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無欲の聖女は金にときめく 作者:中村 颯希

第一部

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1.レオ、レーナになる

 その日、レオは朝からついていた。


 孤児院で順番に回ってくる掃除当番を新参の少年に押し付けることに成功し、代わりに行った鶏小屋では生まれたての卵をこっそり手中に収め、新聞配達中には気の良い栗売りのおじちゃんから焼き栗をもらい、パン屋に買い出しに行けば新作を味見させてもらえた。秋空は青く澄み渡り、ついでにパン屋のおばちゃんはなかなかのいい女だった。


 厳しい孤児院長のハンナはよく、「浮ついてばかりいると足元掬われるよ」と子どもたちを叱ったものだったが、この日のレオは、その教えをすっかり忘れ去るくらいには、ついていたし、浮かれていた。何しろ、食欲が満たされたということ以上に、身銭を一銭も切らずにおいしいところを頂けるという幸運が続いたのが素晴らしい。レオは、この世で一番お金が大好きだった。


 幸運のお守りとして首に掛けている金貨に、軽やかにキスを落とす。たっぷり満たされたお腹をさすりながら、それでも習性で小銭が落ちていないか、レオは鷹の目モードで町を歩きはじめた。


 その時である。

 パン屋の裏手、粉引き小屋の外に、彼は気になる光景を見た。


「お……?」


 納屋の外、お絵かき遊びでもしているのか、黒髪の少女が枝を持ったまま地べたに蹲っている。その横顔がはっとするほど美しかったことや、描かれたものが、絵というにはあまりに図像的に優れていたことも気になったが、それより何よりレオを焦らせたものがあった。


「おいおいおいおい……!」


 彼女の頭上、小屋の藁ぶき屋根を押さえていた重石が、今にも落ちそうに、ぐらりと傾きはじめたのである。


 レオは決して善良な少年というわけではない。むしろ、孤児院育ちにふさわしく、少々擦れたところがあったし、更に言えば拝金主義で拝金主義で拝金主義だった――この界隈で「レオが歩いた後には、小銅貨の一枚も落ちてない」と言われるくらいには。


 なので、普段であれば驚きこそすれ、助けに入るとどんな結果が起こるか予想したり、その延長として、どのくらいお礼が貰えるかを皮算用したりするくらいのことはしていただろう。


 それを、つい何も考えることなしに駆け寄ってしまったのは、まったくもって、浮ついていたからに他ならなかった。


「危ねえ!」


 黒髪の少女がぱっと振り向く。艶やかな長い髪が風になびき、頬を打つ様を、レオの目はやけにゆっくりと捉えた。

 駆け寄る靴が地面を擦る音、伸ばした指先が触れた布地の感触、頭上にぐらりと影を落とした巨大な石、そして、いやに眩しい秋の空――


 少女が何事か叫ぶのを耳にしながら、レオの世界は暗転した。



***



 ――……るほど、これが……というわけね。

 ――……で、こちらは……まあ、……ふうになってるの。


 声が聞こえる。


 ――……でもおかしいわね、……で読んだのとは……ああ、そういうこと?


 耳に馴染んだ声だ。

 まだ声変わりを済ませていない、少年特有の伸びやかな音色。教会から合唱団に勧誘されたこともある、密かに自慢の声だ。


 ――……まあ! 不思議な感触ね!


 だがおかしい。これは、自分の声ではなかっただろうか。

 なぜ、それが、「外から」聞こえるのか――?


「う……」


 小さな呻き声とともに、レオは震える瞼をこじ開けた。

 頭が割れるように痛い。そして、焦点が合わない。

 眉間にしわを寄せてじっと痛みをやり過ごしていると、徐々に周りの風景が明らかになってきた。


 薄暗い室内。まず視界に入るのは、大量の本だ。ついで大量の本。そして大量の本。下町では貴重とされる紙の本が、床から天井までひしめき合っていた。本と本との間に挟まるように、衣類やパンの食べ残し、ランプや洗面道具が点在している。


 射し込む光を目で辿り、それが天井の藁の隙間から洩れたものだと気付いて、ようやくここが先程の小屋の中だと理解する。耳を澄ませば、外についている水車がぎしぎしと粉を挽く音が聞こえるし、目を凝らせば、空気中に細かい小麦の粉が舞っているのが見える。小麦粉が夕陽の赤い光を受けてきらきら輝く様は、なかなかに美しかった。


(……って、夕陽!?)


