変わっても変わらないもの
アンナずっとジュリアスに容赦なしない。
それを知りつつも、ジュリアスもあんなの前でじゃれつくのをやめない。
ラウゼス陛下は多忙なので余り訪問なさることはないし、わたくしも基本離宮から出ません。ですが、お手紙のやり取りは割と頻繁です。
義父と義娘という関係は、最初はぎくしゃくしていましたが、実はそこそこ良好です。
王族というくくりは嫌いですが、ラウゼス陛下個人は好きなのよね。
ですが、義母? 継母? である二妃殿下はどうも苦手ですわ。捕食者の気配がする……。
しかも、あの二人ルーカス殿下とレオルド殿下にそれぞれ似ているの。いや、逆か……ソースはメザーリン妃殿下とオフィール妃殿下なんですけど、もうちょっとラウゼス陛下のお優しい雰囲気とか、包容力のある親しみとか、あの二人に出なかったのかしら。
エルメディア殿下はとりあえずお肉アーマー? 天然肉襦袢を脱いでからにして欲しいですわ。お話はそこからです。肉弾タックルの悪夢が……。
とりあえず、ラウゼス陛下以外との歩み寄りはまだ遠そうです。
王子殿下らについては、わたくしより周りが許していない感が強い。特に第一王子のほう。それもあってか、ルーカス殿下は、貴賓牢をまだ出ていないのです。
自主的に籠っている気配さえすると、もっぱらの噂。
メザーリン妃殿下は、ルーカス殿下とわたくしを近づけたそうなので、有難いですわ。でも、メザーリン妃殿下は思い通りにいかず、一層ヒステリックになっているそうです。
レオルド殿下は、あっちはあっちで最近オフィール妃殿下との関係が悪化しているそう。
反抗期かしら?
サンディス王家はギスギスしていますわね。
ラティッチェが恋しいですわ。
ラティお義母様はお手紙では元気そうにしていらっしゃるけど、無理をしていないか心配です。
今日の公務も切りよく終え、自分の時間を楽しむことにします。
いいのかなぁと思いつつも、仕事させるものかというアンナとベラの無言の圧をニッコリな笑顔から感じます。
自由時間はデッサンです。仕事でありませんよ! 楽しんでいますから!
クロッキー帳にさらさらと鉛筆を走らせ、更に色鉛筆で彩を加える。
スノーエナガを書くのは初めてですが、素材そのまま、存在自体がすでに可愛い。デフォルメがかかっている丸っとしたフォルムとちょっと長い尾。
ちょっとメルヘンすぎるかしら。
雌雄でそれぞれ可愛い系と綺麗系だから、番で描くのもいいかもしれない。
ジュリアスは、わたくしの好きに決めていいと言ったけれどどうしても可愛いデザインになってしまう。
時々ジュリアスがやってきたけど「出来上がりを楽しみにしていますので」と微笑むのみで、露骨に覗き込んできたりはしなかった。
横から口を挟む気はないようですわ。信用されているのですから、その期待に応えたい。意気込んで取り掛かります。
急かす気配もなく、お陰で色々じっくりと考えることができましたわ。
わたくしがクロッキー帳に向き合った甲斐もあり、数枚の候補が出来上がった。
フラン家の家紋候補が出来上がったので、ジュリアスをヴァユの離宮へ呼んだ。
わたくしの事業もかなり軌道に乗っているんですよね。その推進も一応は確認します。
ラティッチェ公爵家と王太女のネームバリューだけでなく、その裏にフォルトゥナ公爵家のバックアップ。
早々たる顔ぶれに、ジュリアスの辣腕にして敏腕が加われば、怖いものなしですわ。
大器晩成と思いきや、人の動くところでは当然お金も動き、商売も動く。
貧困街と呼ばれていた犯罪者の巣窟だった場所は、今では大通り沿いより家賃も安く、出店しやすいと人が集まってきているそうです。
想定以上に区画整理や建物の増築が急務で嬉しい悲鳴が上がっているとのこと。
いいんでしょうか? こんなにサクサク進んで……。
そう思っていましたが、楽しそうなジュリアスを見る限りまだまだ序の口のようです。
報告する顔は恵比須顔じゃなくて、たくらみ顔でした。
わたくしは事実上の放棄地域を「王都のみなさんに役立ちつつも、わたくしにもメリットある所にできればいいなー」なんて思っていましたが、ジュリアスには更なる見通しがある模様。
「さて、こちらは問題もない事ですしお茶にしましょう」
お仕事の話もそこそこに、休憩となる。
当たり前のようにティーサーブを始めるジュリアスの横顔をのぞき見する。ちょっとそわそわしちゃう。
ジュリアスはと言うと、目が合うと上機嫌に含みのある笑顔を向けられるだけだ。
忙しい合間を縫って会いに来てくれるジュリアス。わたくしのところに来ると、お茶の時間だと態々自分で淹れてくれる。
公爵子息にそんなことさせていいのかしら? わたくしよりスケジュールが詰まってそうなのに。
「おや、アルベル様は私の紅茶ではなく、他の侍女の紅茶が良いと?」
「いえ、ジュリアスの紅茶が一番美味しいと思いますわ」
わたくしが断言すると、満足そうに頷くジュリアス。
ハーブティーはアンナのスペシャルブレンド一択ですが、紅茶はジュリアスですわ。
しかも、どこからか新しい茶葉を開拓してくるのですから、彼は現状に甘んじないのが分かります。日々精進、日進月歩なのです。
「同じ茶器、同じ紅茶、同じお水。それなのに何故ジュリアスの淹れるお茶は、こんなに美味しいのかしら?」
「お褒めに預かり光栄です。本日の茶菓子は三種のパウンドケーキです。胡桃と林檎、チョコレート、レモンチーズとなっております」
手慣れた様子で給仕をするジュリアスは、わたくしの前に並べると自分も隣に座る。
そこだけは、今までとは違う。
わたくしが『お嬢様』だった時は、立って控えていた。
「刺繍の方は順調ですか?」
「ええ、ラティッチェの家紋は慣れているもの。ドミトリアスも割とシンプルですし。そのその、フラン家の家紋も図案もいくつか候補が出来上がりましたの」
「知っていますよ。そろそろだと思っていました」
伸びたジュリアスの手が、わたくしの髪を摘まんで、梳いてと遊んでいます。
そのうちの一房に口づけたジュリアスは、後ろから振り下ろされた銀の残像を素早く避けます。わたくし、絶対避けられない……。
アンナが舌打ちをしたそうな顔でジュリアスを見下ろしていました。
読んでいただきありがとうございましたー!
ブクマ、評価、コメント、ありがとうございます!
お盆だけど更新です! 雨がすごくて憂鬱ですね……涼しいのはありがたいですが。
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