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The Islands War  反撃の章 作者:スタジオゆにっとはうす なろう支店
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第二章 「将星たち 前編」

ローリダ国内基準表示時刻9月21日 午前9時27分 シュルティタール湖畔近辺


 シュルティタール湖の周辺には、緑色に萌える丘陵が所々を濃緑の森林に彩られ広がっていた。

ただ気掛かりなのは、秋の尖兵が、夏の間はなだらかな草原を散歩する人々に涼を与えてきた森林に、紅色を与え始めたことだ。そしてローリダでは、秋はそれを味わう間も無く駆け足で過ぎ去り、その後は翌年の初頭まで厳しい冬が続く。


 もはや朝と言う時間帯ではないのに、夜が白みかけた内から湖面に漂う薄い霧は、暖かな日差しと抜けるような青空の下にも晴らされることなく、悠然と湖畔の主であり続けた。そして背景にエルリ‐ミレジュ大雪山を臨み、狩猟用に放牧された野牛の嘶きを聞きながら湖畔から目を凝らせば、広大なシュルティタール湖の周辺を囲むように広がる湖岸の麓、丘陵の中腹から頂上、さらに森の間から姿を覗かせる瀟洒な邸宅の存在に気付くはずだ。そして同じような規模と様式の邸宅は、この地には幾つもあった。


 シュルティタールの名は、ローリダ共和国の人々の間では特別な、ある意味憧れを伴った響きを持つ。


 その威容に万年雪を纏ったエルミ‐ミレシュ山脈は、夏には涼風を麓一帯に吹き降ろし、冬には北方から本土に入り込む寒気をその懐に吸収してくれる。自然の采配の内に形成された風光明媚な高原地帯は、共和国開闢以来景勝地として知られ、共和国建国に指導的立場を担ってきた有力な家系たる貴族、そして新興の資本家階層たる騎士など上流階級専用の別荘地として発展を遂げてきた。シュルティタールとは、いわばそこに居を構えることを許された者が、上流階級に連なる者であることを無言の内に、かつ雄弁に示す象徴であったのだ。


 ―――――その、特に広大な丘陵の一角。


 重要人物輸送用に特注された、長大な胴体を持つ回転翼機が巻き起こすダウンウォッシュのせいで、いままさに機が着陸しようとする地上の芝生は醜いうねりを見せていた。胴体を長くしたことにより乗客収容能力こそ―――収容できる乗客の絶対数ではなく、乗客一人当たりの快適度という点において―――従来型を上回ってはいたが、却って安定性を欠いた機体は、真っ直ぐに降下させるのに少なからぬ難渋を強いられる。それでも、胴体に乗せた「気難しいお歴々」に、不快な思いをさせずに任務を終了させるという意味で、ここは操縦士の腕の見せ所ではあった。


 着陸を終えすっかりとローターの回転の緩みきった機体に、地上で待ち構えていた兵士が駆け寄り、ドアを開きタラップを下ろした。胴体から真っ先にのっそりと現れたのは、赤、青、緑も鮮やかなローリダ共和国国防軍盛装に、緩みきった体躯を包んだ初老の男である。丈の高い軍帽から覗く嶮しい眼つきと、鬢から頬までを覆う硬い八の字型の口髭が、肥満しきった短躯に辛うじて軍人らしい威厳を与えていた。


 まさに飛び降りる、という表現が似合うほど覚束ない足取りで回転翼機から地上に第一歩を記すと、男は周囲を一瞥した。回転翼機専用の発着場も兼ねる広大な庭から延びる階段の先、木々に囲まれた丘の頂上に聳える城郭のような豪邸を見上げると、男はやがて浮かんできた憤懣やる方ない表情もそのままに吐き捨てた。


 「無粋なものだ。我等がドクグラム大将におかれては、自ら賓客を招いておきながら、その舌の根も乾かぬ内に我等のことをお忘れであらせられるらしい」


 無論、出迎えはいる。豪邸の主の次席副官、ヒルヴァス‐イ‐ナ‐クディス少佐がそうだったが、自ら出迎えに出ようとしない豪邸の主への充て付けからか、あからさまに彼のことなど目にも入らないかのように、その男――――ローリダ共和国国防軍総司令官 カーナレス‐ディ‐ア‐フォレマータ元帥は振舞うのだった。


 「……まあ元帥、カザルスは多忙なる身の最中を割いて、我等の実りある討議のために時と場所を提供してくれたのです。少しは大目に見ても宜しかろう」


 と、フォレマータ元帥に続いて回転翼機から降り、愚痴る彼の背後から口を挟んだのは、元帥とは打って変わり長身、痩躯の将官であった。国防軍総参謀長たるエンリキアス‐ル‐フ‐カテラナン次帥は彼の唯一の上官とほぼ同年代であったが、その顔立ちはそれを感じさせないくらいに若く、その紳士然とした容姿からは高尚なまでの気品の高さを漂わせていた。この二人に共通しているのは何も年代や階級だけではなく、二人がこれから赴かんとする館の主とはともに姻戚関係にあるという点であり、それはこの場に集う上で最も有用に働く点でもあった。