 がばっと起き上がった途端、激しい頭痛に襲われ寝台に倒れ込む、というお約束を果たしたレオは、両手で頭を抱え込んだまま呻き声を上げた。


「あら、目が覚めた?」


 そこにすぐ真上から覗きこまれて、レオはぎょっと目を剥いた。

何の変哲もない茶色の髪に、鳶色の瞳。僅かに残るそばかすと、はしっこそうな顔立ち――毎朝鏡で見る、「自分の」顔である。


「はあ!?」


 咄嗟に頭を抱えていた両手に力が籠り、その手が何かを掴んでいることに気付く。再度ぎょっとして手を振り払うと、一瞬遅れて、艶やかな黒髪がぱさりと肩を打った。


「はあああああああ!?」


 絶叫すると、レオの顔をした少年はうるさそうに眉を寄せて、顔を引っ込めた。


「ちょっとあなた、もう少し静かに驚けないの?」

「いや、は? え、なに? なんで俺が二人、っていうかなんだこの髪、ってか声!」


 髪を引っ張り、ついで顔もぺたぺた触ってみるが、明らかに慣れ親しんだ自身のものではなかった。叫ぶ声すら可憐な少女のものだ。

まさか、と嫌な予感が脳内を駆け巡る。


(いやいやいや、まさか、そんな非現実的なことって)


 その可能性が明確な単語となって浮かぶ前に、頭を振りかぶって否定していると、


「ああもう、ほら」


 やれやれといった口調で、自分の顔をした隣の少年がさっと鏡を差し出した。

 何物かわからない汚れにまみれた鏡――ちなみにレオは割と綺麗好きなので、このような不潔な鏡は、普段なら極力使わない――を覗き込むと、そこには、呆然とした表情を浮かべた美少女の姿が映っていた。


 陶器のように滑らかな頬に、零れそうなほど大きな瞳。長い黒髪は先程もみくしゃにしてしまったためもつれていたが、それでもなお艶々と光を湛えている。


 間違いなく、先程レオが助けようと手を伸ばした少女であった。


「ど……っ」

「入れ替わったのよね、私たち。端的に言えば」

「な……っ」

「申し遅れたけど、私はレーナ。ここのパン屋の娘よ。あなたの顔は見たことあるわ、ハンナさんのところのレオでしょう?」


 まあ、あなたの顔というか、今は私の顔だけど。

 レオの顔をしたレーナは、一音節しか口にできていないレオをよそに、ころころと笑った。

 ……自分の声で「ころころ」とか。レオは静かに戦いた。


 次々と与えられる情報に、頭が追い付いていかない。が、呆然とするレオに、レーナ少年は容赦なく現実を突きつける。


「あなたがぐっすり眠りこけてくれたおかげで、あまり時間がないの。私が説明してあげるからよく聞いて、一度で理解してちょうだい」


 まず、と人差し指を立てる。


「下町育ちのあなたには想像がつかないかもしれないけれど、私には膨大な魔力があって、この明晰な頭脳とあくなき探究心によって、だいたいの魔術は展開できます。魔力持ちの理由は一旦置いておくわね」


 冒頭から突飛な話だ。

 この大陸では、おおよその国が精霊を信仰している。精霊とは、伝説の時代から土地に宿る尊い命であり、それが光や風、炎や水など、様々な姿をまとって人々の前に立ち現われるのである。


 ただ、古には地上を闊歩していたという彼らの姿も、時代が進むにつれその姿を見られる者が減っていき、今では限られた数人――教会を束ねる大賢者や、かなり高位の導師しか、精霊と言葉を交わすことはできなくなったと言われる。精霊の姿が見えない一般の者たちは、折に触れ祈りを捧げ、時に聖職者の力を借りることで、人の力が及ばないできごとを解決してもらうのが常だった。


 一方で、レーナの言う「魔力」とは、精霊信仰とは全く別次元のもので、基本的にはヴァイツ帝国の皇族や、上位貴族だけが保持するものだ。


 ヴァイツ帝国の歴史は古く、この大陸のかつての覇者、龍の末裔とも言われる。その彼らが操るのが、龍の血縁に基づいて発動する力、魔力だった。


 自然や大地の力を分けてもらう精霊力に対し、魔力とは猛々しい龍の血が成す強大な力だ。生まれついて膨大な魔力を持つ歴代ヴァイツ皇族は、ある者は業火を操り、ある者は何万という人の精神に干渉し、またある者は瞬時に大陸の端から端まで移動できたという。そしてそれが、ヴァイツ帝国が永くこの大陸の覇権を握ってきた理由でもあった。


 とはいえ、魔力を帯びた血が流れるはずもない一般庶民には、とんと無縁の話である。大陸に住まう九割の人間にとっては、魔力より精霊力のほうがよほど身近であり、それはレオにとっても同じことだったのだ。


 パン屋の娘だという目の前のレーナ少年は、なのに自身を魔力持ちだという。

 疑いの眼差しで見ていると、レーナはやれやれと肩を竦めてからレオの――というかレオの意識が収まっている少女の腕を引っ張り、「炎よ」と唱えた。途端にぽっと淡い火の玉が小さな掌から出現したので、ぎょっとする。どうやら、この体は本当に魔力を帯びているようだった。


