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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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509 チェーン店 2

「目的は、情報網の形成です」

「「「情報網?」」」

 レーナ達の声が揃う。

「はい。今までに得た情報から、このあたりの国……マーレイン王国とオーブラム王国、そしておそらくはトリスト王国とティルス王国にも、次元の穴の向こうから『この世界と敵対している確率がかなり高いモノ』がちょっかいを出していることはほぼ間違いありません。

 でも、新種の強い魔物の出現、というような説明であればハンターギルドも国の上層部も信じてくれるかもしれませんが、本当のことを伝えようとしても、Cランクハンターの小娘の言うことなんか誰も信じちゃくれませんよね。

 新種の死体を見せても、それは『強い個体の出現』の証明にはなっても、異次元世界の存在や、そこに住むモノによる侵略とかの証拠にはなりませんから。娯楽小説の読み過ぎで妄想癖に陥った可哀想な子供、とか思われるのがオチですよ」


「そりゃまあ……、ねぇ……」

 レーナの言葉に頷く、メーヴィスとポーリン。

 この3人は、マイルの『にほんフカシ話』とミアマ・サトデイルの小説で鍛えられ、数々の非常識を見せつけられ、そして『マイル』という生きた理不尽を目の前にしているからこそ、理解し、信じられるのである。

 それを国の重鎮達に求めるのは、あまりにも無理がある。


「なので、各地に私達の息のかかったお店を作って、そこで情報収集させるんですよ。

 何かあれば、そう急がない時はギルド便か商隊に依頼して、急ぎの時は低ランクのソロのハンターに依頼して、連絡する。そうすれば、事が公になって、国が動いて、それが他国に伝わって、とかいう通常の場合に較べて、ずっと早く情報が掴めます」

「「「…………」」」

 どうも、マイルの説明を聞いた3人の反応が良くない。

 そして……。


「その情報をいち早く掴んで、どうするのよ?」

「私達に、それをどうこうすることができるのかい?」

「それは、国が他国と力を合わせて何とかすることじゃないのですか? マイルちゃんと私達が、たった4人で何ができると?」

「………………」

 仲間達全員に否定され、黙って俯くマイル。


「……あ、あっ、今のナシ!」

「うん、なかなかいい案だよね!」

「本店と支店との関係ではない、同格の商店のネットワーク。将来の商会設立のためのテストケースとして参考にできそうですよねっ!」

 3人共、マイルには甘過ぎた……。


     *     *


「いえ、別にいいんですよ? どうせ料理のレシピを教えるのは私ですし、パーティ資産が必要なわけじゃないし、休養期間に私がひとりでやればいいんですから……」

「「「ねた……」」」

 マイルも、拗ねることはある。

 レーナ達が手の平返しでマイルの計画に賛成した後も、完全否定された上にそれを論破できなかったことに、かなり傷付いたようである。


(論破できなくて、子供のように部屋に引き籠もる。……『ロンパールーム』、って、うるさいですよっ!)

 脳内ひとりボケツッコミを始めるのは、マイルがかなり苛ついている証拠である。

「まあ、私なんかが何もしなくても、古竜の皆さんが何とかしてくれますよね! 次元の穴にドラゴンブレスを叩き込んだり、侵入者達を踏み潰したりして……。どうせ私なんか……」

「「「いじけた……」」」


「でも、古竜は魔物の特異種程度がこの世界に入り込んでもビクともしないだろうに、なぜそんなことを気にして……、って、先祖が造物主様(飼い主)にお願いされたからか……」

「「「妄想モードに入った……」」」

「うるさいですよ、さっきから!!」

「「「怒った……」」」


     *     *


 とにかく、マイルはチェーン店を始めることにした。

 Bランクになるための功績ポイントは既に充分貯まっており、レーナ達も、今はそんなにハンターとしての仕事をこなすことに固執してはおらず、マイルに好きにやらせてくれたのである。

「最初は、この街からです!」

 そして当然ながら、一号店は『赤き誓い』の本拠地であるティルス王国の王都であった。


「こんにちは~」

 そしてやってきたのは、勿論、マイルにとってお馴染みの場所である。

 いくら売り出し中の名物ハンターとはいえ、マイルや『赤き誓い』の名が知られているのはハンターギルドの関係者と、王宮の諜報部門の一部だけである。なので、12~13歳くらいに見えるただのハンターである少女が、普通の商人に相手をしてもらえるはずがない。

 当然ながら、この街だけでなく、2号店以降を作る予定である他の街においても……。


 なのでマイルが狙ったのは、マイルが信用されていて、店舗も人員も無料で確保でき、他の街で活動するときに成功例として示すことのできる実績になり、かつ横の繋がりがありお金と権力はないけれど他の街の同業者と互いに良い関係を維持しているところ……、つまりここ、孤児院であった。


「まあまあ、マイルさん、いつもすみませんねえ……。マイルさんが持ってきてくださいますお肉や薬草のおかげで、いつも助かっております。子供達も、見違えるほど元気になりまして……」

 慌てて出てきた院長先生が、頭を下げてマイルにお礼を言う。

 そう、ここではマイルはVIP扱いなのであった。


 狩りの後、ハンターギルドからの帰りに立ち寄って、ギルドに売らずに残しておいた獲物を1頭、寄贈していく。

 孤児院にとって、丸々1頭分のオーク肉というのが、どれ程とんでもないものであるか。

 しかも、それが割と頻繁に、たまには角ウサギやら猪やらも付いて、おまけに山菜や薬草まであったりもする。

 孤児院にそんな恵みをもたらす者は、孤児達にとっては、もはや人ではない。御使い様であり、現人神あらひとがみである。


 そして、いつものようにアイテムボックスから出した差し入れの品を渡した後、マイルは院長先生に話を切り出した。

「あの~、ここでお店をやってもらえないかと思いまして……」

「喜んでっっ!!」

「え……」

 即答であった。

 どんな店なのかも、条件すら聞かず、ふたつ返事での了承。

 それは、それだけマイルが信頼されているからか、それとも『もう、何も失うものはない』という開き直りであったのか……。




「……揚げ物屋、ですか?」

「はい! このあたりでは、加熱料理と言えば、焼く、煮る、炒める、ですよね? なので、あまり知られていない『揚げる』という料理で勝負に出ます。

 蒸す、というのもあまり見掛けないですけど、蒸すのは時間がかかるし、調理器材とかも色々と面倒ですから、今回はパスです。

 揚げ物の利点は、事前の準備しこみさえしておけば割と迅速に作れること、持ち帰りしやすいこと、タネの大きさと油温が一定であれば同じ時間で同じように仕上がること等、子供達にも調理が覚えやすいということです」

「なる程……」

 院長先生も、マイルの説明に納得している様子。……その部分に関しては。


「しかし、孤児院ここは街の中心部からは少し離れています。そんなところに店が、それも売り物が一種類の素人料理だけという食べ物屋が、充分な集客能力を持つことができるのでしょうか……」

 そして勿論、年配者である院長先生は、現実的な問題点を指摘するが……。

「大丈夫です。私にお任せください!」


 器材や最初の食材はマイルが用意するとのことなので、孤児院側には、失敗しても失うものはない。せいぜい、子供達の労力が無駄になる程度である。

 そしてそんなものは、今までマイルが与えてきた、そしてこれからも与えるであろう恩恵に較べれば、大したことではない。

 そして、もし上手くいけば……。


「よろしくお願いします!」

 そう言って、マイルの手をがっしりと握る院長先生。

 それ以外の返事が、あろうはずもなかった。



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