この春も、数多くの子どもたちが小学校から卒業し、巣立っていきました。
コロナ禍のもと、去年に続き2度目の卒業式を迎えたさいたま市の小学校には、今年は子どもたちが笑顔を見せられる式にしたいと奮闘する先生たちがいました。
(首都圏局/ディレクター 小沢ちえ子)
3月18日、さいたま市立栄小学校では卒業式の予行練習が行われていました。
卒業式では当たり前の、児童1人1人への卒業証書の授与。
去年はコロナ禍のため代表の児童だけに渡しましたが、今年は “みんなが主役” の卒業式を目指し、全員に手渡すことを決めました。
校長先生は手袋をして証書を渡すことにしました。換気を十分にして、一人ひとりの距離を取る。来賓や在校生は参列しない。校歌は歌わず、CDを聞く。先生たちは感染対策に心をくだきました。
主導したのは5年生から2年間、この学年を担当してきた学年主任の西納裕さんです。
西納先生
「(卒業式を)コロナだからやめてしまおうとか、軽くしましょうというのは大人の事情で、子どもたちにとっては一生に小学校の卒業式は1回のことですから、われわれとしても大事にしたい」
この1年間、西納さんたち教員は子どもたちに我慢を強いる指導をせざるを得ませんでした。
にぎやかだった給食の時間も、おしゃべりは一切禁止。学校中が静まり返り、食器の音だけが響きます。
特にやりづらさを感じていたのは、子どもたちの表情を読み取れないことだといいます。
西納先生
「教員という仕事をやっていると、子どもたちのマスクが本当に恨めしい。表情が全く見えないので、逆にわれわれも顔の表情で話しかけることができないので、本当にやりづらいです」
授業中はできるだけ机の間を歩き、子どもたちの様子を注意深く見て回りますが、以前のようなコミュニケーションはなかなか難しいのが現実です。
学校行事も多くが中止になりました。子どもたちが一番楽しみにしていた修学旅行は、小刻みに延期を繰り返し、ギリギリまで実施できる可能性を探りましたが、緊急事態宣言の延長で、結局中止するしかありませんでした。
「ひとつぐらいは最終学年の思い出を作ってあげたい」
先生たちは、修学旅行に行っているはずだった日に、急遽、バスケットボール大会を開催しました。
卒業式の前日、西納さんは子どもたちへのメッセージを黒板いっぱいに書きました。
西納先生
「行事も全部なくなっちゃったけど、子どもは全然荒れずに、本当に心がきれいなままでいてくれました。子どもたちって、目の前の楽しさを追える人たちなんだなとすごく感じました。大人が考える以上に、素直で元気なんだろうな」
迎えた卒業式の当日。
一人ずつ児童の名前を読み上げる西納さんの見つめる先には…
マスクを外し、素顔で卒業証書を受け取る子どもたちがいました。
「晴れ舞台では、せめてマスクを取った表情を、友だちや、おうちの人に見せてほしい」
それが、先生たちの最後の願いでした。自分の番の直前までマスクをして名前を呼ばれたときに返事をすること以外は決してしゃべらないことを徹底。子どもたちや保護者にも了承を得て、実現することができました。
去年は、保護者の参列もできませんでしたが、今年は児童1人につき、1人だけ出席してもらうことができました。
保護者「マスクをとった全部の姿を、しっかり最後目にとめたいという先生の気持ちが本当にありがたい。きっと子どももうれしかったと思います」
Q.6年生になってからの一番の思い出は?
児童「卒業式、今です」
児童「何かな~特になにもなかったけど、みんなと一緒にいられたのが一番よかった」
式を終えた子どもたちに、西納先生は語りかけていました。
西納先生
「コロナの中でみんなは卒業式を迎えた。無事ここまでゴールインした。それはとっても大変なことだったけど、みんなの力が一つになってここまでこれたんだと思います。自信を持って進んでください。コロナが大変だったときの6年生だったの?ってずっと言われ続けると思うけど、その時には「そうだよ、だけど乗り切ったんだ」って胸を張って、自慢できるように自信をもってください」
新しい生活様式が浸透した1年、学校で当たり前だった風景が大きく変わりました。「大きな声は出さない」「友だちと距離を取る」。子どもたちは、先生に言われたことを素直に守っています。
一方で、先生たちは子どもたちに我慢を強いる指導をしなければいけないことに心を痛めていました。取材中、ある先生の漏らした言葉が忘れられません。「子どもたちはこんなに頑張っているのに、色んなニュースを見ているとなんで大人は…って」。1日でも早く学校の日常を取り戻すためにも、私たち大人が子どもに見せて恥ずかしくない生活を送る必要があると感じています。