2021/06/15(火) 18:00 0 17
前回、酔いに任せた過激な大放談で読者たちをくぎ付けにさせた中川誠一郎。それでも、本人はまだまだ話したいことがあったようで酒の量は増えるばかり。連絡を取ると、やっぱりステイホームで晩酌中だった。聞き手・塩次洋太(大阪スポーツ)
ーー前回はありがとうございました。今は何をしていましたか?
全プロ競輪のあと腰がピリっとしたので大事を取って一本、休みまして。あまりにもヒマだったから、アジを捌いて刺身と寿司を作っていました。子供たちが毒味をして太鼓判も出ました!いつもながら晩酌しています、はい。
ーー前回のインタビューが好評で、様々な感想が編集部に寄せられました。ご自身の周りでは何か反響はありましたか?
選手や関係者の人たちから「面白かった」と言ってもらえましたけど、中には「触るものみなディスりすぎ」とか「あんなインタビューない。終始ふざけている」とか、なかなか刺激的な意見もありました。
あとは、競輪を知らない地元の同級生から久しぶりに連絡がきて「お前の人間性がよくでている」って。あぁ、そうなんだって感じです。別にふざけているわけでもなく、ありのままなんですけどね。
ーー中川さんはどういった層の方が読んで下さったとお考えでしょうか。
まずは自分を応援してくれる人は見るでしょう。それに競輪が好きな人ならオレに興味がなくても、何だろうって見てくれるんじゃないですか。あとは逆にアンチの人ですね。
ーーアンチとは、中川さんに抵抗がある人ってことでしょうか?
アンチってとらえ方にもいろいろとあって、本当に顔も見たくないってぐらいオレを嫌いな人は見ないでしょうね。でも、ヤジるネタを探しているような、そういうアンチの人は見ると思います。
だって、オレを競輪場でヤジらないといけないじゃないですか。そのためには勉強してネタを仕込まないといけない。だから中野さんも、あれこれ言うためにはどうしてもオレのレースを見なければいけないんです(笑)。
ーーしれっと「中野さん」という名前が出ましたが、あの中野浩一さんのことですか?
そうです。中野さんはオレのアンチの中でも代表格の方ですから(笑)。コラムや読み物であれだけ厳しく言うためには、オレのことをチェックしなきゃいけないのですよ。
ーーこれは掲載しても大丈夫な話なのですか?
かなり心に刺さるかわいがりですよ、あれ。オレ、かわいがられすぎている。あれだけ書かれているのだから、ちょっとぐらい許してくれますよ。「おいコラ、誠一郎!」って。もう、長年のお約束みたいなものです(笑)。
ーー中野さんとの出会いは?
24、5歳の時に中野さんに誘っていただいてナショナルチームに入ったんです。伏見俊昭さん、太田真一さん、あとはSSイレブンとかの長塚智広さんらが全盛期のとき。世界選に行くと、いつもお酒を飲ませてもらい色んなところに連れて行ってくれて。オレは九州の後輩なので特に目をかけて頂いていました。
ーー中川さんは「ヤジ」に対して何やら思うところがあるようですね。
オレの地元の熊本ってお客さんの熱気がすごくてヤジも激しいんです。デビューしたころなんか人格がズタズタになるほどで。そこでわかったことがありました。
ヤジる人たちは勉強しなきゃいけないんですよ。センスのいいヤジ力を磨くといいますか。単純に「帰れ」とか「アホ」とか言われても、また言っているなって程度でス〜っと耳から抜けます。つまり、心に響かない。
ーーなかなか理解ができないのですが、選手は言われて嫌でしょう。
そりゃ嫌ですよ。オレもデビューして最初の5年ぐらいはショックで、気にしたり、ムカついたり、睨んだりってそんな時代もありました。だけど慣れてきたら、どちらかというと評論家側になっちゃいました。
ーー評論家側とはどういうことでしょう?