 レオは驚いて「すげえ……!」と口を開きかけたが、それを制するように彼女、いや、彼がぴっともう一本の指を立てた。


「前提その二。私はとある事情から、どうしても、絶対に、なんとしても、その超絶可憐で傾国必至の美貌の体から、抜けだしたい事情がありました。で、文献を読み漁って、対象物と体を入れ替える魔法陣を引いていたわけなんだけど」


 いやな予感に、レオは顔を引き攣らせた。


「ここで不測の事態。孤児院きっての守銭奴少年・レオくんが、何事か叫びながら突進してきたではありませんか」


 レーナ少年は、鳶色の目を眇め、ひょいと肩を竦めた。


「衝突、暗転、気が付けば特大のたんこぶと共に、見事互いの体が入れ換わっていたと……まあそういうわけ」


 レオは呆然とした。


 いまだ現状に頭が追い付かないし、更に言えばにわかには信じがたい話である。

 だが、実際に鏡に映る自分の姿がこうである以上、レーナの話は本当なのに違いない。だとすれば、自分の珍しく良心的な行動はまったくもって余計なお世話だったわけで――その事実が痛かった。


「ちなみに、私がもともと入れ替わろうとしていたのは、このバッタね」


 ひょいとレーナが持ち上げてみせたのは、すっかりひしゃげたバッタの死体だった。


「うぉ!」


 男として虫は好きな方だったが、無残な死体となれば話は別だ。叫ぶレオをよそに、レーナは物憂げにバッタの体を指で撫でた。


「秋の野原を、自由に飛び回ろうと思っていたのに……。あら、でもこの子卵を持ってたのね。危うく男も知らぬまま母になるところだったわ」


 突っ込みどころが多くて、どこから切り込んでいいかわからない。そして、レオの経験に照らせば、昆虫好きの人間なんていうのは、大抵が変人か引き籠りか人間嫌いだ。


「……まあ、それもよかったかしら。汚らわしい男なんかと触れ合わずに、一生ここで子どもたちと一緒に引き籠っている人生というのもまた」

「…………」


 ほら見ろ、とレオは思った。

 ついでに、もしレーナがバッタと入れ替わっていたら、もれなくじたばた飛び跳ねる美少女が出来上がっていたわけか、と考え、ぞわっと背筋を凍らせた。


「ひとまず、大体の事情はわかった」


 レオは不気味な考えを振り払うと、さっさと現実的な問題に立ち返ることにした。


「それじゃあんたは、新しいバッタを見つけるなりなんなりして、早く俺の体を元に戻してくれ」

「そうそう、それでなぜ私が魔力を持っているかというとね」

「おいコラ」


 いらっとしたレオがレーナを遮ろうとすると、それよりも早く爆弾を落とされた。


「私が、ハーケンベルグ侯爵家のご落胤だからよ」


 しばし、沈黙。


「――は?」


 レーナ少年は、レオの顔のままにこやかに繰り返した。


「だから。私は、帝国を揺るがした『フローラの禍』の当事者にして被害者、クラウディア・フォン・ハーケンベルグ侯爵令嬢の娘なのよ」

「はあああああああ!?」


 レオがまたも絶叫してしまったのは、無理からぬことだろう。


 フローラの禍。

 それは、ヴァイツ帝国領土内で知らぬ者はいないとまで言われる、大スキャンダルだ。


 事の始まりは、今から十三年前。ヴァイツ帝国が国の威信をかけて優秀な人材を育成している、ヴァイツゼッカー帝国学院に、庶民上がりの少女が入学してきたことで、全ては狂いだした。

 少女の名は、フローラ。花のような愛らしさを持つ、天真爛漫な女性だったという。


 国内外に門戸が開かれているとはいえ、基本的には魔力を持つ――つまり、高貴な血筋に連なる者しか入学が許されない学院にあって、庶民出身ながら膨大な魔力を有した彼女は異質であった。

 どの皇族の血をも引いていないながら、入学時の魔力計測で、測定器を破壊するほどの魔力を見せたフローラ。入学後も彼女は魔力を揮い、めきめきと頭角を現していった。


 それだけであれば、心躍るサクセスストーリーで済んだであろう。

 問題は、彼女の行動、およびそれに振りまわされた周囲である。

 膨大な魔力を持ち、けれど貴族とは異なる価値観を持った彼女は、学生たちに相当鮮烈に映った。その時学院に在籍していた、当時の第一皇子、宰相の息子、はては騎士団長の息子や隣国の王子など、学院カーストの最上位を占める青年たちが、次々にフローラに陥落していったのである。


 あおりを食らったのは、それぞれの婚約者である。中でも、幼い時分より正妃にと定められていたハーケンベルグ侯爵家の令嬢、クラウディアは、婚約者である第一皇子に突然変心されたあげく、一方的に婚約破棄を突きつけられた。

