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幻の“MIKIKOチーム版”五輪開会式を完全再現!【電子版オリジナル】

もし実現していたら、どうなっていたのか。小誌が入手した写真と資料で再現してみると……

「週刊文春」編集部

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 8月8日に閉幕を迎える東京五輪。小誌はかねてより、その最大のセレモニーである開会式をめぐる混乱ぶりを報じてきた。混乱の原因は昨年5月、演出振付家・MIKIKO氏が演出責任者の座を突如奪われたこと。MIKIKO氏に代わって責任者の座に就いた電通出身のCMクリエイター・佐々木宏氏は、既に完成していたMIKIKO氏の企画案を無残に切り刻み、作り替えた。しかしその佐々木氏も今年3月、小誌に渡辺直美をブタに喩える不適切な企画案を提案したことを報じられ、辞任に追い込まれた。

 小誌はMIKIKOチームが完成させた“幻の企画案”を入手し、その内容を報じてきた。昨年4月6日付で、IOCにプレゼンをするために作られたものだ。MIKIKO氏はこの企画案の完成に心血を注いだ。そもそも、MIKIKO氏が演出責任者になった2019年6月の時点で、企画は完全に白紙だった。MIKIKO氏は、合計で約7時間に及ぶ開閉会式を、一から作り上げなければならなかった。「この仕事が終わったら引退する」と周囲に漏らすほど、不眠不休で精魂を傾けたのだ。

 それはMIKIKOチームに集ったクリエイターたちも同様だった。ステージの演出方法、開会式を通底するストーリー作り、衣装の方向性……。精鋭のクリエイターたちであり、それぞれが多忙だったが、そんな中でも五輪最大のセレモニーのために、豊かな才能を持ち寄り、磨き、融合させていく。そうして完成したのが、この281頁に及ぶ企画案なのだ。衣装のデザインからキャストのブッキングまで、準備は整えられていた。あとは本番を待つだけのはずだった。

 MIKIKO氏をはじめ、MIKIKOチームに集った日本が誇るクリエイターたちが身を削る思いで作り上げたにもかかわらず、佐々木氏への交代によって、封印されることになった”“幻の企画案”。税金が投入され、国民にさまざまな負担が求められた東京オリンピックはどのように迷走していったのか。五輪が閉幕した今、迷走を象徴する貴重な歴史資料として、失われた”MIKIKOチーム版の開会式”を完全再現する。

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 始まりを告げるカウントダウン。セレモニーは、大友克洋氏の漫画『AKIRA』の主人公の愛車・赤いバイクが新国立競技場を駆け抜ける場面で幕を開ける。カウントダウンがゼロになると、会場の中央に鎮座していたドームが弾け、中からステージが現れる。立っているのは、perfumeの三人だ。どこからか聞こえる「Welcome to Tokyo」の声。これを合図に流れ出すのは、音楽プロデューサー・中田ヤスタカが書き下ろした楽曲だ。

 
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 perfumeが立つステージの周囲に、プロジェクションマッピングで東京の街が次々と映し出される。最初は渋谷だ。ワイヤーフレームが、渋谷のビルを再現する。perfumeの立つステージは、さながら渋谷のランドマーク・SHIBUYA109だ。さらに街並みは変化し、歌舞伎町、秋葉原、アメ横……。途中までモノクロだった風景は、突如、色とりどりのネオンで輝きだす。そして映像は変わり、東京の地下鉄ネットワークが映し出される。

 
 
 
 
 
 

 そこへ、ワイヤーフレームで出来たクルマで登場するのが、歌手兼ダンサーの三浦大知。従えているのは、東京駅の駅員に扮したパフォーマーたちだ。

 

 三浦大知の顔がプロジェクションマッピングで映し出されると、それが少しずつ木の根に変化していく。会場いっぱいに広がった根は、巨木となって、空へと伸びていく。樹木の生命力そのままに、女優・土屋太鳳と、世界的ダンサーの辻本知彦が舞う。

 
 
 
 

