頃からバスケが好きでしたし、きっとジョーダンのダンクに憧れたのではないでしょうか?
SFでの夢の豪華競演を堪能できる「Jam」ですが、実は最初マイケルは、ジョーダンから共演を断られたのだそうです。「あんな凄いダンサーと一緒に踊らされるなんて、恥かくだけだから無理」と。
しかし結果的に二人のMJによるダブル主演的な映像になっていて、とてもクールな楽しい仕上がりですね。
バスケのシーンでは、マイケルがジョーダンにしがみ付いてシュートを阻もうという「反則行為」に出てたりして、珍しくリラックスして撮影を楽しむマイケルの姿が見られる、楽しいSFです。
(このSFの構成も「Jam」のメッセージと直接リンクしているわけですが、それはまた次回改めて触れたいと思います。)
さて今日の本題、マイケルが一日で書いてしまったという歌詞の内容に移りたいと思います。この曲の歌詞は、個人的にマイケルが書いた歌詞でも特に好きなものの一つです。マイケルらしい思想に基づいていて、力強く、かつ遊び心もある素晴らしい歌詞です。
「マイケル・ジャクソンの曲は誤訳が多い」というのはファンの中では定説ですが、この「Jam」も和訳が難しいと言われるものの一つですね。そもそも 'Jam' というスラングが入っているので、日本人には感覚的にわかりにくい部分があります。
私は発売当時子供だったのもありますが、マイケルの熱のこもったヴォーカルとブックレットで和訳された固い言葉の間に隔たりを感じ、イマイチ歌詞の内容が伝わってきませんでした。他のブログさんでも、やはり和訳に困っていらっしゃる方が多いようです。
ただスラングというのは、それ一つで様々な意味を持ったりするものですし、特定の 'グループ' の中でのみ意味が通じるような非公式の言葉です。(日本で昔流行ったギャル語も立派なスラングですね。私も使っていましたが。笑)
そもそも英語が母国語でない人たちに 'Jam' の感覚がわからないだろうということは、当然マイケルは分かっていたでしょう。
マイケルの作風からすると 'Jam' というスラングをあくまでも '入れ物' として使ったはずです。
この曲は強力なメッセージ・ソングであり、マイケルはこの 'Jam' という単語に想いをすべてを集約させ、ダブル・ミーニングを仕掛け意図的に複数の意味で聴けるように作詞していると、私は思います。 'Jam' に、MJ流の新しい意味を加えようという意図があったのでしょう。
この曲は訳される方によって解釈も様々ですので、迷われている方は他の方のファンの方のページも探って頂ければと思いますが、今日は私の解釈をご紹介したいと思います・・・・。
さて・・・まずはこの歌詞全体のニュアンスについてです。
この「Jam」の歌詞は、サビの「It Ain't Too Much For Me To Jam」に見られる 'Ain't' という黒人英語から来ていると言われるスラングを多用しているのが特徴ですね。
マイケル・ジャクソンは当然ですが黒人英語を使います。公の場では丁寧な一般的な言葉使いで話していましたが、自分の兄弟や黒人どうしで会話をする際には黒人英語を使っていたはずですし、動画で見かけたことも有ります。学校教育を受けている黒人さんは、相手や場面によっていわゆる標準英語と黒人英語を切り替えて話すんですね。日本の方言と同じような感じでしょうか。
アメリカの黒人英語というのは、わざと時制の使い方を変えたり省略形を作ったり、正しい文法を崩してリズムや勢いをつけて会話するもので、彼らの中ではひとつの文化であり起源は奴隷時代にまで遡るのだそうです。
マイケルの楽曲にはたくさん黒人英語が出てきますが、一番解りやすいのは「Black Or White」のサビでしょうか。
「It Don't Matter If You're Black Or White」(お前が黒か白かなんて関係ねえ)
'Don't' は文法的には本来 'Doesn't' であるべきですが、この使い方が典型的な黒人英語です。
黒人英語は教科書英語のルールを崩してしまう為、文章にしたりビジネスメールを書く場合にはもちろん使いませんが、アメリカの保守派の人の中には「教育レベルが低い」と嫌う人も多いそうです。
しかしマイケルは、あえてこういった黒人英語や、そこから来たスラングを多用しました。特にこの「Black Or White」という、際どい歌詞の曲であえて黒人英語を使っているところに、主張を感じますね。
こういった表現が歌詞にある場合には、本来は和訳も口語調の崩したニュアンスで行わないと様子がおかしくなってしまい意味が伝わりません。
'Ain't' というのは、 'Is Not' などbe動詞+否定形の省略語で、時制がどうなっていようとこれを当てはめてしまう、ある意味便利な表現です。
スラングですから、「~ではない」ではなく「~じゃねえ」みたいな、軽いニュアンスの語り口に変わります。
恐らく最初はラップで広まったのでしょうけど、今は一般的に使われていてロックの歌詞でもよく目にしますね。ちょっとカッコつけた俗っぽい表現、というと分かりやすいでしょうか。(もともと英語を話さない日本人、特に女性が真似すると失笑されれることがあるので、ご注意あれ・・・・。)
'Ain't' を使っている他の例だと、例えば「Bad」のショート・フィルム。
