524 警 告 3
「……では、説明します」
マイルが、ようやく平常心を取り戻した。
「実は、私は10歳になるまではごく普通の女の子でした……」
(嘘ですね)
(嘘よね)
(嘘だよね……)
「そして10歳の時に、神様の国からやって来た謎の生物に『ぼくと契約して、この世界を守ってよ』と言われました」
(あ、これは本当っぽいですね)
(本当らしいわね……)
(多分、本当のことだよね……)
「でも、世界を守るとか言われても、何のことか、意味が分かりませんでした。
なので私は普通の女の子として生活し、普通の幸せを手に入れようとしたのですが……」
(あ~、それで……)
(ああいう言動を繰り返していたワケね……)
(全然、普通じゃなかったけど……)
「それで、多分、あれはこういう意味だったのかな、と……」
(あ~)
(あ~)
(あ~……)
(((じゃ、仕方ないか……)))
みんな、だいたい察した。
「つまりあんたは、今回の『この世界の危機』ってのを何とかするための役目を押し付けられた、ってわけ? 神様に……」
「レーナ、言い方ァ!」
さすがに神様に対する不敬は看過できなかったのか、ポーリンがレーナに苦言を呈するが、レーナはそんなことは気にもしていない。
……まあ、家族も大切な仲間達もみんな奪われ続ければ、神の存在を疑いたくもなるであろう。
(……ちょっと嘘が混じっているけれど、多分、神様はそういうつもりで私をこの世界に転生させたんだよね?
でないと、お礼としての転生先にこんな危険の多い、そして大規模な災害を迎えようとしている世界を選んだり、あんな酷い父親の許に生まれさせたり、……そして明らかに私の願いとは異なるチート能力をわざとねじ込んだりしないよね……。
ちょっと癪だけど、まぁ、本当ならば死んで消滅するところを助けてもらって第二の人生を楽しめるようにしてくれたことには感謝してるし、レーナさん達やマルセラさん達、そして今まで出会った多くの人達や、これから出会うであろうたくさんの人達を救うためなら、乗ってあげるよ!
前世で私が助けたあの女の子も、地球で人類の未来の為に頑張っているのだろう。
ならば私も、この世界で力いっぱい頑張って、私がこの世界で生きた証を残してやろう……。
そう、メーヴィスさんがよく言っている、アレだ。
……我が、命の輝きを見よ!!)
そして、マイルは説明した。
前世や転生、ナノマシンによる魔法システムのこととかについては省略し、この世界の人達にも理解できるよう、色々と再編集して……。
* *
「じゃあ、その『ナノちゃん』っていう神様の世界からやって来た姿の見えない使い魔が、やっと見つけた『自分の声が聞こえる少女』を魔法少女にしようとした、と……」
「はい。……まあ、私は元々魔法は使えていましたけど……」
「だから、勧誘の言葉は『魔法少女になってよ』じゃなかったのですね……」
今までにマイルから『にほんフカシ話』でその手の話を色々と聞かされているレーナ達は、異世界からやって来た謎の生物が少女達を騙して、自分達の戦闘行為に巻き込み利用しようとする手口についてはよく知っていた。なので……。
「マイル、大丈夫なのかい? その『ナノちゃん』とやらに騙されているんじゃあ……」
メーヴィスが、心配そうにそう尋ねた。
「あ、はい。どうやらこれは、ナノちゃん達の都合による戦いではなく、私達が住むこの世界を守るための戦いらしいですから……。
なので、御指名とあらば、引き受けざるを得ないかな、と思いまして。あはは……」
そう言って、苦笑するマイル。
「……死ぬかもしれないわよ」
「分かっています。
でも、私が頑張れば、多くの人達が死ぬのを防げるかもしれないって知ってしまった以上……」
「あんたが投げ出すわけがない、ってことね……」
説得は無意味。
そう
「マイルちゃんですからねえ……」
「うん、マイルだものねえ……」
ポーリンもメーヴィスも、同じ考えのようであった。
「……じゃ、作戦会議ですね!」
「え?」
ポーリンの言葉に、きょとんとした顔のマイル。
「……あんた、まさか自分ひとりで、なんて考えてるわけじゃないわよね?」
「……だって、さっき、レーナさん自分で『死ぬかもしれない』、って……」
「言ったわね。それが何か?」
理解できない、という顔でレーナを見詰めるマイル。
「……マイル。もし私達が命を懸けて大勢の人達を助けようとしていたら、マイルは『死ぬかもしれないから』と言って、自分ひとりで逃げ出すかい?」
「あ……」
「マイル、あんた自分はそうするのが当たり前だと思っているくせに、私達はそうは思わない、って考えてるわけ?
私達を、馬鹿にするんじゃないわよ!」
怒っていた。
レーナも、メーヴィスも、そしてポーリンも。
そして……。
「この身体に、赤き血が流れている限り、」
「我らの友情は不滅なり!」
「我ら、魂で結ばれし4人の仲間! その名は、」
「「「「赤き誓い!!」」」」
* *
そしてマイルは、みんなの前で呪文を唱えた。
「神の眷属、『ナノマシン』よ、我が信じる7名の友の権限を引き上げよ!
レーナさん、ポーリンさん、メーヴィスさん、マルセラさん、オリアーナさん、モニカさん、……そしてマレエットちゃん!!」
マレエットというのは、他の仲間達が不在の時に、暇を持て余したマイルがひとりで依頼を受けた家庭教師の仕事での、生徒である。
そう、可愛すぎて、マイルが過剰に世話を焼いたためにとんでもないことになってしまった、あの……。
「皆さん、これで皆さんも『ナノちゃん』と契約したことになります。
なので、魔法や『気』の威力が上がっていますので、今から練習してその感覚に慣れてください」
* *
「おい、何だ、あれは!」
各国の王都で。他の街で。村で。
人々が、空を指差して叫んでいた。
……それも、無理はない。
大陸の各地で、上空に浮かび上がった巨大な姿。
それは、書き割りに描かれた、大きなライオンの絵であった。
そして、横たわったそのライオンの顔の部分がくり抜かれ、そこからにょっきりと突き出された、少女の頭部。
銀髪で、人を安心させるような、整ってはいるけれどどこか抜けたような顔。
その少女の口が開かれ……。
『がおぅ! がお~!』
ライオンの頭の上には数字が映っており、その数値が一定時間ごとに減っている。
それは明らかに、残り時間を示す
そして胴体部分には、こう書いてあった。
[しばらくお待ちください]
「「「「「「何じゃ、そりゃあああ~~!!」」」」」」
大陸中の人々が、空に向かって絶叫した。