 当時学院の薔薇と謳われていた誇り高きクラウディアは、根気強く皇子を諭したものの、聞き入れられず、果てには皇子を中心とした裁判のもと、帝国から追放されてしまう。


 学院には皇帝ですら立ち入れない強力な治外法権があり、クラウディアの家族が事の次第を知ったのは、全てが終わり、彼女が身一つで学院の門外に放り出された後だった。


 箱入りで育ったクラウディアは夜の街を彷徨い、しかし夜盗に襲われ、不幸なことに妊娠してしまう。家に帰ることもままならなくなった彼女は、幼馴染の従者一人を連れて下町に下り、なれぬ庶民暮らしの末に娘を出産した。


 一方、憤怒の侯爵家は皇子たちを厳しく弾劾、調査。そして明らかになったのは、皇子をはじめ、学院の多くの者たちは、フローラの魅了の魔術に掛かっていたということだった。つまり、フローラはごくわずかな魔力の持ち主であったにもかかわらず――その程度なら、平民にも稀にあることである――、関係者を魅了することでそれを偽っていたのである。彼女の最終目的は、眉目秀麗で知られた皇子の正妃に収まることであった。


 全てが白日のもとに晒されてから、帝国は大人数を動員して侯爵令嬢を探索したが、ついに彼女が見つかることはなかった。僅かに残っていた情報を繋ぎ合わせて知れたのは、彼女が出産の際に命を落としたという悲報だけ――


 以降、帝国では女児に「フローラ」という名を付けることはなくなった。

孤児院暮らしのレオですらこれくらいの概要は知っている、それほどの事件である。


「……いやいやいや、どうして帝国軍が探し回っても見つからなかったクラウディアの娘が、こんな、帝国のど真ん中にいるんだよ!」


 ここ、リヒエルトは、ヴァイツ帝国の首都である。

 レーナはひょいと肩を竦めた。


「ほとぼりが冷めたのを待って戻ってきたからに決まってるでしょう。お母様は隠れ鬼の天才なのよ。あの下町同化っぷりは、十三年の時を経て今や伝説レベルにまで進化」

「ていうか母親生きてんのかよ!」

「あなたも毎日のように会ってるでしょう? パン屋の女将、あれお母様だから」

「あのおばちゃんかよ!」


 てっきりパン屋には、養女として引き取られでもしたのかと思い掛けていたレオだった。


「龍をも殺すと言われた白炎を操るお母様の腕で、今日も『パン屋ディア・ディア』は大繁盛です、毎度ごひいきにどうも」

「白炎でパン種温めるなよ! ていうか前から気にはなってたんだけどディア・ディアってネーミングはそれでいいのかよ!」

「ちなみに、夜盗に襲われただなんてデマを流して、ちゃっかり私を仕込んだ元従者のお父様は、今日もお母様とアツアツだし、お父様の焼く栗もアチアチです」

「さっき焼き栗くれた、あのおっちゃんかよ!」


 悲運の令嬢の代名詞で語られるクラウディア嬢、および「フローラの禍」の裏事情に、レオは目眩を覚えた。


「さて、一本調子で芸のないツッコミが一段落したところで、話の続きをさせてもらうと」

「いやおまえ年頃の少年に向かってそういうとこでさりげなく抉るなよへこむから」


 レーナはふと声の調子を落とした。


「私たち家族は、つましい暮らしで満足しているにもかかわらず、龍の呪いに引き裂かれ、不幸のどん底に陥れられようとしているのよ」


 鳶色の瞳は、普段自分が見ているものとは思えないほど、暗い色を宿した。


「ヴァイツゼッカー帝国学院――帝国が誇る学院だけが、どうして脈々と優秀な人員を輩出してきたかわかる? 他にも学園は多くあるというのに。それはひとえに、学院が龍の呪いを使って、皇族の血に連なる者たちを囲い込んできたからよ」

「龍の呪い……?」

「そう」


 レーナは顔を上げ、まるでそこに敵がいるとでもいうように虚空を睨んだ。


「皇族に連なる血は、龍の血。魔力を帯びた血を持つ者は、誰であろうと、どこにいようと、十二になった年の秋、入学式の前夜に、無理やり学院に召喚されてしまうの」


 レオは「召喚……」と耳慣れぬ言葉を繰り返した。


「そう。私は今年で十二歳。色々試してみたけど、この身に流れる龍の血をごまかすことはできなかった。時が来れば、この血に反応して、私も学院に召喚されてしまうでしょう。一度見つかってしまえば、お母様たちがそれこそ血のにじむ思いで用意してくれた、この下町生活も終わりだわ」

「いや、聞いた限り下町生活めちゃめちゃエンジョイしてるよな?」

「血のにじむ思いで用意してくれた、この下町生活も終わりだわ」


 大事なところだったのだろうか、レーナは二度繰り返した。


「いや……まあ、そりゃ御愁傷様だけどさ、その、召喚? されるのはその一回だけなんだろ? じゃあ一旦学院とやらに行って、諸々の事情を話してまた戻ってくればいいじゃねえか」