マイケル演じる青年ダリルは、スラム街の貧しい家庭で育ちながらも、私立高校に入学して勉学に励み寄宿舎生活を送ります。しかしダリルが冬休みで故郷に戻ってきた際、昔の不良仲間たちはすっかり「お利口さん」になってしまったダリルに戸惑い、悪さをしてみろとけしかけるわけです。「もうお前は 'Bad' ワルい(イケてる)奴じゃなくなっちまったんだな?」と。
ダリルは責め立てられ「一番 'Bad' な奴が誰か見せてやるよ!」と地下鉄の駅にカツアゲをしに向かうのですが、すんでのところで思い留まるのです。「そうだ、俺はもう変わったはずだ!」と。
当然、不良仲間はダリルを責めます。「You Ain't Bad!!」(お前はもう 'Bad' じゃねぇ!)と。
そしてダリルも言い返します。「You Ain’t Nothing!!」(お前らこそ何者でもねぇ!!空っぽじゃねぇか!!)と。
そしてワルい恰好に変身したマイケルが降臨し、歌い踊りながら「本当の 'Bad'(イケてる)とはどういうことか?」という正論をぶつけるわけです。そもそも 'Bad' (イケてる)という言葉もスラングですね。
(そういえば「Beat It」もスラングですね。本来は「失せろこの野郎!!」みたいなスラングですが、マイケルはこれに「逃げろ!」という別の意味を仕掛けていました。いろいろ工夫してますね。)
ですから、マイケルが何度も歌うこのサビのフレーズ「It Ain't Too Much For Me To Jam」は、標準英語で直訳するのであれば「俺にとっては、'ジャム'するのに手に負えないということはない」といった感じになりますが、ここでは「俺にとっちゃ、ジャムすることなんて難しくねえ!!」みたいな、くだけた言い回しで訳すべきでしょう。「Hey, Yo!!」みたいな(笑)
またマイケルは、サビ以外のヴォーカル・パートもラップ調(というかほとんどラップ)で歌っていますので、この曲全体をそういったニュアンスで歌っているということを、まずはイメージして頂けたらと思います。
それから、この曲では 'Ain't' がリズムの要素としても効果的に使われていて、それが音に敏感なマイケルのソングライティングの特徴でもあります。
(ちなみに'Too Much' トゥー・マッチとは直訳すると「多すぎる」となりますから、「手に負えない」「難しすぎる」「抱えきれない」「荷が重い」「容量オーバー」などという感じの意味合いで、内容によっていろいろな訳し方ができますね。)
そして、'Jam' とはどういうスラングなのか?という部分です。
この単語が持つ本来の意味は、「人が押し寄せる、ギュウギュウに詰め込む、群がる、混乱、窮屈」といった感じですね。「交通渋滞」は 'Traffic Jam' ですから、どちらかというとネガティヴなイメージです。息詰まる感じですね。しかしスラングとして使う場合は意味が様々に変わります。
バスケ経験のある男子の皆さんはご存知だと思いますが、バスケットボールの試合でダンク・シュートを決めることも 'Jam' と言いますね。
先ほど紹介したジョーダンのダンク映像でも、実況者が何度か「ジャム!!」と叫んでいますよね。「What A Jam!!」(すっげーダンクだ!!)と言うのも聞こえます。
ちなみに音楽を指すこともあります。「This is my jam!!」(これ、私のお気に入り曲!!)のような感じですね。その他にも「パーティー」とか「セックス」なんかを指すこともあるそうです。(スラングは言葉遊びですから、口にするのがはばかれるような言葉の意味を持つことも多いです。)
でももう、あのSFを思い浮かべたらダンク・シュートしかないですよね。マイケル・ジョーダンといえばダンク、ダンクといえばジョーダンです!!
つまりマイケルは、この 'Jam' という言葉にダブル・ミーニングを仕掛け、若者の大好きなバスケットボールの力を借り歌詞と連動させることで、より広くメッセージが伝わるだろうと期待して作詞しています。
ですからサビの意味としてはまず一つ、「俺にとっちゃ、ダンク・シュートだって難しくねえぜ!!」というのが表面的な和訳になるでしょう。
・・・・まあ実際には、マイケルは椅子を用意してもらわないとゴールに届かない・・・・というのは、SFの '暗闇のレッスン' でご覧の通りですが(笑)。ちゃんとオチがあったんですね。
以前私が観に行ったシルク・ド・ソレイユの「イモータル」公演でも、この「Jam」の演出は完全にバスケ一色でした。バスケットコートの映像もありましたし、ドリブルの音がリズムに使われていて大迫力でした。楽曲の編集という面でも、素晴らしい仕上がりです。
そう思うと、この「Jam」のドラム・サウンド自体がドリブルの音に聴こえてくるかのようですが、マイケルはブルースが作ってきたトラックを聴いたその翌日には、作詞をして「Jam」と名付けているわけですから、本当にドリブルのイメージが頭に沸いたのかもしれません・・・・・。その最初の音源を、是非聴いてみたかったですね。
(もしもジョーダンから本当にオファーを断られていたら、どうするつもりだったんでしょうか?次の候補はマジック・ジョンソンでしょうか?笑)
では、'Jam'に込めた本来の 'メッセージ' が何なのか?というのが、この曲一番のポイントです。それは、サビ以外の部分を読み解くことで見えてきます。
皆さんは、この曲のテーマは何だと思われますか?
