先週号で報じた開会式“崩壊”の内幕。しかし、問題はそれだけではなかった。続々と届く、組織委員会や電通の内実を訴える内部告発。そして、来る閉会式の舞台でも――。一体、誰のため、何のためのセレモニーだったのか。
〈第1回のアテネ・オリンピックに綱引きがあった。〇か╳か?〉
新国立競技場のフィールドに〇と╳のエリアが設けられ、オリンピック選手たちがわらわらと、正解だと思うエリアに移動する。観客やVIPは、表が〇、裏が╳の紙を掲げて解答。お茶の間の視聴者もスマホでクイズに参加できる仕組みだ。
問題は5問で、全て答えは〇。最後に5つ目の解答が発表された時、5つの〇が重なり、五輪のシンボルマークを形作っていく。
これは、小誌が入手した〈TOKYO2020 OLYMPIC GAMES CLOSING CEREMONY PLAN〉と題した文書。そこに描かれている閉会式の演出プランだ。全97頁、昨年10月27日付で小池百合子都知事へのプレゼン用にまとめられた“公式資料”である。
作成者は、電通出身のCMクリエイター・佐々木宏氏。昨年5月に演出振付家・MIKIKO氏を開閉会式の演出チームから“排除”し、代わりに自らが演出責任者の椅子に座った人物だ。
実は、〇╳クイズの参加者は選手や視聴者だけではない。資料では、以下のように明記されている。〈選手はもちろん、観客も、テレビの前の視聴者も、VIPも天皇陛下も参加する〉
8月8日に迫った東京五輪閉会式。その舞台で、天皇も〇╳クイズに参加されるという「衝撃計画」が進行していたのだ――。
◇
たゆまぬ努力で五輪の舞台に辿り着いたアスリートたちを祝福する開会式。そして五輪の舞台での彼らの奮闘を称える閉会式。最高の演出を目指すために大勢のクリエイターやパフォーマーの才能が結集し、合わせて165億円に及ぶ予算も投じられてきた。
だが、相次ぐ責任者の交代や解任など迷走に迷走を重ねたのは、小誌が報じてきた通りだ。先週号では11冊の台本を基に、開会式が“崩壊”していく過程を詳報した。
昨年4月の時点で、MIKIKO氏のチームが完成させていた“幻の企画案”。11冊の台本には、精魂込めたその企画案が佐々木氏によって、無残に切り刻まれていく経緯が克明に記録されていた。
MIKIKO氏時代を知るスタッフが振り返る。
「制作側の意図を無視する形で“美味しい”シーンを切り貼りする佐々木氏のやり方に、彼女は強いショックを受けていました。開会式本番で賞賛を浴びたドローンパフォーマンスですら、MIKIKO体制のテクニカルチームが苦労して作り上げた演出案の“パクリ”だった。彼女たちには一言の断りもなく流用したものでした」
僅か6時間で2曲を納品した
しかし――。
開会式のために身を削ったクリエイターを傷つけ、蔑ろにするような対応は、MIKIKOチームだけに起こった出来事ではない。
今回の“犠牲者”もまた、女性だった。
事情を知る開会式関係者が声を潜める。
「実は本番前夜の7月22日、開会式のBGMが2曲、急きょ差し替えになりました。この時、僅か数時間で新しい曲を作り、本番に間に合わせたのが、女性作曲家の関向(せきむかい)弥生氏。しかし、彼女の名前は表には伏せられているのです」
一体、どういうことか。
関向氏は28歳の若手作曲家だ。アニメ『ヲタクに恋は難しい』などの音楽に携わるほか、石丸幹二や荻野目洋子、中島美嘉などのオーケストラコンサートの編曲を手掛けるなど多彩な才能を発揮している。
