以前もブログでお伝えしたとおり、3月13日、午後1時半より、名古屋地方裁判所にて、原告、および藤田医科大学病院の精神科医師内藤宏被告の尋問が行われ、傍聴してきました。
提訴したのは、2016年の6月で、3年経ってようやく口頭弁論が開かれたことになります。
ブログの呼びかけに応えて12名の方々が(中には遠方より泊りがけで)傍聴に駆けつけてくださいました。原告奥様、また私からも厚くお礼を申し上げます。
前エントリーにも書きましたが、原告男性は2012年12月に精神科を受診した際、「痛み止め」として抗うつ薬を処方され、服用直後に腹痛と吐き気に襲われ、その後も突如、意識を失ったり、窓ガラスに自ら激突したりして救急搬送を繰り返しました。しかし、藤田医科大学病院(当時は藤田保健衛生大学病院)の内藤医師は適切な処置を取らず障害を悪化させたというものです。
処方されたのは「サインバルタ」。
男性は、服用5日経ち体調がさらに悪化した際、藤田医科大学病院に救急搬送されました。そのとき診察したのは、被告の内藤医師ではなく岩田仲生医師でした。岩田医師はこう言ったといいます。
「サインバルタが引き金となって、躁転しましたね」
診断は「双極性障害」となり、処方も、リーマス200㎎×4 エビリファイ12㎎×2に変更になりました。
当時はまさに双極性障害ブーム(抗うつ薬の躁転による医原病と私は思いますが)でした。
男性はそうした薬を服用後、さらに体調が悪くなり、入院せざるを得ない状況になりました。
その後、薬が変わったりしましたが、受診から7年経った現在でも、不眠や頭痛に加え、光や音に過剰に反応してしまう自律神経障害や、直前の行動が思い出せない記憶障害があり、寝たきりに近い生活を強いられています。
裁判での争点は、
1、十分な問診をせず、安易にうつ病であると診断した診断上の過失について
2、投薬に関して何らの説明もなく、副作用の強い抗うつ薬を処方した治療行為上の過失について
3、抗うつ薬を服用した結果、ただちに意識障害等の副作用が現れたものの、何ら適切な処置を行わなかった治療上の過失について
じつは男性は「歯の痛み」をずっと抱えており、痛みのためふさぎ込んでいる様子を心配した母親がまず内藤医師に「家族相談」として面接を受けたのです。男性はそこまでやってくれた「母親の顔を立てるつもりで」藤田医科大学病院を受診したと言います。
一方、内藤医師は母親の話だけから、男性を「うつ状態(MDD)、慢性疼痛症」を疑い、カルテに「サインバルタ、トレドミンが適応よい」と書いています。
そして、実際男性が受診したときも、診断は「大うつ病性障害、疼痛性障害」で、サインバルタ20㎎の処方です。
診察には奥さんも同行し、診察の内容はよく覚えています。この日の裁判では、奥さんへの尋問もあり、診察室で医師がどう言ったか証言されました。
それによると、内藤医師は、「アメリカ的にいえば軽いうつ」と説明したそうです。そして、サインバルタを「痛み止め」といって処方しました。うつ病、抗うつ薬といった説明はなったと。
それに対して医師は、うつであると話した。サインバルタはうつと痛み、両方に効く薬と説明したと主張しました。
大うつ病性障害の診断はDSMの1~9項目中、少なくとも6項目が当てはまったと言いますが、患者にはこの説明はしていません。単にうつ病とだけ告げたと言います。
また、サインバルタの副作用の説明についても「お腹がグルグルすることがある」と言っただけでした。
この点を原告側は問題にしています。
内藤被告は弁護人からなぜその程度の説明しかしないのかと問われ、こう答えました。
「うつ状態の患者さんは否定的な認知になっていたり、また極端なとらえ方、考え方になっているので、細かい副作用(添付文書に書いてあるような)は説明しません」
また、服用後に男性が体調悪化のため、藤田医科大学病院を二度受診していますが、そのことは当時、内藤医師は知らなかったと言います。(患者が自分の出した薬で重い副作用を出したことを知らなかったということ)。