 三浦大知の顔は、やがて瞳となり、時計となる。時計の中心で踊るのは、Aya。マドンナのバックダンサーを務めたこともある実力派だ。

 会場には、光るフレームで形作られた茶室が現れる。中には、世界的ダンサーの菅原小春らが静かに座っている。やがて始まる菅原のダンスは、弓射など、日本の伝統的な動きが取り入れられている。

 
 
 
 
 
 
 

 そして――。フィールドには、光るフレームで作られたビル街が、 “ネオ東京”を形作っていく。未来の希望へ満ちた都市で、ダンスユニット・東京ゲゲゲイと高校生ダンサーたちが跳躍する。そして会場には、大友氏が新たに描き下ろした“ネオ東京”が浮かび上がる。

 
 
 
 

 鈴の音が鳴る――。会場の中心が、一筋のスポットライトで照らされる。光を浴びるのは俳優・森山未來。輝く杖を地面に突くと、音楽が流れ始める。森山が舞うと、その動きに合わせて、周囲の空間に出現した幾何学模様が美しく波を打つ。

 ゲートから光が差し込み、光の道をたどって、日本国旗が運ばれる。先導するのは、ランタンを持った子どもたちだ。

 
 
 
 
 
 

 1964年東京大会の競技映像を振り返るのは、「伝説のオリンピックガードマン」渡辺直美だ。振り返りが終わると、渡辺は最後の準備をするために、コントロールルームのチームメンバーたちにキビキビと指示を出す。日本のオフィスさながらに、スタッフたちは皆慌ただしい。そんな中、スクリーンには「READY?」の文字が現れる。スクリーンは移動して、コントロールルームを丸く取り囲む。会場にはさまざまな言語で「READY?」の文字が。渡辺らが上空を見上げると、そこには拡張現実(AR)で地球が出現する。

 地上では、ひとりでに走る光る球と呼吸を合わせて女性ダンサーが舞う。上空に現れたドローンは、フィールドのプロジェクションマッピングの変化にあわせて、五輪のエンブレムから地球へと、鮮やかに変化していく。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 いよいよ選手の入場だ。世界大陸を模したステージの合間を、各国のアスリートが行進する。

 入場が終わると、空中に出現する世界地図。やがてその地図は、会場の中心に吸い込まれていく。その先にあるのは、IOC会長や組織委員会会長のためのスピーチ台だ。

 
 
 
 
 
 
 

 天皇の開会宣言が終わると、世界大陸をかたどっていたステージは、鳩のフォルムに。空からは、鳩をかたどった無数の紙飛行機が降ってくる。

 
 
 

 競技紹介は任天堂の宮本茂代表取締役が監修したものだ。会場のスクリーンに流れるビデオでは、2016年リオ大会にも登場したスーパーマリオが、土管を通って東京にやってくる。マリオがボールを投げると、ボールは日本が誇るキャラクターたちに次々とパスされていく。ハローキティから『キャプテン翼』の大空翼、ドラえもん、『ドラゴンボール』の孫悟空、パックマン、ソニック、ピカチュウ……。最後に再びボールはマリオの手に。マリオはそこから、会場に設けられた二つのスクリーンにダイブ!そして始まるのは競技紹介だ。キャラクターのCGたちが登場し、盛り上げていく。

 
 
 
 
 
 
 

 いよいよフィナーレだ。先ほどは鳩の形だったステージが、今度は聖火ランナーをかたどった“ヒューマンステージ”に。聖火を持って走るランナーのフォルムだ。最後の聖火ランナーは、ヒューマンステージの心臓部にある点火台に火をともす。すると、ヒューマンステージの輪郭をなぞるように次々と花火が燃えていき、火は聖火台の頂点に到達する。

 東京五輪の始まりだ――。

 
 
 
 
 
 
 

 これが、幻となった“MIKIKO版開会式”の全貌である。MIKIKO氏だけではなく、MIKIKOチームに結集した約五百人の魂が込められた、失われた企画案。クリエイターの才能や努力が水泡に帰すのは、これで最後にしなければならない。

source : 週刊文春

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