「今日のはセンスないな」とか「あ、それ面白いね」とか。何でこんなうまいことが言えるんだって人がたまにいるんです。もちろん反応しませんが、レース後に引き揚げるときに採点してしまい、おかしくて体がプルプルしてしまう時があります。
ーーヤジられても仕方がない競走スタイルを20年以上続けているからこその耐性ですね。
若い選手がヤジにヘコんだり、過剰に反応することがあるけど、それだけ真剣なんじゃないですか。競輪に真摯に向き合っているから本気で怒れるのだと思う。オレはもう客観的になりすぎていて何か違う。よくメンタルが強いとか言われますが、自我への執着のない無の境地みたいなものです。
ーーそれでも我慢できないこととかもあるでしょう。
ある競輪場でオレへのヤジがあまりにもひどすぎて、別の選手が「集中して走れない。あのファンを注意しないとダメでしょう」って選手管理に怒鳴り込んだことがあって。そのあと、なぜかオレが管理から怒られるという完全なもらい事故がありました。それぐらいですね、あのときほど理不尽さを感じたことはなかった(笑)。
ーー前回のインタビューでは仲間の選手たちとの思い出話も好評でした。
ああ、そうですか。たしかに荒井(崇博)さんなんかはメディア嫌いなところがあって、なかなか情報が表に出てこないですよね。(井上)昌己もあまりさらけ出すタイプじゃないし。昌己は荒井さんとはまた違った暴君系。酒を飲むと後輩にはオラオラで、いかにも西九州の選手っぽい熱い男です。
ーー九州軍団はみんな個性的で、エピソードは過激なものが多いと聞きます。
これはですね、話せないことや墓場まで持って行かなければいけないこととか、危ない話が多すぎる(笑)。いらぬ暴露ばかりしていると「お前はダン池田か?」とか言われてしまうのでなかなか…。
ーーそれでも、聞きたいという読者は多いと思います。
まあ、ご要望があれば、だいぶオブラートに包んでにはなりますが、また今度にでも。ですけど、掲載できるのはネットケイリンかスポンサーロゴを付けている東スポグループしかないんじゃないですか。
ーー次のインタビューの時にでも、くわしくお願いします。危ない流れになりそうなので話題を変えましょう。5月は京王閣GI「日本選手権競輪」、久留米F1「ジャパンカップ矢村正杯争奪戦」、広島「全プロ記念競輪」の3本を走りました。
ダービーは、まあ見てもらった通りの感じでしたね。3走目は(松岡)貴久の前で先行しました。アイツ、武雄記念で失格していてS級1班の点が足りないとか言うから駆けたんです。
ーー先行して上がりタイム「11秒5」で2着。松岡選手とのワンツーが決まりましたね。GI戦線で先行しても勝負になるというのはすごいです。
同級生の(井上)昌己からは「おうおう、まだやれるなぁ」って褒めてもらいました。やれないことはないけど、オレはもう褒めて伸びる年齢でもないし、静かに競輪余生を送りたいんですよ。
ーー最終日まで走れず、まさかの途中帰郷となりましたね。
あの日は帰れる飛行機がなかったから東京で後泊したんです。緊急事態宣言の最中で飲食店もやっていないから、ホテルで缶ビールを飲んでいたのですが、途中帰郷となったこともあって急にわびしさが込み上げてきて。
それで、息抜きしたくて近くの公園に行って、ひとりでひっそりとビールを飲んでいたんです。そうしたら、20時に職員の人が来て「もう閉めます、出て行ってください」って。飲みかけのビールを片手に、その日2回目の強制帰郷となりました。
ーー久留米FIは「熊本開催」でした。地元戦に気合が入っていたのではないですか。
久留米は何がショックだったかというと、決勝でガルベス(上田尭弥)が石原(颯)君に力負けしたってとこで。ガル泣いていましたもん。ローラー場で20分ぐらい落ち込んでいた。オレを連れていて行けなかったこと、それに加えて力負け。ショックがダブルで押し寄せてきたみたい。「悔しいけど、そういう気持ちがあるのならもっと強くなれるけん、大丈夫よ」って声をかけるしかなかった。
ーー上田選手のようなタイプはあまり熊本では見かけない感じがします。
そうですね。たしかに、(松岡)貴久や松ちゃん(松川高大)は絶対に泣かない。ガルはああ見えて、真面目というか責任感を持っている珍しいタイプ。若手とかあまり深く考えていない子が多い感じがするけど、ガルは後ろに人を付けた責任を感じて走れる。何て言えばいいのかな……そう、「近畿チック」だ。そんな雰囲気があります。
ノビノビと走る中に信念があるというか。だから、そういう事故が起きた時に自分を振り返られる。だけど、たまにある緊張感だからまだ持ちこたえているのかな。九州特有のノビノビ感があるから冷静に返れるだけで、それが毎回だと心が折れてしまうかもしれませんね。
ーー「近畿チック」という話がでました。中川さんがもし他地区の選手だったら、どんなタイプの選手になっていたと思いますか?