 困惑気味に指摘すると、レーナはふうっと息を吐き出し、おもむろにレオ――というかレーナのものであった美少女の顔を両手で掴んだ。


「あなた馬鹿なの?」


少年の手で、つうっと少女の頬を撫でる。その手つきが妙に蠱惑的で、レオはごくりと喉を鳴らした。


「完徹しようが美しく潤み続けるハーケンベルグ家特有の紫の瞳、どんなに荒んだ食生活をしようが白く透き通る肌、切っても切っても魔力のせいで艶やかに伸び続ける濡れ羽色の髪。幼くとも完成された、こーんな素晴らしい美貌の少女を、一体誰が手放そうとすると思うの?」

「…………」


 レオは遠い目になった。発言がだいぶ上からなうえに、彼女の私生活の荒み具合が気になる。……が、確かに鏡を見た限りでは美少女だと認めざるをえないだろう。


「信じてないわね? 言っておくけど、この見た目で無防備に町を歩くとすごいわよ、お父様以外のあらゆるむくつけき野郎どもがはあはあ言いながらすり寄ってくるし、犬はマウンティングしようとするし、鼠は興奮してたかってくるし。お陰で私は生まれてこの方、小屋からほとんど出ずに、読書したり夜な夜な妄想に勤しんだり、三食きっちり頂いてぐっすり眠るくらいのことしかできなかったわ」

「引き籠り生活思い切り満喫してんじゃねえか!」


 レーナはふっとアンニュイに息を吐いた。


「学院なんて、それこそ脳みそまで性欲で沸き立った男どもの巣窟よ。そんなところに放り込まれて、無事に抜け出せるものかどうか。四六時中野郎どもにはあはあ言い寄られるどどめ色の人生を歩むくらいなら、私はバッタになって自由に野原を跳ねまわりたいわ」


 冗談めかした言い回しだが、声音は存外真剣だ。抜きん出た美貌の持ち主には、当人にしかわからない苦悩があるのだろうと、レオはひとまず納得することにした。


「まあ……そいつは大変だなとは思うけど。はっきり言って俺には関係ないし。さっさと元の体に戻してくれねえか?」

「…………」


 レーナ少年はにっこりと笑った。


「あなた、運命とか縁とかって、信じる?」

「……おい」

「ここでこうしてお互いが入れ換わったのも何かの縁。いっそこのまま、あなたが学院ライフを、私が下町孤児院生活をエンジョイするのってどうかしら」

「おい」

「ほら、学院出身ともなれば、帝国内でも指折りのエリートよ。大出世よ。待つのは薔薇色の未来よ」

「どどめ色って言ってたじゃねえか」

「大丈夫。私、肉体労働にはちょっと、かなり、激しく自信がないけど、頭脳労働は得意なの。いくらでも替えのきく守銭奴少年の代わりに、私が立派にハンナ孤児院を盛り立ててみせるから安心してくれていいわ」

「さりげに人のこと根本からディスってんじゃねえよ!」


 がばっと身を起こしたレオが、レーナの両腕を掴んで揺さぶると、彼女――いや、彼はさっと視線を逸らした。まさか、という予感がじわりとレオの脳裏に滲みだす。


「まさかとは思うが……戻れない、とか、言わないよな……?」

「…………言わないわよ?」

「その間はなんだよ!」


 レーナ少年は、レオの顔でえへっと笑った。


「ただ、入れ換わりの魔術でほぼ使い切った魔力が回復するまで、ちょーっと掛かるかな、なんて」

「……どれくらい掛かるんだよ」


 レーナはアヒル口で「うーんと」と躊躇う素振りを見せたが、そのような表情をしても平凡なレオの顔ではまったく可愛くない。レオがドスをきかせると、レーナはしぶしぶと口を開いた。


「まあ多少幅があるけど、そうね、ざっくり……一週間から」

「から?」

「一年くらいかしらね」

「ざっくりすぎんだろ!」


 激昂したレオが叫ぶ。レーナは「仕方ないじゃない」と肩を竦めただけだった。


「だいたい、突っ込んできたあなたが悪いんだし」


 それを言われると返しにくかったが、それでもレオの腹の虫は収まらなかった。人助けをしようとしただけで、なぜ自分がこんな目に遭わなくてはならないのだ。


「てめえ……ふざけんなよ。人の体にこんな甚大な迷惑かけといて、いけしゃあしゃあと……。てめえがそういう考えなら、この体、裸に剥いて町を歩いたっていいんだぜ」

「はあ!? 何それ、やめてよ! あんたそれでもハンナ孤児院の子どもなわけ!?」


 ハンナ孤児院は、ここリヒエルトの中でもずば抜けて規律に厳しく、教育が行き届いていることで有名だった。特にハンナの方針で、子どもたちは皆将来の職に困らないよう、一芸を仕込まれていたりもするのだが――今はそんなことに構っている場合ではない。


