一世を風靡した名ハード「プレイステーション」の成熟期となる1999年には、ゲーム史に名を残す名作から、多くのユーザーに愛された思い出に残る1本まで、数々のタイトルが登場しました。
『ファイナルファンタジー』シリーズで知られるスクウェア(現 スクウェア・エニックス)も、当時プレイステーションに力を注いでおり、1999年には『聖剣伝説 レジェンド オブ マナ』などの様々なシリーズ最新作を投入。また、新規IPにも意欲的な姿勢を見せ、アクションRPG『デュープリズム』を1999年10月14日に発売しました。
心優しい少年「ルウ」と、わがままな東天王国の王女「ミント」。2人の主人公を据え、それぞれが活躍する全く異なる2本の物語を描いた『デュープリズム』は、そのスタイルでシリアスとコミカルを両立させることに成功。また、それぞれが得意とする戦い方も違っており、アクションの楽しさも幅広く味わえる作品でした。
魅力的な登場人物、キャラクター性が伝わる豊かなモーション、印象深い名シーンの数々など、記憶に残る場面が多い本作は今も多くのユーザーに親しまれており、SNSなどで話題になることも。筆者個人も、思い入れが深い作品の一つです。
魅力溢れる体験を提供した『デュープリズム』も、2019年10月14日で生誕20周年を迎えました! この記念すべきアニバーサリーを祝い、当時本作を手がけた開発陣にインタビューを実施。『デュープリズム』誕生の道のりや当時の思い出などを伺ったほか、『デュープリズム』ファンから届いた生の声を開発陣にお届けしました。その一部始終を、どうぞご覧ください。
◆『デュープリズム』はこうして動き出した!
──まずは、当時どのような立場で『デュープリズム』の開発に当たっていたのか、お訊かせください。
杉本 浩二(以下、杉本)ディレクターとして、最初に企画を立案しました。はじめに“子供向けでカジュアルなフル3Dのアクションゲーム”といった方向性を決めて、「こういうゲームを作りたい」「こんなストーリーで」みたいな話をしながら進めました。あと、プログラマーは自分と小林正樹の2人しかいなかったので、大量のプログラムも書きました。
■杉本 浩二氏
シニアリードエンジニア
代表作:
・クロノ・トリガー
・ゼノギアス
・ファイナルファンタジー X,X-2,零式
・クライシス コア -ファイナルファンタジーVII-
・スクールガールストライカーズ
■小林 正樹氏
リードプログラマー(Luminous Productions)
代表作:
・RADICAL DREAMERS ~盗めない宝石~
・ゼノギアス
・ファイナルファンタジー X,X-2, XV, 零式
・クライシス コア -ファイナルファンタジーVII-
渡辺 大祐(以下、渡辺)自分が開発に加わったのは、そういった形で『デュープリズム』の企画が立ち上がってから半年くらい経った後でした。その頃は、キャラクターの設定や世界観などは、“出来ていたものもあれば、出来ていないものもあり”という感じで、シナリオを書きながら設定を固めていきました。
なので、後から決めたことも結構いっぱいあるんですよ(笑)。でも、後から決めていったからこそよくなったものも色々ありまして。
■渡辺 大祐氏
プランナー
代表作:
・メビウス ファイナルファンタジー
・ファイナルファンタジー X,X-2,XII,XIII,XIII-2,
・ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII
・キングダム ハーツ チェイン オブ メモリーズ
──足元を固めながらの制作だったんですね。そんな『デュープリズム』ですが、まずはどんなきっかけで本作の企画が動き始めたのでしょうか?
杉本当時のスクウェアは大作タイトルを数多く作っていたのですが、会社の方針で「小規模でもチャレンジャブルな作品を」という動きが出てきたんです。その中で「やりたいヤツは手を挙げろ」みたいな話が出て、そんなチャンスがあるならやってやろうと思って飛びつきました。
当時、『ゼノギアス』の開発が終わったばかりだったので、(ちょうど手が空いた)スタッフに声をかけて20人くらい集めました。プレゼンでは実際に動作している試作プログラムを持っていったので、承認されやすかった気がします。
──当時のゲーム制作において、20人の開発チームというのはどれくらいの規模になりますか?
杉本だいぶ小さかったと思います。その頃、小規模プロジェクトがたくさん立ち上がりましたが、20人規模のところはあまりなかったですね。
──当時は多くの作品が販売されましたよね。『デュープリズム』の前の月に『フロントミッションサード』が出て、翌月にはPS版『クロノ・トリガー』と『クロノ・クロス』、その後は更に『パラサイト・イヴ2』と、発売ペースが相当でした。
杉本1999年の末頃は、特に凄かったですね。
──開発チーム20人で3Dアクションゲームを作るのは、すごく大変だったように思いますが、いかがでしたか?
杉本まず、ゼノギアスで3Dゲーム開発のノウハウが蓄積されていたのでその点は有利だったと思います。ただ人数的に、たくさんのデータを作れる自信がなかったので、主人公を2人にして、ストーリーも2本作ることで、データを使い回そう……と考えました。
──ストーリー面でボリュームを増やした、と。
杉本それでなんとかするしかない、と思ってました。若かったので、無謀だったかもしれませんね(笑)。
──そしてボリュームを増やす一環として、ストーリー部分の比重が渡辺さんの肩にかかったわけですね?