事の発端は22日午前、ショーディレクターとして演出を統括していた小林賢太郎氏が、過去にホロコーストを揶揄したコントを演じていたとして解任されたことだった。組織委員会は「(演出内容に)小林氏が具体的に1人で演出を手掛けている個別の部分は無かった」とする声明を発表。開会式を予定通り実施する方針を明らかにした。
「しかし、内部では“重大な問題”が浮上していました」(同前)
開会式で2カ所登場した、お笑い芸人のなだぎ武らがテレビクルーに扮したパフォーマンス。この場面で流れる曲が2曲とも、08年の小林氏が主演・脚本・演出まで全て1人で手掛けた公演のために書き下ろされたものだったのだ。
「少しでも小林氏のカラーを薄めるため、急きょ該当部分の曲を差し替えることになりました。ところが作曲担当として公式に名を連ねていた面々は皆、作曲を引き受けなかった。そこで、パラリンピックのセレモニーに関わっていた関向氏に白羽の矢が立ったのです」(同前)
7月22日夜9時。開会式の音楽制作スタッフが、関向氏の電話を鳴らした。
「彼の曲はダメだ。もう使えない。明日の開会式の曲を作ってもらえないか」
それが“事件”の始まりだった。
ただ、作曲すればいいというものではない。小林氏が演出したなだぎ武らのパフォーマンス内容は決まっているため、彼らの動きに合わせたリズムや音色に仕立てる必要もあった。
それでも突然の依頼から僅か6時間後、関向氏は約30秒の曲を2曲、怒濤のスピードで完成させ、翌日の午前3時に納品。彼女の奮闘もあって、開会式は滞りなく行われたのだった。
小誌は独自に、7月21日に行われたリハーサルの映像を確認。確かにそこで使用された曲は、23日の本番で流れたものとは異なり、直前で曲の差し替えがあったことが分かる。
では、なぜ組織委は、小林氏の解任という最大のピンチを救った関向氏の存在を明かしていないのか。取材を進めていくと、家族の一人が重い口を開いた。
真っ赤な表紙に黄金の文字で
「弥生は、五輪の開会式という晴れ舞台で自分の曲が流れたことに、感慨深げな様子でした。もっとこだわって作りたいという気持ちもあったようですが、限られた時間で最大限の仕事ができたことには満足していた。でも、スタッフの方に『本番が終わったので、SNSで発信しますね』と言ったら『それはダメだ。名前は出せない』と止められたそうなのです」
この家族に、関向氏はポツリと呟いたという。
「私の名前が出ないのは、悲しい……」
前出の開会式関係者が明かす。
「組織委は開閉会式の参加者全員に、情報発信についての〈基本的な考え方〉という資料を配付しています。そこでは、営利目的の宣伝行為などが禁じられていますが、個人の経歴や実績の一部として記載するのは問題がないとしている。実際、出演者や音楽制作に関わった人でSNSで発信している人もいます。しかし、彼女の場合は事情が違う。組織委が本番前日に『予定通り実施する』と断言した以上、小林氏の曲を別の曲に差し替えたのが明らかになること自体がマズかったのでしょう。それで、関向氏に『名前を出すな』と“箝口令”を敷いたのです」
小林氏の舞台に使われていたとして差し替えになった曲を作曲したのは、開会式の作曲担当でもあるチェリストの徳澤青弦氏だ。
その徳澤氏に尋ねた。
――あなたが作った曲が差し替えになった?
「守秘義務があって答えることができません」
――組織委に止められている?
「内部情報を公開しないという誓約書を書いているので……」
当の関向氏は何を思うのか。本人を電話で直撃した。
――五輪の開会式の曲を作った?
