爆益の彼方に到達する試みはBTIへの集中投資によって完全なる失敗に終わった。
ギャルとの饗宴、タワマン、高級車、ロレックス、ヘネシー、キューバ産の葉巻…。そういった諸々を諦めて東京の賃貸を引き払い、死んだ祖母が住んでいた瀬戸内の小都市にある空き家に移住することを考えている。庭に雑草が生い茂る、崩れかけのボロ家である。
GE坊やは先祖伝来のその地で、レンズ豆と唐辛子の慎ましいスープ、種なしのパンを食しつつ、隠者として生きることになろう。
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株式投資で爆益を得てFIREするのではなく、投資をしくじって都落ちするのである。
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親の金を運用していたら、なおかつBTIに集中投資をしていなければ、いま頃は10億円になっていたかもしれない…。そう考えることもある。
かつて、家の外まで聞こえるような大声で「現金はゴミ!株で運用すべき!GE坊やに運用を任せて!」と主張したところ両親は激怒した。それ以来、こいつはアホなのではないかという不審の眼で見られている。
もちろん、GE坊やの提案は一笑に付された。他人のカネを運用したいならまずは実績を示せと言われたが、震えながら「ぴ、ピッヒー…。」と答えるのが精いっぱいであった。
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思えば、米国株投資を始めてからの10年間は、ファウストの如き昏い衝動に突き動かされた時代だったのかもしれぬ。
株式投資で爆益を得てこの世の楽しみを究めなければならないという鬱勃たるパトス、あるいは内なる獣に駆られていたのである。
だが、GE、そしてBTIの長期クソ化により精神が消耗し、珍子が勃たぬようになり、頭がM字に禿げ上がって、すべての希望は失われた。鏡を見ても、BTI前と後ではまるで別人である。たった2年半で、ここまで顔貌が変わってしまうのかと慄然とする。
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それはいい。
ともかく、GE坊やは株式投資を離れ、古い家を改修し、薪で風呂を沸かし、畑でトウモロコシと大麦を育て、魚を釣り、瀬戸内海に沈む夕日を眺める生活をしようと思っている。