CDのブックレットの和訳をされた方が 'Jam' という言葉をどう解釈をされているのだろうかと改めて手元のアルバムを見てみると、「集中だ!」となっていますね・・・・・・当たり障りのない表現ですが、苦労の跡が見えます(笑)。
とっかかりになるのは、1番と2番のAメロで登場する言葉 'Work It Out(解決させる、なんとかやり遂げる)' というフレーズでしょう。
何を解決させようと言っているのかというと、具体的には触れていませんが世界が直面している諸問題ですね。「なんとか解決出来るかもしれない」と一番最初にマイケルは言及しています。
「絶対に解決できるはずだ」とは言わず、'Maybe'「何とかなるかもしれない」という表現が微妙に危機感を煽りますね。ヴォーカルからもそれが伝わります。
マイケルは、サビで何度も「It Ain't Too Much For Me」「自分にはトゥー・マッチではない」と言っていますよね。「自分には手に負えないわけではない、抱えきれないわけじゃない、僕にとっては難しいことではない」と。
しかしもちろんマイケルは、一人きりで解決するのは無理だということは重々承知しています。だからマイケルは「一体みんなどうしてしまったんだ? ‘愛’ を忘れてしまったのか?」と人々に投げかけていますよね。「国と国が力を合わせれば、問題解決は可能かもしれない」と。
世界中の人たちが協力してくれることが必須条件であると、マイケルは 'Must' という強い表現を使っています。
ですから、私が 'Jam' を一言で訳すとしたら「集まれ!!」でしょうか。
「世の中なんとかしたい奴は、立ち上がって俺のところに集まれ!!」と。これこそが、この曲最大のメッセージです。
マイケルが必要としているのは、世界中の何億という若者です。自分が揉みくちゃにされるくらい、それこそギュウギュウに押しつぶされるくらいに、若者に集まってきて欲しい。自分にはまだ、それを受け止めるだけの力は残っているんだ、抱えきれないわけじゃない、と。
マイケルは 'Jam' 「ダンク・シュートを決める」という豪快でエネルギッシュなスラングに、「人々が集結し、問題を解決させる」というポジティヴなイメージを託している、というのが私の解釈です。
SFでのバスケの試合のシーンでは、若者に混じってマイケルも汗を流していますよね。一つのコートの中で繰り広げられる熱戦を、外の世界にも求めているのです。
そして、ワールド・ツアーでのこの曲の熱狂的な盛り上がりは、マイケルに対するファンからの '返答' なのだと私は理解しています。
「Jam」という楽曲は、問題の核心に迫るというよりも、まずはその勢いで若者の心を掴もうというのが目的なわけです。その先に関しては、「Why You Wanna Trip On Me」「Black Or White」「Heal The World」などといった曲が、それぞれに役割を果たしています。
ですから私の意見としては、「集中だ!」という和訳では能動的な印象があまり伝わらないし、 'MJの個人的な闘い' というイメージで捉えられかねない。そうなると、根本からテーマがズレてしまうのです。一人で試合は出来ないわけですから。
昔、ブックレットの和訳を頼りに聴いていた頃は、「僕は寺院の中にいる」とか「僕はシステムに管理されているんだ」なんていう訳から、どこかネガティヴな、自閉的なイメージを抱いていました。
他のファンの方でもそういう解釈をしていらっしゃる方がいます。マイケルのイメージというか、そう思ってしまうのは分かりますが、この曲に関しては(あくまでも私個人の考えですが)ちょっと違うように思います。
マイケルが自身の存在について言及する部分は確かにありますが、ここはあくまでも「お前たちも俺のように強くなれ」と、他人を奮起させようとしている部分です。
そもそも歌い出しの「国と国が力を合わせて・・・」のところから既にそういう曲ではないですし、何といってもあの抜群のテンションです。サウンドの圧倒的な破壊力、ノリノリなラップ、バスケット・ボール。周囲を巻き込んでムーヴメントをおこしたい、というのがマイケルの狙いなのです。
あともう一つ、ブックレットの和訳を見ると、この「It Ain't Too Much」の部分が「悪いことばかりじゃない、問題ばかりじゃない」という意訳になっているんですね。ここは、誤解を招きかねない和訳なのではないか?と思います。
マイケルは、ベビーブーム世代が成人を迎えて世界は人口爆発状態にあり、大変な時代に入ったと警鐘を鳴らしているわけですね。恐れに涙する時代が来たと。世の中は問題だらけです。
マイケルは、問題は山積しているから何とかせねばと言っているのです。「問題解決の為に自分にはまだ出来ることがある、皆が集まってくれれば、なんとかなるんだ」と、「限界はまだ来ていない」という意味で「トゥー・マッチではない」という表現を使っているのです。
「悪いことばかりじゃない、問題ばかりじゃない」とはっきり訳されてしまうと、私の解釈が間違っているのかと不安になりますが・・・・でもこれだと、この歌詞全体の辻褄が合わなくなるような気がします・・・・。
さて、前置きが長くなりましたが(汗)やっと和訳に移ります。
一つ付け加えておきたいのですが 'Jam' は「ラップをする」という意味で使うこともあるようですね。これは調べるまで知らなかったのですが、ということは聴きようによっては「ラップだって、俺の手にかかれば楽勝だぜ」と、トリプル・ミーニングというお遊びにもなっているという可能性も無きにしもあらずです。
今回はその可能性も含め、 'Jam' の部分は考えられるパターンを各所に散らして訳してみました。その為、曲の後半はサビの繰り返しが続きますが、リピートで省略せず書いています。
またブックレットでは歌詞がぶつ切りで段落分けされているのですが、和訳した時に不都合が出るので、つなぎ目を整えて記載してあります。ご了承ください。
シンセサイザーのヴォーカル・サポートがさりげなく入るだけのドラム・ループの中、完璧なピッチでラップ調に歌うマイケルのヴォーカルは嘆きと怒りに満ち、情熱的で、冷静で、カッコイイの一言です。
「Jam」は世界的カリスマ性を誇るマイケル・ジャクソンにだからこそ、歌えた曲ですね。
JAM
(アナウンス)
1,2,3....Jam!!