「筋を通さない奴に仁義もクソもあるかよ。ああそうだ、ついでに裸になって踊ってやるぜ、キレッキレのステップ踏んでやらあ」

「やめてよ!」


 レーナ少年は卒倒寸前だ。両手で頭を抱えて激しく身震いする。が、そこで胸元に揺れる感触にはっと顔を上げた。服の下にぶら下がっている古びた金貨を取り出し、それをレオに突き出す。


「カールハインツライムント金貨!」


 レオが常に持ち歩いていた金貨の正式名称だ。庶民では五年に一度見る機会があるかないかと言われているほどの大金である――それを使わずに大事に仕舞い込んでいるあたりが、レオのレオたる所以なのだが。


「俺のカー様がどうした」


 レオは愛情と敬意を込めて、その長ったらしい名前の金貨のことをそう呼んでいた。


肌身離さず持ち歩いていた金貨を奪い返し、自分のものとなった少女の首に掛け直す。大切に金貨を撫でまわす姿を引き攣った顔で眺めながら、レーナが告げた。


「私の代わりに学院に行って、いつでもいい――一日でも二日でもいいわ――、戻ってきたら、この金貨をもう一枚支払う」

「よし考えよう」


 レオは即座に矛を収めた。

 その変わり身の早さに、今度はレーナが目を丸くした。


「い、いいの……?」

「あん? 確実に支払うならな。言っとくけど、念書くらいは書いてもらうぜ」


 違反したらトイチで利息を増やすからな、と睨みを利かせると、レーナはかくかくと頷いた。


「書く書く! というか払う払う! これでも、ディア・ディアは資金繰りもうまくいってるんだから」

「それは、おまえのじゃなくて親の金だけどな」


 軽く嘆息しながら何気なく呟くと、レーナは僅かに息を呑んだ。


「……そうね」


 やがて、小さく頷く。


「申し訳ないわ」


 それは、無邪気に親の金を使う自分自身のことでもあったし、恐らくはこの事態に巻き込んでしまったことへの、遠回しな謝罪でもあったのだろう。

 レオは小さく鼻を鳴らして、それを受け入れた。


「……まあ、言っとくけど、おまえの境遇だって楽じゃないからな。孤児院の暮らしはけっこうハードだぜ。中身が女だとか言ってなよなよしてたら、その日の飯にもありつけねえし、小遣いだってもらえねえ。っていうかそもそも、嫌がってた男の体じゃ……なんだ、何かと不便なこととかもあるだろうし」


 後半もごもごと呟いたレオを、レーナはじっと見つめた。


「びっくりした。あなたって、すごくいい人なのね」

「……そんなんじゃねえよ」

「でも大丈夫よ。さっきこの体は舐めるように探索しつくしたから――隅・々・まで」

「探索済みかよ!」

「うふふ」

「ほくそえむなよこの野郎!」


 レーナは意外にも、男の体を気に入ったようだった。なんでも、全体的に身軽なのが好ましいらしい。


「隣のデブがむかつくなら、自分がそいつ以上のデブになれば気にならないってよく言うけれど、そういうものなのね。いざ自分が男になってみると、凄まじかった男への嫌悪感がきれいさっぱり無くなって、今にもぶいぶい言わせたくなってくるわ」

「よく言わねえし、ぶいぶいも言わすなよ!」


 すかさず叫ぶと、レーナはちらりと半眼になってレオを見まわした。


「さっきから思ってたんだけど、その口調、もう少しどうにかならないの? これでもお母様は躾けに厳しくて、私は結構おしとやかな口調を心がけてきたつもりよ」

「……仕方ねえだろ、中身が俺なんだから。というかお前だって俺の顔して女言葉話してんじゃねえよ。カマみたいだろ」


 レオは中身が男であることを理由に持ち出したが、理由はそれだけではない。レーナの話し方は発音一つを取っても丁寧で、――そう、ひどく貴族的なのだ。孤児院育ちの少年が、一朝一夕で真似できない程に。


「そっか。そうよね、いや、そうだね、……だな? 一人称は僕……いや、俺か」


 レーナは首を傾げながらも、着々と話し方を修正している。思いの外すんなりとスラングに馴染めるようだ。実は少々語学に自信のあるレオにとっては、相手の方が順応が早いというのはだいぶ癪であった。