「それは……事実です。でも……それ以上は、私からはお話しできません」
最高の演出を目指したはずの舞台で、再び繰り返されていたクリエイターの“使い捨て”。なぜこのような事態が相次ぐのか。振り返れば、開会式からMIKIKO氏が“排除”されていく背景には、ある巨大企業の存在があった。
大手広告代理店・電通だ。
「彼女を追い出し、入社同期の佐々木氏を演出責任者の座に据えた“黒幕”は、電通で五輪事業を取り仕切る代表取締役の髙田佳夫氏でした。組織委前会長の森喜朗氏と太いパイプを持つ髙田氏にとって、市川海老蔵の起用など森氏の要望を受け入れないMIKIKO氏は扱いづらい存在だった。演出の中身より電通の利益を考えた時、自身と近い佐々木氏の方が望ましい――そこで髙田氏は昨年5月、演出責任者の交代に踏み切ったのです」(電通関係者)
蚊帳の外に置かれたMIKIKO氏に対し、これまで協力し合っていた電通や関連会社の担当者らは、彼女が求めるまで状況説明をしようとはしなかった。結局、昨年11月にMIKIKO氏が辞任届を出すまでチームのメンバー約500人は丸ごと放置されたのだ。
「彼らにとっては、佐々木体制のもとで開会式を作るのが自分たちの仕事。“排除”された人たちは眼中にないと言わんばかりの対応でした」(同前)
電通は、14年4月に組織委から「マーケティング専任代理店」に指名されている。小誌は今回、その時期に配付された社内文書を入手した。手帳のような形状の冊子で、真っ赤な表紙に黄金の文字で刻まれるのは、〈Business Direction Book〉。奥付には〈貴職限〉と記され、外部への流出を禁じている。
冒頭では、こう高らかに宣言されていた。
〈2020東京オリンピック・パラリンピックの意味 日本の成長のための「最高のきっかけ」
←電通はそのすべてに関与すべきである〉
別の頁には、こんな踏み込んだ記述もあった。
〈電通がすべての座組みの中心に立つ〉
電通こそが五輪を支配する――そう謳っているかのような文書。さらに、文書の後半には、壮大なビジョンが掲げられている。
〈2020年、電通は、世界最高のソリューションカンパニーのポジションを取っているだろう〉
〈世界中のあらゆる課題解決依頼はすべて、まず電通に来ることになる〉
電通幹部が嘆息する。
五輪への思い入れが深い陛下
「電通社内で『ディレクション』(指揮)などという強い言葉の文書が配られたのは記憶にありません。制作を主導したのは、現シニア・プライム・エグゼクティブ・プロフェッショナルの古川裕也氏と見られています。彼の名前は文書の奥付にも記載されている。電通社内におけるクリエイティブディレクターの束ね役のような存在です」
実際、社内文書で宣言した通り、国内の広告市場が伸び悩む中、五輪は大きな商機となった。14年以降、グループの売上高は5兆円前後で推移しているが、売上高の1割超が五輪関連の収益とされる。そこには、税金が投入されている事業も少なくない。14年から6年間で、確認できるだけで約51億円の五輪関連事業を東京都から受注(関連会社も含む)。組織委からの落札額も約116億円に及ぶのだ。
電通に文書について尋ねたところ、こう回答した。
「社内文書につき、回答を差し控えさせて頂きます」
電通が支配する五輪。その最重要イベントこそが巨額の予算が投じられる開会式、そして五輪のフィナーレを飾る閉会式だ。昨年5月、両セレモニーの演出責任者に就任したのが、電通出身の佐々木氏だった。
では、彼は8月8日に控える閉会式をどのように演出しようとしていたのか。冒頭に紹介した都知事へのプレゼン資料に戻ろう。
資料の前半で強調されているのは、佐々木氏の個人的な想いだ。〈TOKYO1964〉と題した64年東京大会を振り返るスライドには、なぜか現在の顔写真と〈SASAKI 10歳〉との文言。加えて、こんな文章も記されていた。
〈私は、64年の東京大会で、アベベ選手の走りを見て、その速さもさることながら、美しさに打たれた覚えがある〉
さらにアスリートと、シルク・ドゥ・ソレイユやブロードウェイのキャストといったエンターテイナーによるエキシビションという企画が提案されている。
その後に設けられたのが、
〈〇╳クイズ〉のコーナーだ。全97頁の資料のうち、計18頁が割かれ、熱の込めようが窺える。