Jam
You Wanna Get Up
Jam
You Wanna Get Up.....
ジャム
立ち上がりたいんだろ?
ジャム
お前も立ち上がりたいんじゃないのか?
<1番>
(Aメロ)
Nation To Nation
All The World
Must Come Together
Face The Problems
That We See
Then Maybe Somehow We Can
Work It Out
国から国へ
世界中が手を取り合い
目の前の問題に向き合わなければならない
そうすれば、俺たちはどうにかして
解決させることが出来るのかもしれない
I Asked My Neighbor
For A Favor
She Said Later
What Has Come Of
All The People
Have We Lost Love
Of What It's About
俺は隣人に協力を求め
頼み事をした
すると彼女は「後にしてよ」と言ったんだ
人々は一体どうなってしまったんだ?
'愛' の何たるかを忘れちまったのか?
(Bメロ)
I Have To Find My Peace Cuz
No One Seems To Let Me Be
False Prophets Cry Of Doom
What Are The Possibilities
俺は俺の平穏を見つけなきゃならない
誰も俺を放っといちゃくれないようだから
デタラメな予言者たちが、破滅を叫ぶ
可能性はどのくらいだ?
I Told My Brother
There'll Be Problems,
Times And Tears For Fears,
But We Must Live Each Day
Like It's The Last
Go With It
Go With It
俺はブラザーに言ったんだ
問題だらけになるぜ、と
時は流れ、恐れに涙を流すだろう
でも俺たちは、一日一日を
明日はないつもりで生きなければならない
さあ行け!
やり抜くんだ!
(サビ)
Jam
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't Too Much
It Ain't Too Much For Me To Jam
ダンクをぶち込め!
難しくなんかねえ
難しくなんかないさ
俺にとっちゃ、ダンクだって楽勝だぜ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To Jam
まだまだ
手に負えないなんてことはねえ
全然だね
そうだろ?
俺にとっちゃ、ダンクだって楽勝だぜ
<2番>
(Aメロ)
The World Keeps Changing
Rearranging Minds
And Thoughts
Predictions Fly Of Doom
The Baby Boom
Has Come Of Age
We'll Work It Out
世界は変化を続け
精神や思考は
その様相を変え続ける
破滅の予言
ベビー・ブームの世代が
この時代を迎えた
俺たちが何とかするんだ
I Told My Brothers
Don't You Ask Me
For No Favors
I'm Conditioned By
The System
Don't You Talk To Me
Don't Scream And Shout
俺はブラザーたちに言った
お前ら俺に頼るんじゃねえ!!
この俺だって、
社会の仕組みってやつに影響されてるんだ
俺につべこべ言うんじゃねえ
わめき散らすのもやめろ!!
(Bメロ)
She Pray To God, To Buddha
Then She Sings A
Talmud Song
Confusions Contradict
The Self
Do We Know Right
From Wrong
彼女はキリストの神に祈り、仏陀に祈り
そしてタルムードを歌う
混乱、矛盾
俺たちには、
善悪の区別ってもんがつくのか?
I Just Want You To
Recognize Me
In The Temple
You Can't Hurt Me
I Found Peace
Within Myself
Go With It
Go With It
俺は寺院の中にいるってことを
お前たちには解っておいてほしいね
傷つけようとしたって無駄だぜ
俺は自分の心の中に
平穏を見つけたんだ
さあ行け!
やり抜くんだ!
(サビ)
Jam
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't Too Much
It Ain't Too Much For Me To JAM
集まれ!!
そんなことはねえ
多すぎて無理ってことはないぜ
荷が重いなんてことはねえ
俺にとっちゃ、問題解決が難しいなんてことはねえ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To Jam
まだまだ
多すぎて無理ってことはないぜ
これからだ
そうだろ?
俺にとっちゃ、問題解決は難しくねえさ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Too Much
It Ain't Too Much For Me To Jam
まだまだ
多すぎて無理ってことはないぜ
これからだ
そうだろ?
俺にとっちゃ、問題解決は難しくねえさ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To...
Hoooo!!
全然
難しいなんてことはねえ
全くさ
そうだろ?
俺にとっちゃ、ラップだって楽勝さ
フォーー!!