 「刻限に間に合いません。急ぐとしましょうか」

 「それにしても……なぜわしがカザルスなんぞに呼びつけられねばならんのだ。国防軍元帥たるこのわしが……!」


 忌々しげに、フォレマータは、初めて出迎えのクディス少佐を省みた。


 「おい、少佐」

 「ハッ……!」

 「何をボサっとつっ立っとる。さっさと案内せんか」


 怒声一下、弾かれたように先導役に回る次席副官。そしてその後に悠然とした足取りで続く従兄に当たる国防軍元帥と、淡々とした足取りを刻む自分の妹婿に当たる参謀長を、シュルティタール湖を一望できる別荘(ディル‐ティタール)の庭から見下ろす老年の男がいた。


 「旦那様、御一同皆御揃いで御座います」

 「そんなこと、見ればわかる」


 無感動な表情もそのままに、家令の報告をにべも無く跳ね付けると、鷲鼻と片眼鏡の印象的なその男は踵を返し、ガウンに覆われた長身を屋内へと運んだ。その後を、家令と男の主席副官たるリルヴァス‐ド‐ファリ中佐が続いた―――――玄関口に場を移し、彼の縁戚たる二名の将官を迎えるべく。そして彼らを迎えたとき、この日自分の豪奢な別荘に招いた全員が揃うことになるのだった。


 玄関口までの十分な距離を、共に歩を進めながら、館の主―――元老院議員にして共和国国防相 カザルス‐ガーダ‐ドクグラム大将は彼の忠実な副官に聞いた。


 「皆は……どうしている?」

 「二階の展望室で待たせてありますが、宜しいのですか?」

 「仕方があるまい。ああも悠長な親類を持った日には……」


 と、ドクグラムは舌打ちと共に苦々しく首を傾げる。共和国国防軍軍人の頂点に立つ者としての自覚と節制に乏しく、従弟たるドクグラムの元老院に占める影響力の余光のみで辛うじて国防軍最高司令官の椅子に座ることが出来ているに等しい従兄は、彼にとって頭痛の種であり、いい傀儡でもあった。


 「……ところで、資料は揃えてあるのか?」

 「展望室にお通しした段階で、お集まりの皆様には配布いたしました」

 「それなら……いい」


 やがて玄関口に、次席副官に伴われて邸に上がった両名の姿を目の当たりにした瞬間。トクグラムは作り笑いも爽やかに二人の姻戚を、手を広げ迎えた。


 「カーナレス従兄上、そしてエンリキアス……両名とも御健勝で何より」

 「カザルス、お前は何故こうも気が利かんのだ? わしらが難渋してここまで登って来るのをお前はただ上から見ていただけか?」


 声を荒げるフォレマータの両肩に、ドクグラムは笑顔を崩さずに触れた。従兄弟同士の再会を祝うというよりきかん気の強い子供を父親があやす光景をその場の誰もが連想したのは、二人の大きな身長差のせいだけではなかった。


 「まあ従兄(あに)上。御気をお静め下さいませ。二階に良く冷えた自家製ワインと、従兄上の好物の鶏肉ゼリーをご用意しておりますよ」

 「また物で釣ろうと言うのか? 相変わらず……現金な男だわい」


 フォレマータが自分より階級の低く、さらに二歳下の従弟に対する隔意を隠しもしないのは、その政治力、各界における人脈の圧倒的なることへの対抗心も然ることながら、自分の現在の地位が従弟の政治力により決定され、与えられたことへの負い目もまた作用していたのだった。そしてドクグラムとしては、不満を抱きながらも現在の自分の場所に甘んじている従兄の内心を知っているからこそ、軍人としては到底水準点にあるかどうかさえ疑わしい彼の従兄を重用しておく気も起きようというものであった。


 従兄が真に賢い人間なら、他に取るべき途もあるだろうに……


 ドクグラムは思う。彼は自分の敷いたレールの上で胡坐をかき、ただ安泰な立場から自分をこき下ろすことのみに満足を覚えている……まあ、そんな人間は人間で、使い途が出る時もいずれは来ようというものだ。豚が飼い晒されるのはそれが賢い動物だからではない。その用途はどうであれ、時が来ればいずれは役に立つ生き物だからである。


 「ご来駕の諸君には長いことお待たせして弁解の仕様も無い。つい、身内間の話が盛り上がったものでな……ご容赦を」


 と、両名を引き連れたドクグラムが入って来たのは、背後にエルミ‐ミレシュ山脈の雄大な山並みを臨むことが出来る二階の展望室であった。そこには長大な矩形のテーブルが置かれ、ちょっとした会議も可能なようになっていた。テーブルでは、すでに肩に提げた金モールや胸にぶら提げた勲章も眩しい国防軍の顕職にある将官七名が、三人の入室を待ち構えていた。一座の中で私服なのは、ドクグラムただ一人。だが、テーブルの上座はこの邸の主にして国防軍の最高実力者たる彼のものだった。