杉本(渡辺が加わった頃は)プランナーの島本誠がストーリーの大筋やキャラクター設定を作っていましたが、細部までは完全に固まっていない状態だったので、そこから渡辺君に少しずつ引き継ぐ事になりました。
渡辺僕が入った時は、ルウやドールマスターがもう出来ていて、「ルウはクレアを復活させたいから宝を求めたいんだよ」といった骨格があったんですが……ミントが宝を求める動機はまだ決まっていなかったんです。その状況を打開するべく、分かりやすくキャラを立てる必要があったので、「なぜ、宝を求めるのか……それは、世界征服のためだ!」となりました(笑)。
──確かに分かりやすい(笑)。
渡辺秒で分かる特徴をつけました(笑)。で、皆さんご存じのキャラクターになっていきました。
杉本難題をこなしてくれたと思います。
──ルウとミント、それぞれにとってドールマスターが重要な役割を果たしていますが、ミントとドールマスターの繋がりも後から追加されたものなんですか?
渡辺ルウとドールマスターの因縁は決まっていましたが、ミントとの関係は当初まっさらでしたね。でも、何かないと盛り上がらないので、「じゃあ、故郷が一緒ということにしよう」という話になり、そこから東天王国が生まれ、ミントが王女という設定もその時に生まれました。
こうして、ミントがトレジャーハンターから世界征服を目論む王女となりましたが、2つの物語を別々の雰囲気で作っていこうとなった時に、2人の主人公の間に立つキーキャラクターとして最後に追加されたのがミントの妹・マヤでした。
──今度は、マヤが重要な役目に。
渡辺マヤは、ルウ編で見せる顔と、ミント編で見せる顔が全然違います。でもそれは二重人格とかではなく、人って相手によって雰囲気変わりますよね。家族の前と職場では、やはり違いますし。そんな感じで、キャラクターが相手や状況によって違った一面を見せてくれるゲームにしていこうとなりました。
──確かにマヤは、ルウ編とミント編で、印象が全然変わります。
杉本マヤが一番美味しいキャラですよね(笑)。渡辺君がマヤを作ってくれたことで、ストーリーが綺麗にまとまりました。
──他の方々も含めてですが、杉本さんがいたから『デュープリズム』が始まり、渡辺さんのおかげでキャラクターとストーリーが結びついていったんですね。
◆動きが臨場感を醸し出す! 衣装の“ひらひら”は全て手作業
──ちょっと個人的な体験の話になるんですが、『デュープリズム』のNPCって、操作キャラに視線を送るじゃないですか。キャラを動かしても、首を動かして視線を追従させて。自分があの動きを初めて味わったのが『デュープリズム』で、当時もの凄く驚きました。
杉本技術的に表現出来ることは全部やろう、の精神で作っていました。首は元々、計算で角度を変えられるようになっていたので、思いつきで入れたんですが、驚いてくれて嬉しいです。
──大変刺激的な体験でした。
杉本小さいから分かりにくいかもしれませんが、黒目と白目のテクスチャを合成して、ちゃんと視線が動くようにしてあるんです。キャラクターが生きていると感じるかどうかは、そういった部分に出てくると思いまして。視線や首、腰など、全部計算で動かせるように作りました。
──生きてるといえば、キャラ本体と服装だけでなく、小物とか装飾品も凝っていますよね。
杉本当時、他のゲームでは手ぶらのキャラも多かったので、「我々は小物とか装備品もちゃんと持たせてディティールで差別化しよう」という話をしましたね。プログラムの高速化も進んでいたし、他のゲームよりポリゴン出せるから! って。
渡辺そうそう! ルウを初めて見たとき、足回りとか旅の装備がしっかりしてたので、「あ、コイツは慎重派だな」とか思いましたよ。勢いでつっこむタイプじゃないぞ、と。
──モデルやモーションを見て、キャラクターが育っていくような面がありましたか?
渡辺ありますね。特にモーションに教えてもらった部分は大きいですね。
杉本『デュープリズム』のチームを作る時、最初に声をかけたのが神田毅というモーションデザイナーです。『ゼノギアス』で彼と仕事をしていて、彼の作るモーションを最前面に出したゲームを作りたいと思っていたんです。そのくらい、当時としてはずば抜けた技術を持った方でした。
『デュープリズム』でも主人公2人をはじめ、たくさんのキャラクターの動きを担当してもらいました。彼がデータを作るだけで、クオリティがどんどん上がっていくのが目に見えて分かるんですよ。
──それから、今回のインタビューに先駆け、読者の方々からコメントをたくさんいただいたのですが……。
杉本これですか。いっぱいありますね、嬉しいです!
──モーションを推す声もかなりいただきました。「ミントの地団駄がいい!」など(笑)。
杉本地団駄とか、当時あの動きを思いつけて作れた人が他にどれだけいただろうかって考えるくらい斬新でした。本当にずば抜けた方でしたね。
あとは、(衣装を)ひらひらさせるのも彼のアイディアでした。最初は計算でやろうと思ってたんですが、プログラムを準備する前に彼がすごく上手く動かしてくれたので、「ひらひらは安心して彼に任せよう」と。
──では、あれは手動ということですか?
杉本はい、全部手動です。『デュープリズム』以降、ひらひらさせるモーションが少し流行った気がします。他社さんも、手でつけていたみたいですね。
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