(ラップ:ヘビーD)
Jam Jam
Here Comes The Man
Hot Damn
The Big Boy Stands
Movin' Up A Hand
Makin' Funky Tracks
With My Man
Michael Jackson
Smooth Criminal
That's The Man
Mike's So Relaxed
Mingle Mingle Jingle
In The Jungle
Bum Rushed The Door
3 And 4's In A Bundle
Execute The Plan
First I Cooled Like A Fan
Got With Janet
Then With Guy
Now With Michael
Cause It Ain't Hard To...
ジャム、ジャム
あの男がやってきた
アツい男さ
あのビッグ・ボーイが手を振って待ってるぜ
ファンキーな曲を作ってる
俺の仲間と一緒にな
マイケル・ジャクソン
スムーズ・クリミナル
その男さ
マイクはすっげーリラックスしてるぜ
混ざって、混じり合って
ジャングルでいい感じに音を鳴らそうぜ
熱中した奴ら、ドアに突進
3,4人ひとまとめさ
計画の実行だぜ
俺だって、始めこそ見てるだけだったが
ジャネットとやって
ガイともやった
そんで、お次はマイケル
なぜって俺様にはちっとも・・・・・
Jam
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Too Much
It Ain't Too Much For Me To Jam
集まれ!
まだまだ
多すぎて無理ってことはないぜ
まだまだ
これからだ
俺にとっちゃ、問題解決は難しくなんかねえ
Get On It
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't Stop
It Ain't Too Much For Me To Jam
急ぐんだ
多すぎて無理ってことはないぜ
全くだね
止まるな
俺にとっちゃ、ダンクだって難しくねえ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To Jam
そんなことはねえ
多すぎて無理ってことはないぜ
全然だ
そうだろ?
俺にとっちゃ、ダンクだって楽勝だぜ
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To...
Hoooooo!!!!
集まれ!!
多すぎて無理ってことはないぜ
まだまだ
そうだろ?
俺にとっちゃ、容量オーバーなんてことはないぜ
フォーーー!!
(ヘヴィーD)
It Ain't Hard For Me To Jam
It Ain't Hard For Me To Jam.....
ラップなんて楽勝さ
俺にとっちゃ、ラップはチョロイぜ
(マイケル)
Get Down!!!
Hooooo!!!
さあ、踊るぜ!!
フォーーー!!
Get On It
急ぐんだ
Jam
It Ain't
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To Jam
集まれ!
まだまだ
多すぎて無理ってことはないぜ
まだまだ
そうだろ?
俺にとっちゃ、問題解決は難しくなんかねえ
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Too Much
It Ain't Too Much For Me To Jam
多すぎて無理ってことはないぜ
まだまだ
これからだ
俺にとっちゃ、問題解決は難しくなんかねえ
It Ain't
Too Much Stuff
It Ain't
Too Much
It Ain't Too Much For Me To Jam
まだまだ
荷が重いなんてことは
まだまだ
これからだ
俺にとっちゃ、問題解決は難しくなんかねえ
Too Much
It Ain't Too Much Stuff
It Ain't
Don't You
It Ain't Too Much For Me To...
まだまだ
難しいなんてことはねえ
全然
そうだろ?
俺にとっちゃ、手に負えないなんてことはねえ
Get On It
Get On It
Give It Baby
Give It To Me
Come On
You Really Give It To Me
Got To Give It
You Just Want To Give It
急げ
進むんだ
やって見せてくれ、ベイビー
俺に見せてくれ
カモン
やって見せたいんだろう?
やってみるんだ
お前だって、やってみたいだろう?
(訳・テト)
さて、いくつか補足したいと思いますが、1番Bメロの「We Must Live Each Day Like It's The Last」(俺たちは、一日一日を明日はないつもりで生きなければならない)の部分は、マイケルが度々言及していた彼のポリシーですね。
「どんな仕事でも、明日はないつもりで一生懸命働くこと」は両親からの教えだったそうです。労働階級出身のマイケルらしいというか、ひたすら真面目ですね。 'Must' という強い表現を使っていますので、「絶対にそれが必要だ」と言っています。
2番Aメロの「俺だって、社会の仕組みってやつに影響されてるんだ」と訳した部分ですが、これは「自分もベビーブーム世代なんだ」と言っていることが直前の歌詞から読み取れますよね。マイケルは1958年生まれですから、まさにそうですね。
時代と共に世界情勢は変わっていくわけですが、世の中の出来事というのは決して自然発生的に起こるわけではなく、人々が精神や思考を変えたその結果として起こる。ベビーブームも世界大戦の副産物ですよね。
「俺一人に問題解決を求めるな!わめき散らすのは止めろ!俺だってお前らと一緒だ、それなのになぜお前らは自分で行動を起こそうとしないんだ!?」と、同世代の仲間をけしかけている部分です。
ここの「Don't You Ask Me For No Favors」(お前ら俺に頼るんじゃねえ!!)の部分ですが、これは二重否定で意味を強調するというタイプの典型的な黒人英語です。
とてもキツイ表現で、語尾に「この野郎!!」とでも付けたいくらいの怒りMAXなセリフです。もしもマイケルに面と向かってこう言われたら、ショックで二度と立ち直れなさそうです(泣)