「ほら、レオ……じゃねえな、レーナもそれっぽく話してみろよ」


 すっかり男そのものの口調で言い放った相手にかちんときて、レオも言い返してみる。


「冗談じゃございませんです? あてくし、そんな言葉話せねえでし?」

「うわ……絶妙に気持ち悪い」


 盛大に顔を顰めたレーナは、何を思ったか、元・自分の体をぐいと引き寄せた。少女らしくほっそりとした腕を折り曲げ、その小さな掌を繊細な首に絡ませる。そして、


「暴言の封印を」


 レーナが鋭く唱えた瞬間、レオは首元がちりっと焦げるような感覚を抱き、飛び跳ねた。


「い……っ!」


 痛え、と叫ぼうとして、なぜか口をぱくぱくさせる。


「……!? ……!?」


 なんだこれ、どうなってんだよ、と叫ぼうとするのに、一向に喉は言葉を紡いでくれなかった。

 金魚のようにはくはくと口を動かすレオに向かって、レーナはにやりと笑ってみせた。


「淑女にふさわしくない暴言――乱暴な言葉遣いやスラング等々に限って、発声できなくしておいたから」

「なんてこと……!」


 しやがるんだこの野郎、の部分は喉の奥で弾けるようにして消えた。なんと細やかかつ的確な反応だ。そして、首を囲むようにびりりと走るこの痺れが、地味に痛い。


「こんなことしなくても、正体がバレないようにずっと黙って、……っ」


 レオはぐう、と喉を押さえ、憤怒の表情を浮かべながら、「黙ってりゃいいだろ」を「黙っていればいいでしょう」と言い換えた。


(なんたる屈辱……!)


 生粋の下町育ちであるレオにとっては、お貴族様のごとき敬語を使うなど虫唾が走る。リヒエルトっ子が、それも男がしゃなりしゃなりした言葉を使っていいのは、結婚の許しを貰いに彼女の実家を訪れる時だけだ。


「おまえ馬鹿か?」


 レーナはそんなレオの激昂した様子など歯牙にもかけず、ひょいと肩を竦めた。きれいさっぱり順応している感じであるのが心底腹立たしい。


「別に正体なんてバレてもいいんだよ、期間限定の話なんだから――まあ、周りがむしろ信じないって問題はあるかもしれないけど。それよりその、美の精霊が丹精込めて作りたもうたかの繊細な美貌で粗野な言葉を話されるのが、俺の美意識に適わないだけだ」

「び、い、し、き!」


 クソ忌々しいと思った単語を、クソ忌々しい想いを込めて復唱するくらいが、今のレオにできる精一杯のツッコミだ。


「そもそも、こんな事態に巻き込んだのは、て、お、……っ、あなた、くせに、よくも、こんな……!」


 痺れる痛みに負けて、言葉遣いを着々と矯正されている自分を、レオは呪った。それでも、下町的なイントネーションが完全に拭えていないためか、レーナの魔力的基準を満たさない言葉が間引かれて、結果片言のような話し方になってしまう。苛立ちで爆発しそうだった。


「うん。それは確かに責任を感じる。だから、俺にも同じ術を掛けよう――麗句の封印を」


 レーナが素早くレオの手首を掴み、今度は自らの首に絡ませると、喉仏が目立ちはじめた少年の首にふわりと光が舞った。


「ん。これで俺は、貴族的な言葉が話せなくなった。でもって、今ので魔力を完全に使い切ったな」


(こんな魔術に使い切ってんじゃねえええ!)


 魂の叫びは、しかし哀しいかな、発音されることはない。


(いや待て、魔力はこの体に宿ってるわけだから、つまり俺が解除できるはず……!)


 レオは自分の首をぎゅうぎゅう締めながら、「解除解除解除!」と叫んだが、なぜだか術が発動する気配はなかった。


「だから使い切ったってば。ついでに言っておくと、魔力ってのは想像力が重要だから。魔力っていう油に、想像力で火を点けるんだ。言葉ってのはそのきっかけ、火打石みたいなもんだな。いくら石ころがいっぱいあっても、絶妙にそれを打ち付ける――つまり鮮やかに発動を想像する力がなけりゃ火は点かない。方法もイメージできないのに術が解除できるわけないだろ」


 レーナが淡々と説明する。なんとなくレオに合わせて簡単な比喩にしてもらっている気もするが、なるほどわかりやすかった。ちなみになぜレオのものであるレーナの声に反応して術が発動したかといえば、体に馴染んだレーナの言い回しに、体が勝手にイメージを紡ぎ出したからだという。


(中身も勝手なら、肉体も自分勝手かよこの野郎……!)


 ままならぬ世の中に、レオは天を恨みそうになった。

 ぐぬぬ、と歯噛みするレオをよそに、レーナは着々と念書の準備を進めている。


「んー、ヴァイツ帝国暦一〇〇八年霜白月九日、パン屋ディア・ディアの娘レーナ――以下甲とする――とハンナ孤児院のレオ――以下乙とする――は、期間を限って互いの肉体を交換する。また、その際互いに以下を制約として課す。一、……」


 どこかに挟まっていた羊皮紙を引っ張り出し、これまたどこかに転がっていたペンを雑に転がし、滑らかに言葉を紡いでいく。その筆跡だけは、意外にも滑らかだ。つい習性で値踏みしてみれば、レーナの持つ文房具はどれも質のいいものばかりである。先だっての話の通り、ディア・ディアはよほど資金繰りがいいのかもしれない。


