ゾンビ映画、制作はまさかの…シルバー人材センター

染田屋竜太
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大阪府門真市のシルバー人材センターが手がけたゾンビ映画の一場面=門真フィルムコミッション提供
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 大阪府門真市で、市民数百人が出演するゾンビ映画が13日の金曜日に公開される。つくったのは、シルバー人材センター。地元のフィルムコミッションが演技の経験もない市民を即興で撮影。作品には「コロナ禍で落ち込んだ空気を盛り上げたい」という市民の思いが込められている。

 「何でゾンビ映画なん?」。昨年春の門真市シルバー人材センターの理事会でひとりの理事から声があがった。2020年に同センターが40周年を迎えるにあたって、「市民が参加したゾンビ映画をつくろう」と提案が出されていたからだ。

 理事会に先立ち、同センターが相談したNPO法人「門真フィルムコミッション」理事長の奈須崇(なすたかし)さん(47)のアイデアだった。日本で初めてゾンビ映画が公開されたのは1979年にとされ、人材センターと「ほぼ同い年」。それに「ゾンビ役ならセリフや細かい演技なしで多くの人が参加できる」と考えたという。

 グロテスクなイメージもあるゾンビ映画に後ろ向きな声もあるなかで、理事会では「安心してみてもらえるよう、SDGsをテーマにしては」と意見が出た。ジェンダー平等や貧困撲滅といった、国連が掲げる「持続可能な開発目標」のことだ。

 「何のことかすぐに理解できなかった」と奈須さん。でも、実現のためならと頭をひねり、SDGsの柱でもある「誰一人取り残さない」を実現しようと思い立った。撮影に参加した人はみんな出演する「全員映画」と決めた。

 けれど、昨年6月に第1回の撮影として「ゾンビメイク教室」を開くと、参加者は3人だけ。同センターの和多(わだ)幸司朗(こうしろう)・事務局長(62)は「ゾンビへの抵抗でしょうか。スタッフの方が多かった」と笑う。

 「ゾンビ映画に出ない?」「メイクしますよ」。口コミやセンターの広報誌を使って募ると、徐々に参加者が増えた。

 奈須さんが監督、撮影はフィルムコミッションが全面的に担った。参加者はメイクをして、動画で「演技」の勉強。用意されたシナリオはなく、その場で奈須さんの指示で動く。1回20分程度の撮影は計100回を数え、延べ1200人の市民が参加した。

 同市大池町の立和田(たちわだ)美子(よしこ)さん(75)は「おもしろ半分」で第1回の撮影に行った。LINEで自分のゾンビメイクの写真を孫に送ると「(いつもの顔より)こっちの方がいい」と喜ばれた。その後、何度も撮影に足を運び、最後はセリフももらった。最も印象に残っているのは、横になった人の「内臓」に見立てた腹巻きを食べるシーン。「演技経験なんかないけれど、面白かった」。実は夫が大けがをして落ち込んでいた時期でもあった。「映画の撮影が元気をくれた」

 奈須さんが編集し、約50分の「門真市ゾンビ人材センター」ができあがった。子どもでもみられる「全年齢対象」という。6月に公開予定だったが、コロナ禍で延期。時期を探っていたところ、センターの理事から「13日の金曜日にやったらどうか」と提案があり、8月13日に「夏フェス」として上映されることになった。和多さんは「コロナで人が集まれない日が続く。みんなで力を合わせた様子を映画で見てほしい」と話した。

 13日の「シルバー夏フェス」は、門真市末広町の市民文化会館「ルミエールホール」で午後1~8時。映画の上映は午後1時25分と午後7時の2回。入場無料。問い合わせは同センター(06・6905・5911)。(染田屋竜太)

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映画「門真市ゾンビ人材センター」の一場面。センターの会員らがゾンビメイクをして登場する=門真フィルムコミッション提供
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映画「門真市ゾンビ人材センター」の一場面。市民がゾンビメイクをして出演する=門真フィルムコミッション提供
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「ゾンビメイク」をしてもらう映画の参加者たち。演技はその場の指示で即興だったという=門真フィルムコミッション提供
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「ゾンビメイク」で撮影に臨む参加者たち=門真フィルムコミッション提供
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映画の撮影で「ゾンビメイク」でゲートボールをする参加者=門真フィルムコミッション提供
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「ゾンビメイク」で撮影に臨む立和田(たちわだ)美子(よしこ)さん=門真フィルムコミッション提供
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ゾンビの「演技指導」をする門真フィルムコミッションの奈須崇さん(右から2番目)=同コミッション提供
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映画の撮影前、「ゾンビメイク」をする参加者たち=門真フィルムコミッション提供