そういえば先ほど「Bad」で紹介したマイケルのセリフ「You Ain’t Nothing!!」(お前こそ何者でもねぇ!!空っぽじゃねぇか!!)も二重否定の黒人英語ですね。
マイケルは1番と2番で、AメロBメロの歌詞を連動させていますね。
1番Aメロでは「ある女性に協力してくれと頼んだら『後にしてくれ』と断られた」と、人々の '無関心' に対する憤りを語っていますが、2番Aメロになると「お前ら俺に頼って、わめき散らすんじゃねえ!!」という '他者依存' への怒りへと、感情のボルテージが高まっているのがポイントです。
1番から2番の間で時間経過が見られ、世界情勢が悪化しているようです。「だから俺は『問題だらけになるぜ』と言ったんだ!!」という、マイケルのブラザー(仲間)に対する怒りを感じますね。
この対比は、例え話を使った近い将来への '警告' でもあるのでしょう。善悪の判断も付いていないと思わせるほどの世界情勢になり、恐怖と不安で助けを求める人々で殺到することになるだろう、と。
「彼女はキリストの神に祈り、仏陀に祈り、ユダヤ教の聖典タルムードを歌う。」という部分は、「心の平穏をどこに求めているのか?」というマイケルからの問いですね。
この「彼女」とは、1番で頼みごとを断ってきた女性のことでしょう。もうとても '無関心' ではいられない精神状態になっています。
マイケルはもちろん信仰を否定しているのではありません。ここでは恐らく比喩として使っていて、その後に「混乱、矛盾」とあるように、自分の身に脅威が迫った時、恐怖や不安からやみくもに他に依存し、自分自身を信じる努力をせず、外の世界に目を向ける余裕を持てない人々の状態を指しているようです。
そしてマイケルは「俺は自分自身の心の中に平穏を見つけた」と言うのですが、なんともマイケルらしい文脈ですね。
'Temple'(寺院、神殿)とは向こうではキリスト教を除く宗教の建物に使いますが、広く '祈りの場' を示すニュアンスがあります。ここではマイケルの心の中だけにある '確固たる場所' を指すわけですから、特定の宗教を連想させないこの 'Temple' を使ったのでしょう。
ここは、恐怖に怯え何かにすがるのではなく、「何があっても動じない心の平穏を、自分自身の中に見出す強さを身につけるべき」という主張ですね。
そうでなければ、この時代を生き抜くことはできない、まして世界をどうにかすることなど出来ないのだ、しっかりしろ!と。
根本的なものの考え方が、「Heal The World」の歌詞に出て来る「スペース=心の中に作る場所」の考え方と同じですね。
さあ、そして難しいのが、ヘヴィーDのラップ・パートです。ラップを解読するのは日本人にはほんとに難しいのですが(汗)、ここは明らかにバスケと音楽を引っ掛けていますね。ここもマイケルが書いたようです。
そういえばマイケルは生前、インタビューでこんなことを言っていました。
「僕だって、ラップを歌えないわけじゃないよ。有名なラッパーに歌詞を書いたことだってあるんだから。でも歌うのは彼らの方が上手いんだ。だから、そこで張り合うことはしないってわけ。」
ということだそうです(笑)
実はここには私のお気に入りポイントがあって、それがこちら↓のフレーズです。
Mingle Mingle
Jingle In The Jungle
Bum Rushed The Door
3 And 4's In A Bundle
混ざって、混じり合って
ジャングルでいい感じに音を鳴らそうぜ
熱中した奴ら、ドアに突進
3,4人ひとまとめさ
'Jingle'という単語は「イイ感じに音を鳴らそうぜ」と訳しましたが、これは「シングル・ベル」の「ジングル」ですので、直訳すると「鈴をリンリン鳴らす」という意味になります。擬音語ですね。
最初に触れたブルース・スウェディンの著述部分を初めて読んだ時、マイケルがこの 'Jingle' を 農場の ‘そりの鈴’ と引っかけているということに気付きました。マイケルも、この音がお気に入りだったんですね。
それから、バスケのドリブルで「ドンドン」と床に音が響いている様子も掛けているようです。
しかも、この 'Jingle' には '韻(同じ音の響き)を合わせる’ という意味もあります。
'Mingle' 'Jingle' 'Jungle' 'Bundle'と、同じ音が語尾に付く単語を集めているので、すごくラップらしいですよね。
ということは・・・私が「イイ感じに音を鳴らそうぜ」と訳した部分には、「ジャングルでそりの鈴の音鳴らそうぜ!」「ジャングルでドリブル響かせようぜ!」「ジャングルでライムしようぜ!」と3パターンの意味が隠れていると言えそうです。さすがマイケル、お見事!!(笑)
「ジャングル」という言葉にも、バスケット・コートとかクラブとか、いくつかの意味が含まれていますね。
「ビッグ・ボーイ」とは、恐らくマイケル・ジョーダンのことでしょうね。
「3,4人ひとまとめ」「ドアに突進」というのは、マイケル・ジョーダンのダンクを阻もうとしている相手側のディフェンスを指しているか、もしくはジョーダンが3,4人を蹴散らしてダンクを決めているか、どちらかでしょう。
「ジャネットとやってガイともやった・・・」のくだりは、ヘヴィーDの共演経験を言っています。ガイとは、テディ・ライリーのグループですね。
ヘヴィーDは、まさかマイケル・ジャクソンからオファーが来るとは夢にも思わなかったらしく、依頼が来た時には「どっきりテレビ」だと思ってなかなか信じなかったのだそうです(笑)。
ヘヴィーDはビギーなどとは違って愛嬌のある大人しい感じの、丸い声が特徴のラッパーさんでしたが、残念ながら2011年に44歳の若さで病死されています。
ちなみにこのラップ部分ですが、実は歌詞をよく見ると、直前のマイケルのヴォーカルからヘヴィーDのラップ、そしてラップから再びマイケルのヴォーカルに戻るところで、それぞれセンテンスが繋がっています。
ラップへの入りは「It Ain't Too Much For Me To......Jam」、ヴォーカルへの戻りは「It Ain't Hard To......Jam」と、共通して「'Jam' することは難しくねえ!」という一文で繋がっています。なかなか凝ってますね。
このラップ・パート全体にも、「若者よ、集まれ!!」というメッセージが込められているように思います。
ということで・・・・だだらと長くなってしまいましたが(汗)私の解釈はいかがでしょうか?