どうでしょう…。意外と脚があったから前を走れるし、大事なところで発進できる。形をつくれるので先輩たちに認めてもらいつつ、間隙を縫ってタイトルを一本ぐらい取れたかもしれない。自力もありつつ引くところは引ける選手ですね。やっぱり形をつくれるのは大事ですから。どこの地区にいても、それなりに生き残っていたと思います。なんちゅう質問ですか、これは。
ーー広島では話題性あるスーパールーキー、山口拳矢と初対戦でしたね。
(山口)幸二さんと顔が似すぎていて、かなり違和感がありました。まぁ、親子だから当然ですけど。どれだけヤンチャかと思っていたら、ものすごく礼儀の正しいいい子でした。あれだけの脚も雰囲気もあるので間違いなくスター候補。これぐらい褒めておけば、父上から飛騨牛でも送られてくるでしょう(笑)。ただ、気になったことがあったからレース後に少しだけ話しました。
ーー何があったのでしょう、気になります。
いや、そんな大した話ではないですよ。周回中に(渡邉)一成の後ろにこだわっていたので、そんなにこだわる位置じゃないよと。桑原(大志)さんがもう内にいて、外から松ちゃん(松川高大)が追い上げても引かなかったから1周ぐらい3車で併走していたんですよ(笑)。若さゆえの危うさの部分です。だけど、若いときは根拠のない無敵感があるし、勝負の世界ならそのぐらいでもいいのか、とも思いましたね。
ーー今月17日から岸和田競輪場で「第72回高松宮記念杯競輪」が行われます。中川さんは2019年の「第70回大会」を制しています。その時の話を聞かせてください。
もう、カビの生えたような古い話ですね(笑)。同じ岸和田でした。ワッキー(脇本雄太)の番手を回って突き抜けたやつ。あの開催はワッキーとずっと縁があって、3走同じレースだったんです。初日特選はワッキーの3番手。単騎と思っていたら、ワッキーのラインが2車だったので「そこしかないならしょうがない」って上から目線で回った。準決は敵で戦ったらワッキーの番手が離れてオレが追走するかたちになりました。
ーー脇本選手とはナショナルチーム時代から交流があり普段から仲がいいですよね。競輪でラインを組むことはこれまであったのですか?
連係は意外と多くて、番手を回ったときはほとんどオレが差していますね。ワッキーには実戦では離れたこともなくて、どちらかというと追走しやすいんです。
ーー脇本選手の踏み出しに離れる選手を多く見てきましたが、なかなか言えないですよね。
オレはナショナルチームで一緒に練習していたから、伸びていく感じがわかっていたので苦しくなかった。逆に新田(祐大)や(渡邉)一成の方が追走は難しいです。
ーーその辺をもっとわかりやすく教えてください。
スピードの上がり方がワッキーと新田、一成は違う。新田らは「ドンッ」と一気にトップスピードが上がるけど、ワッキーは徐々に加速する。1歩目はいいけど、加速する角度に思った以上に伸びがあるから離れる選手が多い。オレは1、2歩目の緩やかなところからグンといくワッキー側の脚質だから対応が効くんですね。練習では離れたことがあるけど、それは当時アイツのダッシュ力が今ほどなかったから。突っかかってしまったところで踏まれて離れてしまった。
ーー中川さんのダッシュ力を誰しもが持っているわけではないでしょう。脇本選手に続くことは他の選手からすると至難の業に見えます。
そんなことはないです。最初のうちは(三谷)竜生らを除いて、番手選手がことごとくワッキーに離れるところを見てきたけど、段々と経験していくうちに修正していて、今では離れる人は少なくなっています。東口(善朋)なんかがそう。脚質さえ分かれば、S級である程度脚のある人なら付いていける。
ーーいろいろ番手を回る選手がいますが、ここで東口選手ですか?
東口は同期、同級生なんです。何年か前は〝冬の時代〟があったけど、乗り越えてワンステップ成長した。最初はそんなに脚がなかったのに地道にやって、ちょっとずつ上がってきてGIを取るか取らないかの位置まできたのがすごい。なんか、モロ上から目線ですけど(笑)。
だから、去年なんか本気で応援していました。寛仁親王牌の準決はワッキーに付いて行ったし、決勝もハコだったでしょ。決勝の前にはオレの(SS班の)赤パンツを触って「これを履きたいな〜」って言っていて。「履けるよ。ワッキーに付いて行けばあるよ、頑張れ!」って励ましていました。だけど、まあ(SS班の)パンツを履けないところが、また東口なんです(笑)。
ーー結局、「触るもの皆、ディスって」いるではないですか。
いやいや、これはディスっているのではなくて、同期へのゲキです。アイツとはけっこう話をするし、オレは嫌いじゃないんで。あ、「オレは」とか別にいらなかったですね(笑)。
高松宮杯の話はこんな感じですね。今年も頑張ってきます。子供と風呂に入らないといけないのでこの辺でで。
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