味噌汁の配膳 東西で違い 商人気質 ルール変える(もっと関西)
とことんサーチ
「食い倒れ」と呼ばれ食文化が豊かな大阪。定食屋や居酒屋の数も多い。夏休みで東京に帰省し、大阪に戻ってなじみのお店で頼んだ日替わり定食に違和感を覚えた。「味噌汁の配膳の位置が東京と違う!」。東京では右手前(ご飯の右隣)に置くことが多いが、大阪では左奥(ご飯の上)に配膳されていたのだ。なぜ東西で違うのだろうか。
大阪市大正区にある定食屋「米やのめしや」を訪ねてみた。トンカツ定食やてんぷら定食……。同店では約20種類の定食を扱う。注意して見ていると、やはり味噌汁は「左奥」にある。創業73年の「赤丸食堂」(大阪市港区)でも40種類以上ある全ての定食で味噌汁は左奥に置いている。
「米やのめしや」店長の森田拓史さん(69)は「主菜が手前の方が食べやすい。あえて味噌汁は左奥にしている」と話す。妻の由美さん(69)も「本来は味噌汁を右手前に置くはずだが、食べやすいように置き換えている」と胸をはる。
情報サイト「Jタウンネット」は2018年1~2月に都道府県別に味噌汁の位置についてアンケートを実施した。大阪府、京都府、兵庫県の3府県では「左奥」が70%以上にのぼり、関西から中国地方にかけて左奥派が多数を占めた。
一方、東京都は「右手前」が38.5%、埼玉県も41.9%と多数派は右手前だった。右手前派が85.7%と高水準の群馬県は北部で大豆が多く栽培されている。味噌を好む県民性といい、味噌汁の格が高いため手前に置く人が多いようだ。
「食い倒れ」の中心地、大阪・ミナミの道頓堀周辺で大阪府民に聞いてみた。「左手でご飯を持って右手で箸を持つ。右手前に汁物があると手があたってこぼれる」と大阪市の会社員、前嶋健輔さん(39)は力説する。堺市の男子大学生(20)も「自宅の食事も左奥だった」という。質問した15人の大半が味噌汁の位置は「左奥」と答えた。
大阪市健康局によると、和食の基本「一汁三菜」では手前左にご飯、右に汁物、主菜は汁物の向こう側で副菜がご飯の向こう側という配膳が正式とされる。伝統礼法の一つで左を上位、右を下位とする左上位に基づき米より汁物を右に置くようになったという。ではなぜ関西では変わったのか。
「関西人の商人気質がマナーを崩したのかもしれない」と話すのは近畿大の冨田圭子准教授(食育)。「関西の飲食店はメーンの主菜のボリューム感を競いがち。主菜は手前に置くと見栄えが良い。おいしく見せようという商人的考えを反映している」と分析する。
大阪は味噌の消費量も少ない。総務省の家計調査(2人以上世帯)によると15~17年の味噌の消費量の平均は大阪市が3217グラムと全国52都市の中で最少だった。全国平均の5317グラムと比べても4割も少ない。
味噌の製造・販売を手掛ける村田味噌(大阪市)によると、大阪や京都では商業の発達に伴い食べやすい茶漬けなどが好まれ、熱くて飲みにくい汁物を避ける傾向にあったという。これが現代に受け継がれている。つまり、商人的な気質とそこから派生した合理主義やサービス精神が、食事における味噌汁の格を下げたと言えるかもしれない。
ただ、他府県に本拠を置き関西で展開する定食屋「やよい軒」を運営するプレナスと「大戸屋」を運営する大戸屋ホールディングスに聞くと、両社とも「配膳に地域差はなく味噌汁は右手前」とのこと。こうしたチェーン店の展開は微妙な影響を与えそうだ。100年後、定食の味噌汁はどの位置にあるのだろうか。
(大阪社会部 加藤彰介)
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