他の解釈をお持ちの方がいらっしゃったら、是非聞かせてくださいね。
今日は「Jam」の歌詞の世界観について書きましたが、次回はその他の部分、SFなどについてもう少しだけ綴りたいなと思います。
この記事へのコメント
tetsu
マイケルの曲は、歌って踊れるダンスナンバーでも、ちゃんとオリジナルの強烈なメッセージを含んでる。それが今の生ぬるい世代のシンガーには欠けてる部分なのかな。ブラック・ミュージックってやっぱりこうあるべきなんだろう。しかも10年前にはディスコソングを歌ってた人がちゃんと時代にも対応してラップでヒット飛ばしてたなんて、やっぱスゲーなマイケル。しばらくは、Jamばっかり聴いてしまいそうな予感。Jamの第二弾も待ってます!
テト
なっちゃん
テト
coco
ですが書かせて頂く事にしました。
Jamはマイケルの中でも大好きな曲です。アルバムの一曲目に
この曲を持ってくるなんてさすがはマイケル!!と当時から思って
ました。インパクトありますものね。Jamの意味は何となーくは
知っていたんです。「みんなで集まって一つになる」とか「集合する」とか。(どちらも同じ意味ですね笑)でもテトさんの解釈は深い
ですね。私が心に漠然と持っていたJamの意味合いをすごく深く
記事に書いて下さってるなーと思いました。
マイケル・ジョーダンは当時私も大ファンでNBA中継にかじり
ついてました。二人の"WMJ"が共演してるSFもいい意味で肩の
力が抜けていると言うか…二人の微笑ましいやり取りが何とも
いえずいいなと思います。マイケル・ジョーダンの様なスーパー
なカリスマ性を持ったバスケ選手は出て来ないでしょうね。
"マイケル・ジャクソン"の様なスーパーなカリスマ性を持った
アーティスト、エンターテイナーが二度と出て来ない様に。
今回久しぶりにコメントさせて頂いてありがとうございました。
次の記事も楽しみにしています。
テト
なっちゃん
つむつむ
けんじ
「JAM」を含め、アルバム「DANGEROUS」を聴くときは、毎回大音量で聴いてます。やはりリズムが強い楽曲群なので、体にズンズンくるような音で聴きたいんですよね。マイケルもスタジオでは、スタッフが耳を塞いでしまうような、大音量で聴くのが好きだったそうですね。気持ち分かるわぁ~(笑)「JAM」に仕掛けられたダブルミーニングの歌詞、納得です。ブックレットでは「集中」と訳されていたので、いまいちピンとこないままこれまで聴き続けていました。この曲に限らず、聴きなれた曲でも、歌詞の本来の意味を知ったり、深読みしながら聴くと、ずいぶん印象も変わりますね。黒人英語というものも知りませんでした。黒人としての誇りを持ったうえで、歌詞として使っていたのですね。その辺り諸々を考えもせず、マイケルを「白人化」などと決め付けてかかっていたマスメディアには憤りを感じずにはいられません。知らなかったというのは、長年ファンを名乗っている僕も同じなのですが、テトさんが正しい知識を発信してくださることに本当に感謝です。まずは、僕たちファンも正しい認識を持たないといけませんよね。
人気の(笑)ブルース御大の記事もありがとうございます。是非これからもどんどん登場させてあげてください。あのシャンシャンというサウンドが、まさかそんなヴィンテージな楽器を使っていたとは。サンプリング音源だとばかり思ってました。こういったレコーディング秘話を知ると、ステージよりもむしろスタジオという空間がマイケルにとっては安住の場所だったのかなと思ったりもします。BAD25のブックレットで観ることができるレコーディング中のマイケルの笑顔はほんとうに心から楽しそうですものね。
「DANGEROUS」繋がりで、長年気になっていることがあります。アルバム「DANGEROUS」プロジェクトには、初めからクインシーは参加する予定ではなかったのでしょうか?また、アルバム完成後に、クインシーに一番に聴いてもらい、「名作だ」とお墨付きをもらったという記述を呼んだのですが、その辺りのこと、ブルースさんの本には記載がありますか?また関連の記事を書かれるときでもいいので、よければ教えてください。毎度、長文失礼しました。
coco
マイケル・ジョーダンが現役の頃は本当に彼の大ファンでした。
当時はNHK BSでバスケ中継をよくやっていたのでブルズ戦は
必ず見てました。ジョーダンのプレーもさることながら当時の
ブルズのヘッド・コーチ、フィル・ジャクソン氏との熱い信頼
関係も印象に残ってますね。フィルコーチは白人なのにジョー
ダンとの絆はとても固く人種の垣根を超えているなと感動した
物です。マイケルの理想がNBAの世界で実際に存在していたんで
すよね。今回は記事と全く関係のないお話しでごめんなさい!!。
暑い日が続くのでこ自愛下さいね。
テト
