517 侵略開始 5
「じゃあ、まずはこの子の案内で、その『スロー・ウォーカー』とかいうのに会いに行く、ってことでいいですね?」
「ええ。それに、そうしないとこの小鳥が怒って、突っつかれるかもしれないわよね」
マイルの確認に、チェストの上に陣取っているメカ小鳥を指差して、苦笑しながらそう返すレーナ。
「目玉をくり抜かれたり……」
「怖いわっ!」
そして、ポーリンの囁きにマジでビビるレーナ。
「それじゃ、各部への挨拶廻りと孤児院のフォロー、そしてギルドへの根回しも終わったし、明日の朝イチで出発する、ってことでいいですか? 宿の精算を済ませて、レニーちゃんに絡まれないよう、普通の護衛依頼を受けたような振りをして、そっと……」
マイルの提案に、こくり、と頷くレーナ達。
レニーちゃんに絡まれると、長くなるので……。
「それでいい?」
「ピィ!」
そして、メカ小鳥が元気に返事した。
* *
翌日、首尾良くレニーちゃんに捕まることなく脱出に成功した『赤き誓い』。
朝食を一番に摂り、まだ朝の宿屋が忙しい時間帯に出発したのが良かったのであろうか……。
移動は、徒歩である。
この怪しいメカ小鳥を肩に乗せて、その指示で移動するには、乗合馬車だと他の客に不審がられる。そして常に上空を飛ばせておくには、メカ小鳥の小さな身体に内蔵されている動力源では荷が勝ちすぎるであろう。
それに、マイルがメカ小鳥に目的地を確認したところ、返ってきた答えの方位距離から、目的地はアルバーン帝国であることが判明している。
メカ小鳥は人間が勝手に決めた地名とか国名とかは気にもしていないようであったため、行き先は現在地からの方位距離で確認するしかなかったのである。
そして今、政情が不安定であるアルバーン帝国へと向かう乗合馬車は殆ど出てはいなかった。
護衛任務を兼ねて商隊の馬車に便乗、というのも、政情が不安定で危険な状態の国へ行って荒稼ぎを、と考えるような商人と関わっては碌なことにならないし、商品満載の荷馬車で、しかも途中の町々で数日ずつ滞在して商売をする連中に付き合っていては、『赤き誓い』が徒歩で移動するより遅くなってしまう。
また、目的地付近で勝手に護衛任務を放棄して離脱、というわけにもいかない。
なので、移動速度と面倒のなさから、単独行動を選択した『赤き誓い』であった。
「ピィピィ!」
マイルの肩の上で、毛繕いをするような動作をしながら鳴き声をあげるメカ小鳥。
どうやら、普通の小鳥の振りをしているようである。
「……いや、アンタ、普通の小鳥の振りをするなら、その前にやっとくことがあるでしょうが!
その金属色丸出しの色とか、羽根も生えていないつるつるの身体とか、角張ってて生物らしさ皆無の体形とか、剥き出しのリベット頭部とかを何とかしなさいよっ!」
「あ~、リベットの出っ張りは気流を乱すから、飛行効率が低下しますよねえ……」
「そういうことじゃないわよっっ!!」
マイルの相づちに、大声で
とにかく、小鳥らしさが全くないメカ小鳥。羽根も羽毛もない身体では、毛繕いの振りにも無理がある。
それに、そもそもこのような造りでは、とても羽ばたいて飛べるとは思えない。おそらく、飛行システムは重力制御か何かなのであろう……。
(戦いで外装が剥がれ、金属ボディ剥き出しになった後のロプロスより酷い……。この外見は、まさしく、小鳥型サポートロボットのチカだよねぇ……。
これ見て普通の小鳥だと思う者がいたら、眼科医に行くことをお勧めするなぁ……。
まあ、眼科医と言っても、ここじゃあ薬師に点眼液を処方してもらうか、魔術師に治癒魔法か回復魔法を掛けてもらうだけなんだけど……)
マイルがそんなことを考えていると、ロボ小鳥がピィピィと鳴いて行き先を指示してきた。
ロボ小鳥の指示通りに進むことにしている『赤き誓い』であったが……。
「そっちは、正面に急峻な山脈がそびえ立ってるでしょうがっ!」
「しかも、その手前は深い森ですよねえ、如何にも高ランクの魔物がうじゃうじゃいそうな……」
「私達は、キミのように空を飛べるわけじゃないよ……」
「……というか、ある程度の会話ができるのですから、ちゃんと言葉で指示すればいいのでは……。
そして、進路の指示は道沿いでしてくださいよっ!」
4人全員に駄目出しをされた、メカ小鳥。
「ピィ……」
「しおらしい仕草をしても駄目よっ!」
「表情なんか表せない金属製の頭部に、簡単な受け答えしかできない知能。なのに、どうしてそうあざとい仕草ができるんですかっ! 能力の配分がおかしいでしょうがっっ!!」
メカ小鳥に対して、再び駄目出しするレーナとマイル。
「まあ、可愛いからいいんじゃないでしょうか?」
「たはは……」
そして、なぜかメカ小鳥に対して好意的なポーリンと、そんなことはどうでも良さそうなメーヴィス。
「あ~、ポーリンさんは悪意に敏感な小鳥や小動物には逃げられて相手にしてもらえないから、自分が近寄っても逃げないメカ小鳥がお気に入り……、って、何でもない! 何でもないですからっっ!!」
マイルが、虎の尾を踏んだ。思いっ切り……。
* *
「そろそろ勘弁してくださいよぉ~……」
マイルの泣きが入り、ようやくポーリンの怒りがかなり収まったようである。
「本当に、もう……。私は別に、動物に避けられる性質だというわけじゃありませんよっ!」
ポーリンにそう言われ、マイルは反射的につい返事してしまった。
「あ、確かに、動物だけじゃなくて、子供達や獣人の人達にも避けられ……」
「「マイルううぅ~!!」」
「あ……」
レーナとメーヴィスが止めるのが、一歩遅かった……。
「うふふ……」
「あ、あの……」
「ふふふふふ……」
「その……」
「ふふふふふふふふふ……」
「ぎゃあああああああ~~!!」
* *
「ピィピィ!」
「着いたようね……」
ようやく目的地に到着した、『赤き誓い』。
荷物は全部マイルのアイテムボックスの中、宿には泊まらず夜営ばかり、それもテント設営の時間が必要なく、食事の準備も殆ど時間がかからないため暗くなるまで歩き続けられるので、通常の旅人に較べて移動速度がかなり速かった。
メカ小鳥に案内されて到着したのは、前回の洞窟ではなく、別の場所であった。
そしてその前に整列している、6体のスカベンジャー。
「入り口が狭いのは、ヒト種や魔物に見つからないように、でしょうけど……」
「「「「相変わらずの、
そう、丁重かつ、