2017年3月。警視庁内にSSBCの分析捜査官を中心メンバーとするプロジェクトチームが密かに発足した。AI(人工知能)の導入やビッグデータの捜査への更なる活用について推進する警視総監直轄の専従チームである。人工知能が遂に捜査の現場で活用されるのだ。AIを活用した犯罪プロファイリングシステムの流れはこうだ。
犯罪の手口、犯罪心理、容疑者の供述、容疑者の行動特性、被害者の足跡などの犯罪に関する知見と、警視庁が持つ犯罪発生日時、立地環境、気象条件、交通量などの犯罪ビッグデータとを、AIを搭載した大型コンピューターにインプットする。
AIの深層学習機能によって、犯罪が起きる確率が高い場所、時間帯に加えて犯人の行動特性や手口を予測することが可能という訳だ。そして、AIが抽出した場所や周辺を重点的にパトロールすることで事件を発生する前に防ぐことができるのだ。
そして2018年4月。文京区小石川に総勢500人から成る、分析捜査の拠点が誕生した。
その名も「サイバービル」だ。このサイバービルには刑事部捜査一課ハイテク犯罪捜査係、刑事部SSBC分析捜査係、生活安全部サイバー犯罪対策課、公安部サイバー攻撃対策センター、警務部サイバーセキュリティ対策本部、東京都警察情報通信部情報技術解析課の6つの所属部署が入っている。
いずれもインターネット空間での犯罪、サイバー攻撃対策などの分析捜査に日夜当たっている部署だ。
4月2日には吉田尚正警視総監(1983年警察庁入庁)が出席して開所式が開かれた。吉田は「デジタル技術に知悉した犯罪、サイバー空間の脅威も深刻化している。それぞれの部署が持つ強みを活かしてほしい」と訓示している。サイバービルが開所したことについて吉田は特別な思いがあったにちがいない。
吉田は警視庁刑事部長時代の2012年には特別手配犯のオウム信者追跡を指揮して逮捕した。その際に吉田は「防犯カメラ画像の公開」を指示したとされる。市民・国民の眼が追跡捜査を後押ししたのだ。吉田は更に同年、SSBC内に「モバイルチーム」を発足させている。
5人で構成され、文字通り警察が持つ膨大な犯罪ビッグデータにアクセスできるノートパソコンを携えて現場に臨場し、犯人を追い詰める精鋭部隊で現在も事件捜査に活躍している。吉田は言う。
「SSBCは全庁的に捜査支援する部署として誕生した。10年が経過し、サイバービルに分析捜査のプロたちを集結させ、所属の垣根を取り払い緊密に連携することで警視庁の総合力を発揮できると考えている」
SSBCが10年を費やしリードしてきた分析捜査。警視庁という日本最大の警察組織の未来を支える存在として進化は続く。
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