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転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります 作者:藤森フクロウ

本編

208/209

スノーエナガ

シマエナガって可愛いですよね。


 ヴァユの宮殿には本日、お客様がいらっしゃっています。

 なんと、世界一可愛いわたくしの心の妹ジブリールと、クリフ髭伯父様です。

 ジブリールからは先触れがありましたし、クリフ伯父様は親戚特権を使ってちょこちょこ顔を出していたのがバッティングした形です。

 たまたま私が広げていた図鑑を見て、二人ともフラン子爵家の家紋の相談に乗ってくれることになりました。


「蛇」


「蠍」


「蜘蛛」


「何故そんな物騒な毒持ちの生き物ばかりを選抜するのですか?」


 上からクリフ伯父様、ジブリール、アンナです。

 みんな揃って「バチクソ危ないぜ! ヘイヘイヘーイ!」と主張するような、警戒色がばっちり決まった生き物を提示してきます。

 なにこの黄色と紫の縞々と水玉があわさったようなの。目がちかちかしますわ。こんなの刺繍したくない……。目と心がすごく疲れそう。


「ではトリカブトやジギタリスは如何ですか? 紫色の美しい花を咲かせますよ」


 アンナが直球で来ました! 知っていますわよ、それは毒花だということは!


「毒草では?」


「ではスズランや水仙」


「それも毒を持っておりますわよね?」


 水仙は毎年春先にノビルやニラと間違えた山菜や野草のド素人があたるのを前世のテレビで見ましたわ。あと球根をゆり根と勘違いする方もいるそうです。

冬の冷たい寒さのなかでも懸命に咲く清廉な姿、わたくし嫌いではないの。

 スズランはガーデニングでよく見ますけれどあれも毒持ちです。


「もうっ」


 なんでジュリアスを全て毒々しい生き物とつなぐのでしょうか。

 確かにちょっと辛口・毒舌家なところもありますが。

 わたくしは鳥の図鑑を手に取ります。普通の鳥も魔鳥もフルカラーで記載されているのがとても良いのです。

 なんとなく広げたページには、様々な小鳥が記載されていました。

 燕に似た小鳥が何種類も描かれています。その中で背中は黒に近い深い青で、翼や尾羽が鮮やかな紫色の鳥が目に入りました。お腹から顔までは白く、黒スグリの様な瞳が愛らしい。

 それが幼い頃のジュリアスに少し似ていた。あの頃から華奢で可愛らしい美少年でした。

 燕尾服にも似たそれが、黒を基調としたラティチェの公爵家の御仕着せを思い出す。

 今では美少女みは綺麗にすっきり消えて、完全なる美形ですが。


「これにしましょう! この鳥、えぇとスノーエナガ?」


 メスを見れば、シマエナガそっくり。

 カワセミの様に鮮やかな光沢のある艶やかな羽根。紫や青、緑といった色合いが出るのはオスだけだそうです。

 オスはメスを巡ってバチバチに争うらしいです。メスは丸いフォルムなのに、オスはすっきりフォルムなのは空中で喧嘩をしまくるだからそうです。

 ですが、基本求愛は美しい羽色を誇示することですが――喧嘩が弱く色鮮やかな美しい羽を毟られまくった弱いオスは、婚活宣戦を離脱せざるを得なくなるそうです。

 求愛ダンスやアピールをできなくなるそうよ。

 ちなみに羽根はオスだけ白い羽から生えかわり、特別な摂取する餌によって徐々に色味の濃いものに変わっていくそうです。餌で色が変わるって、フラミンゴみたいですわね。

 つまり、本来は白いのね。このスノーエナガは。

 でもとっても可愛らしい小鳥ですわね。手のひらサイズだそうです。

 わたくしがふんすふんすと興奮気味にどうかと聞いてみたら、みなはなんだか生温く微笑んでいます。何故に。


「いいんじゃないか?」


 クリフ伯父様は、相変わらずわたくしを見る目がデレデレです。シャキッとなさってください。


「相応しいと思いますわ」


 ジブリールも意外とすんなり。にっこりと大輪の笑みがとにかく可愛い……語彙が蕩ける。とても可愛い……あれ? 何を考えていたっけ?


「流石姫様です」


 アンナもこっくりと頷く。

 ……先ほどまで、やたら毒々しい生き物を推奨していたのに何故?

 まあいいですわ。小さくても賢い上、強いらしいですわ。魔鳥らしいのです。














 『スノーエナガ』 

 基本的には大人しい。メスは温和で臆病であるが、オスは縄張りやメスの争いが絡むと豹変する。

 非常に小型な魔鳥だが、魔法を駆使し攻撃する上にオスの成鳥は毒爪や毒羽で攻撃をしてくる。

 メスは木の実はや花の蜜を主食にするが、オスはそれ以外にも毒虫や毒蛇といったものを主食として将来のメス争奪戦に備えて蓄毒する。色鮮やかな羽色は、その毒餌の影響が大きい。

オスたちは美しい羽を得るため、様々な毒を蓄積しようとする。

 普通、多種多様な毒を摂取すれば死ぬが、スノーエナガたちはそれに耐え続けた子孫が生き残っている為、潜在的に多種多様な耐毒性がある。

 また、巣に残ったスノーエナガたちの卵の殻は解毒効果がある。もし耐えるのが難しければ、巣に戻り卵の殻を啄んで回復するのを待つ。

 毒は自分と、番となったメスには効かない。それは番が成立すると、オスはメスに自分の毒を無毒化させる、特別な羽根を贈る。

 番の絆は強く、一度番が成立すると互いを非常に慈しみ合う。

 ちなみにオスとメスの対比が8:2というとんでもない比率の為、非力でダサいモテないオスはひたすら群れの防衛に回りながら来年の婚活時期まで待つ。

 番を変えないという性質から、成立した番から新たなメスが生まれるのを待つしかないのだ。

 一方、基本メスは巣穴にいることが多い。長年、スノーエナガ(メスと蓄毒の少ない若いオス)はドクエナガ(成長したオス)と別種とされていた。

 近年になり、ドクエナガとスノーエナガの謎が共生ではなく、同種による群れと解き明かされた。




――最新版、サンディス王国鳥獣類図鑑より抜粋。



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