「……って、ちょっと待……待ちなさい。なんで、カー様の支払いが、……制約の一つって扱い」


 一片の損の気配も見逃してなるものかと目を光らせはじめたレオは、早速異議を唱えた。カールハインツライムント金貨の支払いは、この入れ換わりの慰謝料であり、かつレオ側の承認の必須条件だ。肉体交換に伴う諸々の制約――例えば、みだりに互いの体を傷つけないなど――とは一線を画し、第一に記載するべきだと片言で主張すると、レーナは目を見開いた。


「……驚いた。あな……痛っ、あんた、字も読めるんだ。――動揺のあまり、素の言葉が出ちまったぜ。これ、痛いな」

「わかったなら、戻す。――識字は、ハンナの教育方針。無学な者は、損をする。損は、人を貧困に。貧困は、無学を。負の連鎖、断ち切る」


 この時にもなると、レオは単語だけで話すことに慣れはじめていた。要は、暴言かどうかを判別されにくくすればいいのだ。


 レーナは「なるほどねえ」と顎を撫でると、改めてレオをじっと見つめた。


「あんたと入れ替わったのは偶然だったけど、もしかしたら、あんたでよかったのかもしれない。学院は、母がいた頃はくだらない温室でしかなかったけど、今はだいぶマシになったって聞いてる――図らずも、フローラの禍のおかげでな。学院で得る知識は、体が元に戻ってもあんたのものだ。思う様学んで、……ハンナさんの言う負の連鎖を、あんた自身がぶっつり切ってきてくれ」

「レーナ……」


 レオはレーナを見つめ返すと、おもむろに念書の一部を指差した。


「じゃあ、断ち切りをより良くするために、ここの金貨を二枚に……」

「思った以上にちゃっかりしてるよなおまえ」


 素早く突っ込んだレーナだったが、何を思ったかややして「ふむ」と顎を撫でた。

 ペンを取り、支払う金貨の額を二枚に修正する。


「レーナ……?」


 驚いたのはレオだ。冗談のつもりの発言が、まさか通るとは思わなかった。


「無事に戻ってきたら、金貨はもう一枚支払うことにするよ。その一枚は、俺自身の稼ぎでだ」


 レーナはにいっと口の端を引き上げた。不思議なことに、その表情は入れ換わる前のレオのものとそっくりだった。


「まあ見てろ。魔力はおまえの体に置き去りにしたが、この明晰な頭脳を以ってすれば、カールハインツライムント金貨の一枚や二枚、すぐに稼げるさ」


 レオはちょっとときめいた。その男前な発言にではない。金貨が二枚飛び込んでくる状況にである。――レーナがどこまでもレーナであるように、レオもまた、どこまでもレオであった。


 その後、周囲への説明の仕方や、日常生活の細かいルールなどを打ち合わせた後、二人は羊皮紙の最後にそれぞれ署名した。


「――ふう。なんとか間に合ったな」

「ああ、もう夜。門限?」


 屋根から漏れる光は、すっかり月光に取って代わられていた。思いの外長い時間を過ごしてしまっていたらしい。

 早く院に戻らねば、夕飯にありつけなくなるぞ、と主にレーナの体の心配をしながら尋ねると、彼女、いや彼は「いいや」と首を振った。


「最初に言っただろう、時間がないって」

「え……?」


 にやりと笑うレーナの姿が、なぜか滲みはじめた。


「な……なに」


 ぎょっとするレオをよそに、レーナはひと仕事して疲れたとでもいうように伸びをした。


「ヴァイツゼッカー帝国学院の入学式は、毎年霜白月の十日。召喚はその前夜、月が天空に掛かる頃」

「お……っ、霜白月十日の前夜って……!」


 念書の内容を思い出す。――本日、霜白月九日。


「本日は晴天なり、お誂え向きの満月。よかったな!」


 レーナがくるりと笑顔を向けた、その瞬間。


「てめ……っ!」


 暴言の呪いのせいで決まらない悲鳴を残しつつ、レオの――いや、美貌の少女の体が掻き消えた。


「……レーナの美貌に、レオの男前な魂、か。――がめついけど」


 粉引き小屋にひとり残ったレーナが、ぽつりと呟く。


「そーんな魅力的な女の子、見つかったら離してもらえるかしら? ……痛っ」


 自分の掛けた魔術にちりりと喉を焼かれて、レーナはさすさすと喉を撫でた。やはり、人の心配などらしくないことはするべきではない。


 レーナはさっさと頭を振って気持ちを切り替えると、必要な道具を適当に引っ張り出して、小屋を後にした。夜遅く、かなり放任主義な両親への説明は、明日まわしだ。


 空には満月。

 これから始まる新しい人生を思い、レーナはにっと口の端を持ち上げた。

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