そうですね、Jamはすごく男前な曲ですね。息苦しくて急かしている感じというのは、マイケルがわざとそういう風に歌っているんでしょうね。そして、それをあのサウンドに軽々乗せちゃうところが、やっぱりすごいというか、この人の表現力の凄さですね。
テト
やっぱり「DANGEROUS」アルバムは爆音で聴きたいですよね!もちろん他のアルバムもなんですけどね。家にヘッドホンがいくつかあるのですが(どれも安物ですよ)、Jamを聴く時はこれ、とか自分の中で決まっていたりします。お腹にズンズン響いてくる感じと、鈴の音と、マイケルの細かいヴォイス・パーカッションがバランス良く聞こえるヘッドホンで聴きたいんですよね・・・。でも時々、耳鳴りがしてマズイなと思う時もありますけど(笑)マイケルの爆音好きは有名ですよね。耳が悪くならないのかな?と思っていたのですがどうなんでしょう。
鈴の音、私もサンプリングだと思っていたのですが、ブルースの記述を読む限りだとそうではないみたいですよね。
「DANGEROUS」アルバムについてですが、クインシーから「名作だ」とお墨付きをもらったというのは、私は初耳でした。クインシーとのタッグ解消の時期については、はっきりとした情報は見当たらないようですね。
でも、テディを共同プロデューサーに推したのがクインシーだったという話がありますし、テディもマイケルから最初に連絡をもらったのは「BAD」制作時だったと言っているので、「DANGEROUS」の時にはクインシーは始めから関わっていなかったんじゃないでしょうか?
マイケルは、「BAD」の後は「DECADE」というベストアルバムを発売するはずだったんですよね。その中で新曲はあくまでも数曲の予定だった。でも作っているうちに曲がどんどん増えてしまって、どれを収録するかマイケルが決められず「DECADE」は発売延期。結局「新作アルバム」のプロジェクトに企画変更されたという、すったもんだの経緯がありますよね。
なので余計にそこら辺がわかりにくいですが・・・・。
ブルース・スウェディンの著書にも、それに関しては書いてなさそうです。分厚い本ですけど、基本的に彼のエンジニアとしてのキャリアについて書かれているので、彼のテクニックが確立された「BAD」以降の内容、特にエピソード的なことについての記述は少ないです。マイケルとクインシーの繋がりに触れている記述も「BAD」までですね。使用機材のこととかについては、その後のアルバムについても出てきますけどね。「Jam」に関してはしっかり書かれていましたが、これは多分ブルース自身がプロデュースに関わっていて思い出深かったので、記述があったのだと思います。
こんな回答しかできずにごめんなさい。
けんじ
クインシーにお墨付きをもらったという話は、「マイケルジャクソン・コンプリート・ワークス」という書籍に記述されていました。著者はジョセフ・ヴォーゲルというジャーナリストで、マイケルの年代ごとのヒストリーと、公式に発表されている全曲について解説や秘話などが書かれてあります。丹念に取材や調査しての内容のようなので、クインシーの件も多分事実だと思われます。事実であるなら嬉しいですね。各曲についての解説やヒストリーは、テトさんにはご存知の事柄ばかりかもしれませんが、内容的にはファンのみなさんにお勧めの一冊ですよ。
テト
あくまでも想像でしか言えませんけど、父親から息子が独立したような、そんな感じかなと私は思っています。マイケルは自立心が強く自身のキャリアをシビアに考える人ですから、遅かれ早かれクインシーから離れていただろうと思うのです。というより私はむしろ、マイケルが10年近くもの間、一人のプロデューサーとずっと仕事をしていたということが凄いなと思います。それってどうなんでしょう。結構なレアケースじゃないですか?しかもマイケルは常に新しさを求める人なのに。さらに二人は全アルバムを世界的にヒットさせたわけですから、よほど相性が良かったんだろし、一緒に仕事をするのが楽しかったんだろうなと思います。コンビ解消は、ただキャリアの為の選択であって、プロフェッショナルなクインシーなら充分理解していたと思いますよ。ご紹介いただいた本、読んだことないです。私はあまり関連書籍を読まない方なので・・・。なんか嫌な気持ちになることが書いてあったらやだな、とか考えちゃうんですよね(笑)でもけんじさんがお勧めしてくださるなら、今度読んでみようかな。
麻衣
テト
麻衣
yuma
リクエストをさせていだだきます
是非当ブログでcant let her get awayという曲を取り扱って頂けないでしょうか。
ウリ坊
お忙しいとわかっていつつ、自分もリクエストを・・・。自分はThe Way You Make Me Feel が大好きなので、是非テトさんに語って頂きたい。もちろん、そのうち、で大丈夫です!
テト
テト