裁判については裁判官の判断にゆだねるしかありませんが、当日、内藤被告の言葉を聞いていて私が気になった点を挙げておきます。
まず、とても早口でこう言ったことです。
「うつと痛みがある場合、私は、サインバルタを全例で処方します。社交不安障害とうつなら、レクサプロですね」
いかにも「知っている」風の言い方でした。
しかし、こういう頭から決めてかかっての処方は、薬の添付文書に書かれている「適応」を忠実に守ってはいますが、単にそれだけのことで、こういう処方のやり方をする医師は往々にして患者そのものを診ていません。なんでも額面通り、したがって裏を返せば「ケチ」のつけようはないわけです。
ただし、サインバルタの添付文書には以下のようにあります。
*効能・効果
○ うつ病・うつ状態
○ 下記疾患に伴う疼痛
糖尿病性神経障害 線維筋痛症 慢性腰痛症 変形性関節症
歯の「痛み止め」として処方する可否を裁判所がどう判断するかわかりませんので、医師はどうあっても「うつ病の薬であると説明した」ことにしなければならないわけです。
また、抗うつ剤の中でサインバルタのようなSNRI、さらにSSRIなど新しい薬は、以前の三環系抗うつ薬に比べて「安全」と言いました。何をもって安全かというと副作用(口渇、便秘等)の点で「安全」だとのことです。(これもいかにも教科書通りの陳述)。
さらに薬物療法以外に何をするのかという質問には、「支持的精神療法」を行うとのこと。患者さんの苦悩をとりあげ、患者さんがもっている強さを引き出すようにするなどと言っていましたが、これも教科書に書いてある文言を述べているだけのような印象でしたし、実際の診察でどれほど「患者の苦悩」に寄り添ったのか、カルテからもはっきり見えてきませんでした。
しかしまあ、これが日本の精神科の「標準」といえば「標準」なのでしょう。
が、「標準」で行われた治療でどれほどの人が「治って」いったのか、甚だ心もとないものがあります。
それにしても、こうした精神医療裁判の難しさを痛感します。
原告の方もまず引き受けてくれる弁護士探しから始まりました。奥様に尋ねると、インターネットで医療訴訟を手掛けている弁護士事務所を検索し、10件ほど見つけて片っ端から電話をし、経過を説明したそうです。直接事務所に行った弁護士もいれば(無料、有料あり)、電話の時点で「無理」と断れたところもあるそうです。そしてようやく2人の弁護士が理解してくれました。
もちろん、協力医も必要です。副作用や薬害に関する本を出している方や、ホームページなどから副作用を慎重にとらえていると思われる医師を探し、電話をかけたり手紙を書いたり、家族相談(有料)として直接会ったり……。
名古屋での裁判ですが、当たったのは東京から大阪までと範囲を広げたそうです。しかし、精神科医からはことごとく断られ、引き受けてくれたのは他科の医師だそうです。そして、分厚い意見書が提出されました。
「裁判となると時間や金銭的なこと、いろいろありますが、私たち夫婦は『運が悪かったね……』と泣き寝入りなんてできなかった。主人だけでなく、まわりの家族の人生もずいぶん変わってしまいました。ともかく前を向いて生きていくためには、私たちは裁判という形で希望を持つしかなかったのです。厳しい裁判であることも重々承知しています」
弁護士も協力医も、誰からの紹介も橋渡しもなく、ゼロから自分たちだけで探し出し、そしてともかく、13日はあの内藤宏医師を被告席に座らせることができたのです。
ちなみに、今回の提訴内容とは直接関係はないかもしれませんが、内藤宏被告は、サインバルタを製造販売している日本イーライリリーから多額の報酬を受け取っています。(マネーデータベースより)http://db.wasedachronicle.org/doctor/
内藤宏
製薬会社6社から 20件で 合計210万5363円.
日本イーライリリー 11件 126万9619円
塩野義製薬 3件 309,360円
大塚製薬 2件 170,000円
大日本住友製薬 2件 133,644円
ノバルティスファーマ 1件 111,370円
田辺三菱 1件 111,370円