参考として貼り付けられているのは、往年の日本テレビの人気番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』の画像。番組での〈╳と思えば内野へ移動、〇と思えばそのまま〉という場面が紹介されているが、閉会式で実施したかった〇╳クイズもこのイメージなのだろう。
資料を目にした別の電通関係者が溜め息を漏らす。
「番組が人気だったのは1980年代後半。バブル絶頂期の感覚を、コロナ禍の令和の時代にそのまま持ち込んでくるのは、佐々木氏らしいというか……。彼はパラリンピックの開閉会式も担当していましたが、その演出案にも〇╳クイズが盛り込まれていました」
この佐々木氏肝煎りの“閉会式版ウルトラ〇╳クイズ”に参加するのは、オリンピック選手や視聴者、VIPたち。
そして――。
〈天皇陛下も参加する〉というのだ。
IOCは閉会式には国家元首か、元首が指名する者の出席を定めている。今回、大会の名誉総裁を務める天皇の名代として実際に出席されるのは、秋篠宮だ。
宮内庁関係者が指摘する。
「天皇陛下が五輪とパラリンピックの開会式で開会宣言を述べられるため、閉会式は秋篠宮さまが出席される方向で、陛下の即位前から調整されていました。ただ、天皇陛下が国内の団体などの名誉総裁職に就くことは通常ありません。それだけ、陛下にとって五輪やパラは思い入れの深い大会です。閉会式は開会式と比べ、リラックスした雰囲気で行われるとはいえ、選手たちの奮闘を称え、労う大事な舞台。にもかかわらず、軽い調子で〇╳クイズへの参加を求めるという計画が都知事レベルにまで進行していたというのは、唖然とせざるを得ません」
天皇がVIPらとともに、〇╳クイズに参加されるという「衝撃計画」。この演出案を“公式資料”として作成してから約半年後の今年3月18日、佐々木氏は、タレント・渡辺直美の容姿を侮辱する案を披露していた問題を受け、演出責任者を辞任してしまう。
自らの閉会式案について佐々木氏は今、何を語るのか。携帯を鳴らし、メールで取材依頼を送ったが、期日までに回答はなかった。
「佐々木氏の辞任後、後任の責任者には彼が引っ張ってきた小林賢太郎氏が座りました。時間が限られていたため、佐々木氏の案をベースにしつつも、演出内容の見直しが急ピッチで進められていったのです」(組織委関係者)
小誌は新たに、閉会式本番を1週間後に控えた8月1日付台本を入手。そこからは、〇╳クイズは跡形もなく消えていた。代わりにセレモニーを盛り上げるのは、有名スカバンドの演奏や世界的DJのプレイだ。
宝塚トップ女優3人の名前が
さらに、開会式には元宝塚女優の真矢ミキが出演していたが、別の内部資料には閉会式に、3名のトップ女優を筆頭に宝塚の現役女優20人が出演することも記されている。宝塚には明確な序列が定められており、閉会式で彼女たちの名前を呼ぶ順番も厳密に決められているという。
しかし――。
閉会式スタッフが明かす。
「トップ女優たちは直前まで通常の公演があるため、リハーサルに参加できません。であれば、ボランティアスタッフなどが代役を務めれば良いのですが、『雰囲気が見たい』という理由で、リハのためだけにわざわざ宝塚の初舞台生を上京させているのです」
初舞台生とは今年3月に宝塚音楽学校を卒業し、6月に初舞台を踏んだばかりの新人女優たちのこと。その大半が10代だ。
「彼女たちには閉会式の運営側から、秘密厳守が命じられています。宝塚から上京する際は、団体で行動するとバレるので、少人数でまとまること。揃いのカバンを持つのもダメ、キャリーバッグも人目を引くのでNG。そのほかに『飛行機での移動は目立つので、新幹線で移動するように』など、事細かに指示が出されています」(同前)
だが、ある保護者は小誌の取材にこう訴えるのだ。
「あの子たちは、まだ新型コロナの2回目のワクチン接種が終わっていません。2回目の接種を受けるはずが、閉会式のリハのためにキャンセルせざるを得なくなって……。そんな中で、感染拡大が止まらない首都圏に上京することに『怖い』と漏らしている子もいる。実際、政府自ら県をまたぐ移動の自粛を呼び掛けている時期です。閉会式に出られるわけではなく、本番前日には宝塚に帰る予定なのに、そこまでしてリハに参加する必要が果たしてあるのでしょうか」
宝塚歌劇団に事実確認を求めると、こう回答した。
「組織委員会が進められていることで、宝塚歌劇団としてお答えできることはございません」
