収集・確認された画像はリアルタイムで、東京・桜田門の警視庁本部に届けられていた。本部に隣接する警察総合庁舎第2別館4階にSSBCの拠点が置かれている。その1室のパソコンを10人の捜査員が覗き込んでいる。ディスプレーには被害女性の傍らの男の顔が拡大され、鮮明化されていた。
「顔認証チェックかけます」
顔認証を行う「顔画像識別システム」は対象者の写真・画像データと防犯カメラ画像などからトレースした顔写真との「特徴点」を見出し、犯歴・指紋・手口など警察当局が持つ犯罪ビッグデータと照合。被疑者の特定を進める最新鋭のツールである。
「A号ヒットしました!」
A号とは警察内部の犯歴照会の符牒のことを言う。A号にヒットしたということは、つまり何らかの犯罪で逮捕歴があることを指す。男は、スカウトした女性を風俗店にあっせんしたとして職業安定法違反で茨城県警に逮捕されていたことが判明。女性と歩く男の身元が忽然と浮上した瞬間だった。
捜査を主導する捜査一課では容疑者特定の報を受けて、密かに一種手配(指名手配)を警視庁管内と神奈川県警内に発令する。
被害者が利用していたSNSの分析捜査も容疑者の男を確実に追い詰めた。被害者の兄が、短文投稿サイト・ツイッターで男と妹がやりとりをしているのを確認し、相手の男に関する情報提供をツイッター上で呼びかけた。すると男とやりとりしたことがあるという女性が名乗り出たのだ。
警視庁は女性に捜査協力を依頼。東京都町田市内の駅で待ち合わせるよう、依頼した。男は待ち合わせ場所に現れたが、警視庁はあえて女性と接触させず、男をそのまま尾行した。
男は小田急線相武台前駅で下車する。後をつける捜査員。男は座間市内のアパートに入っていった。そして10月30日の夕方。捜査員が踏み込み、室内から白骨化した遺体の一部などがクーラーボックスから多数発見され、死体遺棄容疑で逮捕されたのである。
SSBCの分析によれば男は9人を殺害遺棄した後も、ツイッターで「首吊り士」などと名乗り、自殺志願者たちと接触を持ち続けていた。
防犯カメラ捜査で犯人を浮上させ、SNSを逆に利用し、犯人を現実世界におびき出し逮捕する。座間の事件では警視庁SSBCが誇るビックデータ分析捜査がフル活用されていたのである。
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