 フォレマータの隔意溢れる視線など、意に介し無いかのようにテーブルの上座に収まると、ドクグラムは手を叩き奥に控えていた士官学校の生徒を呼び出した。手に美酒や小品などを盛った銀製の盆を抱えた容姿端麗な士官候補生たちが、慣れた手付きで品々をテーブルに配膳する間。ドクグラムはあらかじめ配布された資料にざっと目を通すのだった。


 配膳が終わり、士官候補生たちが退出するのを見計らっていたかのように資料から顔を上げたドクグラムは、一同を見回し、笑顔を浮べ言った。


 「諸卿らにはまず、酒と料理を楽しんでいただきたい。辺鄙な土地ゆえ、大したものは出せないが。それでも会話の足しにはなるだろう」


 それが、彼等が月に一度はドクグラムの別荘に集い、そして執り行う「秘密会議」の、始まりの挨拶だった。


 共和国元老院内に様々な序列と派閥があるのと同様、軍部にもまた、その政治力と実績に基づく序列が存在する。


1:カザルス‐ガーダ‐ドクグラム 大将 近衛軍団司令官 元老院議員

2:エンリキアス‐ル‐フ‐カテラナン 次帥 国防軍総参謀長 ドクグラムの妹婿

3:カーナレス‐ディ‐ア‐フォレマータ 元帥 国防軍総司令官 ドクグラムの従兄

4:ビッパー‐ダ‐ジェス 上級大将 国防軍保安局長

5:ル‐カーズ‐ディ‐リ‐ファン 次帥 空軍総司令官

6:ヒダナス‐ルーカ‐ファヴリリアス 中将 赤竜騎兵団司令官 ドクグラムの娘婿

7:ダンファン‐デ‐リードマンシュ 上級大将 第204戦略砲兵旅団司令 ジェスの姉婿

8:コードルス‐タ‐ディ‐フールモント 次帥 国防軍軍医総監 共和国医師連合会副会長

9:ギルメス‐ダ‐コーティラス 上級大将 海軍参謀長

10:コールス‐ルール‐ディ‐ファーリ 大将 国防軍教育総監


 以上の上位十名は、公式の国防会議とは別に「秘密会議」を持っていた。そして、その「秘密会議」で行われる様々な決定は、他の国防政策上のあらゆる決定に優先する。それ故に、これら十名は「ディル‐ティタールの十人」と呼ばれ、軍部内で絶大な権勢を揮ったのである。


 「大将……煙草を吸っても構わんかな?」


 と、野太い声でドクグラムに言ったのは、テーブルの末席に座る恰幅の良い男だった。日焼けした肌に、威容に発達した首と顎周り、そして頭髪が一本も無い頭が一座の中でも異様なまでの印象と迫力とを漂わせている。そして両の眼は獲物を物色する猛禽の如く嶮しく、爛々と輝いていた。戦闘機パイロットからキャリアを重ね、空軍総司令官に就任してはや三年。いまや国防軍内外でも少なからぬ発言力を有するに至ったル‐カーズ‐ディ‐リ‐ファン 次帥だ。


 「もちろん」


 と、ドクグラムは彼の士官学校の一年先輩にあたる次帥を見据えた。だがファンが、自らの懐から取り出したシガーケースから軍配給の紙巻煙草を抜こうとするのを、彼は制した。


 「ヴィティシア産葉巻の味は、知らないわけではあるまい」


 と、ドクグラムが指差した先には、上物の植民地産葉巻が詰った箱。ファンは両頬の筋肉を歪めて笑った。


 「わしのような前線一辺倒の武人には、煙草の味はあまり判らんでな。吸い慣れたこちらの方を信頼しておる」

 「では、この機会に是非お試し頂きたい。少なくとも、毒は入っておりませんぞ」


 ファンは笑った。それにつられるように一同も笑った。儀礼と序列に塗り固められた場が和んだところを見逃さず、ドクグラムは切り出した。


 「この場の諸卿には、飲みながらお聞きあられたい。現在、スロリア解放作戦は諸般の事情で停止の状態にあるが、それに関連し、政府は近々新たな外交攻勢に出ることを決定した。それは紛れも巻く、宿敵ニホンに対する最後通牒である」

 「…………!」


 場が、どよめいた。それは喜びを伴ったどよめきだった。戦争の再開こそは、政府に軍部自らの存在と威信を誇示する上で最良の機会であったからだ。


 「その事前準備として、わが軍も動く。近々……新たな軍団がスロリアに増派されることとなろう。それは紛れも無く、ギリアクス‐レ‐カメシス第一執政官閣下のご意向である」

