安倍前首相は国会の場で説明を…検察も不起訴ありきではなく説明責任を果たせ
補填疑惑が持ち上がった時、安倍氏側がきちんとホテルに問い合わせるなどしていれば、国会で内閣総理大臣が118回も虚偽答弁を行う、とんでもない事態にはならなかった。安倍首相は疑惑が向けられると、いつも野党議員に敵がい心を燃やすばかりで、真相解明や国民に向けての真摯な説明を避けてきた。
加えて、安倍氏はネポティズム(権力者による身びいき)で、日本の政治を荒廃させてきた、との批判もある。「桜を見る会」を巡る一件はその象徴ともいえるだろう。
この催しは本来、「各界において功績、功労のあった方々をお招きし、日頃の労苦、慰労をするためなどのため」に行われる公的行事だ。にもかかわらず、安倍氏などの後援者が数多く参加し、マルチ商法で知られる反社会的な人物が招かれ、それを悪用していることも明らかになっている。公的行事の私物化だ。
安倍氏は議決書の「付記」を熟読し、自らを省みて、国民に語るべきことがあるのではないか。野党は国会での証人喚問を求めている。自民党の判断を待つことなく、安倍氏自ら、求めに応じて、国民に向けて語るべきだろう。
検察も、不起訴ありきではなく、議決書が指摘した捜査不足の点をしっかり調べ、それを国民に説明してもらいたい。検察は不起訴事件の詳細を公表しないことが多いが、今回は安倍氏が現職の内閣総理大臣だった時期の容疑である。検察には国民への説明義務があるといえよう。
たとえば公選法違反容疑について。検察は最近、菅原一秀・元経済産業大相を同法違反で略式起訴した(罰金40万円、公民権停止3年の略式命令確定済み)。当初は、香典や枕花など合わせて30万円分を選挙区の人に寄付していたと認定したうえで、起訴猶予としたが、検察審査会の「起訴相当」議決を経て再捜査の結果、地元の行事に参加した際の祝儀などを含め約80万円分の違法の寄付をしていたことがわかり、判断を一転させた。
一方、安倍氏側の会費補填は、2016~2019年の4年間だけで708万円に上る。参加者ひとり当たりにすれば、金額は少額かもしれない。しかし、菅原氏が、地元団体が催す行事に出した数千円から1万円程度の祝儀も違法な寄付と認定されて立件されたことを考えれば、安倍氏側のケースも同様に考えるべきではないだろうか。安倍氏を再び不起訴にするなら、検察はそれについての説明が必要だ。
また、ホテルは「晋和会」への領収書を出したのに、後援会が支払いの主体とする判断を維持するのかどうかについても、検討や説明が求められる。
この事件は、まだ一件落着ではない。
●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か – 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。
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