閉会式のクライマックスで、消灯のセレモニーが行われるのが、聖火台だ。その制作にも多額の費用が投じられている。
組織委幹部が明かす。
「聖火台の開発を担当したのはトヨタ自動車です。ただ、制作の遅れやデザインの複雑さ、燃料の水素が高額なことから費用はどんどん膨らみ、最終的に50億円前後になりました」
一部では聖火台の制作費はトヨタが負担すると報じられてきたが、改めて同社に事実関係を問うと、書面で以下の回答があった。
「弊社が(聖火台の)費用を拠出している事実はございません。それ以上の詳細についてはお答えできる立場ではないため、回答を控えさせていただきます」
前出の組織委幹部が言う。
「普通に考えれば、組織委の負担でしょう。組織委の予算の一部は国や都から拠出されている。無観客開催で財政難なこともあって、聖火台費用も税金から捻出せざるを得ないはずです」
その聖火台のデザインをトヨタからオファーを受ける形で手掛けたのが、デザインオフィス「nendo」代表・佐藤オオキ氏だ。15年に欧州最大のインテリアデザインの見本市で「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど世界的評価を高め、20年からはローソンのプライベートブランドのパッケージデザインを担当する気鋭のデザイナーである。だが、
「過去の作品に複数の“パクリ”疑惑が取り沙汰されているのです。業界で影響力の強いイギリスのデザイン系サイト『Dezeen』にも、『コピーではないか』との書き込みが多く見られます」(デザイン関係者)
一例が、nendoが11年に発表したテーブルだ。上下に2枚の丸い板が設置され、天板は黒く、下の板は鏡面になっている。その鏡面に、天板の裏側に描かれた模様が映し出される独特なデザイン。これが、著名イタリア人デザイナーのサム・サニア氏が手掛けた作品と酷似しているという。
アスリートたちの未来は続く
サニア氏に話を聞いた。
「nendoですよね。ミラノの家具見本市で見かけたんだけど、自分のデザインととてもよく似ていたから、驚いたんです。それで販売元にクレームを入れ、販売をストップしてもらいました」
別のテーブルについても、脚の特徴的な形状が酷似していると、関係者の間で指摘されてきた。模倣された疑いのあるスウェーデン人デザイナーが証言する。
「私の作品を見て作ったとしか思えませんでした。アイデアは全く一緒です」
デザインの“パクリ”疑惑と言えば、15年に起きた五輪エンブレム問題のデザイナー・佐野研二郎氏。奇しくも佐藤氏は当時、佐野氏をこう擁護していた。
〈審査の過程の透明性が指摘されたりもしましたが、そういったことは昔からよく聞く話で、こう言っちゃナンですが「何をいまさら……」という印象です。(略)佐野氏のデザイン案は商標権も著作権も侵害していない〉(『週刊ダイヤモンド』15年12月26日・16年1月2日号)
彼も「第二のサノケン」になってしまうのか。佐藤氏に見解を求めると、
「サム・サニア氏からの指摘を受け、販売元が商品化を取りやめたのは事実です。しかし、模倣した事実は一切ありません。(他の作品についても)どなたかのデザインを模倣しているという事実は一切ありません」
ただ、著作権に詳しい三村小松山縣法律事務所の山縣敦彦弁護士は指摘する。
「著作権は『アイデア』にではなく『表現』にのみ生じます。ただ、黒いテーブルは下に取り付けた円形の鏡に、同じく円形の天板の裏側の模様を映し出すという具体的な表現において類似しているとも言え、著作権侵害となる余地も十分にあります」
五輪の象徴でもある聖火台。8月8日夜10時過ぎ、聖火が消え、19日間に及ぶ熱い闘いに幕が下りる。
◇
組織委員会に関向氏の存在を明かさない理由や、宝塚女優の起用などについて見解を求めたが、期日までに回答はなかった。
小誌が報じてきたように、開会式を巡っては、容姿を侮辱する演出案や、政治家の“口利き”など不適切な運営が行われ、巨額の予算が浪費されている。その過程では、IOCから高い評価を受けてきた女性演出家が、電通幹部らの意向で“排除”された。さらに、皇室を軽んじるような演出案や、窮地を救った女性作曲家の存在が消されるような事態まで起きている。
果たして、誰のため、何のための開会式、そして閉会式だったのか。アスリートやクリエイターたちの未来は続く。これで全てを終わりにしてはいけない。
source : 週刊文春 2021年8月12日・19日号