 「……で、最高司令官閣下におかれては、どの部隊をどれくらいの数派遣するおつもりか?」


 とフォレマータに言ったのは、海軍参謀長のギルメス‐ダ‐コーティラス上級大将である。海軍将官であることを示す白い制服は、陸軍を示す赤や緑の制服の連なる中で否応なく目立った。その彼が発言するのにはきちんとした根拠がある。大軍を派遣するための唯一にして最良の手段たる海路。本土から海を隔てたスロリアに、船団を以て兵員や装備を運ぶとなれば、船の手配は元より護衛の艦船、さらにはそれらの運航計画も必要になる。


 「それは……」


 コーティラスの問いに、言葉を詰らせたフォレマータを庇うかのように答えたのは、ドクグラムだ。


 「それに関しては本職より説明させて頂こう。新たに増派するのは一個軍団規模。その中には、赤竜騎兵団も含まれておる。首都防衛軍団を中心に装備、編成共に総力戦をも想定した重装備の部隊が今回の増派部隊の基幹である」

 「赤竜騎兵団……!?」


 今度のどよめきは、明らかな驚愕のなせる業だった。そして、席の一点に全員の視線が集中する。彼らの視線の先、折り目正しく軍服を纏った端正な顔立ちの男――――ヒダナス‐ルーカ‐ファヴリリアス中将は、共和国陸軍の精鋭であり、共和国唯一の機甲師団「赤竜騎兵団」の司令官にして、ドクグラムの娘婿だった。


 「ドクグラム大将……それは、貴公に要請した者の意思か? それとも、それ以外の誰かの希望か?」


 と言ったのは、ファンだ。対象を監視するような嶮しい目付きが、下手な発言を許さぬとは言えぬまでもわざとらしい。


 「ヒダナスが前線に赴くこととなったのは、第一執政官閣下の御熟慮の導いた結果に過ぎぬまでのこと。彼が赤竜騎兵団の采配を取る身となったのが、ヒダナス自身の才幹と国家に対する忠誠に神が報いたのと同じことだ」


 ドクグラムの言葉に、ファンは笑った。誰の目から見てもそれは、明らかな苦笑だった。


 「そういうことにしておこうか……だが、解せぬ」

 「解せぬ……とは?」

 「たかだか極東の取るに足らぬ蛮族を威嚇するに、何故虎の子の赤竜騎兵団を使う必要がある?」

 「…………!」


 ドクグラムの沈黙が、さらに一座の緊張を引き立てた。


 ファンの示した「懸念」には根拠があった。その根拠は唯一つ、「ニホン軍は、弱い」というこれまでの経験から導き出された「事実」である。


 民兵を前に敗走した「陸軍」。貧弱な武装しか持たない「海軍」。そして実戦的な「空軍」に至っては存在するのかどうかすら疑わしい……それが、彼等がこれまでの戦闘で経験し、知るに至った「ニホン軍」であった。そのような敵を相手に重装備の正規軍部隊を正面からぶつけるなど、別の意味で正気の沙汰としか思えない……その一座の疑念を代表するかのように、ファンはさらに身を乗り出した。


 「重ねて聞く。ドクグラム大将におかれては、本当に現下のスロリアが、赤竜騎兵団の展開が必要な局面にあるとお考えか?」


 場を揺るがすような緊張をその場の皆に強いる沈黙の末、ドクグラムは微笑んだ。唖然とする全員を前に、彼は口を開くのだった。


 「国民は、勝利を望んでいる……いや、望んでいるというより勝利のない現状に倦んでおる」

 「ハァ……?」


 事を飲み込めないフォレマータを無視するかのように、ドクグラムは続けた。


 「今の共和国の民は徒に権利のみを主張し、心身を呈して国家に報いる途を知ろうとせぬ。さらに悪いことには良識の府たる元老院にも、そのような極少数の輩に同調せんとする動きがある……」

 「…………」


 沈黙は相変わらず続いていたが、先程までとは違いそれは、言葉の内容に対する同意の表れであった。

 確かに、ここのところ国民―――特に貧困層―――の政府に対する不満は高まっている。幾ら植民地や領土を得たところで、一向に向上しない生活。一方では表ざたにはならぬまでも元老院内で幾度と無く囁かれる汚職や醜聞。腐敗した官吏と強欲な資本家、そして地主は厳しい生活を強いられる貧民層や農奴層に重い税負担と劣悪な労働条件を惜しげもなく課し、その一方で彼らには何も還元しようとしない……それが政府に不満を持ち、狼藉をはたらく輩の言い分である。だが、武力を掌る選ばれた者の集団として、共和政の守護者を自認する彼らに、そんな事情を斟酌するつもりなど元から無かった。


