「NHKから国民を守る党」(以下,「N国党」いいます。)が今年の
夏の参議院選挙で議席を獲得しています。
このN国党はかなり長い間,動画投稿サイト「ユーチューブ」に党首で
ある立花孝志氏自らがその活動を継続投稿し,インターネット利用者を
中心に支持を集めているようで,全国には同党所属の地方議員が存在す
る様です。
1.N国党の活動について
N国党は,基本的活動として「NHK撃退シール」なるものを
頒布しています。この撃退シールには電話番号が記載してあり,この
番号に電話をするとNHKから委託を受けている業者が訪問した際に
追い返す方法を教えたり,場合によってはコールセンターを介して人
がやってきて委託業者の方を直接追い返したりしているようです。
この様子は,ユーチューブ上で立花孝志氏が運営すると思われる
動画サイトに多数アップされており,中には無断で委託業者の方の容姿
を無断で撮影したり(!),逮捕(!!)に及ぶ動画も存在しています。
そして,N国党はシールの配布だけでなく,インターネットを通じて,
広く国民に対して「NHKから委託を受けている業者を追い返す」こと
を推奨しています。
これらの活動はつまるところ国民に対して「NHKとの受信契約はしな
いように!」と推奨する行為となっていることは明らかです。
しかし,NHKから委託を受けた業者は,基本的に法に従って受信設備
のある家庭に対し,受信契約をする業務を遂行しているだけであり,何ら
の違法行為は原則的に行っていません。
2.「NHK撃退」なる行為の推奨は犯罪になる可能性が高い
N国党のこれらの行為をみて,多くの法曹関係者がまず考えるであろう
ことは,「刑法にある『業務妨害』に該当する可能性がある」ということ
です。
法律解釈には法律家の中でも分かれることがあることを前置きしますが,
私は上記行為が「偽計業務妨害罪」(刑法233条)に該当する可能性が
高いと考えています。
偽計業務妨害罪は①偽計を用いて,②人(法人も含む)の,③業務を妨
害する場合に成立する犯罪です。
どのような場合に「偽計」となるかですが,「人を欺き,あるいは,人の
錯誤・不知を利用したり,人を誘惑したりするほか,計略や策略を講じるな
ど,威力以外の不正な手段を用いること」とかなり広い定義となっています。
彼らの活動は,国民に対して「受信契約はしないようにしましょう」と広報
しているに等しいわけですから,「人を誘惑」していますし,また「計略や策
略を講じている」とも評価できるでしょう。
また,「業務を妨害する場合」という要件は「妨害の結果を発生させる恐れ」
があればよいとされています。そもそも適法に契約締結業務に来たNHK委託業
者を追い返し,その結果「受信契約を締結させないこと」を目的としているわけ
ですから,この要件も満たします。
つまり,N国党のベースとなる活動である「NHK撃退」なる行為の告知は,
それ自体が刑法に定めのある「偽計業務妨害罪」に該当する可能性が高いのです。
3.「適正な議論・手続きを経ない実力行使」は,いずれ国民に跳ね返ってくる
N国党の上記活動を支持する方には,NHKそのものに何らかの反感を持って
いる方が多いのではないでしょうか。
しかし,その反感は,国民全体で議論をすることや,法律を改正して解消して
いくべきものです。
そういった手続きを経ずに「実力行使」を許してしまう社会が広まれば,いず
れ国民それぞれが「心の中にある一つ一つ違う正義」を振りかざし,「違法な実
力行使が横行した社会」となのではないか,という危惧が僕にはあります。
4.最後に
N国党がアップしている動画の中には,委託業者の方の容姿を無断で撮影した
り,中には委託業者の方を逮捕しているものも存在します。
これらの行為も民事・刑事の責任が発生する可能性があります。N国党が告知し
ている番号に電話をし,「委託業者を撃退して!」と依頼される方は,「撃退行為
を依頼した自分自身も法的責任を負う可能性がある」ということを是非認識してく
ださい。