 ドクグラムは、さらに続ける。


 「彼らを沈黙させ、再び神と共和制に対する絶対の忠誠を誓わせるには、ここで一度共和国の圧倒的な勝利を国民の眼前に現出させる必要がある。共和国を守り、栄えさせる力を持つのが誰か、誰が守るべきキズラサの神への信仰と共和制の命運を託すに足る者であるかを、ここで今一度明確にして置かねばならぬ。諸卿、お解かりかな……?」


 そこまで言って、ドクグラムは一座を見渡すようにした。もはや同意を求めるまでも無かった。一座の誰もが、熱の篭った眼でドクグラムを見詰め、同意の笑みを浮べていた。




日本国内基準表示時刻9月24日 午後1時3分 宮城県 仙台市内


 秋の気配は、例年に無く早まっていた。


 東京では、未だ夏真っ盛りとばかりの深緑が抜けない木々が、「杜の都」と謳われるここ仙台市では、処によっては既に紅色に色づき始めている。それは、東京からわずか350キロほど北上した場所にある都市での話だ。しかし、例年ならば一一月ごろにならないとそれが起こらない仙台では、早過ぎる紅葉の到来は穏やかならぬ事態とも言えた。


 秋が深まりゆくこの時期、仙台市はちょっとしたお祭りの気配に包まれる。それは市内のスーパーやコンビニエンスストアに足を向けてみればわかる。この時期、そこでは何時の間にか山々と積上げられた薪や大鍋が圧倒的なまでの存在感を見せている。


 全国的に有名な仙台七夕祭りがこの街の夏の風物詩ならば、「芋煮会」という、およそ聞き慣れない者にとっては妙な響きを持つ名称の集まりが各所で開かれるのは、仙台の秋の風物詩と言えた。九月の末から十月の始まりまでは、調度その準備に皆が追われる頃である。そして「芋煮会」は、十月から十一月にかけて市内各地で本格化する。


 「芋煮会」とは書いて字の如く、皆で野外に出、大鍋に作った「芋煮」を食する集まりである。それは職場・学校・サークル仲間・友人同士・ご近所の子供会等、いろいろなグループ単位で行われる。「芋煮」は里芋と豚肉を煮込み、味噌で味付けしたものが一般的で、お椀によそった熱い里芋を難渋しながら頬張る内、秋口の冷えかけた空気に、何時の間にか体が芯から温まっている自分に気づくという按配だった。


 ――――その仙台市には、陸上自衛隊東北方面隊総監部が置かれている。


 第6、第9の二個師団を主軸としたその戦力構成こそ、北海道防衛の北部方面隊や、九州―沖縄防衛を担当する西部方面隊のような大所帯には見劣りするものの、実のところ東北方面隊は青函地域の防備及び北海道防衛の予備戦力としての位置づけはもとより、関東一円を防衛する東部方面隊への増援など、日本本土の防衛の骨幹を為す多種の任務を与えられている。


 当然、隊の布陣する東北地方の防衛も主任務の一つに数えられているが、隊創設以来、その防衛任務の際の主戦場となるのは、青森県八甲田山から福島県吾妻山へと連なる奥羽山脈の、峻険な山岳地帯と考えられてきた。従って部隊の訓練も山中における遊撃的な戦闘任務に重きが置かれ、特に一一月から翌年の二月末にまで跨る積雪時の冬季戦技訓練はその環境、訓練内容ともに人智を超えた極限の域にまで高められている。その間、訓練に参加する隊員は鉄兜の天辺から爪先、さらには愛用の小銃に至るまで白一色の迷彩を施し、スキーで山中を移動しながら文字通り雪と同化して対抗部隊を迎え撃つのだ。

 そのような環境にあるせいか、古来より日本における近代的な軍組織開闢以来、東北の師団は九州のそれと並び精強な部隊とされてきた。


 仙台そのものとは大して縁がある人物ではないが、東北人で軍事に関心のある者なら、多くが立見尚文という名を聞いたことがあるであろう。


 「転移」より遥か以前の幕末期、日本が討幕派と佐幕派の二つに分かれて争った時代。佐幕派の桑名藩士であった立見もまた雷神隊という遊撃部隊を率い、装備と数共に圧倒的な新政府軍を相手に勇戦敢闘し、立見は優秀な野戦指揮官としての片鱗を示した。その後の新政府の治世下で不遇を託ちながらも立見は警察、そして軍と戦歴を重ね、やがては退役の二文字が眼前に点り始めた老境に達した頃には陸軍中将にまで上り詰めていた。ここに彼の戦歴の、最大のハイライトが幕を開けた。朝鮮半島から中国東北部に跨る勢力圏策定を巡る対立から、時の大国ロシアに日本が戦いを挑んだ日露戦争がまさにそれであった。


 日露戦争における陸戦の帰趨を決することとなった奉天会戦の直前に行われ、両軍合わせて二万名近くの死傷者を出した黒溝台会戦において、当年65歳の立見中将率いる青森の第八師団は、数に倍するロシア軍の猛攻を一手に引き受け、多大な損害を出しながらも遂には味方の総反撃の契機を作り、最終的なロシア軍の敗走へと繋げたのであった。「東北の師団は精兵」という評価が定着したのは、それ以降のことである。


 「立見尚文ですか……弘前の軍神のことですな」


 と、仙台へ向かう新幹線の車内で、植草紘之 統合幕僚長に随伴した松岡 智 陸上幕僚長は論評する。役所の公私混同に対する世間の目が厳しい現在、公務ではない今回の「出張」に、まさかヘリを使うわけには行かず、少人数で、公共交通機関を使用しての遠出となったわけである。


 彼らの向かう先――――仙台にいる一人の人物について、二人は話をしていた。


 「外見と戦歴だけを見れば、あの人はまさしく現代に蘇った立見尚文です。ですが……」

 「ですが……とは?」

 「何と言っていいか……少し、いや、少なからず性格に灰汁があります。かなり狷介な人なんです」

 「適任ではない……と?」

 「あくまで自分の私見ですが、結論を申し上げれば、そうなります。部下によって好き嫌いの分かれる人間です」

 「ふうん、面白そうだ。ますます会って見たくなったよ」

 「そう仰ると思い、小官から東北方面隊総監部付きの昔の部下に話は付けておきました。恐らく、もう駅で我々を待っているはずです」


 松岡の言葉に満足したかのように、植草は緩やかに流れ行く外の光景に眼を転じた。阿武隈川の流れに導かれるように走る新幹線は、ものの二時間もしない内に植草たちを東京の喧騒から閑静な平原へと運んでいた。かつての前世界において、日本を訪れた外国人がそれに対し驚愕と感嘆の入り混じった目を向けたのと同様、異世界においても国外からの訪問者がまず驚かされるのが、平均速度220km/時の駿足で本州を駆け巡る新幹線だ。


 「それにしても、気恥ずかしいですな」


 と、松岡が言ったのは、普段着慣れない背広に、防衛大学校の学生時代にアメリカンフットボールで鍛えたというガッチリとした体躯を包んでいるためだろう。さらには、角刈りに精悍な顔つきが黒を基調としたスーツと相まって、返って植草には自衛官と言うより「その筋」の人といった趣を感じさせた。だが、植草はそのようなことは口には出さない。


 「恥ずかしいか? 私はこちらの方が何かと外で動きやすくていいんだが」


 実のところ、植草も背広の袖に腕を通したのは久しぶりだが、経験自体は松岡よりずっと豊富である。


 「閣下はよく似合ってますね。着こなすコツでもあるのですか?」

 「大学卒業前の就活で、こいつには結構お世話になったからな。とはいっても、二十年以上も前の話だが……」

 「ああ……なるほど」


 と松岡は相槌を打つ。中学卒業後、陸上自衛隊少年工科学校から一直線に防衛大学校、そして第一線勤務に入った松岡と違い、植草は少なくとも大学卒業の時点まで「娑婆」の空気にどっぷりと浸かってきた人間である。


 「閣下は、大学時代はスポーツとかされていたのですか?」

 「別段体育会には籍を入れていた訳ではなかったが、大会らしきものには出たことはあるな」

 「ほう……何の?」

 「鳥人間コンテスト」


 生粋の軍人とでも言うべき松岡には、植草のこうした一面が新鮮に感じられるものらしい……


 「ところで、失礼なことを聞きますが、閣下は内定ぐらいもらっていたのでしょう?」

 「内定?……私がか?」


 松岡は頷いた。聞くのには理由があった。前述の遣り取りの他、大学時代の植草についてはいろいろと可笑しな(?)逸話が多く。その一端なりとも本人の口から聞きたいという意欲をそそられたのだろう。


 「研究にアルバイト三昧で卒業間際まで碌に就活もしなかった私に、手を差し伸べてくれる会社が何処にあるんだ? 内定なんて、最後まで一つたりとも取れやしなかった。その結果が……これさ」


 と、植草は自身を指差して見せた。そのおどけた様な仕草に、松岡は思わず相好を崩してしまう。


 「私は閣下が羨ましい……自分が同じ年代の頃には知らなかったことを、色々とご存知でいらっしゃる」

 「おいおい……それは嫌味か?」

 「いえ、とんでもない。これは本心ですよ」

 「だが、十代から小銃や戦車に触るなんて、誰もが出来るわけじゃない。そういう意味では、松岡君は同年代の私が逆立ちしたって得られなかった経験をしているとは思うが……私なんて、君が少工校で野外演習に明け暮れていた年頃には、誰にも気付かれること無くエロ本の自販機で買い物を済ませる方法ばかりを考えていた」

 「エロ本ですか!……それは愉快だ!」


 どう見ても、異世界で最強の「軍隊」を率いる将のいう言葉とは思えなかった。だが松岡は、そんな自分の上官に心より敬服していたのだ。


 豪快な、悪意の無い笑いが、風を切る新幹線の車内に響き渡った。




日本国内基準表示時刻9月24日 午後2時23分 陸上自衛隊 仙台駐屯地 


 「敬礼っ……!」


 凛とした衛兵の声を受けながら、植草と松岡、二人の将官を乗せた73式小型トラックは東北方面隊総監部の正門を潜った。

 総監部の所在地……とはいっても、仙台駐屯地は他の方面隊の例に漏れず、総監部付部隊とその直轄下にある各種部隊の寄り合い所帯である。それでも、ローターを蹴立てて上空を航過する東北方面航空隊所属のUH-60Jと、駐屯地をさらに入った一角で駐車している第二特科群所属のMLRS(多連装ロケットシステム)の無骨な巨体が、間近で見る者に、戦う組織の只中に踏み込んだという観を強くさせる。


 「お粗末な迎えで、申し訳ありません」


 と、総監部本庁舎の玄関口で二人を出迎えたのは、同じく仙台駐屯地に本拠を置く第二陸曹教育隊司令官の椙山 清二 二等陸佐であった。


 「小官の少工校教官時代の教え子ですよ」と、松岡は教えてくれた。


 「確かに、元部下ではあるな」


 と、植草は苦笑する。


 「おやじさんは、何処におられる?」

 「それが……」


 と、椙山は顔を曇らせる。松岡は、肩を竦めて見せた。


 「ははぁ……どうせまた現場にいるんだろ?」

 「はい、その通りであります。ここにいて我々と顔を付き合わせるよりは現場にいた方がマシだ、というのがおやじさんの口癖でして……」

 「可哀相に、その分だと貴様相当苛められておるな」


 と、松岡は笑う。


 「……で、何処の演習場にいるんだ?」

 「王城寺原であります」


 どうします?……と、松岡は植草を省みた。仙台市から北西に20キロほど離れた場所にある王城寺原演習場までは、特に遠いという距離ではない。


 「もちろん夜営する気じゃないよね?」


 統合幕僚長直々の問いに、椙山は背を正した。


 「総監は、1830(ヒトハチサンマル)までに戻ると仰っておられました……!」


 植草は、松岡に向き直った。


 「じゃあ、待たせてもらおうか?」


 話は、決まった。同時に、椙山が躊躇いがちに植草に口を開いた。


 「……ところで、松岡閣下はともかく、統合幕僚長閣下御自ら如何なる御用でここまで足をお運びになられたのでありますか?」

 「私か?……私は見ての通り、スカウトマンとしてここに来たのだよ」

 「…………?」


 微笑を浮べる植草に、狐に抓まれたような表情を隠さない椙山に、込上げる笑いを必至で噛み殺している松岡がいた。



 「おやじさん」というのが、阪田 勲に対し彼の部下が呼ぶ親しみのこもった別名だった。


 階級は陸将。四年前より同管区内の第9師団長より昇格し東北方面隊総監を勤めている。59歳と言う年齢は陸自の将官の中でも最先任に位置するのは勿論のこと、そろそろ退役し防衛省の関連企業で第二の人生を歩むか、市井で悠々自適の余生を送るかの選択を迫られる時期でもある。だが陸上幕僚監部、ひいては防衛省としても容易に彼を手放せない時期に、現在の日本は置かれていた。


 防衛大学校を卒業後、「転移」前の「前世界」において自衛隊初の海外展開となったカンボジアPKOに、警備部隊幹部として派遣されたのを皮切りに、モザンビーク、ゴラン高原、さらには東ティモールから、歴史的な「9.11」を皮切りに勃発した地球規模の対テロ戦争の一環たる「イラク戦争」後の国際協力業務に展開した派遣部隊の中にも、彼の姿はあった。


 その後も硝煙の匂いに導かれるかのように彼は軍歴を重ね、誰もが気付いた頃にはこと戦場経験に関し、阪田のそれは他の追随を許さないものとなっていた。そして、運命の「転移」を経て日本が周辺地域の国際紛争に本格的な関与を行うようになった現在に至るまで、彼以上に戦場を経験している自衛官は、日本には一人としていない。


 「阪田は戦場の匂いを知っている」


 誰とも無くそう言い、阪田を賞賛した。だが殺伐とした戦場経験は、彼の人格を孤高の彼岸へと近付けてしまったようである。如何なる時もニコリともせず、決して部下に心中を吐露することの無く、むしろ幹部に対しては辛辣ですらあった。その現場第一主義と泰然さ故、返って士卒の信仰にも似た敬意を集めていることもまた、確かではあるが……その彼の戦場経験は、今後日本が直面するであろう事態に有用となることはあれ、無用であるとは決して言いきれない。


 「……で、仮にも統合幕僚長ともあろう者が、私服で神聖なる駐屯地に足を踏み入れるとはどういう了見であらせられるのか?」


 時間にして1827(ヒトハチフタナナ)。既定より早くに駐屯地に帰着し、二人の前に姿を現した阪田 勲は、嶮しい目付きもそのままに彼の上官を見据えた。その声の質は重く、一切の柔和さとは無縁な響きを持っていた。


 短く刈り上げられた髪の毛は、年に似合わず艶やかな銀色の光を放っており、太い眉の下では、他者を威圧する眼光が鷲のような鋭さを際立たせている。だいぶ肉が付いた頬と首周りは、彼にかえって一軍の将たる威厳を際立たせ、相撲取りのような堂々たる体躯は見る者に肥満と感じさせることなく、むしろ大地を蹴立てて今まさに突進しようかという猛牛を思わせた。立場こそ陸海空自衛隊全部隊を指揮監督する立場にあり、阪田より上席であるはずの植草ではあったが、歴戦の勇将然とした彼の前では上級生に睨まれた新入生宜しく畏まるしかない。


 だが、植草は言った。


 「単刀直入に言う。阪田陸将、貴官に、頼みたいことがある」

 「それは、引退勧告ですかな?」

 「違う……貴官に、転任して頂きたい」


 阪田は咥えていた煙草を、ニュームの灰皿に押し潰した。


 「ほう……この老いぼれを、幕僚長どのは何処で使うおつもりか?」

 「スロリアです」

 「…………?」


 二本目の煙草を抜こうとした指が、止まった。憮然とした表情こそ変わらなかったが、目の光が興味とは言わぬまでも関心にも似た光を含んだものに変わっていた。

松岡が、すかさず植草の言を補足する。


 「スロリア派遣PKFの総司令官に、貴官に就任していただきたい。当然、貴官が存分に采配を振るえるよう、あらゆるお膳立てはこちらでさせて頂きます」

 「陸幕長……老人をからかうとは、あまり感心しませんな」


 立場を弁えない傲岸不遜な物言いは、阪田の特徴であった。それ故に、これ以上の昇進の途を閉ざされてしまっていると言えるのかもしれない。


 ……だが、植草は微笑んだ。待ちを楽しむ釣り人のような余裕を、彼はその全身から漂わせていた。


 「有事の際、スロリアに展開するであろう陸海空全ての自衛隊があなたの指揮下で動く……考えただけで、胸が高鳴りませんか?」

 「陸自だけではないのか?」


 植草は、頭を振った。


 「とんでもない。単なる縦割り指揮ではこの戦には勝てない。だが陸海空を纏めて敵に当たらせるのには、皆を黙らせるほどの強烈な個性が必要になる……それが貴官だ。阪田さんには、文字通りの総司令官になって頂く。この植草が、職を賭してそうさせる」

 「つまりだ。わしに、シュワルツコフになれと言うのか?」

 「そう、スロリアというクウェートを奪回するシュワルツコフ将軍に、貴官になって頂きたい。この際はっきりと言っておくが、私と松岡君ともに、スロリアPKFの指揮を任せられるのは貴官しかいないと思っている」

 「それは……わしを煽てているのかな?」

 「煽てに乗らない貴官だからこそ、こうして三顧の礼を以て我々はここに来た……!」


 植草の目が、何時の間にか真剣な光を湛えていることに、松岡は気付いた。それは剣道で、相手の面に竹刀を振り下ろす瞬間にも似た裂帛の気合。又は、戦闘機乗りとして目標に爆弾やロケット弾を撃ち込む時も、彼は同じような目付きで照準を睨んでいたに違いない。


 植草に睨まれてもなお、阪田は腕を組み押し黙ったままだった。その眼光は、未だ二人を寄せ付けないかのように硬い輝きを放っていた。一方で沈黙が続く内、植草の目からは次第に気迫が薄れ、やがてそれは霞むように消えて行った。後に続いたのは、軽い微笑。


 「今直ぐに決めてくれとは言わない……だが、我々は貴官の答えが欲しい。それだけは、阪田さんの胸に入れておいて欲しい」


 ―――――総監部を出、直ぐに帰路に就いた植草に、松岡は聞いた。


 「やはり……阪田さんでは無理みたいですね」

 「いや、あれは了解の意思表示だ」

 「なんですって?」


 驚愕の色を隠さない松岡に、植草は言った。


 「阪田さんは、必ず上京してくる。上京して、私の前でこう言うさ、わしに指揮を取らせてくれっ……て、ね」

 「そう上手く、行くでしょうか?」


 松岡の問いに、植草は自信ありげに頷いた。


 「あの人にはやはり……将器がある。将器がある人間は、その使い所を知っている。阪田さんにとってその使い所とは、スロリアだ」

 「閣下は、やはり彼しかいないと?」


 植草は、天を仰いだ。


 「おそらくスロリアで……あの人は自分の戦いを終わらせるつもりでいる。我々には、それに応える義務がある」




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